2 / 23
2
しおりを挟む
次の日、孤児院にお客さまが来たみたい。子供達の相手を頼まれて、談話室で絵本を読む。
昨日とはうって変わって晴天だ。後で畑を見に行こう。
「アメリア、少しこちらへ」
シスターの呼び出しに小首を傾げながらもついていく。応接室に向かって目に入ったのは漆黒の髪に赤い目。あれ、昨日の人……?
「座って。驚ろかないで聞いてね。あなたを引き取りたいそうよ」
「……え? 引き取るって」
その言葉に驚くわたし。引き取るってことはあの人のところに行くの? でも、どう見ても彼はわたしより少し上くらい。どう言うこと……?
「君をうちの屋敷の侍女として迎えたい。いいかな?」
孤児院では、一定の年齢になったら働き口を探して卒業していくものが多いけど、それとは別に養子として引き取られたり働き手として引き取られたりする子が一定数いる。今回彼が申し出たのは働き手としてわたしを引き取ると言うことだと思う。
「あ、の……」
「ああ、仕事内容を聞きたいのかな。君には俺の専属侍女になってもらいたくて。仕事はそんなにむずかしくないよ。朝起こして食事を出して、夜にまた食事を出すだけ。それ以外の仕事はゆっくり覚えてもらえればいいから」
こうしてわたしは昨日出会った少年の家で働くことになったのでした。
「うわぁ、おっきい……」
テレビで見たような大豪邸。一体中に何部屋あるんだろう。ぼーっと眺めているわたしを見てフッと笑った少年はわたしの手をとってその屋敷へと入っていく。
「まずは湯浴みをしてきて」
戸惑うわたしをメイド服を着た女の人に手渡した彼は踵を返して何処かに行ってしまった。
「さ、アメリア様。こちらへ」
「え、あの……様はいらないです」
「いえ、そう言うわけにはいきませんので。では湯浴みを手伝わせていただきます」
二十代くらいだろうか、優しげな顔の女性の名前はサヨさんと言うみたい。真似してサヨ様と言ったら「サヨとお呼びください」と言われてしまった。
それにお風呂も遠慮したけど、命令なのでと言われてしまって手伝ってもらった。すごく恥ずかしかった。
そうして着せられたのはやけにふりふりしているメイド服。黒いワンピースに白いエプロンで、他の人とは全くデザインの異なるそれを着て向かったのは一番奥の部屋だった。
サヨさんがノックすると中から声がする。
そのまま連れられて部屋に入ると、服を着崩した少年が一人。
「ああ、やっと来た。さ、こっちへ」
彼に手招かれておずおずと近寄る。焦れたのか彼に手をつかまれる。ち、近いんですけど……
羨ましいくらい真っ白な肌に深紅の目が怪しく光る。その顔は綺麗に整っていて男の子だけど綺麗って言葉がとてもよく似合う。
そのまま、首筋に顔を埋められる。
「え、あ、あのっ」
首筋に何かが当たる。何か尖ったもの。なんだろう……
「いい匂い。いただきます」
つぶりと何かが皮膚を裂く。
「痛い……」
その皮膚を引き裂いたものが抜かれ、今度は吸いつかれる。
え、え、なに⁈ 何が起こってるの……?
「んぁ、え、何……」
なんだかむずむずする。なんだろう。一体わたしはここで何をされているんだろう。
ぺろりと肩口を舌で舐められた感覚がして、やっと少年の顔がわたしから離れた。
「ご馳走様。本当美味しかった」
わたしは訳がわからなくなって、ふらりと体が揺れた気がして、そしてそのまま意識を手放した。
目を覚ますとベッドの上だった。なんだか誰かの気配を感じて視線を泳がせると少年がわたしのことをじっと見つめていた。
「あ、起きた? 説明してもいいかな?」
「あ、はい」
よくわからないけど、とりあえず話を聞いてみよう。どうせもう帰れる場所なんてないもの……
「俺ね、吸血鬼なの。だから食事が必要なんだけど、今日から君が俺の食事ね。朝と夜の二回、血をくれるだけでいいよ。あ、このことはサラと執事長以外は知らないから内緒だよ」
吸血鬼……
絵本の吸血鬼? 本当に実在したの? ってことはさっきは血を吸われたってこと……?
「それ以外の時間は、そうだなぁ……何か好きなことある?」
「好きなこと……本?」
「部屋に用意させるよ。ああそうだ、夜はベルで呼ぶけど、朝は隣の部屋に来て、俺を起こしに来て」
「は、はぁ……」
部屋に戻っていいと言われ、廊下に待っていたサラさんに隣の部屋に案内される。
「こちらがアメリア様の部屋です。どうぞ仕事の時間以外はこの部屋でお寛ぎください。何か御用がありましたら、そちらのベルでお呼びくださいませ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
パタリと扉が閉まる音がして一人になる。
一体なんなの。無駄に広い部屋に一人ポツリと座る。
あの少年は絵本の中の吸血鬼で、吸血鬼は人間の血が必要で、その食事にわたしが選ばれたってこと……?
と言うことは一生あの少年に食事としてだけに必要とされるってことだよね。
でも、わたしは孤児で、行くあてもないもの。お部屋は豪華だし、お手伝いさんもいる。下手に奴隷として扱われるよりも、いいのかもしれない。
昨日とはうって変わって晴天だ。後で畑を見に行こう。
「アメリア、少しこちらへ」
シスターの呼び出しに小首を傾げながらもついていく。応接室に向かって目に入ったのは漆黒の髪に赤い目。あれ、昨日の人……?
