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ダイヤと遊園地 3
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思い出の遊園地から電車に揺られてアパートに帰ると、何故かちゃっかりフジマも付いてきた。
「まさか夕飯食ってく気か」
「ダメ?」
「おばさんには」
「今日は泊まるってメールしといた」
「用意周到だな」
古びた鉄筋の階段をリズミカルに上がって部屋のドアに鍵をさしこむ。フジマの両手には土産物の紙袋がぶらさがっている。
「明日巧んちに持ってくよ」
「サンキュー。中身は缶入りクッキーだっけ」
「とТシャツ」
フジマが紙袋の中からビニールで放送されたТシャツを取り出す。Тシャツのど真ん中にはでかでかと、前歯が出っ張ったうぎさのイラストがプリントされていた。遊園地のマスコットキャラなのだ。きぐるみの間抜け面をよく再現している。
「買ったのそれ。どういうセンスだ」
「巧のもあるよ、ペアルック。これ着て合コン行けば人気者になれる」
「絶対恥かく」
「騙されたと思って」
「騙す気満々だろ、親切の押し売りで合コンを失敗に導こうとするんじゃねえ」
「写メって送ってくれ、楽しみにしてる」
コイツまだ根に持ってんのか、合コンはジョークだってのに。忌々しげに黙り込む俺の手にださいТシャツの片割れを押し付け、鍵が開くや否や勝手知ったる人んちとばかり上がりこむ。
「ただいまー」
「お邪魔しますにしろせめて」
「半同棲なのに他人行儀じゃないか」
「週末に転がりこんでるだけだろ」
壁の電源を押して明かりを点ける。フジマは畳に紙袋をおいて、ローテーブルの前に足を崩して座る。リラックスした表情で狭い室内を見渡し、後ろ手付いて仰け反るさまはともすると我が家以上に寛いでやがる。
俺も荷物を置いて台所へ行き、コンパクトサイズの冷蔵庫を開ける。男子大学生の独り所帯なもんで調味料以外は魚肉ソーセージとペットボトル入りのウーロン茶しかいねえ。
「ウーロンでいいか」
「お構いなく」
「わかった」
無表情に扉を閉じる。
フジマが情けない顔で訂正を入れる。
「いや、ちょっとはかまって」
「了解」
再び扉を開けてウーロン茶のボトルを取り出し、百均で買ったグラスに適当に注ぐ。片方をフジマの前に滑らせると、掌であざやかに受け止めて殆ど一気に干しちまった。
「巧んちで飲むウーロン茶はおいしい」
「スーパーで売ってるぞ」
「巧が淹れてくれたから」
ローテーブルを挟んで胡坐をかき、どのアトラクションが楽しかったどのアトラクションが混んでたと四方山話に興じる。フジマは新しくできた思い出の余韻を噛み締めるよう呟く。
「やっぱ回転ブランコかな。恋人っぽいことできたし、匠から手を振ってくれたのも嬉しかった」
「それ俺が一番乗りたかったヤツじゃん」
「いいんだよ、夢が叶ったんだから」
本気でそう思ってるらしい無欲な幼馴染にちょっと同情し、グラスの中身を一口嚥下して後悔する。
「……観覧車、やっぱ乗りゃよかったな」
せっかく2人で行ったのに俺1人満喫しちまったみたいで後ろめたい。フジマは俺のわがままを笑って許してくれるからこっちもずるずる甘えちまうのだ。
長い足をローテーブルの下に伸ばしたフジマが、俺の葛藤を見透かすように淡く微笑んで言ってくる。
「男2人で箱に乗ったら変な目で見られるぞ」
「恋人繋ぎでゲートに並ぶか」
「無理するなよ、観覧車あんま好きじゃないだろ。退屈で寝ちまいそうだってこぼしてたし」
「小学生の頃の話持ち出すな、今は観覧車のよさもわかってきたんだよ。あれはゆっくりぐるぐる回る非日常感ってか、見晴らしのいい個室で2人っきりのシチュエーションを愉しむアトラクションだろ」
