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一章
ここからここまで全部くださいっていつか言ってみたい
しおりを挟む一瞬で涙が引っ込んだ。リアムの腕の中から抜け出してゆっくり、それはもうゆっくり周囲を見渡す。
心配そうに俺たちを見る母上、そんな母上の隣に立つ父上、そしてお爺さん。
俺のことをシャノンたんなどと呼ぶ人はここにはいない。と言うか記憶にもない。
「たん? マシュ?」
「! シャノンにも聞こえているのか」
驚きを顔に浮かべて俺を見つめる義兄。
も? じゃあリアムも聞こえるのか。
テディが念話を送っていた時と同じ感覚を覚える声に、もしかして……とあるひとつの予想がよぎる。
『そうだよぉ、正解っ。あのさあ、早いうちにおまえ達に色々話しといたほうがいいと思うんだけど、お出かけ中~?』
『オレもそう思う。シャノンに前伝えそびれたことも含めて。……またシャノンに闇魔法使われたら困るし?』
(……わざとじゃないんだってばあ!!)
リアムの前でそんなこと言わないでよ!!
おそらく義兄にも聞こえているのであろうテディの言葉に焦る。俺のせいってバレちゃうじゃないか! いや、いつかバレるだろうけど、今はちょっとさ!?
「……父上、母上。今日は一度帰ったほうがいいかもしれませんね」
「そうだな……。騒ぎになってもいけないし、外出はいつでもできる。店主、申し訳ない。世話になった。シャノン君が気に入ってた品があれば、全ていただきたいのだが」
何かあるのを察したらしい父がすぐに頷いた。そのセリフにも驚くが、先にお爺さんに向かって慌てて姿勢を正す。
「お爺さん! ありがとうございましたっ。あの、また来ます!」
「いやなに、大したことはしてないよ。こうやって売上もいただいたしなぁ。はは、またな、シャノン君」
ひょいひょいと商品を手にしながら手を振るお爺さんに、俺も小さく手を振り返す。
母に促されて義兄と一緒に先に店を出ると、思いっきり抱きしめられた。
「何もなくてよかった……。ごめんなさいね、私たちがお話に夢中になってたから貴方がいなくなったことにすぐ気づかなくて」
「そんな! 僕がフラフラしてしまったので……。母上達は何も」
「いいえ、子を守るのは親の責務よ。目を逸らした私たちの責任だわ」
このままだとごめんなさいの言い合いになりそうだったので、一旦口をつぐんだ。
どう考えても俺のせいだと思うから非常に居た堪れない……。
少し待つとお抱えの御者が現れたので、二手に分かれて馬車に乗り込む。
父は本当に魔道具をいくつも買ってくれて、俺の手では抱えきれなかった。
ひとつだけ手元に残して他はアリアに預ける。
(魔力を使ってインクを補充……。面白いこと考えるよなあ。魔力で作ったインクって他のインクとどう違うんだろう)
「それは?」
「ええと、インクをわざわざ付けなくても自動で出てくるペン……みたいな……。使用する人の魔力を使うらしいので魔力がないとインクは出ないと思いますが」
「そうか。……シャノン」
正面に座っていたリアムが不意に立ち上がり、横に腰掛けた。
この馬車は横にもかなりゆとりがあるタイプのはずだが、俺と義兄の距離は数センチも無い。
手を差し出してきたのでペンを見たいのかな、と譲ろうとすると、その手ごと掴まれてバランスを崩す。
「わ、」
「しばらく、このままで」
そのまま弱い力で抱きしめられる。今日はよくハグされる日だ。
……お爺さんの店で再開した時の力強い抱擁とは真逆で、声をかけたくてもなんて言ったらいいのかわからなかった。
だってリアムは少し、ほんの少しだけ震えていた。
眉目秀麗で優秀な青年が俺のせいでこうなっているのだと思うと、そんな場合じゃ無いのに心臓が高鳴っておかしな感情になる。
(俺が勝手にはぐれたせいでリアムが悲しんでるんだぞ! ときめいてる場合じゃ無いだろ!)
そう本当に思っているのに、ドキドキが止まらない。
リアム、ごめん!! と心の中で謝罪しつつ、家に着くまでに俺の脈を正常に戻そうとバレないように深呼吸した。
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