あまりものの神子《完結》

トキ

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プロポーズ7【オーバン視点】

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 まだ外の世界に怯えているが、私の敷地内にある庭なら出られるようになった。晴れた日は午後に散歩をするのがクウの日課になっているとボーモンから聞いた。私が屋敷にいる時は一緒に散歩して春の花をゆっくり見て回っている。少しずつ蝶やミツバチが飛ぶようになって、クウは柔らかに微笑んで私に報告する。はあ、今日も私のクウがとても可愛い。

「あの、オーバン様。少しだけ頭を下げてもらってもいいですか?」
「こう、ですか?」
「はい。じっとしていてくださいね」

 頭を下げた状態を保っていると、ガサッという音と、頭に何かを乗せられた感覚。クウが「もういいですよ」と言ったので、乗せられた何かに触れる。柔らかな布のような感触と、かすかな花の香り。

「クウ。これは?」
「青いパンジーの花冠です。花束のお礼がしたくて。やっぱり、オーバン様には青が似合いますね」
「花冠……」
「これでお揃いですね!」

 両手で持った花冠を頭に乗せて、クウは無邪気な子どものように笑った。お揃い。私と、お揃い。お揃いの花冠。今、私とクウは同じ青いパンジーの花冠を頭に乗せていて……

「うぐ!」
「え? オーバン様!? どうしたんですか!?」

 な、なんという破壊力。クウ、やはり貴方は最高です! どれだけ私を虜にしたら気が済むんですか!? クウに似合う宝石は何かと考えていた私がバカに思えてくる。

「大丈夫です。嬉しすぎて、気持ちが昂ぶってしまいました」
「本当、ですか?」
「はい」
「オーバン様。嬉しかったんですか?」
「はい。とても」
「よかったあ」

 安心して照れたように笑うクウを見ていると、こちらまで嬉しい気持ちになる。どんなに高価な宝石よりも、綺麗に咲き誇る花の方がクウには似合う。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。

「ありがとうございます。クウ。大好きです」
「えへへ。僕も、オーバン様が大好きです!」

 花冠を抑えている指がきらきら光る。私がクウに贈った指輪だ。太陽の光に反射して美しく輝く宝石は、可愛らしいクウをより一層魅力的にする。あぁ、この笑顔を見る為に、私は今まで努力してきたんだとしみじみ思う。諦めなくてよかった。ずっと待っていてよかった。これからもずっと、クウと一緒にいたい。クウと幸せになりたい。クウの笑顔の為なら、私はなんだってします。

 この気持ちを一言で表すなら、やはり「愛」なのだろうと、私は思う。
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