「空中の密室だからいかがわしいことし放題」
「……ンなこと考えてたの?」
「まさか」
心底あきれる俺に対しフジマは大袈裟に肩を竦めたものの、ジト目で睨み続ければ観念して「ちょっとだけ」と親指と人さし指の先っぽで輪っかを作って認める。
「キスならセーフかなって。誰も見てないし」
「セーフの基準が意味不明」
「閉園間際でがらがらだったじゃん、心配しすぎだよ」
「表でヤるのは断じてノー、万一落ちたら洒落にならねえ」
「妄想逞しいな、いくら俺だって観覧車の中で最後までやらないって。大体そんなに早く終わらない」
観覧車はやめて正解だった。今でこそ和気藹藹とおうちでだべってる仲だが、そもそもコイツは強姦前科1犯なのだ。
うっかり絆されそうになった自分の甘さを悔やんでウーロン茶を注ぎ足しがぶ飲みすりゃあ、フジマが靴下の足指で俺のジーパンの腿を突付き、くすぐり、器用に上へとよじのぼらせていく。
「今は?」
薄皮一枚下で性感が燻るような、むず痒い感覚が脚をさざなみだてる。ローテーブルの向こうのフジマが唇だけで微笑み、アーモンド形の綺麗な瞳に欲情を灯して這い寄ってくる。
「う……」
「今ならいいか」
フジマが積極的に迫り、俺が何か言うまえにシャツをはだけて貧相な胸板を啄んでくる。
「思い出話だけじゃ物足りない。大人にしかできない事で楽しませてくれよ」
「待てシャワーが」
「あとで一緒に浴びればいい」
フジマに耳元で囁かれてぞくぞくする。熱く火照った手がシャツのボタンを外して割れ目に忍び込み、痩せた腹筋をさすりだす。くすぐったさとむず痒さと気持ちよさが入り混じり、だんだんと息が上擦っていく。
「Hってジェットコースターに似てる」
「その心は」
「上がって落ちてぐるぐる回る」
「わけわかんねー」
互いにはだけて脱がし合い、前戯というには余裕がない性急な愛撫に溺れていく。肩幅が広く均整とれたフジマの身体が俺に被さり、滑らかな唇が敏感な皮膚を吸い立てる。
「あッ、ふじ、まあ」
吐息に紛れてかき消えそうな声で名前を呼び、フジマの首の後ろに手をかけて首筋にキスをする。汗でしょっぱいがまずくはない。フジマが俺の身体を優しく畳に横たえ、いやらしく尖った乳首を指で摘まんで揉み搾り、吸い転がして太らせていく。
唾液に濡れそぼった舌が勃った乳首に絡んで芯を刺激すると、腰がじれったく上擦って前が急激に張り詰める。
「あふっ……ァ、そこいっ……ッ、弱いの知ってんだろ……」
「指でされるの痛かった?ぷっくり腫れてるもんな」
わかっていても知らんぷりで、フジマは口角を意地悪く吊り上げて俺の乳首の先端を突付く。
フジマの口唇でまめまめしく育てられ、唾液でぬる付く乳首は外気にあたるだけでさらに感度を増し股間も勝手に昂っていく。
「いいこと閃いた」
フジマがまたぞろろくでもないことを思い付き、息を喘がせて一杯一杯の俺の首筋にふわふわした物を押し付ける。なんと、射的の景品のうさぎぐのぬいぐるみだ。
「それ俺の!」
「いらないって言ったくせに今さら所有権主張するのずるいぴょん」
「一度もらったんだから俺のもんだヤッてる最中にぴょんぴょんするのも萎えっからやめろ!」
怒りに声を荒げる俺を無視し、片手に掴んだうさぎのぬいぐるみで首筋をくすぐりだすからたまらない。今度は手足をばた付かせ笑い転げる俺の胸へとぬいぐるみを移し、固くしこった乳首を愛撫する。
「ちょ、あはははひゃあひやめっ、おまっかわいいうさちゃんでなんてことすんだよ!」
「うさぎは精力絶倫だからね」
「責任転嫁すんな!」
ぬいぐるみでんさんざん素肌をもてあそばれ宙を蹴り暴れれば、俺のズボンに手を入れたフジマが先走りの濁流を塗り広げ、すっかり慣れた手付きで後ろをほぐしだす。
「うっ、ぐ……」
「挿れていいか」
フジマが切羽詰まった表情で確認をとり、ズボンの股間を寛げて赤黒いペニスを取り出す。俺は唇を噛んで頷き、腰を浮かせてフジマを迎え入れる。
「あっあッふあっああッァ」
めりこむ圧迫感をやり過ごすと腹ン中が熱を持ち、フジマのペニスが脈打っているのを感じて興奮する。床を蹴って背中で這いずり、フジマの首の後ろに回した手を引き寄せて快楽に身を任せる。
「あッうあっそこっ、あっいいっすげっはァっあ」
「遊園地たのしかったろ」
「いま聞くなよ余裕ねっはァ」
「これは観覧車じゃできないな」
「したら捕まる!」
「違いない」
フジマが激しく腰を使って俺を追い立て、俺は上がって落ちてぐるぐる回る感覚を繰り返し体験する。フジマのペニスが中で膨らんで前立腺を突きまくり、その都度脊髄を快感の電流が駆け抜けてペニスがびゅくびゅく白濁を撒き散らす。
「ふじまっふじまぁイきてっ、ィきて」
「観覧車一周分ももたないな」
「頼むっもっイかせてくれ!」
フジマの揶揄が吐息と一緒に耳朶をくすぐり、耳孔に吹きこまれるとぞくぞくする。
「イッていいよ巧」
瞼の裏で小さい閃光が爆ぜ、訳もわからず腰を擦り付けてねだれば、フジマが眉間に皺を刻んで一際深く激しく奥の奥まで抉りこんでくる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
てっぺんまで上り詰めたジェットコースターが一気に滑落するような凄まじい快感に背中が撓い、我知らずフジマにキツく抱き付いて痙攣に耐える。
俺の体内で果てたフジマはぐったりし、畳に転がったうさぎのぬいぐるみを一瞥して首をうなだれる。
行為を終えたあと、2人並んで床に寝転がり殺風景な天井を見上げる。裸の胸を上下させたフジマの方は見ず、電灯の光を片手で遮って呟く。
「……観覧車、のってもよかったんだぜ」
フジマが本当にそう望むなら折れてやらないでもなかったのに。コイツが予想外にあっさり引くもんで、それ以上何も言えなくなっちまった。
恋人同士が一生一緒にいられる条件は、フジマにとって簡単に諦めが付く程度のことだったのか。
他にどんな表情をしていいかわからずふてくされた口調で当てこすれば、フジマは天井の一点をぼんやり見詰めたまま、キッパリした口調と横顔で宣言する。
「いい。やめとく」
「なんで」
「所詮ジンクスだろ」
「そりゃそうだけど……」
夢がねーとため息に乗せて盛大に嘆く俺の隣で寝返りを打ち、悠然と頬杖を付く。
「ジンクス頼みで油断してだれかにかっさわられていったら目もあてられない。観覧車に乗っただけで未来が約束されるなら、一緒にいられる毎日の積み重ねが色褪せちゃいそうで嫌なんだ」
噛んで含めるようなフジマの小難しい理屈に妙な顔をすれば、幼馴染は小さく笑って俺のこめかみに自分のこめかみをあててくる。
「俺はこれから巧をもっともっと好きになりたいし、巧にも俺をもっともっと好きになってほしい。ゴールを繰り上げるようなズルはしたくないし、するのは間違ってるって思ったわけ」
たとえばあの遊園地が、あそこを訪れた全ての人々の思い出の集積でできているように。
最初から楽してゴールに行くようなショートカットを、数年越しの恋を実らせたフジマは決して自分に許さない。
「巧と付き合えたのは偶然や幸運なんかじゃない。俺がずっとお前を見て、想い続けてきたからだって思ってるから……観覧車みたいに外からの力に運んでもらうじゃなくて、一緒に歩いていけたらいいなって思った」
たまには喧嘩しながら。そして仲直りしながら。
こっぱずかしい本音をしみじみ語るフジマの横顔を見ているとなんだかわけわからない感情がこみ上げて、愛しさと切なさとおかしさが綯い交ぜになったくす玉が胸ん中で割れて、気付けばフジマの横顔にキスをしていた。
