淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

土方・5

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「癖……って……」

「だからよ、また愚図愚図と考えてるんだろ? 何かと自分を心配してくる斎藤の野郎を少し頭ぁ冷やさせてやろうと思って遠ざけたが、いざ帰ってくる頃になって、今度ぁ不安になっちまった。そうだろ?」
「だから、何を……!」
「斎藤の怒りが継続してて、もう自分の相棒でいる事も嫌になっちまったんじゃねぇか。そういうつまんねぇ事を考えてんじゃねぇのかって言ってんだ」
「…………」
「お前がどんだけ考えたって無駄無駄。死ぬ死なないに関してはあっさりしてるくせに、どうして友達になれるなれないでそう弱気になるのかねぇ。理解に苦しむぜ」
「…………うっせぇ……」
「いつもの無駄にたっぷりの自信はどこにいっちまったのかね。まったく……恋する乙女か?」
「誰が乙女だ!」
 拾い上げたひしゃくで少しだけ灰をすくい、近藤にかけてやる。近藤は顔の前で手をはたはたと動かすと、笑いながら腰をあげた。

「俺が一人で会津様の屋敷に顔を出すだろ? するとよ、誰もがおんなじ事聞いてくるんだぜ?」

 真面目な顔をしてそう言った近藤を見つめ返す。
「なんて聞かれるんだよ」
「土方殿は、御一緒ではないんですか? だと」
「はぁ?」
「まったく、お前は、悪者ぶってても相手に好かれっちまうんだなぁ。親しくなりたくて手ぐすね引いてる輩がどこに行っても現れる。まったく、あっちこっちで魅了してまわってやがって。ま、俺にしてみりゃ可愛い弟分ってとこだがな。おっと、クソ生意気な、もついでに付けとくか」
 近藤は、言いたい事だけを言うとこちらの反論を聞こうともせずにカラカラと笑って部屋を出て行った。握っていたひしゃくを火鉢に戻す。大きく深呼吸をした。

(魅了なんかするか! 向こうが勝手に色気だしてきやがんだ! そんな奴らと親しくなれるかっつうんだよ!)

 邪な感情抜きで一緒にいられる相手は貴重だ。自分と対等な人間を、常に求めてきた。近藤は兄のように頼れる男だ。そして、その心意気を守らねばならない男だ。総司は弟のような存在。なんでも言い合えるが、背中を預けたいわけじゃない。山﨑は頼れる部下。監察方をきっちりまとめあげ、俺に不満を持つものを徹底的に排除してきた。俺は、彼等に守られている。だが、頼りきってしまう事は出来ない。

 本音を聞かれるのが、怖いのだ。
 だから嘘をつく。だから意地を張る。気を許しすぎてしまったら、嘘を突き通せるのかどうか自分に自信がもてない。だから弱気になる。

 そんな俺とは正反対の男だから、斎藤という相棒が欲しいと思った。

 斎藤は、本音で語る。正直すぎて、こちらが驚いてしまう事ばかりだった。嘘はつきません、と奴は言う。それが真実なのだろう。だが、あまりにも正直すぎて、俺はそれが怖いのだ。俺を守る為にはてめぇで死んでしまいそうで、それが怖い。それが、今一歩踏み込めない理由だ。正面切って守ってやると宣言されるのは、困る。あれは真正直な男だから、相棒という言葉を拗らせて暴走してしまわないかと心配になるのだ。

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