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君恋7
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「それ、美味しそうですね」
「ええ、期間限定らしくてつい買っちゃいました。美味いですよ」
何気なくソフトクリームを片山さんの方へ差し出す。
それに驚く片山さんを見て、漸く気付いた。
「す、すみませんっ。条件反射で……」
直ぐにその手を引っ込める。
(何やってんだ俺っ。子供とか、恋人相手にするみたいなことを、片山さんにするなんてっ。滅茶苦茶親しいってわけでもないのに。変に思われた……よな?)
ところが、危惧とは裏腹に片山さんは俺の手首を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「……え?」
「ん、本当ですね。美味しいです」
俺の手からソフトクリームをペロリと舐めた片山さんが、満足気に笑みを浮かべた。
「そ、そう……ですか……」
「普段はあまり食べませんが、こういう所で食べるのはいいものですね」
俺に向ける眼差しは普段と同じ優しいモノで、火照った顔は不思議とすぐに落ち着きを取り戻した。
(吃驚したー……。この人、たまに突拍子もない事してくるから心臓に悪いんだよな)
なんとも思っていなくても、これは誰でも驚くし慌てるだろう。
でももし、これが榊さんだったら……?
(やっ、ないない絶対あり得ない!)
パクパクと残りのソフトクリームを食べて可笑しな思考を紛らわす。
(いちいちあの人が出て来るとか、もう俺末期? 精神科に頼った方がいいわけ?)
落ち着いた火照りがまたぶり返しそうで嫌になる。
「えっと……、片山さんはもう見て歩かなくていいんですか?」
「ええ、目当てのところは見てきましたから、特には……。店長は?」
「俺も取り敢えずは。今は問題児を監視するためにいるようなものなんで」
「そうですか。大変ですね」
遠慮がちに笑う片山さんの隣で肩を竦める。
「まあ、俺一人じゃなかったらもっと楽なんですけどね」
「そういえば見かけませんね。榊店長」
「人混みが嫌とかで、バスに非難してますよ。まったく、面倒事は全部俺に押し付けて、酷いと思いません?」
「それだけ、頼りにされているということじゃないですか?」
俺を宥めようとしての言葉なのもしれないが、まったく嬉しくない内容だ。
「違いますね。これは一種のパワハラですよ、パワハラ」
そう吐き捨てるように愚痴を零すと、隣から小さな笑い声が聞こえた。
不思議に思い視線を向けて数回瞬きをする。
そんな俺に、片山さんが口元に拳を当てて咳払いをした。
「――いや、すみません。何だかんだ、仲が良いなと思いまして……」
「……はい?」
「店長同士、気が合うのかもしれませんね」
優しいようでいて淡々と紡がれるそれは、どこか寂しさを感じさせるものがあった。
というか、それよりも……、
「気なんか合いませんよ。あの人は、俺をからかって遊ぶのが好きなんです。――止めろって言っても聞きゃしない。まったく」
後半はブツブツと独り言のように零す。
片山さんは今度は少し困ったように笑った。
「当人と周りでは、感じ方が酷似するとは限りませんよ。少なくとも自分は、店長たちが仲が悪いようには思えません」
「そんなこと、ないと思いますけど……」
「ありますよ。ただ、変に悪く考えるから否定してしまうんだと思います。まあこれは、あくまで自分の考えですが」
(――違う)
そうじゃない。
全部あの人が悪いわけじゃない。
変に意識してしまう自分が嫌で、一方的に避けてしまうだけ。
そんなことは分かっているんだ。
でも、苦手だった相手を、好きだと意識することなんてどうやったらできるのか。
「もう、好きなんじゃないんですか?」
「――え……」
「ええ、期間限定らしくてつい買っちゃいました。美味いですよ」
何気なくソフトクリームを片山さんの方へ差し出す。
それに驚く片山さんを見て、漸く気付いた。
「す、すみませんっ。条件反射で……」
直ぐにその手を引っ込める。
(何やってんだ俺っ。子供とか、恋人相手にするみたいなことを、片山さんにするなんてっ。滅茶苦茶親しいってわけでもないのに。変に思われた……よな?)
ところが、危惧とは裏腹に片山さんは俺の手首を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「……え?」
「ん、本当ですね。美味しいです」
俺の手からソフトクリームをペロリと舐めた片山さんが、満足気に笑みを浮かべた。
「そ、そう……ですか……」
「普段はあまり食べませんが、こういう所で食べるのはいいものですね」
俺に向ける眼差しは普段と同じ優しいモノで、火照った顔は不思議とすぐに落ち着きを取り戻した。
(吃驚したー……。この人、たまに突拍子もない事してくるから心臓に悪いんだよな)
なんとも思っていなくても、これは誰でも驚くし慌てるだろう。
でももし、これが榊さんだったら……?
(やっ、ないない絶対あり得ない!)
パクパクと残りのソフトクリームを食べて可笑しな思考を紛らわす。
(いちいちあの人が出て来るとか、もう俺末期? 精神科に頼った方がいいわけ?)
落ち着いた火照りがまたぶり返しそうで嫌になる。
「えっと……、片山さんはもう見て歩かなくていいんですか?」
「ええ、目当てのところは見てきましたから、特には……。店長は?」
「俺も取り敢えずは。今は問題児を監視するためにいるようなものなんで」
「そうですか。大変ですね」
遠慮がちに笑う片山さんの隣で肩を竦める。
「まあ、俺一人じゃなかったらもっと楽なんですけどね」
「そういえば見かけませんね。榊店長」
「人混みが嫌とかで、バスに非難してますよ。まったく、面倒事は全部俺に押し付けて、酷いと思いません?」
「それだけ、頼りにされているということじゃないですか?」
俺を宥めようとしての言葉なのもしれないが、まったく嬉しくない内容だ。
「違いますね。これは一種のパワハラですよ、パワハラ」
そう吐き捨てるように愚痴を零すと、隣から小さな笑い声が聞こえた。
不思議に思い視線を向けて数回瞬きをする。
そんな俺に、片山さんが口元に拳を当てて咳払いをした。
「――いや、すみません。何だかんだ、仲が良いなと思いまして……」
「……はい?」
「店長同士、気が合うのかもしれませんね」
優しいようでいて淡々と紡がれるそれは、どこか寂しさを感じさせるものがあった。
というか、それよりも……、
「気なんか合いませんよ。あの人は、俺をからかって遊ぶのが好きなんです。――止めろって言っても聞きゃしない。まったく」
後半はブツブツと独り言のように零す。
片山さんは今度は少し困ったように笑った。
「当人と周りでは、感じ方が酷似するとは限りませんよ。少なくとも自分は、店長たちが仲が悪いようには思えません」
「そんなこと、ないと思いますけど……」
「ありますよ。ただ、変に悪く考えるから否定してしまうんだと思います。まあこれは、あくまで自分の考えですが」
(――違う)
そうじゃない。
全部あの人が悪いわけじゃない。
変に意識してしまう自分が嫌で、一方的に避けてしまうだけ。
そんなことは分かっているんだ。
でも、苦手だった相手を、好きだと意識することなんてどうやったらできるのか。
「もう、好きなんじゃないんですか?」
「――え……」
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