「しゃあねーなー、付き合ってやるか」
不意打ちに瞬くフジマが可愛くて、俺はにししと照れ笑いうさぎのぬいぐるをお手玉する。
あるいは数年後か十数年後、フジマと大っぴらに手を繋いで観覧車に乗りこむ日がくるかもしれない。
偶然に逃げずまじないに甘えず、俺が隣にいる日々を決して疎かにも蔑ろにもせず、歩数をカウントするように有り難がるコイツに惚れ直したって事はその時まで内緒にしておく。
「まさか夕飯食ってく気か」
「ダメ?」
「おばさんには」
「今日は泊まるってメールしといた」
「用意周到だな」
古びた鉄筋の階段をリズミカルに上がって部屋のドアに鍵をさしこむ。フジマの両手には土産物の紙袋がぶらさがっている。
「明日巧んちに持ってくよ」
「サンキュー。中身は缶入りクッキーだっけ」
「とТシャツ」
フジマが紙袋の中からビニールで放送されたТシャツを取り出す。Тシャツのど真ん中にはでかでかと、前歯が出っ張ったうぎさのイラストがプリントされていた。遊園地のマスコットキャラなのだ。きぐるみの間抜け面をよく再現している。
「買ったのそれ。どういうセンスだ」
「巧のもあるよ、ペアルック。これ着て合コン行けば人気者になれる」
「絶対恥かく」
「騙されたと思って」
「騙す気満々だろ、親切の押し売りで合コンを失敗に導こうとするんじゃねえ」
「写メって送ってくれ、楽しみにしてる」
コイツまだ根に持ってんのか、合コンはジョークだってのに。忌々しげに黙り込む俺の手にださいТシャツの片割れを押し付け、鍵が開くや否や勝手知ったる人んちとばかり上がりこむ。
「ただいまー」
「お邪魔しますにしろせめて」
「半同棲なのに他人行儀じゃないか」
「週末に転がりこんでるだけだろ」
壁の電源を押して明かりを点ける。フジマは畳に紙袋をおいて、ローテーブルの前に足を崩して座る。リラックスした表情で狭い室内を見渡し、後ろ手付いて仰け反るさまはともすると我が家以上に寛いでやがる。
俺も荷物を置いて台所へ行き、コンパクトサイズの冷蔵庫を開ける。男子大学生の独り所帯なもんで調味料以外は魚肉ソーセージとペットボトル入りのウーロン茶しかいねえ。
「ウーロンでいいか」
「お構いなく」
「わかった」
無表情に扉を閉じる。
フジマが情けない顔で訂正を入れる。
「いや、ちょっとはかまって」
「了解」
再び扉を開けてウーロン茶のボトルを取り出し、百均で買ったグラスに適当に注ぐ。片方をフジマの前に滑らせると、掌であざやかに受け止めて殆ど一気に干しちまった。
「巧んちで飲むウーロン茶はおいしい」
「スーパーで売ってるぞ」
「巧が淹れてくれたから」
ローテーブルを挟んで胡坐をかき、どのアトラクションが楽しかったどのアトラクションが混んでたと四方山話に興じる。フジマは新しくできた思い出の余韻を噛み締めるよう呟く。
「やっぱ回転ブランコかな。恋人っぽいことできたし、匠から手を振ってくれたのも嬉しかった」
「それ俺が一番乗りたかったヤツじゃん」
「いいんだよ、夢が叶ったんだから」
本気でそう思ってるらしい無欲な幼馴染にちょっと同情し、グラスの中身を一口嚥下して後悔する。
「……観覧車、やっぱ乗りゃよかったな」
せっかく2人で行ったのに俺1人満喫しちまったみたいで後ろめたい。フジマは俺のわがままを笑って許してくれるからこっちもずるずる甘えちまうのだ。
長い足をローテーブルの下に伸ばしたフジマが、俺の葛藤を見透かすように淡く微笑んで言ってくる。
「男2人で箱に乗ったら変な目で見られるぞ」
「恋人繋ぎでゲートに並ぶか」
「無理するなよ、観覧車あんま好きじゃないだろ。退屈で寝ちまいそうだってこぼしてたし」