「座って。驚ろかないで聞いてね。あなたを引き取りたいそうよ」
「……え? 引き取るって」
その言葉に驚くわたし。引き取るってことはあの人のところに行くの? でも、どう見ても彼はわたしより少し上くらい。どう言うこと……?
「君をうちの屋敷の侍女として迎えたい。いいかな?」
孤児院では、一定の年齢になったら働き口を探して卒業していくものが多いけど、それとは別に養子として引き取られたり働き手として引き取られたりする子が一定数いる。今回彼が申し出たのは働き手としてわたしを引き取ると言うことだと思う。
「あ、の……」
「ああ、仕事内容を聞きたいのかな。君には俺の専属侍女になってもらいたくて。仕事はそんなにむずかしくないよ。朝起こして食事を出して、夜にまた食事を出すだけ。それ以外の仕事はゆっくり覚えてもらえればいいから」
こうしてわたしは昨日出会った少年の家で働くことになったのでした。
「うわぁ、おっきい……」
テレビで見たような大豪邸。一体中に何部屋あるんだろう。ぼーっと眺めているわたしを見てフッと笑った少年はわたしの手をとってその屋敷へと入っていく。
「まずは湯浴みをしてきて」
戸惑うわたしをメイド服を着た女の人に手渡した彼は踵を返して何処かに行ってしまった。
「さ、アメリア様。こちらへ」
「え、あの……様はいらないです」
「いえ、そう言うわけにはいきませんので。では湯浴みを手伝わせていただきます」
二十代くらいだろうか、優しげな顔の女性の名前はサヨさんと言うみたい。真似してサヨ様と言ったら「サヨとお呼びください」と言われてしまった。
それにお風呂も遠慮したけど、命令なのでと言われてしまって手伝ってもらった。すごく恥ずかしかった。
そうして着せられたのはやけにふりふりしているメイド服。黒いワンピースに白いエプロンで、他の人とは全くデザインの異なるそれを着て向かったのは一番奥の部屋だった。
サヨさんがノックすると中から声がする。
そのまま連れられて部屋に入ると、服を着崩した少年が一人。
「ああ、やっと来た。さ、こっちへ」
彼に手招かれておずおずと近寄る。焦れたのか彼に手をつかまれる。ち、近いんですけど……
羨ましいくらい真っ白な肌に深紅の目が怪しく光る。その顔は綺麗に整っていて男の子だけど綺麗って言葉がとてもよく似合う。
そのまま、首筋に顔を埋められる。
「え、あ、あのっ」
首筋に何かが当たる。何か尖ったもの。なんだろう……
「いい匂い。いただきます」
つぶりと何かが皮膚を裂く。
「痛い……」
その皮膚を引き裂いたものが抜かれ、今度は吸いつかれる。
え、え、なに⁈ 何が起こってるの……?
「んぁ、え、何……」
なんだかむずむずする。なんだろう。一体わたしはここで何をされているんだろう。
ぺろりと肩口を舌で舐められた感覚がして、やっと少年の顔がわたしから離れた。
「ご馳走様。本当美味しかった」
わたしは訳がわからなくなって、ふらりと体が揺れた気がして、そしてそのまま意識を手放した。
目を覚ますとベッドの上だった。なんだか誰かの気配を感じて視線を泳がせると少年がわたしのことをじっと見つめていた。
「あ、起きた? 説明してもいいかな?」
「あ、はい」
よくわからないけど、とりあえず話を聞いてみよう。どうせもう帰れる場所なんてないもの……
「俺ね、吸血鬼なの。だから食事が必要なんだけど、今日から君が俺の食事ね。朝と夜の二回、血をくれるだけでいいよ。あ、このことはサラと執事長以外は知らないから内緒だよ」
吸血鬼……
絵本の吸血鬼? 本当に実在したの? ってことはさっきは血を吸われたってこと……?
「それ以外の時間は、そうだなぁ……何か好きなことある?」
「好きなこと……本?」
「部屋に用意させるよ。ああそうだ、夜はベルで呼ぶけど、朝は隣の部屋に来て、俺を起こしに来て」
「は、はぁ……」
部屋に戻っていいと言われ、廊下に待っていたサラさんに隣の部屋に案内される。
「こちらがアメリア様の部屋です。どうぞ仕事の時間以外はこの部屋でお寛ぎください。何か御用がありましたら、そちらのベルでお呼びくださいませ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
パタリと扉が閉まる音がして一人になる。
一体なんなの。無駄に広い部屋に一人ポツリと座る。
あの少年は絵本の中の吸血鬼で、吸血鬼は人間の血が必要で、その食事にわたしが選ばれたってこと……?
と言うことは一生あの少年に食事としてだけに必要とされるってことだよね。
でも、わたしは孤児で、行くあてもないもの。お部屋は豪華だし、お手伝いさんもいる。下手に奴隷として扱われるよりも、いいのかもしれない。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【R18】魔法使いの弟子が師匠に魔法のオナホで疑似挿入されちゃう話
紅茶丸
恋愛
魔法のオナホは、リンクさせた女性に快感だけを伝えます♡ 超高価な素材を使った魔法薬作りに失敗してしまったお弟子さん。強面で大柄な師匠に怒られ、罰としてオナホを使った実験に付き合わされることに───。というコメディ系の短編です。
※エロシーンでは「♡」、濁音喘ぎを使用しています。処女のまま快楽を教え込まれるというシチュエーションです。挿入はありませんがエロはおそらく濃いめです。
キャラクター名がないタイプの小説です。人物描写もあえて少なくしているので、好きな姿で想像してみてください。Ci-enにて先行公開したものを修正して投稿しています。(Ci-enでは縦書きで公開しています。)
ムーンライトノベルズ・pixivでも掲載しています。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる