小金井は八王子に恋してる

まさみ

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二十一話

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 「げほがほごほっ!」
 容赦なくシャワーをかけられ追い詰められる。
 背中がタイルに衝突、完全に逃げ道を絶たれる。
 「悪ふざけはやめてください、いい加減にしないとひと呼びますよ、ぼくの服びしょぬれにしてなにが楽しいんですか!?」
 「楽しいよ、いやがる東ちゃん見てるの面白い」 
 小金井が笑って受け流す。
 口角を吊り上げ嗜虐的な笑みを浮かべる小金井、細めた双眸が残忍な光にぬれる。
 見慣れた光、八年前ぼくを陰湿にいじめ抜いたクラスメイトの目に見たのと同じサディスティックな色。
 小金井の目にだけは絶対見ることないと根拠もなく信じきっていたものと接し、戦慄が襲う。
 「あ………、」
 膝からかくんと力が抜ける。タイルを貼った壁に凭れ辛うじて姿勢を保つ。
 声を上げなきゃ。
 ポケットをまさぐり携帯を取り出すも小金井に弾かれ、カチャンと軽い音たて携帯がタイルをすべる。
 打ち払われた手にジンと痛みが走る。
 そんなに強くなかったけど、小金井が暴力をふるった事実そのものにうちのめされる。
 怖い。
 目の前の男に対し絶大な恐怖を感じる。
 肝心な時に舌が回らない、体が動かない。
 頭の片隅に残った一握りの理性を働かせ考える。
 ここは浴室、シャワーは出しっぱなし、大声で助けを呼んでも近所には聞こえない。 
 小金井はそこまで計算にいれて浴室に連れ込んだ?
 「東ちゃん童貞?お気の毒さま」
 小金井が詰め寄る。
 壁にへばりつきできるだけ距離をとろうにも無駄なあがきで、タイルの水を蹴散らし歩み寄った小金井が、シャツの裾に手をさしいれる。
 「!!っ、」
 まじりけなしの嫌悪感と恐怖、そして羞恥心。 
 小金井の手がひたり脇腹に吸い付く。
 片手でシャワーを持ったまま、余った手をシャツの裾にもぐらせ肌をまさぐり始める。
 「ぅあ、いや、やめ………」
 シャワーで火照った体を緩急つけて手が這う。
 いかがわしく腰を這いのぼり、いやらしく背に回り、薄く貧弱な胸板をなでまわす。
 大量の水を吸ってシャツが密着し半透明に肌を透かす。
 裾からぽたぽたたれたしずくがタイルを叩く。
 「ばっちり透けてる。やーらしい眺め」
 小金井がちろりと上唇をなめる。とんでもなく好色な顔。
 稚気閃く笑顔が性質を変え、相当の経験を積んだ色悪な雰囲気を醸し出す。
 耳元で揶揄され、カッと顔が熱くなる。
 ぬれてへばりつくシャツの下で性急にうごめく手をいやでも感じてしまう。
 「叫ぶ?どうせ聞こえないよ、シャワーだしっぱなしだし。隣の奥さんは今の時間パート、大家さんはテレビ見てる頃。試してみる?」
 「なに……する気、ですか」
 「強姦ごっこ。……ごっこじゃないかな」
 「嘘、ですよね?」
 悪趣味な冗談。からかってるんだ。
 媚と怯えを含んで潤む上目で、引き攣る笑みで小金井をうかがう。
 小金井がそんなことするはずない、ぼくに腹を立ててるんだとしてもそんな……懸命に自分をなだめ言い聞かせるも否定しきれない、現実がすでに希望的観測を裏切っている。
 じゃあなぜ小金井はぼくを真昼間から浴室に連れ込んだ、戸を閉めた、軟禁した、服の上からシャワーを浴びせた?行動が理解できない、動機は理解できる、ぼくは本当の本気で小金井を怒らせてしまった、小金井が大事に持ち歩いていた写真にとりかえしのつかないことをした。
 彼女と、友達と写した写真。
 「!ひっ、あ、そこやめっ……」
 熱い唇が首筋を這い、うなじに回る。
 突然のキス。心構えができない、させてもらえない。
 唇が移動する。
 ぬれたシャツが浮き立たせる鎖骨の尖りを唇でなぞり、呟く。
 「………とがってる」
 「見ないでください………おねがいだから……」
 意地悪い指摘に身悶える。
 水が滴るシャツの胸に、ピンク色の突起がうっすらいやらしく透けている。 
 「口ではいやがっててもまんざらじゃないんだ。体は正直ってヤツ?」
 「ちが………う……」
 「違わないっしょ。じゃあこれ何、なんで尖ってんの、乳首。シャワーだけで感じちゃった?俺にさわられてこんななった?前からおもってたけど敏感肌だね東ちゃん。男だってこうして性感帯刺激してやればちゃんと勃つんだよ、女の体と変わんねー」
 「………べたべたさわるから……ちがう、リアルなんて興味ない、生身に興奮するわけない、相手は男で……こがねいさんで……嘘だ、こんなの……」
 いやだ逃げたい恥ずかしい死ぬほど恥ずかしい、一体ぼくの体はどうしてしまったんだちょっとさわられただけで勘違いしてシャツに恥ずかしい尖りを浮かせて、小金井の手がなぞった腰が甘く疼いて、唇が辿った首筋がジンと痺れて

