来世で独身貴族ライフ楽しんでたら突然子持ちになりました〜息子は主人公と悪役令息〜

こざかな

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前編

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「どうしました、レイラ様」
「何でもない。うちの従者は可愛いなって思っただけだ」
「可愛いのはレイラ様ですよ」

そう言って繋がれた手を恋人繋ぎに握りなおしたデリスは、その手を俺に見せるように上げて微笑んだ。

「レイラ様の手も、俺より小さくて可愛い。前のパンのようにぷにぷの柔らかい手も好きでしたが、今のスラッとして剣ダコで少し硬くなった手も好きです。ずっと握っていたくなる」

にぎにぎと確かめるように柔く指に力を込めているデリスの目は、とても優しい。いつものジョークじゃなくて、本心で言ってるんだろうなってことがよく分かった。なんだか、ちょっと恥ずかしいな。

「そ、そういえば、昔はよくこうやって手を繋ぎながら屋敷を探検したよな」
「私達が出会ったばかりの頃ですよね?」
「そうそう。間違えて来客中の父上の執務室に入っちゃって怒られたり、フィリア姉上に捕まって遊び相手をさせられたり、散策の途中で俺の体力が尽きちゃってお前におんぶしてもらったりしたな」
「懐かしいですね……一時期はもうレイラ様をおんぶできないかと思いましたが、今ならお姫様抱きも余裕ですしね」
「あの祭りのことはもう忘れてくれ……」

精霊の湖でのあれは、痩せといてよかったなって思った一番の出来事だ。痩せなかったら、カーディアスと祭りにも行けなかったし、ユリウスも救えなかった。それに、デリスが迅速に俺を屋敷に運ぶこともできなかっただろうな。お姫様抱っこはやめてほしかったけど。

「でも今日はそれも一時忘れて、楽しみましょう。というわけで、最初の目的地はここです!」
「ん? おい、ここ昨日来たブティックじゃないか? もう服はいらないぞ」
「あれは夜会用です。これから揃えるのは、普段着とパジャマと外出用ですよ」

恐ろしい言葉が聞こえた気がした。ゆっくりと隣を見ると、満面の笑みのデリスが俺を見ていた。

「フルコーディネート、させていただけるんですよね?」
「…………ぁぁ」

笑顔の圧力と、絶対に逃がさないぞとばかりに強く握られた手に、俺は――めちゃくちゃ小さい声で――頷くしかなかった。

なんで俺、手を繋ごうなんて言ったんだろ……。

扉を開けたデリスに背中を押されて問答無用で店に押し込まれながら、俺は数分前の自分を止めたい気持ちでいっぱいになっていた。
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