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「きゃあっ、アメリア様ってとっても可愛かったのねぇ。それにあの夜会のドレス姿、本当にお人形のようだったわぁ」
「そうよねぇ。なんで今まで隠していたのかしら? あんなに可愛いのに」
 あの日以降初めての登校日、女生徒からはもてはやされ、男子生徒からは変な視線を感じるようになった。夜会で素の姿を晒して以降、変装はいらないからと言われ、学園でもウィッグとコンタクト、メガネは外していたのだけど、思った以上に周りが騒がしくなってしまった。
 特にクロウ様が辺りに睨みを効かせていて、ずっと怖い顔をしている。袖をちょんちょんと引っ張ると笑顔に戻るのだけど、それ以外はいつも顰めっ面だ。
 そんなクロウ様をレオン様とミーシャ様はおかしそうに笑っていて、それをクロウ様に怒られてというのが最近の日常である。
 廊下を歩けば男性に声をかけられ、戸惑っているとミーシャ様があしらってくれて今までとは違う生活に少し戸惑いながらも楽しく生活していた。




「アメリア。明日出かけようか」
「どちらに?」
「行ってからのお楽しみ」
 最近はよく外出するようになった。あの事件以来、特におかしなことが起こることもなくてゆっくり楽しむことができている。そしていつも目的地はクロウ様は教えてくれないのだ。それはそれでワクワクするのだけど、わたしはあの四葉のクローバーの栞をいつ渡そうかとタイミングを図れないでいた。
 なのでいつもこっそり持ち歩いている。
 次の日、サヨさんに用意してもらった服に着替える。今日はワンピースのようで動きやすい。少し遠いのかな……
 馬車に揺られて数時間。結構遠くまできたんじゃないかな。
 彼の手に捕まって馬車を降りるとそこは目の前いっぱいの海。陽の光に照らされて海面がキラキラ輝いている。
「わぁ、海って初めてきましたっ」
 はしゃいでいるわたしを目を細めて優しく見守ってくれるクロウ様。そんなクロウ様の手をひいて、砂浜へと入っていった。
 今日は靴ではなくて、サンダルだ。このために用意してくれたんだろうな。押しては退いていく波を眺めているととても落ち着く。それに磯いい香り。前世でも経験できなかったことでとても嬉しい。
 不意にくいっと腕を引かれて顔を上げると彼に不意打ちのキスをされて、真っ赤になる。あの事件以降、夜以外でもところ構わずキスをされる。
 今しかない。
 そう思って急にもじもじするわたし。服に隠していた栞を手に取る。
「どうしたの?」
「あ、の……クロウ様、これ、あげます」
「これは?」
「あの、たまたま四葉のクローバーを見つけて、ミーシャ様に押し花にしたらって……」
「ふふ。意味、わかってる?」
 こくりと頷く。そう、四葉のクローバーの花言葉は……
「そう。俺はとっくの昔からアメリアのものなんだけど?」
「あ、の……」
「好きだよ、アメリア。君は?」
「……っ好き」
 消え入りそうなくらい小さな声で言ったけど、クロウ様にはバッチリ聞こえてたみたい。またキスされて、真っ赤になってを繰り返してしまって。周りにはちらほら人もいて、「可愛い恋人同士ねぇ」なんて言われて思わず彼の胸に顔を埋める。
「ふふっ。可愛いね。じゃあこれに名前書いて?」
「え?」
「はい」
 どこから取り出したのか、一枚の紙を手渡される。よくわからないけど、とりあえずサインすると満面の笑みのクロウ様。小首を傾げるわたしに「こういう書類はちゃんと読んでからサインしようね」ってクロウ様が笑いながらいう。何かが書かれた紙に目を落とすと、そこには婚約を証明するための書類で、目を見開いてしまう。
「これでアメリアも俺のもの。学園卒業したら、結婚しよう?」
「……っ、はい」
 ぽろぽろ涙を流すわたしを苦笑いしながら撫でる彼。
 ああ、これが幸せなんだ……
 今までの人生、やりたいこともできなくて、仕方ないのかなって諦めてた。でも、彼に拾われてなんだか普通とは違う人生を歩んできたけど楽しいこともいっぱい経験したし、怖い思いもした。
 それでも、その先にはこんなに幸せな人生を歩むことができて、初めての経験をたくさんできて、全てが大切な思い出になっていて。


「クロウ様、わたし、生まれて初めて、幸せだなって思いました」
「俺は君と出会った頃からずっと、幸せだよ」
 これからもたくさんいろいろなことがあるかも知れないけれど、クロウ様とならきっと乗り越えていける、そう思った。
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