【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

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【番外編・玄武】

玄武様と秘密ごと②

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 あの日、鳴麗を看病してから玄武は彼女のことを、強く意識するようになった。鳴麗も義兄や幼なじみに、武陵桃源で起きた一連の出来事は口にしなかったが、今まで以上に彼を意識し、玄武への想いは募るばかりだった。

「…………」
「…………」

 それから、東屋で、白虎帝と談笑する玄武と廊下を歩く鳴麗の視線が合えば、お互い頬を染め、顔を反らしてみたりと、まるで幼獣同士の淡い初恋のような反応をしてしまう。
 そんな不審な行動を、白虎帝に弄られるほどで、玄武は自分の心の揺れに悩み、頭を抱えていた。
 当然ながら、玄武の周囲に誰かがいる状況がほとんどで、お互い話すような機会はない。しかし、日が経つにつれてきちんと二人で話さねばならないという、思いだけが募っていく。
 そんなある日、鳴麗に思わぬ機会が巡ってきた。

「え、玲玲リンリン様のお母さんが急病に……?」
「そうなのよ。玄武様の身の回りのお世話全般をされていたから大変だわ。それでね、鳴麗。本来なら、私か龍月様が玲玲様の代わりにするべきだと思うのだけど……。玄武様が貴女をご指名なのよ」
「げげげ、玄武様が!? 私をご指名してくださっているのですか?」
「ええ。龍月様もそれで良いと仰っているの」

 鳴麗の瞳はキラキラと輝き、満面の笑みで尻尾をブンブンと振った。
 鳴麗が、玄武に並々ならぬ憧れを抱いていると言うことは、すでに女官たちに知れ渡ってしまっている。本人が口にせずとも、鳴麗の態度を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。それに眉をしかめる者もいるが、しょせん、有名役者に想いを寄せるような可愛い憧れであり、叶わぬ片思いだろうと、そう思っている役人のほうが多かった。

「私!!誠心誠意こめて、玄武様をお世話します!!」
「そ、それは良いけど……あまり失礼のないようにね? 玄武様のお召し物の匂いを嗅いだりしてはだめよ」
「もももも、もちろんですよ。誰がそんなっ、そんな無礼なことはしませんから」

 鳴麗は内心、どうしてバレたのだろうと冷汗をかいたが、側近である龍月のお墨付きを貰えたのだから、これで堂々と玄武と話せると満面の笑みを浮かべる。

✤✤✤

「鳴麗、ありがとうございます。本当に君は花茶を煎れるのが上手ですね。龍月もそのように褒めていましたよ」

 玄武はそう言うと、何度目かの溜息をついて書斎の上に茶杯を置く。鳴麗は包子がなによりも好物だが、お茶に関しても拘りがあり、特に花茶は、自分で掛け合わせて煎れるのが好きだった。本格的に勉強するようになったのは、義兄から玄武が、花茶を好んで飲んでいると言う、情報を聞いたからだ。
 玲玲の代わりとして玄武の身の回りの世話をするようになって、怒涛の一週間がたった。
 ともかくやることが多い。
 早朝から玄武を起こし、毒味をして朝食を円卓に並べる。
 催事や四聖獣との会議など、行事がある度にその場を数人で清め、綺麗に掃除して、お茶の用意をした。そして、行事の度に着替える玄武の正装を用意する。
 彼が自由になる夜の時間まで、鳴麗は世話係として忙しく働いた。玄武とゆっくり言葉を交わす時間があると思いきや、現実はそう簡単にはいかなかったようだ。
 ここ一週間は、多忙で公務が終われば入浴し、すぐに就寝していた玄武も、今夜はようやく息抜きができる。

「はいっ、私も花茶が好きなのですが……玄武様がお好きだと聞いて、勉強しました。こうして玄武様に花茶を煎れることが、私の小さい頃からの夢だったんです。えへへ」
「鳴麗……」

 嬉しそうに、自分のために勉強していたのだという鳴麗の様子を見ると、玄武は胸の奥が温かくなった。
 しかし、あの時はアクシデントが発生してしまい、お酒と月の印の症状で、思わず不埒なことを口走ってしまった可能性もある。

「鳴麗。君は本当に私のことが好きなのですか? いえ、貴女の気持ちを疑ってる訳ではなくて……その、本気で私に恋愛感情を?」
「もちろんです! あの日玄武様に抱き上げて貰ってからずっとずーっと、玄武様のことが大好きです。あわよくば番になりたいとさえ思っているほどですっ。あの時の言葉は嘘じゃなくて、大好きなのです!」

 鳴麗はお盆を持ったまま、かなり食い気味に迫ると、玄武は面食らったような表情で眼鏡に触れ、照れたように笑う。

「しかし、君も噂には聞いたことがあるでしょうが、私には以前、伴侶がいたんです。君と同じ黒龍族の雌で、彼女との間に幼獣もでき、今は遠い血筋となりましたが、子孫が世界中に居るのです。つまり……、一度は番がいて結婚したことがあるのですよ。君はまだ若く、やっと成獣になったばかりです。こんな年寄ではなくて、きっと若く良い雄に巡り会えるでしょう」
「玄武様には、最愛の方が居たんですよね。すっっごく羨ましいし、素敵だし、私には希望です。だって聖獣と霊獣でも番になれるっていうことですもんね。私、他の雄なんで眼中にないので、一生玄武様のお側でお仕えします! 玄武様と恋仲になったり、結婚できなくても、女官として、お側にいられるならそれでいいです」

 鳴麗は見た目によらず頑固な性格のようで、玄武も呆気に取られてしまう。これほどまでに真っ直ぐに気持ちを伝えられたのは、生まれて初めてだった。四神、四聖獣、しかも東西南北を束ねる自分に、気後れすることもなく恋心をぶつけてくるなんて女官は、今まで一人たりとも居なかったのだ。
 鳴麗は嘘をつけるタイプではなく、権力を欲するような娘ではない。懸命によく働いて、周りを自然と笑顔にさせるような、元気な霊獣だった。
 生命力に満ち溢れた鳴麗は眩しく、玄武は心惹かれた。

「参ったな……。もう、どんなふうに恋愛したのかも忘れてしまったんですが」
「玄武様、あの、それって」
「もし、君に好きな雄ができたら潔く身を引きます。それまでは……私とその」
「玄武様っ! ほ、本当に? 大好きです、愛してますっ」
「は、はい……私も君に惹かれています」

 鳴麗はお盆をほっぽり出すと玄武に抱きついた。驚いた玄武は、優しく笑うと彼女の背中を撫でる。
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