義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

文字の大きさ
上 下
8 / 53
一章

さらば、長髪の俺

しおりを挟む




 リアム、良いやつだ!


 俺は今かなりご機嫌である。
 本なんていう高価なものはおいそれと読めるものじゃなかったから本当に嬉しい。あの本棚を見る限り、たくさん知識を得られそうだ。


 前世(仮)の記憶なんてものはほとんど思い出せないと思っていたが、向こうで身につけていた知識でこの世界でも応用できそうなものはうっすら身体が覚えているらしかった。
 早速家庭教師をつけてもらって授業を受けているけれど、例えば数学……算数か? その辺りは顕著だったな。楽勝だった。

 元々知識を吸収することは好きなので、初めて知る学も楽しい。
 問題は貴族としてのマナーである。指先ひとつひとつに気を配らないといけないのが本当にきつい。ご飯くらい好きに食べたい。

 ……貴族の養子になることを選択したのは俺だから、地道に地道にやっていくしかない。



 そして俺がご機嫌なのは本を読みまくれるからだけじゃない。近いうちに本格的に魔力を測ることになったのだ! 教会に行くのかと思っていたけど、わざわざ家に呼んでくれるらしい。リッチだ。




「シャノンちゃん、お洋服をまた何着か仕立てましょう。何か欲しいものはある?」


 そういえばいつの間に母上からはシャノンちゃんと呼ばれるようになっていた。デレデレすぎないか?
 子どもを可愛がりたいなら実子でいいだろうと思ってしまうがやっぱり今更感が強くてできないのかな。うーん。

 というか貴族、服仕立てすぎである。一日に何回着替えるんだ。



「えっと……欲しいもの、じゃないんですが……」

「あら! なあに?」

「髪を切りたいです!」


 ここぞとばかりにぎゅっと拳を握って母を見上げる。
 切ることはリアムを初めて見た時から決めていたが、なんとなく言い出しにくくて俺の髪は長いままだった。

 リアムは俺より髪の毛が長くて俺より女性みのある髪型をしているのに、俺の方が圧倒的に女性っぽい雰囲気なことにちょっと敗北感を覚えたのだ。
 あとは、まあ、なるべく原作のシャノンとの違いを増やしたかったのもある。俺の心情的に。

 原作のシャノンは確かさらさらの髪の毛を鎖骨の下くらいまで伸ばしていたと思うから、俺はウルフカットっぽい髪型にしたい!
 顔が可愛いのは構わないけど俺は女の子になりたいわけじゃない!!
 外部の人に会う前にはこの長い髪をどうにかしたい!!!


「まあ……切りたいの?」

「切りたいです!」


 ちょっと残念そうにしている母上に申し訳なさもあるが、ここは我を通したい。
 顎の下に握りしめた両手を置いて、じぃっと上目遣いで彼女を仰ぎ見る。必殺おねだりポーズだ。ついでに眉も下げておく。


 そして俺のおねだりキラキラビームに負けた母上から見事に許可をもぎ取った。顔が可愛いって得だな!




「兄上、兄上!」

 髪を切ってもらいご機嫌度が更に増した俺は意気揚々とリアムに会いにきた。
 元々打算ありまくりでリアムに絡みにいっているが、彼は表情筋が死んでるだけで優しいし良い人なので普通に懐いてしまっている。


「! 髪の毛が……」

「切ってもらいました! ずっと切りたかったので……。どうですか? 兄上に一番に見て欲しかったんです!」


 なんだかリアムもちょっと残念そうな声色をしやがったので、ムッとして褒めて圧をかける。
 リアムの手を取って俺の髪をすくように誘導する。どうだ! 似合うしさらさらだろ!


 褒めてアピールを目から飛ばしまくっている俺にどう思ったのか、ぎこちないながらもそのまま頭を撫でてくれた。

 撫でるのなかなか上手じゃん……。
 暖かい手の熱が気持ちよくてご機嫌メーターが更に上がる。くるしゅうない。


「……長いのも愛らしかったが、今の髪型もよく似合っている」

「でしょう! 兄上は分かってくださると思いました! そういう兄上は髪の毛長くても男性的に格好良くてすごいです!」


 見えない尻尾をばったばったと振りながらリアムの手を甘受していると、急に小さく唸って心臓を押さえだした。
 どうしたんだ、不整脈か?

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

貴方だけは愛しません

玲凛
BL
王太子を愛し過ぎたが為に、罪を犯した侯爵家の次男アリステアは処刑された……最愛の人に憎まれ蔑まれて……そうしてアリステアは死んだ筈だったが、気がつくと何故か六歳の姿に戻っていた。そんな不可思議な現象を味わったアリステアだったが、これはやり直すチャンスだと思い決意する……もう二度とあの人を愛したりしないと。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

処理中です...