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前編
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「カーディ? 起きたのか?」
「ん……れいらさん?」
おー、寝ぼけてるな。これは。「レイラさん」なんて、久々に聞いたぞ。
「まだ寝ていていいぞ。夕食まで時間はあるからな」
袖を握りしめていた手をそっと外してベッドの上に戻し、ずり落ちていたシーツを肩までかける。カーディアスはその間もぼんやりしていた。もしかしたら、目は覚めたけれど意識は眠っているままかもしれない。そんな状態でも、ちょこっと出した指先で俺の指を握ってきたの、可愛すぎない?
「れいらさん、どこ行くの……?」
「ちょっとさっぱりするだけ。すぐ戻ってくるよ」
ちょっと大きくなったと思ったけど、やっぱりまだまだ可愛い年頃だな。床に膝をついて目線を合わせる。ちょいちょいと頬をつつくと、カーディアスはむずがるように顔を枕に埋めた。はー、可愛い。
「んんっ……ほんとに、すぐ?」
「ああ。すぐだよ」
ふわふわな枕が眠気を誘っているらしい。むにゃむにゃとした口調で話していたカーディアスの口から寝息が聞こえてきたのを確認すると、頭をひと撫でして俺はそっと立ち上がった。今度こそ起こさないように慎重に寝室を出る。
「ふぅ……」
まさかあそこまで寂しがられるとは。これは本当に烏の行水くらい急いだ方がいいかな。カーディアスがさっきのことを覚えているかは分からないが、あんまり待たせたくはない。
そんなことを考えながら、バスルームに入る。水と火の魔力を使ってお湯を猫足のバスタブに溜めていく。本当はこういったことも使用人がやるんだけど、俺は自分で出来ることだったらやってしまう。仕事を取らないようにって時々怒られるんだけど、前世庶民だった身からすれば全部任せるのはってなるんだよなぁ。だけど上位貴族としてそれはあんまり良くないんだってさ。そういうところは面倒だよなぁと思いながらシャツを脱いでスラックスを脱ぎ、パンツに手をかけたところで動きを止める。そのままジロっと扉の方向を睨んだ。
「覗き見とは趣味が悪いぞ、デリス」
「残念。気付いておられましたか」
悪びれもせずに入ってきたデリスは、着替えが入った籠をバスタブから少し離れた所に置いた。その隙に俺は素早くパンツを脱いでタオルを巻く。ちらっとデリスの様子を伺うと、腕まくりをしてこちらに向かってきていた。
「あ、レイラ様、これまたどうしてそんな物を巻いていらっしゃるのですか」
「お前が見るからだろうが!」
「おや、心外な。私はそんなことはしておりませんが」
しれっとしているが、俺は知っている。というか、ようやく気が付いたというべきか。デリスはこれまでも俺の入浴の手伝いをしてくれていたが、思い返せばその時の視線と手の動きが、こう、いやらしかったなぁって、な……。
「とにかく! 今日でお前を入浴担当から外す! そもそも入浴くらい俺一人でも出来るんだよ」
「そういうわけにはいきませんと以前にもお伝えしたと思うのですが」
「これがレディだったら入浴の補助は必要だろうさ。色々と手入れが大変らしいからな。けど俺は男だぞ」
「男でもお手入れは必要なのですよ、貴族の方は。湯舟にはいつも保湿効果のある美容液を使い、入浴後も保湿クリームやヘアオイル等を塗らなければならないのです。レディ方には負けますが、身だしなみには気を遣うのですよ。レイラ様にもこれまでお肌の手入れをさせていただいていたでしょう? あれ全部、本当にお一人でできますか?」
「う…………」
そういえばデリスが用意する湯舟は、常に何だか良い香りがしてとろっと肌に沁み込むような特別なものだった。出た後も全身にクリームを塗って、髪には蜂蜜から作られたというヘアオイル。あと、爪の手入れもしてくれていた気がする……
「……めんどくさい」
「そうおっしゃると思いました。ですが必要なことなのですよ。私にこれまで通りお任せくださるのであれば、全部して差し上げますよ」
俺が断ることなど考えもしていない微笑みを浮かべながら、デリスは「どうしますか?」などと聞いて来る。それに敗北感とささやかな苛立ちを感じながらも、俺は断る道はそもそもなかったのだと悟って項垂れたのだった。
「ん……れいらさん?」
おー、寝ぼけてるな。これは。「レイラさん」なんて、久々に聞いたぞ。
「まだ寝ていていいぞ。夕食まで時間はあるからな」
袖を握りしめていた手をそっと外してベッドの上に戻し、ずり落ちていたシーツを肩までかける。カーディアスはその間もぼんやりしていた。もしかしたら、目は覚めたけれど意識は眠っているままかもしれない。そんな状態でも、ちょこっと出した指先で俺の指を握ってきたの、可愛すぎない?
