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第二章 婚前編
【結婚式の007時間前~魔王が花嫁に惚れたきっかけ~】
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「ねえ。透也君はなんで、私のことが好きなの?」
そのときの彼の顔は『きょとん』という擬音がとっても似合っていた。
彼は数秒かけて私の言葉を呑み込むと、はあああ……と大きなため息をついた。
ぐしゃぐしゃと髪の毛をかきまぜる。
イラついたときの、透也君の癖。
今日は何度この仕草を見たことだろう。
私はつい、手を伸ばして撫でつけてあげた。
透也君は髪から私の手をつかむと、そのまま手のひらに唇をあててくる。
ぁん。
「寸止めとか。どこで覚えたんだ。……僕か」
ぶつぶつ呟いたあと、意を決したように口を開いた。
「初めて逢ったとき。円佳ちゃんの髪があんまりキラキラしていて、思わず手を伸ばしたんだ」
三歳児だもの、力任せに引っ張ったらしい。
仕方ないよね。
ところが。
親の介入が入る前に私が透也君の髪を引っ張り返したのだという。
「え」
ちょっと待って六歳児。
貴女、半分の年齢の子に本気を出したの?
なぜか私は、そのときの自分がガチだったろうなと理解していた。
……空気読まないわけじゃないと自分では思ってるんだけど、髪を引っ張られるなんて喧嘩売られてる判定だもの。
母に鳥の巣状になった髪の毛を梳られるのとは訳が違う。
「当然、僕は泣きわめくんだけど」
……ですよね。
ううう。
未就学児童のしでかしたこととはいえ、申し訳ありませんでしたあ!
「『とーやくんがいたいことは、まどかちゃんにもしちゃダメっ』って円佳ちゃんはきっぱりと言った」
「おおう」
筋が通っている、かな。
「僕はそれまで王子様扱いされていたからさ。へつらわない君に、がつんとハートを持っていかれちゃった」
「へ、へえ……」
それって、温室育ちの綺麗な花しか見たことがなかった御曹司が、珍獣に遭遇してしまって衝撃を受けたって意味ですよね。
「で、『この子は僕の!』宣言に繋がるんだ。父上はというか嘉島は代々、欲しいものは手に入れろって主義だし。なぜか母上も、僕が生まれる頃には家風に染まっていたらしいし」
……なんとなく、お義母様は欲望に忠実な気がした。
言い方はあれだけど、自分の信じた道を選ぶ潔さというのか。
けれど、大事な人が本当に嫌がることはしないという、筋の通ったワガママ。
しかし、ストッパー役だと信じていたお義父様側の遺伝子だったとは。
考えたら、そうか。
お義母様は乳児院育ちだったから、私と透也君よりお義父さまたちの結婚のほうがセンセーショナルだったはずだ。
それこそ『今世紀最大の格差婚』とか『平成のシンデレラ』とか言われたんじゃ?
お義父様が望まない限りなしえなかったろうし、お義母様だって重圧に打ち勝ったのだ。
他ならぬご両親が私を後押ししてくださるのを透也君は知っていた。
お二人の子供だから、透也君はためらいもなく私に手を伸ばしたのだ。
「『この子が欲しがるなら貰おう』&『透也を叱れる、あっぱれなお嬢さん』ということになり、両家の間で僕らの結婚の約束が出来上がったんだ」
「あーうー、刷り込みもいいところだよ……」
でもそれってば、将来私に飽きちゃうときがくるかもしれない……?
言いかけては口を閉じ、でも言いたくてぱくぱくと口を開け閉めしたら、考えていることはお見通しだよとばかりに唇を塞がれてしまった。
「僕が君を永遠に愛しているってこと、忘れないで」
「わかった。……私も、愛してる」
「おやすみ、僕の奥様」
「おやすみなさい、私の旦那さま」
その後、何度も「もう寝よう」と言い合ってはどちらかが話しかけたりキスをしかけ、寝付いたのは夜明け前だった。
そのときの彼の顔は『きょとん』という擬音がとっても似合っていた。
彼は数秒かけて私の言葉を呑み込むと、はあああ……と大きなため息をついた。
ぐしゃぐしゃと髪の毛をかきまぜる。
イラついたときの、透也君の癖。
今日は何度この仕草を見たことだろう。
私はつい、手を伸ばして撫でつけてあげた。
透也君は髪から私の手をつかむと、そのまま手のひらに唇をあててくる。
ぁん。
「寸止めとか。どこで覚えたんだ。……僕か」
ぶつぶつ呟いたあと、意を決したように口を開いた。
「初めて逢ったとき。円佳ちゃんの髪があんまりキラキラしていて、思わず手を伸ばしたんだ」
三歳児だもの、力任せに引っ張ったらしい。
仕方ないよね。
ところが。
親の介入が入る前に私が透也君の髪を引っ張り返したのだという。
「え」
ちょっと待って六歳児。
貴女、半分の年齢の子に本気を出したの?
なぜか私は、そのときの自分がガチだったろうなと理解していた。
……空気読まないわけじゃないと自分では思ってるんだけど、髪を引っ張られるなんて喧嘩売られてる判定だもの。
母に鳥の巣状になった髪の毛を梳られるのとは訳が違う。
「当然、僕は泣きわめくんだけど」
……ですよね。
ううう。
未就学児童のしでかしたこととはいえ、申し訳ありませんでしたあ!
「『とーやくんがいたいことは、まどかちゃんにもしちゃダメっ』って円佳ちゃんはきっぱりと言った」
「おおう」
筋が通っている、かな。
「僕はそれまで王子様扱いされていたからさ。へつらわない君に、がつんとハートを持っていかれちゃった」
「へ、へえ……」
それって、温室育ちの綺麗な花しか見たことがなかった御曹司が、珍獣に遭遇してしまって衝撃を受けたって意味ですよね。
「で、『この子は僕の!』宣言に繋がるんだ。父上はというか嘉島は代々、欲しいものは手に入れろって主義だし。なぜか母上も、僕が生まれる頃には家風に染まっていたらしいし」
……なんとなく、お義母様は欲望に忠実な気がした。
言い方はあれだけど、自分の信じた道を選ぶ潔さというのか。
けれど、大事な人が本当に嫌がることはしないという、筋の通ったワガママ。
しかし、ストッパー役だと信じていたお義父様側の遺伝子だったとは。
考えたら、そうか。
お義母様は乳児院育ちだったから、私と透也君よりお義父さまたちの結婚のほうがセンセーショナルだったはずだ。
それこそ『今世紀最大の格差婚』とか『平成のシンデレラ』とか言われたんじゃ?
お義父様が望まない限りなしえなかったろうし、お義母様だって重圧に打ち勝ったのだ。
他ならぬご両親が私を後押ししてくださるのを透也君は知っていた。
お二人の子供だから、透也君はためらいもなく私に手を伸ばしたのだ。
「『この子が欲しがるなら貰おう』&『透也を叱れる、あっぱれなお嬢さん』ということになり、両家の間で僕らの結婚の約束が出来上がったんだ」
「あーうー、刷り込みもいいところだよ……」
でもそれってば、将来私に飽きちゃうときがくるかもしれない……?
言いかけては口を閉じ、でも言いたくてぱくぱくと口を開け閉めしたら、考えていることはお見通しだよとばかりに唇を塞がれてしまった。
「僕が君を永遠に愛しているってこと、忘れないで」
「わかった。……私も、愛してる」
「おやすみ、僕の奥様」
「おやすみなさい、私の旦那さま」
その後、何度も「もう寝よう」と言い合ってはどちらかが話しかけたりキスをしかけ、寝付いたのは夜明け前だった。
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