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前編
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「やっぱり王都は人が多いな」
「ええ。ですがその分安全です」
「けど、この通りはスリにとっては恰好の狩り場になるな……デリス、財布取られるなよ」
「私がそんな失態を犯すとでも?」
自信満々なデリスに差し出された手を取りながら、馬車を下りる。目の前には王都で一番店が並ぶ大通り。昼間は歩行者天国になっているそこは、東京原宿の竹下通りのように人で溢れかえっている。
貴族だと分かる身なりがそれなりに良い人達ばかりだが、店の従業員だろう平民らしき人達もいて、スリにとっては魅力的な狩り場になっている。一応王都の警備を行う騎士団の騎士達が巡回をしているが、これだけの人がいれば捕まえるのも大変そうだ。
でも確かにデリスが簡単にスリに遭うとは思えないな。逆に捕まえそう。
「うわぁっ⁉ は、放せ‼」
「あ、そこの騎士様! この男を連行してください。パトリー侯爵様のお荷物を盗もうとした大罪人です!」
……フラグの回収早くないか?
「流石、デリス……」
「レイラ様のものを盗もうとするなど、許されることではありません!」
「俺の物じゃなくても盗みはダメだけどな。というわけでお前、運が悪かったな。そこそこの身なりをしているということは、常習犯だろ。これまで甘い汁を吸ったんだ。その報いを受けるんだな」
デリスに取り押さえられているスリの男は、自身を見下ろしている俺を恐ろしい目つきで睨み上げて来たが、俺はそれを無表情で躱した。王都では日常茶飯事の軽犯罪であるスリでも、犯罪は犯罪。死刑にはならないだろうから、頑張って更生してくれ。まぁでも、生活が変わらない限り無理か……。
男は、デリスが呼んだ騎士達に連行されていった。デリスは何やら騎士から質問されていたが、すぐに俺のところに戻って来た。
「お待たせいたしました、レイラ様」
「ああ。何を聞かれたんだ?」
「スリを捕まえた謝礼を送るので、家を名前と身分を教えて欲しいと言われました。まぁ、丁重にお断りしましたが」
「は? 何で断ったんだ。浴びるべき賞賛は遠慮して良いことは無いぞ?」
「私はレイラ様にお仕えする身として当然の事をしただけです。それに、これ以上時間を取られてせっかくのデートの時間が短くなるのはもっとお断りですので」
「後半が本音だろ。まぁ確かに、せっかくのデート……だしな。デリス」
「はい」と返事をしたデリスの手を握る。目を見開いて驚きに固まるデリスに、悪戯が成功したような気分の良さで笑顔を向けた。
「デート、だからな。これくらい許してやるよ」
「……はぁ。まったく、レイラ様……あなたって人は、いつも私を困らせますね」
「俺と手を繋ぐのは困ることなのか?」
「嬉しすぎて困っています」
「なんだそれ」
嬉しすぎて困る、だなんて言いながら、本当に困ったように眉尻を下げながら頬を少し赤く染めて笑うものだから――
俺はデリスに、初めてときめきを感じてしまった。
胸の奥がきゅんってして、見慣れたはずの微笑みなのにまともに見ることができない。
なるほど、これが――
「これが……萌えか!」
突然頬を赤くして叫んだ俺に、デリスは不思議そうに首を傾げた。
「ええ。ですがその分安全です」
「けど、この通りはスリにとっては恰好の狩り場になるな……デリス、財布取られるなよ」
「私がそんな失態を犯すとでも?」
自信満々なデリスに差し出された手を取りながら、馬車を下りる。目の前には王都で一番店が並ぶ大通り。昼間は歩行者天国になっているそこは、東京原宿の竹下通りのように人で溢れかえっている。
貴族だと分かる身なりがそれなりに良い人達ばかりだが、店の従業員だろう平民らしき人達もいて、スリにとっては魅力的な狩り場になっている。一応王都の警備を行う騎士団の騎士達が巡回をしているが、これだけの人がいれば捕まえるのも大変そうだ。
でも確かにデリスが簡単にスリに遭うとは思えないな。逆に捕まえそう。
「うわぁっ⁉ は、放せ‼」
「あ、そこの騎士様! この男を連行してください。パトリー侯爵様のお荷物を盗もうとした大罪人です!」
……フラグの回収早くないか?
「流石、デリス……」
「レイラ様のものを盗もうとするなど、許されることではありません!」
「俺の物じゃなくても盗みはダメだけどな。というわけでお前、運が悪かったな。そこそこの身なりをしているということは、常習犯だろ。これまで甘い汁を吸ったんだ。その報いを受けるんだな」
デリスに取り押さえられているスリの男は、自身を見下ろしている俺を恐ろしい目つきで睨み上げて来たが、俺はそれを無表情で躱した。王都では日常茶飯事の軽犯罪であるスリでも、犯罪は犯罪。死刑にはならないだろうから、頑張って更生してくれ。まぁでも、生活が変わらない限り無理か……。
男は、デリスが呼んだ騎士達に連行されていった。デリスは何やら騎士から質問されていたが、すぐに俺のところに戻って来た。
「お待たせいたしました、レイラ様」
「ああ。何を聞かれたんだ?」
「スリを捕まえた謝礼を送るので、家を名前と身分を教えて欲しいと言われました。まぁ、丁重にお断りしましたが」
「は? 何で断ったんだ。浴びるべき賞賛は遠慮して良いことは無いぞ?」
「私はレイラ様にお仕えする身として当然の事をしただけです。それに、これ以上時間を取られてせっかくのデートの時間が短くなるのはもっとお断りですので」
「後半が本音だろ。まぁ確かに、せっかくのデート……だしな。デリス」
「はい」と返事をしたデリスの手を握る。目を見開いて驚きに固まるデリスに、悪戯が成功したような気分の良さで笑顔を向けた。
「デート、だからな。これくらい許してやるよ」
「……はぁ。まったく、レイラ様……あなたって人は、いつも私を困らせますね」
「俺と手を繋ぐのは困ることなのか?」
「嬉しすぎて困っています」
「なんだそれ」
嬉しすぎて困る、だなんて言いながら、本当に困ったように眉尻を下げながら頬を少し赤く染めて笑うものだから――
俺はデリスに、初めてときめきを感じてしまった。
胸の奥がきゅんってして、見慣れたはずの微笑みなのにまともに見ることができない。
なるほど、これが――
「これが……萌えか!」
突然頬を赤くして叫んだ俺に、デリスは不思議そうに首を傾げた。
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