 「白状しなよ。ずっと俺に抱かれたかったんだろ」
 こんなのちがう
 「だから泊めたんだろ」
 絶対ちがう

 弱々しく首振り否定するも弱々しすぎて説得力をもたない。
 口調をがらりと変え、媚を売るような調子で囁く小金井はまるで別人のようで、見知らぬ他人のようで、膝ががくがく震える。
 小金井が知ったかぶって含み笑い、シャツの上からぼくの胸をつねる。
 「ー!!痛っ、」
 きつくつねり上げられ、鋭い痛みにたまらず呻く。
 額をぶつけるようにして正面から覗き込み、恥辱に赤らみ苦痛に歪む表情を観察しつつ、残忍な指先でシャツ越しの乳首を揉み絞る。
 勃ち上がり充血した乳首を揉み転がされる痛みに生理的な涙が滲む。
 執拗な責めに次第に息が上ずり始める。
 「キレイなピンク色。感度も絶品」
 胸のしこりを器用に指で挟み絞り潰し揉み転がし、あるいはシャツごとひっかき、卑猥な揶揄で煽りたて辱める。
 男の手で乳首をもてあそばれ屈辱的なはずなのに、痛いだけの行為のはずなのに、縮むシャツの窮屈な締め付けと相まって被虐的な快感が沸き起こる。
 きつくつねったかとおもいきやねっとりこねくりまわし、緩急つけて尖りきった先端を刺激しつつ首筋をついばむ。
 「は…………」
 「感じてるんだ?かーわいい、東ちゃん」
 「ちが……」 
 「ごまかさなくたっていいって。目がとろんと潤んで、顔赤らめて、すっげ気持ち良さそ。エロい」
 小金井の手が、唇が、息遣いが。
 じれったいほどもどかしく劣情を高めていく。
 拒絶する心と裏腹に体を暴かれていく。シャワーの音が鼓膜を叩く。
 霞がかったように頭が朦朧として思考が正常に働かない。
 浴室に漂う白い湯気。小金井の舌がシャツの胸へと移る。
 シャツの上から乳首を吸われ、強烈すぎる快感に喉が仰け反り、壁に付くほど背中が撓る。
 「ひぐっ……!」
 「口でされるほうが感じる?」
 「ひあ、うあっ、やッ、っとにも……こがねいさ、やめ、あやまるから!」
 首筋をむさぼりながら、達者な手つきでボタンをはずし、シャツの前を暴く。
 シャワーでぬれそぼったシャツの前を開き、上気した肌を外気に晒す。
 必死に小金井を制止する。
 けれども小金井は嗚咽まじりに懇願するぼくを腕力と上背でねじ伏せ、水を吸って下肢に密着したズボンをずらしにかかる。 
 「ごめっ、ごめんなさい、謝る、あやまるから許してください、ひっ、酷いことしないで……いや、だ、なんでこんな、っ、小金井さんはこんなことしないって、一ヶ月ずっと、最初の日も、冗談で、最後までいかなかったから安心して、し、信じ、てたのに」
 恥もプライドもかなぐり捨てたどたどしく謝罪をくりかえし、小金井の胸元に縋り付く。
 小金井に抱き付いてる自覚はない、そうでもしないと立っていられない、腰砕けに座り込んでしまう。
 小金井の胸を掴み首を振る、ふやけた頭で罵倒する、呪詛を吐く。
 信じてた、頼っていた。
 依存とすりかえても違和感ない傍迷惑な信じ方でも、信じていたのは事実で。

