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一章
さらば、長髪の俺
しおりを挟むリアム、良いやつだ!
俺は今かなりご機嫌である。
本なんていう高価なものはおいそれと読めるものじゃなかったから本当に嬉しい。あの本棚を見る限り、たくさん知識を得られそうだ。
前世(仮)の記憶なんてものはほとんど思い出せないと思っていたが、向こうで身につけていた知識でこの世界でも応用できそうなものはうっすら身体が覚えているらしかった。
早速家庭教師をつけてもらって授業を受けているけれど、例えば数学……算数か? その辺りは顕著だったな。楽勝だった。
元々知識を吸収することは好きなので、初めて知る学も楽しい。
問題は貴族としてのマナーである。指先ひとつひとつに気を配らないといけないのが本当にきつい。ご飯くらい好きに食べたい。
……貴族の養子になることを選択したのは俺だから、地道に地道にやっていくしかない。
そして俺がご機嫌なのは本を読みまくれるからだけじゃない。近いうちに本格的に魔力を測ることになったのだ! 教会に行くのかと思っていたけど、わざわざ家に呼んでくれるらしい。リッチだ。
「シャノンちゃん、お洋服をまた何着か仕立てましょう。何か欲しいものはある?」
そういえばいつの間に母上からはシャノンちゃんと呼ばれるようになっていた。デレデレすぎないか?
子どもを可愛がりたいなら実子でいいだろうと思ってしまうがやっぱり今更感が強くてできないのかな。うーん。
というか貴族、服仕立てすぎである。一日に何回着替えるんだ。
「えっと……欲しいもの、じゃないんですが……」
「あら! なあに?」
「髪を切りたいです!」
ここぞとばかりにぎゅっと拳を握って母を見上げる。
切ることはリアムを初めて見た時から決めていたが、なんとなく言い出しにくくて俺の髪は長いままだった。
リアムは俺より髪の毛が長くて俺より女性みのある髪型をしているのに、俺の方が圧倒的に女性っぽい雰囲気なことにちょっと敗北感を覚えたのだ。
あとは、まあ、なるべく原作のシャノンとの違いを増やしたかったのもある。俺の心情的に。
原作のシャノンは確かさらさらの髪の毛を鎖骨の下くらいまで伸ばしていたと思うから、俺はウルフカットっぽい髪型にしたい!
顔が可愛いのは構わないけど俺は女の子になりたいわけじゃない!!
外部の人に会う前にはこの長い髪をどうにかしたい!!!
「まあ……切りたいの?」
「切りたいです!」
ちょっと残念そうにしている母上に申し訳なさもあるが、ここは我を通したい。
顎の下に握りしめた両手を置いて、じぃっと上目遣いで彼女を仰ぎ見る。必殺おねだりポーズだ。ついでに眉も下げておく。
そして俺のおねだりキラキラビームに負けた母上から見事に許可をもぎ取った。顔が可愛いって得だな!
「兄上、兄上!」
髪を切ってもらいご機嫌度が更に増した俺は意気揚々とリアムに会いにきた。
元々打算ありまくりでリアムに絡みにいっているが、彼は表情筋が死んでるだけで優しいし良い人なので普通に懐いてしまっている。
「! 髪の毛が……」
「切ってもらいました! ずっと切りたかったので……。どうですか? 兄上に一番に見て欲しかったんです!」
なんだかリアムもちょっと残念そうな声色をしやがったので、ムッとして褒めて圧をかける。
リアムの手を取って俺の髪をすくように誘導する。どうだ! 似合うしさらさらだろ!
褒めてアピールを目から飛ばしまくっている俺にどう思ったのか、ぎこちないながらもそのまま頭を撫でてくれた。
撫でるのなかなか上手じゃん……。
暖かい手の熱が気持ちよくてご機嫌メーターが更に上がる。くるしゅうない。
「……長いのも愛らしかったが、今の髪型もよく似合っている」
「でしょう! 兄上は分かってくださると思いました! そういう兄上は髪の毛長くても男性的に格好良くてすごいです!」
見えない尻尾をばったばったと振りながらリアムの手を甘受していると、急に小さく唸って心臓を押さえだした。
どうしたんだ、不整脈か?
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