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一章
それ萌えって言うんだよ
しおりを挟む(リアム視点)
両親の期待に応えようと生きてきた十七年間は、悪いものではなかったように思う。
ガルシア伯爵家は由緒正しい家系な上、様々な事業を手がけている影響で資産家としても有名。
そんな家の嫡子を背負える立場はやり甲斐も誇りもある。
両親との間に子どもが俺しかいないこともあってか、幼い頃から嫡子としての教養を必死に学んでいたため娯楽とは無縁の生活だった。
恋愛事も道楽にも興味がなく、貴族としての人脈はあれど親しい友人など片手で足りる人数しかいない。
両親との記憶や思い出も特に無いが、不満に思ったこともない。教育には時間もお金もかけてもらったし、貴族に生まれた以上、両親に甘やかしてもらうなんてことはほぼ夢物語であると理解している。
父上が叔父上と何か約束事をしているらしく、俺の後にこの家を継ぐ人物は既に決まっているらしい。
ゆえに、子どもを作るという理由で妻を迎え入れることはしなくて良いと昔から言われていた。
俺の婚約者は未だいないが、父が直々に才があるものを選ぶらしい。
友人すらほぼいない俺が恋だの愛だのを語れるわけがないため、正直誰でも良い。
願わくば、今まで散々「何考えてるか分からなくて怖い」と言われてきた俺を怖がらない人がいいとは思っている。
そんな俺に、突然義弟ができた。
「兄上、本がお好きなんですか?」
眉をへにゃりと下げた義弟を見た瞬間、なんとかしなければと感じ思わず自室に招待した。
彼がこの家に来てまだ二週間程だが、人の懐に入るのが上手いのか特に使用人からはかなり好意的な視線を向けられている。
下手をしたら令嬢よりも愛らしい顔立ちに浮かぶ笑みは、見ているといじらしく思えてくる。
義弟――シャノンは本当に貴族教育を受けたことがないらしく、マナーに関しては初歩中の初歩のものでも四苦八苦している様子。
だが、頭の作りが良いらしく教養面では驚くほどスムーズに授業が進んでいると聞いた。
シャノンの視線の先を辿ると、棚に詰まった本を指しているようだった。
……好きというよりは必要にかられるから読んでいるという認識の方が正しい。
「嫌いではないが、娯楽で読んでいるわけではない」
「へえ! 兄上は勤勉なんですね」
俺の言葉を受けて本棚を眺めていたシャノンの瞳が俺に移る。
柔らかい色味のシャノンの瞳に見つめられると、途端に胸の奥が締まるような感覚に陥る。
シャノンは俺の表情を読み取ろうとしているのか、こうやってじっと見つめてくることが多い。
その度に俺はこのおかしな感覚を覚えるのだが、これは一体何なのか。
急に言葉に詰まり、ひとつ頷くだけに止める。
彼は俺によく話しかけてくるが、俺と話しても楽しくないのではないだろうか。
「お……僕はこんな難しそうな本読んだことありません。小さい頃は絵本を読んでもらっていましたが、そもそも本なんていう貴重品おいそれと手に入らないですし……。必然的に外で駆け回って遊んでいる方が多かったですね」
懐かしそうに目を細めるシャノンに意外だ、と思った。
本は貴重ゆえ入手しにくいが、それでもこの頭の良さはなんとなく読書家のイメージがあった。なるほど、地頭が良いのだな。
「本に興味はないのか?」
「あります!!」
「そっ……うか」
食い気味で返事をするシャノンに少し面食らう。
ずい、と距離を詰めてきたシャノンは大きな瞳をさらに大きくして俺を見る。口元も緩んでいて、顎下で組んでいる手は小さく、まるで小動物のようだ。
「服だけでなく、本も君に貸そう。読みたいものがあれば遠慮しなくていい」
「!!! 本当ですか!」
「ああ、構わない」
「兄上……! ありがとうございます! 僕、兄上のこと大好きです!」
嬉しそうに頬を染めて笑う顔を見て、また心臓がぎゅうと音をたてた。
不可思議な気持ちではあるが、シャノンを見ている時のこの感覚は、決して悪くはない……ように思う。
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