「小学生の頃の話持ち出すな、今は観覧車のよさもわかってきたんだよ。あれはゆっくりぐるぐる回る非日常感ってか、見晴らしのいい個室で2人っきりのシチュエーションを愉しむアトラクションだろ」
「空中の密室だからいかがわしいことし放題」
「……ンなこと考えてたの?」
「まさか」
心底あきれる俺に対しフジマは大袈裟に肩を竦めたものの、ジト目で睨み続ければ観念して「ちょっとだけ」と親指と人さし指の先っぽで輪っかを作って認める。
「キスならセーフかなって。誰も見てないし」
「セーフの基準が意味不明」
「閉園間際でがらがらだったじゃん、心配しすぎだよ」
「表でヤるのは断じてノー、万一落ちたら洒落にならねえ」
「妄想逞しいな、いくら俺だって観覧車の中で最後までやらないって。大体そんなに早く終わらない」
観覧車はやめて正解だった。今でこそ和気藹藹とおうちでだべってる仲だが、そもそもコイツは強姦前科1犯なのだ。
うっかり絆されそうになった自分の甘さを悔やんでウーロン茶を注ぎ足しがぶ飲みすりゃあ、フジマが靴下の足指で俺のジーパンの腿を突付き、くすぐり、器用に上へとよじのぼらせていく。
「今は?」
薄皮一枚下で性感が燻るような、むず痒い感覚が脚をさざなみだてる。ローテーブルの向こうのフジマが唇だけで微笑み、アーモンド形の綺麗な瞳に欲情を灯して這い寄ってくる。
「う……」
「今ならいいか」
フジマが積極的に迫り、俺が何か言うまえにシャツをはだけて貧相な胸板を啄んでくる。
「思い出話だけじゃ物足りない。大人にしかできない事で楽しませてくれよ」
「待てシャワーが」
「あとで一緒に浴びればいい」
フジマに耳元で囁かれてぞくぞくする。熱く火照った手がシャツのボタンを外して割れ目に忍び込み、痩せた腹筋をさすりだす。くすぐったさとむず痒さと気持ちよさが入り混じり、だんだんと息が上擦っていく。
「Hってジェットコースターに似てる」
「その心は」
「上がって落ちてぐるぐる回る」
「わけわかんねー」
互いにはだけて脱がし合い、前戯というには余裕がない性急な愛撫に溺れていく。肩幅が広く均整とれたフジマの身体が俺に被さり、滑らかな唇が敏感な皮膚を吸い立てる。
「あッ、ふじ、まあ」
吐息に紛れてかき消えそうな声で名前を呼び、フジマの首の後ろに手をかけて首筋にキスをする。汗でしょっぱいがまずくはない。フジマが俺の身体を優しく畳に横たえ、いやらしく尖った乳首を指で摘まんで揉み搾り、吸い転がして太らせていく。
唾液に濡れそぼった舌が勃った乳首に絡んで芯を刺激すると、腰がじれったく上擦って前が急激に張り詰める。
「あふっ……ァ、そこいっ……ッ、弱いの知ってんだろ……」
「指でされるの痛かった?ぷっくり腫れてるもんな」
わかっていても知らんぷりで、フジマは口角を意地悪く吊り上げて俺の乳首の先端を突付く。
フジマの口唇でまめまめしく育てられ、唾液でぬる付く乳首は外気にあたるだけでさらに感度を増し股間も勝手に昂っていく。
「いいこと閃いた」
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「それ俺の!」
「いらないって言ったくせに今さら所有権主張するのずるいぴょん」
「一度もらったんだから俺のもんだヤッてる最中にぴょんぴょんするのも萎えっからやめろ!」
怒りに声を荒げる俺を無視し、片手に掴んだうさぎのぬいぐるみで首筋をくすぐりだすからたまらない。今度は手足をばた付かせ笑い転げる俺の胸へとぬいぐるみを移し、固くしこった乳首を愛撫する。
「ちょ、あはははひゃあひやめっ、おまっかわいいうさちゃんでなんてことすんだよ!」
「うさぎは精力絶倫だからね」
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「うっ、ぐ……」
