淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

土方・6

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「そういうのも……乙女心っていうのかねぇ」
 篩を猫板の上にのせ、両手を後ろについた。「どう思う? 山﨑。聞いてたろ、今の」

 そう言うと、庭石の影から山﨑が姿を現した。
「とうとう、山﨑も見破られてしまいましたか」
「……わざと気配を読ませたくせに、よく言う」
「わざとだなんて人聞きの悪い」
 山﨑は穏やかに笑うと、木箱の傍に膝をついた。どこからか飛んで来た桜の花びらを灰の中に見つけ、取り去っている。
「お前だから言うが……怖いのさ、斎藤が」
「……怖い……?」
「あいつの正直さが怖い。俺やお前にはねぇ正直さが」
「……山﨑にも正直さがありませんか。副長の前では正直なつもりですがねぇ……」
 俺が猫板の上に置いた篩を手に取り、山﨑は縁側から離れた場所で目に詰まっているゴミをはたいた。

「お前は、『出来る』男ではあるが、『正直な』男ではねぇさ」
「これは、したり」
 苦笑いをしている。そうは言いつつも、山﨑の事は、部下として絶対的に信頼していた。気持ちを隠す事をするが、俺を裏切るような事はしないと確信している。
「で、どうなんだよ。俺ぁ乙女か?」
「……どっちかというと……悪女の方が、おうてる気がしますね。表現としては」
「……もういい」
 近付いてきた山﨑の手から篩をもぎ取る。再び火鉢から灰を掬い、掃除を始めた。その様子を覗き込んでいるのか、顔に影が落ちた。

「副長が乙女かどうかはさておいて……私は、真っ直ぐな御方には真っ直ぐな気持ちで応えるべきだ、そう思いますがね」

 はっと顔を上げると、既に山﨑の姿は消えていた。青空に数枚の桜の花びら。何事も無かったかのように、頭上では小鳥が囀っている。

(まるで、忍びの者だな……)

 姿が見えなくなるとともに、気配は全く感じられなくなっていた。

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