 『大人しくしねーと酷いぞ、東』
 『とっととこれに着替えろよ』
 小金井が黒田の同類だなんて、思ってもみなくて

 失望と絶望と怒りと哀しみと羞恥と、色んなものが混じり合い沸騰し、小金井のシャツに指を食い込ませる。
 「ごめ、ごめんなさい、許してください、痛いことしないでください、酷いことやめてください、もうやだ、終わったと思ったのに、八年たって終わったと思ったのに、また……」
 「まだ始まってもない」
 静かに、断固たる意志を秘めて宣言。 
 ぼくの肩を掴み引き剥がす。
 愛撫を再開。割り開いたシャツからこぼれた胸板に顔を埋め、舌を使う。乳首を口に含む。
 粘膜の熱い潤みを直接感じ、軽く歯を立てられ甘美な電流が駆け抜け、頭がどうにかなりそうな快感に翻弄される。
 「お仕置きだよ、東ちゃん。悪いことしたらちゃんと謝らなきゃ」
 「謝ったじゃないですか……」
 「謝っただけじゃ足りないよ。体で償ってよ。一ヶ月いい子のふりしてて溜まってるんだ、俺」
 肌が湯だつ。頭がゆだる。息が浅く荒くなる。
 嫌なのに、怖いのに、嫌悪感と羞恥心でいっぱいいっぱいなのに、どうして
 「俺なりに努力したんだよ。部屋においてもらうには気に入られなきゃいけないから、女の子とも遊ばずに、一日中ゲームに付き合って……経験値稼ぎに精出して、ゴロ寝して、漫画読んで。そんな毎日送ってたらそりゃ溜まるよ。責任とってよ、東ちゃん」
 「だってぼく男で、小金井さんだって」
 「男同士でもできる」
 叫び声をあげそうになった。
 小金井が無造作にズボンの股間を掴み、大胆に揉みしだく。
 睾丸ごと包み、円を描くようにねっとり股間をまさぐられ、腰がとろけてずりおちる。
 不意打ちに唇を噛み、耐える。
 「………勃ってんじゃん、ここ」
 恥辱と快感に耐え俯くぼくと向かい合い、舌なめずりしそうな顔で笑う。
 「やめてください………」
 小さく、本当に小さな声で懇願する。
 息の音に紛れてかき消えそうな声で。
 だけど小金井はやめない。
 今にも泣きそうなぼくをよそに、膝を立て、それを股間におしつけてくる。
 「っあ……」
 リズムをつけ膝を揺する。
 小刻みな膝の揺れが股間を刺激し、摩擦による甘い痺れが広がりゆく。
 シャワーホースを取り、勢いの衰えた湯が迸る先端を、ぼくの股間へ押し当てる。
 「!!―――ッあああぁああ、」
 放水の勢いを少し弱めたといえど、敏感に張り詰めた場所を布越しに刺激され、それだけで軽く達してしまう。
 小金井が淫猥に手を動かす。
 シャワーから迸った湯を吸収しシャツとズボンが変色する。
 乳首と股間を重点的に刺激され、小金井のシャツを掴む手から急に力が抜けていく。
 抵抗が衰えた隙を見て、下着ごとズボンをおろす。
 裸の股間を見下ろし、小金井が少し驚く。
 「………へえ、マジに童貞なんだ」
 「………………ッ………………」
 羞恥の極限。
 小金井がまじまじとまだ剥けてないぼくの一部を見詰める。
 きつく瞑った瞼の奥から涙が伝う。
 恥ずかしくて、いっそ死んでしまいたい。
 二十二歳にもなるのに経験がなくて、剥けてなくて、自分で慰めたことはあるけれど、下半身は子供のままで。十四歳のまま、成長しなくて。
 「……気がすんだなら穿かせてください……」
 虚勢を張ろうとして、失敗する。
 どれだけ強い声を出そうとしても、語尾の震えを隠せない。
 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
 小金井が見ている。ばかにしてる、笑ってる。
 二十二歳にもなって剥けてない、皮を被ったまま子供みたいなピンクがかった肌色、子供みたいに小さい、みっともない。二次元の美少女キャラをおかずにしたことは何回もある、須藤さんを思い描いたことだって何回かある、現実の異性とは一度もない、できるとも思わない。

 セックスはずっと、ぼくには無縁の空想の産物でしかなかった。

 「ちょっと痛いけどガマンして」
 思案顔で黙り込んでいた小金井が呟き、おもむろに手を伸ばし、ぼくのそれを掴む。
 「―――――――!!?痛ッあ、ひっぁ、あ」
 「暴れないで」
 熱い手に口を塞がれ、悲鳴がくぐもる。
 「ふぐ、ふ、ふぐ、ふーっ」
 無力を承知で毛を逆立てた猫のように唸る。
 もう一方の手で包み込み、指をめりこませ先端をわずかに捲り、そこから果実の皮でも剥くみたいにするりと包皮を剥いていく。
 やすりがけされたようにひりつく痛みに涙がこぼれる。
 一皮剥けた下からさらけ出された粘膜の色の生々しさ、強制的に大人にされた性器の形状にショックを受ける。 
 「こっちのがやりやすいから」
 反省の色なくしれっと言い、剥いたばかりの性器をしごきだす。
 「ひっ、や、も、こがねいさん……さっきの事謝る、謝るからやめてください、ふあ、写真、弁償するから……あっ、あう、やっ」
 「どうやって弁償すんの、あれ一枚っきりしかないのに。テキトー言わないほうがいいよ」
 小金井の手が加速する。
 ぼくの前をしごき立てる傍ら、腰をもって後ろを向かせシャツをひん剥く。
 タイルを貼った壁に肘を付き、今にも膝から崩れ落ちそうな体を支える。
 小金井が裸の背に密着、合わせた肌から体温と鼓動が伝わってくる。
 シャワーをフックに掛けなおす。
 頭上からぬるい湯が降り注ぎ、体と床を叩く。
 狭い浴室に湯気と水音が満ちる。
 ぬれそぼった髪にゆるやかに手がもぐりこむ。
 もう片方の手は根元から先端にかけ剥かれたての前をしごく。
 全身の皮膚が粟立ち、体の内側がざわつき、ぞくぞく快感が駆け抜ける。
 太股に固いものが当たる。小金井がぼくの腰を掴み、耳元で囁く。
 「泣いてもいいよ。どうせ聞こえないから」
 「小金井さん……ッ、なんでこんなこと……」
 言葉が続かない。
 小金井の手は止まらず激しさを増し、残酷なまでにぼくを追い上げ追い詰める。
 壁に縋り付き、身をよじるようにして少しだけ振り返り、小金井を仰ぐ。
 水滴がびっしり覆う眼鏡がずりおち、視軸が歪む。

 熱い塊が切実にこみ上げ喉を塞ぐ。
 息が上手く吸えない。

 怒らせたぼくが悪いのか、原因を作ったぼくが悪いのか、じゃあ小金井は悪くないのか、そんなはずないそんなわけない、ぼくが言ったことは間違ってない。帰る場所があるなら帰ればいい、待っててくれる人がいるんだから出てけばいい、小金井はぼくとはちがう、ちゃんと人の中で生きていける。小金井が逃げてた事情は知らない、だれから逃げてるかも知らない、だけどもう知る必要がない、ぼくなんか手を貸さなくても頼れる友達がいる

 ぼくは小金井に必要ない。
 小金井だけじゃない。だれにも、家族にも、必要とされない。世の中に必要ない人間だ。
 世界中のくだらない百人に否定されても目の前のたった一人が認めてくれるなら、生きてていいよと言ってくれるなら、生きていけると思った。生きてみようと思った。
 八年かけて小金井と出会えて、初めて前向きになれた。やり直すチャンスがもらえたと舞い上がった。
 だけど。それなら。
 目の前のたった一人に否定されたら、どうすればいい?

 「………ふ、…………」
 手の甲を噛み、こみ上げる喘ぎを堪え、滲んだ目で正面を見詰める。
 目の前にあるのは壁だけ。無機質なタイルを貼った殺風景な壁だけ。
 誰もぼくに、生きてていいよとは言ってくれない。
 タイルについた手を握りこみ、壁をぶつ。
 「最低の嘘吐きだ……」 
 「今頃気付いたんだ」
 「ぼくに言ったこと、全部嘘じゃないか。行くあてないとか……好きだとか……手伝うとか……その場しのぎの、部屋に居座るための口実で……騙せると思ったんだろ」

 こんな気持ち悪いヤツ、好きになってくれる人いるわけない
 わかってたはずじゃないか

 「……死んじまえ……」

 わかってたのに、
 いまさら、なんで傷付くんだ?

 「………友達でもないくせに……ふりのくせに……ちゃん付け、鳥肌立つんだよ」
 壁のタイルに額を当てる。
 小金井の手に導かれ、前に血が集まる。  
 イきそうだ。イきたくない、小金井の前でイきたくない。
 我慢できない、小金井が見てる、視線が肌を焼く、弄ばれる。

 だめだ、
 助けて

 「ぅあっ、あっ、あああああぁあああああぁあっ!!」
 脊髄ごと引き抜かれるような虚脱感。
 小金井の手の中に精を吐き出す。
 小金井の指を伝い落ちた白濁が、シャワーの水と混じって排水口に飲み込まれていく。
 壁に両肘を付き、今にも折れそうな膝とずり落ちそうな体を保つ。
 「東」
 耳の裏側が吐息に湿る。
 呼び捨てにされ、乱れた呼吸を整えながら虚ろに目を上げる。
 小金井が笑う。笑いながら言う。
 「そうだよ、嘘だ。あんなの全部、部屋においてもらうための嘘に決まってるじゃんか」
 指のはざまで粘つく白濁をこねまわし、潤滑油代わりにして後ろをほぐしにかかる。
 「ひぐ、ぁぐ」
 これまで排泄にしか使ってこなかった場所に指をねじこまれ、無理矢理押し広げられる。
 吐き気と悲鳴を堪え唇を噛む、タイルに額を押しつけ苦痛を伴う行為に耐える。
 ぼくには見えないぼくの一部が指で押し広げられる、かきまぜられる、使いやすいようほぐされる。
 指が一本、二本と増える。
 異物を押し戻そうと緊張する臀部と腹筋の抵抗をものともせず、白濁にまみれた指を根元まで抜き差しする。
 「秋葉原で一目見てピンときた。いかにも気が弱そうだし、ちょっとびびらせたら簡単に言う事聞いてくれるだろうって。人を見る目は確かなんだよ、俺。予感的中、あんたときたら俺みたいな得体の知れない男が部屋に押しかけて無理矢理居座ったってのに誰にも相談せず泣き寝入りきめこんで……おかげで助かった、いい隠れ家ができてさ」
 「ふあ、いっ、ひあぐ、痛ッ……こがねいさ、指、抜いて……ひっ、あうぐ、や」
 「笑っちゃうよ、ほんとに部屋から一歩も出ないんだもん。ま、暇つぶしにはなった。ただでゲームやり放題漫画読み放題、慣れれば結構快適。ひきこもり更正計画も楽しかったしね。けどさ、そろそろドラクエ経験値上げも飽きたし……あんたで遊ぶのもおしまいにする頃合かなって、ぼちぼち引き際見てたんだ。一ヶ月一緒にいておたくの生態も色々わかったし、アニメ好きな女落とす時の参考にするよ」
 裸の背にのしかかり耳朶を噛む。
 後ろに指を突っ込まれる屈辱的な行為にも増して、残酷な言葉が心をずたずたに切り裂く。
 これこそ本性だと宣言するように性悪な笑みを浮かべた小金井の首元で、規則的な動きに合わせ、ドッグプレートが銀に光る。
 「一回男で試してみたかったんだよね。あんたみたいに気弱なタイプなら強姦されても被害届け出せないだろうし、だれにもチクったりしないっしょ」

 友達がいないぼくなら。
 家族に見限られたぼくなら。

 後ろから乱暴に指を引き抜く。
 ベルトの金具がふれあう音に衣擦れが続き、後ろに熱く固いものが触れる。

 「最後に一回犯らせてよ。いいじゃん、減るもんじゃなし……内心期待してたんだろ」
 
 うなじをすべる唇

 「いやだ、」 
 
 前髪からぽたぽたしずくが滴る

 「知らない」
 『俺、行くとこないんだよね。東ちゃんとこに泊めてほしいな、なんつって』『リュウって呼んでよ』『猫はだいじょうぶなんだ?』『ザクを作らせたら世界一だ』『東ちゃんはさっき自分なんかずっと部屋にこもってりゃいいって言ったけどさ、今日外にでなきゃ大の大人が人目を気にせず本気出してブランコこぐのがこんなに気持ちいいなんて、きっと永遠にわからずじまいだった』

 『世界が明るくなったっしょ?』 
 世界がまた暗くなる
 
 『世界中のくだらない百人が死ねって言ったって、目の前のたった一人が生きろって言ったら生きるっしょ』
 そのたった一人が、やっぱりお前なんかいらないって言い出したら

 物思いをさえぎって、熱い肉塊が押し入ってきた。
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