「挿れていいか」
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「あっあッふあっああッァ」
めりこむ圧迫感をやり過ごすと腹ン中が熱を持ち、フジマのペニスが脈打っているのを感じて興奮する。床を蹴って背中で這いずり、フジマの首の後ろに回した手を引き寄せて快楽に身を任せる。
「あッうあっそこっ、あっいいっすげっはァっあ」
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「これは観覧車じゃできないな」
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「違いない」
フジマが激しく腰を使って俺を追い立て、俺は上がって落ちてぐるぐる回る感覚を繰り返し体験する。フジマのペニスが中で膨らんで前立腺を突きまくり、その都度脊髄を快感の電流が駆け抜けてペニスがびゅくびゅく白濁を撒き散らす。
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「イッていいよ巧」
瞼の裏で小さい閃光が爆ぜ、訳もわからず腰を擦り付けてねだれば、フジマが眉間に皺を刻んで一際深く激しく奥の奥まで抉りこんでくる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
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「……観覧車、のってもよかったんだぜ」
フジマが本当にそう望むなら折れてやらないでもなかったのに。コイツが予想外にあっさり引くもんで、それ以上何も言えなくなっちまった。
恋人同士が一生一緒にいられる条件は、フジマにとって簡単に諦めが付く程度のことだったのか。
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「いい。やめとく」
「なんで」
「所詮ジンクスだろ」
「そりゃそうだけど……」
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噛んで含めるようなフジマの小難しい理屈に妙な顔をすれば、幼馴染は小さく笑って俺のこめかみに自分のこめかみをあててくる。
「俺はこれから巧をもっともっと好きになりたいし、巧にも俺をもっともっと好きになってほしい。ゴールを繰り上げるようなズルはしたくないし、するのは間違ってるって思ったわけ」
たとえばあの遊園地が、あそこを訪れた全ての人々の思い出の集積でできているように。
最初から楽してゴールに行くようなショートカットを、数年越しの恋を実らせたフジマは決して自分に許さない。
「巧と付き合えたのは偶然や幸運なんかじゃない。俺がずっとお前を見て、想い続けてきたからだって思ってるから……観覧車みたいに外からの力に運んでもらうじゃなくて、一緒に歩いていけたらいいなって思った」
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「しゃあねーなー、付き合ってやるか」
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あるいは数年後か十数年後、フジマと大っぴらに手を繋いで観覧車に乗りこむ日がくるかもしれない。
偶然に逃げずまじないに甘えず、俺が隣にいる日々を決して疎かにも蔑ろにもせず、歩数をカウントするように有り難がるコイツに惚れ直したって事はその時まで内緒にしておく。
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