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【水狼編】
これは悪いこと?②
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義兄に、水狼と会うなと言われて二週間が経った。幼なじみは、仕事柄忙しい身で、お互いの家を頻繁に行き来するか、約束をつけて西の國まで向かわなければ、なかなか二人の時間を合わすことができない。
今まで、宮使いの道中で軽くお喋りできていたのも、水狼がわざわざ、鳴麗のために話す時間を作ってくれていたから。それがいざなくなると、鳴麗の心にぽっかりと穴が開く。
「龍月兄さんにバレないように、会いに行こう。でも……もし、水狼が私とはもう会えないって思っていたら……、どうしたらいいの?」
鳴麗はしゅんと耳を垂らした。尻尾もどこか萎れている。水狼も、龍月を恐れているのだろうか。義兄の言い分は正しい部分もあるが、鳴麗は納得がいかず認めて貰いたかった。そんなことを考えながら、家路へと向う。けれど、忙しい兄が帰ってこない屋敷は、一人でいてもつまらなく、寂しい。
今日はもう、娘娘で新製品の包子を大人買いするか、それともずっと店頭でウロウロし、買うかどうか迷っていたあの、少しお高めの可愛い装飾品を、ストレス解消のために思い切って買うしか、元気を出す方法はない。
「よしっ! 可愛い装飾品を買って水狼に会いに行くよ。ウジウジ悩んでてもしょうがないし、龍月兄さんが駄目って言っても、絶対に水狼と番になるんだからっ。どうするか二人で相談しなくちゃれ」
鳴麗は、ぐっと両拳を作って意気込むと気分転換に、北の國の香西にある、可愛い装飾品店まで向う。店の近くまでいくと偶然にもそこに水狼がいて、鳴麗は思わず硬直する。
彼の隣には、鳴麗と犬猿の仲である命族の美杏が居た。武陵桃源の集いで再会してから、もう彼女とは会っていないと言っていたのに。
美杏は楽しそうに水狼に装飾品を見せて、巨乳を押し付けている。ムカムカと腹が立ってきた鳴麗が、踵を返すとビタンと何かに顔をぶつかった。
「わっぷ! い、痛ぁ……。すみません」
「ああ! 鳴麗さん、鳴麗さんじゃないか。偶然だね、こんな所で君に会えるなんて。まさに運命だね?」
鼻を擦りながらぶつかった相手を見ると、そこには、芝居がかったような台詞を吐いた鹿族の静がいた。彼もまた、武陵桃源の集いで、鳴麗が再会した相手だ。鳴麗は驚いたように目を丸くする。学生の頃から今まで、北の國で彼に出会うことなんてなかったのに。もしかすると、青龍帝様のお供で来ているのだろうか。
「静さん、どうしたの? 北の國にいるなんて。青龍帝様が、玄武様に会いに来てる……なんてことはないよね?」
「今日は、鳴麗さんの故郷の良さを肌で感じようと思ったんだ。住みやすさは、東の國が最も勝るけど、君がわざわざここに住み続ける理由を知りたくてね」
遠回しに嫌味っぽく聞こえるが、彼は学生の頃からこんな感じなので、いつものことだと思ったが、がっしりと両肩を掴まれて引き寄せられると、少し戸惑った。そして、靜は顔をあからさまに水狼の方へ向けると、初めから用意された台詞をしゃべるかのように言う。
「ああ、水狼はあの女と付き合うことにしたんだな。学生の時から、美杏は水狼のことを狙っていて、恋をしていた。噂によると、奴は君との結婚を諦めたらしい」
「え? え? 待って、そ、そんなの嘘だよっ」
鳴麗は目を見開き、混乱して静の服に縋りついた。静は意地悪な笑みを浮かべて彼女の腰に手を回す。そしてまるで話を聞いていないかのように、頷いている。