「れいらさん、どこ行くの……?」
「ちょっとさっぱりするだけ。すぐ戻ってくるよ」
ちょっと大きくなったと思ったけど、やっぱりまだまだ可愛い年頃だな。床に膝をついて目線を合わせる。ちょいちょいと頬をつつくと、カーディアスはむずがるように顔を枕に埋めた。はー、可愛い。
「んんっ……ほんとに、すぐ?」
「ああ。すぐだよ」
ふわふわな枕が眠気を誘っているらしい。むにゃむにゃとした口調で話していたカーディアスの口から寝息が聞こえてきたのを確認すると、頭をひと撫でして俺はそっと立ち上がった。今度こそ起こさないように慎重に寝室を出る。
「ふぅ……」
まさかあそこまで寂しがられるとは。これは本当に烏の行水くらい急いだ方がいいかな。カーディアスがさっきのことを覚えているかは分からないが、あんまり待たせたくはない。
そんなことを考えながら、バスルームに入る。水と火の魔力を使ってお湯を猫足のバスタブに溜めていく。本当はこういったことも使用人がやるんだけど、俺は自分で出来ることだったらやってしまう。仕事を取らないようにって時々怒られるんだけど、前世庶民だった身からすれば全部任せるのはってなるんだよなぁ。だけど上位貴族としてそれはあんまり良くないんだってさ。そういうところは面倒だよなぁと思いながらシャツを脱いでスラックスを脱ぎ、パンツに手をかけたところで動きを止める。そのままジロっと扉の方向を睨んだ。
「覗き見とは趣味が悪いぞ、デリス」
「残念。気付いておられましたか」
悪びれもせずに入ってきたデリスは、着替えが入った籠をバスタブから少し離れた所に置いた。その隙に俺は素早くパンツを脱いでタオルを巻く。ちらっとデリスの様子を伺うと、腕まくりをしてこちらに向かってきていた。
「あ、レイラ様、これまたどうしてそんな物を巻いていらっしゃるのですか」
「お前が見るからだろうが!」
「おや、心外な。私はそんなことはしておりませんが」
しれっとしているが、俺は知っている。というか、ようやく気が付いたというべきか。デリスはこれまでも俺の入浴の手伝いをしてくれていたが、思い返せばその時の視線と手の動きが、こう、いやらしかったなぁって、な……。
「とにかく! 今日でお前を入浴担当から外す! そもそも入浴くらい俺一人でも出来るんだよ」
「そういうわけにはいきませんと以前にもお伝えしたと思うのですが」
「これがレディだったら入浴の補助は必要だろうさ。色々と手入れが大変らしいからな。けど俺は男だぞ」
「男でもお手入れは必要なのですよ、貴族の方は。湯舟にはいつも保湿効果のある美容液を使い、入浴後も保湿クリームやヘアオイル等を塗らなければならないのです。レディ方には負けますが、身だしなみには気を遣うのですよ。レイラ様にもこれまでお肌の手入れをさせていただいていたでしょう? あれ全部、本当にお一人でできますか?」
「う…………」
そういえばデリスが用意する湯舟は、常に何だか良い香りがしてとろっと肌に沁み込むような特別なものだった。出た後も全身にクリームを塗って、髪には蜂蜜から作られたというヘアオイル。あと、爪の手入れもしてくれていた気がする……
「……めんどくさい」
「そうおっしゃると思いました。ですが必要なことなのですよ。私にこれまで通りお任せくださるのであれば、全部して差し上げますよ」
俺が断ることなど考えもしていない微笑みを浮かべながら、デリスは「どうしますか?」などと聞いて来る。それに敗北感とささやかな苛立ちを感じながらも、俺は断る道はそもそもなかったのだと悟って項垂れたのだった。
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