吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

文字の大きさ
上 下
3 / 23

3

しおりを挟む
 しばらくして、サヨさんが食事を運んできてくれた。見たこともないものがたくさんで、目を瞬かせる。
「これ、食べてもいいんですか……?」
「ええ、アメリア様のために用意した食事ですので。お好きなものがありましたら教えてくださいませ」
「わ、ありがとうございますっ。いただきます」
 フォークとナイフが置いてあって、あんまり使い方もよくわからなかったけど、前世の記憶を頼りに食べる。どれもこれも美味しくてほっぺたが落ちそう……
 暖かいたくさんの食事をお腹いっぱい食べた。こんなにたくさん食べたの初めて。前世でもあまりたくさん食べられなかったから、とても嬉しい。



 ――チリーン
 あれ、これって、お呼び出し?
 そう思っていると部屋の隅にある扉が開かれる。
「これが聞こえたら、こっちからくるんだよ。ほら」
 腕を掴まれて扉をくぐる。そこにはわたしの部屋よりもちょっと狭い部屋に大きなベッドが一つ。
 ここ、寝室……?
 少年の部屋に繋がってると思ってたけど違うんだ……
「はい、ここ座って」
 指定されたのは彼の膝の上で。なんでそんなところに? って思ったけど、命令なら逆らえない。素直に従った。
「そういえば名を名乗っていなかったね。俺はクロウ。クロウ・サーバント。サーバント侯爵家嫡男だ。クロウと呼ぶように」
 お名前はクロウというのか。侯爵家、侯爵家って結構身分の高い貴族だった気がするんだけど……
 ってことはクロウ様? いやでもお名前を呼ぶのは恐れ多い気がする。
「あ、あの、名前を呼ぶのはちょっと恐れ多いと言いますか……ご主人様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「……まあ、今は許そうか。だけどいずれは名前で呼んでもらうから」
「はい、ご主人様」
 わたしの肩に彼が顎を乗せる。そのままカプリと齧り付かれ、血を啜られる。体の力が抜けていく感覚と妙な浮遊感。これなんだろう。
「んっ」
 最後にぺろりと舐められ、どうやら食事は終わったみたい。というかわたしこんなに血を抜かれて大丈夫かしら……
 ぼーっとする頭の中で何かを思い出していた。



 吸血鬼であるクロウは学園でとある少女と出会う。そこでは二人で困難を乗り越え、最後には結ばれる。




 ハッと気がついた時には布団の中だった。いつの間に寝ていたんだろうか……
 ん? 隣に誰かいる……?
「きゃあっ」
「なんだ起きたの?」
「えっ、わたし……」
 しっかり服は脱がされていて何故か隣で眠っていたわたし。一体何が……
「これも仕事のうちだ。さ、早く寝ろ」
 頭の中は混乱していたけれど、再び頭がぼーっとしてきていつの間にか眠ってしまっていた。




 目覚めると一人でベッドに眠っていたようだ。むくりと起き上がると眠たい目を擦りながら自分の部屋へと向かう。サヨさんが既に部屋に来ていて、何も言わずにメイド服を着せてくれた。
「さ、主人がお待ちですよ。起こしに行ってあげてください」
 サヨさんに促されて隣の部屋の扉を叩く。返事がないけど、サヨさんは入ってもいいって言ってたから、扉を開いて中に入る。部屋のベッドにはご主人様が眠っていて。
「ご主人様、ご主人様っ。朝です。起きてください」
「……おはよう。ご飯ちょうだい」
 そうしてわたしは朝と夜、彼の朝食として血を差し出すことになった。
 この時のわたしはまだ十歳。少年ことクロウ様は十二歳である。



 ご主人様の食事の後はいつも気を失っていた。サヨさん曰く貧血状態だという。その後はいつも薬を飲まされるとすぐに回復して動けるようになっていた。
 元気になったわたしは、いつの間にか用意をされていた本棚に置いてある本をずっと読んでいる。物語が書かれた小説や、この国の歴史、礼儀作法の本まで様々だ。
 きっとお勉強しろってことだと思う。小説は一日一冊にして歴史書を読む。
 その歴史書は吸血鬼について書かれているもので、夢中になって読み込んでいた。
 昔からこの国には吸血鬼の一族がいたのだという。ただ、人の生き血を啜るという彼らの時性や夜行性であることから忌み嫌われていたのだという。そこでひっそりと誰もいない森の奥で生活することになった。
 何時ごろだろうか、そのうちの一人がとある人間の娘に恋をして、やがて子を成した。そこから吸血鬼の血が徐々に薄まっていき、日中も活動できるようになった。
 彼らの特徴である黒髪に赤い目、それに見目麗しい容姿からすぐに社会にも溶け込んでいくようになった。
 食事についても独自に人工の血液を開発したり、輸血用の血液を分けてもらったりと人から血をもらう必要性がなくなっていった。
 また彼らは人間よりも身体能力が優れており頭脳明晰。そのため徐々にその地位を上げていったのだとか。
 ただ稀に、先祖返りというのか吸血鬼の血が強く出てしまい、人から血をもらわねばならないことがあるのだとか。

 そうなんだ。ということは、彼はきっと先祖返りということなのだろうか。この屋敷にはご主人様とサヨさん、執事長さんにメイドが数名のみで他には誰もいないみたい。ご両親もいないみたいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

優しい紳士はもう牙を隠さない

なかな悠桃
恋愛
密かに想いを寄せていた同僚の先輩にある出来事がきっかけで襲われてしまうヒロインの話です。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...