「うん、うん。鳴麗さんが、信じられない気持ちもよくわかるよ。だから僕と番になろう。僕の実家は金持ちだし、由緒正しい家柄だ。青龍帝様の側近という地位もある。君も、かの有能な龍月殿の妹だ。僕の両親に話したら大歓迎だったよ!」
「は? ちょ、ちょっと待って。なにを言ってるの? 理解が追いつかないよ!」
「鳴麗さんのご両親に挨拶しよう。その前に兄上が先の方がいいかな?」
勝手に話を進められ、慌てる鳴麗の肩を抱くと、強引にその場から立ち去ろうとする。鳴麗が少し声を荒らげてしまったせいか、水狼が耳をピクリと動かした。振り返ると、必死に抗議する鳴麗の腰を、静が抱いて歩いていく。
その光景を見た瞬間、水狼の頭に血が登ってしまった。
「あいつ……! 鳴麗になにやってんだっ」
「ちょっと、水狼ってば。選んでくれるんじゃないの? それに追い掛けても無駄だよ」
水狼は、グイッと美杏に腕を掴まれて引き寄せられた。鳴麗に会うのを我慢して二週間経ったが、いてもたってもいられず彼女に会いに行った。その途中で、ばったり美杏に出会ってしまったのが運の尽き。
彼女に『鳴麗と仲良くしたいので、贈り物をしたい。鳴麗が好きそうな、可愛い装飾品を選んで』としつこくねだられて、ここまで連れてこられた。
なのに、美杏はしきりに自分が似合うものばかりを水狼に聞いてくるし、いい加減うんざりとしていた。
「なんで無駄なんだよ、美杏」
「だって、鳴麗は水狼と結婚できないことを知って諦めたらしいよ? あいつ、静は金持ちでしょ。だから鳴麗は乗り換えたんだって。だからもう、ライバルじゃなくなったし鳴麗と仲良くしてもいいかなーって。水狼の幼なじみでしょ?」
美杏はぐいっと、自分の胸を水狼の腕に押し付けてきた。鳴麗がそんなことをするような子ではないことを、幼なじみの自分が一番良く知っている。
何事も諦めず努力家で、真っ直ぐな性格の鳴麗が、結婚できる方法も考えないうちに、ましてや別れも告げずに、誰かと付き合うなんてありえない。狼族が自分の番と認めた相手に、他の雄が手を出そうとするなんて、本能的に喰い殺しそうな気持ちになる。
「ねぇ、水狼。私と付き合ってよ。ずーーっとあんたのことが好きだったの。黒龍族と狼族は仲が良くないじゃない。あたしなら、番になっても、問題ないでしょ?」
「っ……離せよ! 鳴麗が嫌がってるだろ。俺の番は鳴麗だ。それは誰にも変えられない!」
水狼は縋りついてくる美杏の腕を乱暴に振りほどくと、そのまま連れて行こうとする静の肩を掴んで、反射的に殴りつけてしまった。
今まで、宮使いの道中で軽くお喋りできていたのも、水狼がわざわざ、鳴麗のために話す時間を作ってくれていたから。それがいざなくなると、鳴麗の心にぽっかりと穴が開く。
「龍月兄さんにバレないように、会いに行こう。でも……もし、水狼が私とはもう会えないって思っていたら……、どうしたらいいの?」
鳴麗はしゅんと耳を垂らした。尻尾もどこか萎れている。水狼も、龍月を恐れているのだろうか。義兄の言い分は正しい部分もあるが、鳴麗は納得がいかず認めて貰いたかった。そんなことを考えながら、家路へと向う。けれど、忙しい兄が帰ってこない屋敷は、一人でいてもつまらなく、寂しい。
今日はもう、娘娘で新製品の包子を大人買いするか、それともずっと店頭でウロウロし、買うかどうか迷っていたあの、少しお高めの可愛い装飾品を、ストレス解消のために思い切って買うしか、元気を出す方法はない。
「よしっ! 可愛い装飾品を買って水狼に会いに行くよ。ウジウジ悩んでてもしょうがないし、龍月兄さんが駄目って言っても、絶対に水狼と番になるんだからっ。どうするか二人で相談しなくちゃれ」
鳴麗は、ぐっと両拳を作って意気込むと気分転換に、北の國の香西にある、可愛い装飾品店まで向う。店の近くまでいくと偶然にもそこに水狼がいて、鳴麗は思わず硬直する。
彼の隣には、鳴麗と犬猿の仲である命族の美杏が居た。武陵桃源の集いで再会してから、もう彼女とは会っていないと言っていたのに。
美杏は楽しそうに水狼に装飾品を見せて、巨乳を押し付けている。ムカムカと腹が立ってきた鳴麗が、踵を返すとビタンと何かに顔をぶつかった。
「わっぷ! い、痛ぁ……。すみません」
「ああ! 鳴麗さん、鳴麗さんじゃないか。偶然だね、こんな所で君に会えるなんて。まさに運命だね?」
鼻を擦りながらぶつかった相手を見ると、そこには、芝居がかったような台詞を吐いた鹿族の静がいた。彼もまた、武陵桃源の集いで、鳴麗が再会した相手だ。鳴麗は驚いたように目を丸くする。学生の頃から今まで、北の國で彼に出会うことなんてなかったのに。もしかすると、青龍帝様のお供で来ているのだろうか。
「静さん、どうしたの? 北の國にいるなんて。青龍帝様が、玄武様に会いに来てる……なんてことはないよね?」
「今日は、鳴麗さんの故郷の良さを肌で感じようと思ったんだ。住みやすさは、東の國が最も勝るけど、君がわざわざここに住み続ける理由を知りたくてね」
遠回しに嫌味っぽく聞こえるが、彼は学生の頃からこんな感じなので、いつものことだと思ったが、がっしりと両肩を掴まれて引き寄せられると、少し戸惑った。そして、靜は顔をあからさまに水狼の方へ向けると、初めから用意された台詞をしゃべるかのように言う。
「ああ、水狼はあの女と付き合うことにしたんだな。学生の時から、美杏は水狼のことを狙っていて、恋をしていた。噂によると、奴は君との結婚を諦めたらしい」
「え? え? 待って、そ、そんなの嘘だよっ」
鳴麗は目を見開き、混乱して静の服に縋りついた。静は意地悪な笑みを浮かべて彼女の腰に手を回す。そしてまるで話を聞いていないかのように、頷いている。
「うん、うん。鳴麗さんが、信じられない気持ちもよくわかるよ。だから僕と番になろう。僕の実家は金持ちだし、由緒正しい家柄だ。青龍帝様の側近という地位もある。君も、かの有能な龍月殿の妹だ。僕の両親に話したら大歓迎だったよ!」
「は? ちょ、ちょっと待って。なにを言ってるの? 理解が追いつかないよ!」
「鳴麗さんのご両親に挨拶しよう。その前に兄上が先の方がいいかな?」
勝手に話を進められ、慌てる鳴麗の肩を抱くと、強引にその場から立ち去ろうとする。鳴麗が少し声を荒らげてしまったせいか、水狼が耳をピクリと動かした。振り返ると、必死に抗議する鳴麗の腰を、静が抱いて歩いていく。
その光景を見た瞬間、水狼の頭に血が登ってしまった。
「あいつ……! 鳴麗になにやってんだっ」
「ちょっと、水狼ってば。選んでくれるんじゃないの? それに追い掛けても無駄だよ」
水狼は、グイッと美杏に腕を掴まれて引き寄せられた。鳴麗に会うのを我慢して二週間経ったが、いてもたってもいられず彼女に会いに行った。その途中で、ばったり美杏に出会ってしまったのが運の尽き。
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なのに、美杏はしきりに自分が似合うものばかりを水狼に聞いてくるし、いい加減うんざりとしていた。
「なんで無駄なんだよ、美杏」
「だって、鳴麗は水狼と結婚できないことを知って諦めたらしいよ? あいつ、静は金持ちでしょ。だから鳴麗は乗り換えたんだって。だからもう、ライバルじゃなくなったし鳴麗と仲良くしてもいいかなーって。水狼の幼なじみでしょ?」
美杏はぐいっと、自分の胸を水狼の腕に押し付けてきた。鳴麗がそんなことをするような子ではないことを、幼なじみの自分が一番良く知っている。
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