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一章
木の役のプロは俺だったらしい
しおりを挟む「シャノン君、これも食べるかい?」
「食べたいです! やったー!」
俺が迷子だと悟った魔道具のお店のお爺さんは、とりあえずゆっくりして行きなさいと客間に通してお菓子をたくさん出してくれた。
はぐれた時はその場から動かない方がいいと言うし、ご厚意に甘えてもりもりお菓子を食べている。美味しい。
「そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しいねえ。恥ずかしながらお菓子作りが儂の趣味でね」
「え!? これお爺さんの手作りですか!? すごい! 才能ありますよ」
魔道具のお店を構えながら趣味でお菓子も作って、何で素敵な老後なんだ。俺もこれを目指したい。
「はっはっは、いつでも食べにおいで。興味があるなら、魔道具についても教えよう」
「!!!!」
マジか!! 高速で首を縦に振る。
なぜか迷子になったけどそれを超えるくらいの収穫だ。むしろこれを得る為に迷子になったまである。
『シャノンちゃんの天才肌! バカ! お前が自発的に迷子になったんだろ! オレが教えてないのになんで感覚で闇魔法使えるんだよ!』
「えっ」
「ん?」
突如脳内に響き渡った声にお菓子を食べる手が止まる。間違いなくテディの声だ。え? 何でだ?
「あっ、すみません。ちょっとお手洗いに……」
「ああ、そこの角を曲がって右だよ」
「ありがとうございます!」
テディの声に応えようとするとひとりごとをでかい声で話すヤバいやつになりそうだったので、とりあえず一人になれる空間に行くことにした。
「……テディ? どうしたの」
『どうしたじゃないって! あー念話とかあったのすっかり忘れてたわ……。最初っからこうすればよかったな。あのさ、兄貴達がシャノンちゃんを見失ったのは、シャノンちゃんが気配を闇に溶かしたからだぜ』
「…………????」
『可愛い顔してもダメ!!! いや、まあ、オレのせいでもある。ここまで才能あるとは……。とにかく、単にはぐれたわけじゃなくてシャノンちゃんが無意識に使った闇魔法で家族をまいたの!』
「えっつまり俺のせいってこと!?」
急に厨二病みたいな単語が聞こえた。
気配を……なんだって? 木の役になってただけだけど!?
大困惑だ。使おうと思って使ったわけじゃない。そもそも闇属性の魔法が何できるのかすら知らないのに!
『追々教えるつもりだったけど、早くしたほうが良さそうだなぁ。あ、ていうか、念話なんだから別に声に出さなくても頭で思ってくれたら伝わるぜ』
「さっ……………………」
………………きに言ってよぉ!
しばらくテディと話していたけど、このままお手洗いにこもっているとお腹を壊していると勘違いされるかもしれない。
とりあえずお爺さんの元に戻ると「シャノン君のお兄さんだっていう人が来ている」と告げられた。
もう見つけてくれたのか!? リアム、有能すぎるな!?
「あにう「シャノン!!!」ぐえっ」
店先に出た瞬間視界が真っ暗になる。
慣れ親しんだ匂いから、リアムにものすごい熱烈に抱きしめられていることを瞬時に理解した。
「シャノン、無事で良かった……。君がどこかに攫われてしまったのかと思った」
「兄上、ごっ、ごめんなさっ……」
はぐれたとわかった時は、迷子かあ……。みたいな感想しか浮かばなかったのに今になってじわじわと恐怖心が帰ってくる。
俺はお金を持っているわけでもないし、家の場所もわからない。自警団に頼ろうにもその場所も知らない。街の中で逸れたら、下手したら長い期間家に帰れなかったかもしれない。
目に涙が浮かぶのが分かって、嗚咽が漏れる。
迷子になっただけで泣くなんて子どもみたいだ、人生二週目みたいなものなのに!
「ごめっ、ごめんなさいっ……。見つけてくださって、ひく、ありがとうございま……」
「もう大丈夫だから。……すぐ気づけなくてすまない」
「ちが、僕が、僕がっ木の役なんかやるからぁ……!」
「木?」
えぐえぐと泣く俺の背を優しく撫でてくれるリアムの手に、めちゃくちゃ安心する。
父上と母上にも謝ってお爺さんにお礼しないと、と思うのにリアムから離れたくない。
そんな俺が義兄の背中に手を回してぎゅっとしがみついていると、突然この場にそぐわないほど間延びした声が聞こえていた。
『あ~っ!! 生シャノンたん、やっと会えた~っ! ねぇ、僕の声聞こえるよね? マシュって呼んで! 泣き顔も可愛いねぇ、食べちゃおうかな? さすが天使の……あは、これ内緒なんだっけ?』
………………たん?
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