愛してほしかった

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3.二番手

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 彼の言葉通り候補者の中で一番魔力が高かった私は、様々な精査を経て王太子の正式な婚約者となった。

 厳しい王子妃教育が始まって、日々をのほほんと過ごすだけの凡庸な子どもだった私は、新しい日常に目を回した。
 それでも彼と共にある為なのだと思えば、何だって頑張れた。

 彼もまた日々研鑽に勤しんでおり、そして物理的距離もあって頻繁に会うことは叶わなかったけれど、私の気持ちが途切れることはなかった。

 たまに会える彼は相変わらず言葉数少なく無表情、ともすれば仏頂面のようでいたけれど、彼にとってそれが普通なのだと知っているし、ぽつりぽつりと交わす言葉やただの静寂でさえも私は好きだった。

 私たちの間に流れる空気は色めき立ちさえせずとも、穏やかで心地よかった。
 それはきっとお互いに感じられているものだと思っていた。

 愛し合って結ばれた縁ではないけれど、少なくとも私は彼が好きで、この関係を喜ばしく思っていて。
 だからヨシュア様にも、私と同じとまでは言わなくても、少しでも近しい気持ちになってほしかった。

 その為にも私は努力する必要があった。
 何もかもを持ち得る人のそばにいるには、私はあまりにもちっぽけだったから。

 15歳になって王宮に住まいを移してからは宮廷教会での仕事を受け持たせてもらい、治癒魔法の更なる修練に励んだ。

 16歳の年を終える頃、社交界デビュー目前。ヨシュア様があと少しで20歳になられ、婚姻の話が本格的に進む頃合いだろうという時。
 ずっと胸のどこかで燻っていた不安が形に成って現れた。

 とある侯爵家の令嬢が、強い魔力を覚醒させたのだという。
 前触れもなくそういった魔力変化が生じることは、事例は少なくともあり得ない話ではない。

 王宮に呼ばれた彼女を見た瞬間、悟った。
 もう彼の傍にはいられないと。

 未だ婚約の段階かつ、おおよその認知はされていれど、社交の場でハッキリとした紹介を行ってはいない婚約者。

 やはり一部から、まだ間に合うから再精査してもいいのではないかという声が上がったようだった。

 その結果、私が必死になって手繰り寄せていた糸はあっさりと切れてしまった。

 王太子と王国一の聖女との婚姻を祝う盛大な喝采は、私が住まう離宮近くにまで届いていた。




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