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脱却3
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まるで母親と恋人の会話だ。
李煌さんが恋人役なら良かったと思うが、その場合唐木が母親になるわけだが――……想像したくない。
ニコニコと楽しそうに会話を弾ませる二人の間で、俺はカバンを下ろしながら溜息一つ。
「唐木、寒いから早く帰った方がいいんじゃないのか」
「大河はつれないな~。もっと寒くなるじゃない」
(寒い話をしていたのはどっちだ)
無愛想に唐木に視線を向けると、ハッと慌てた素振りを見せた。
「大河がお腹空かせてるみたいなので、僕はこれで失礼しますー」
(わざとらしい……)
「気を付けて帰ってね!」
軽く手を上げて見送る李煌さん。
ドアが完全に閉まる寸前で、ピタリと止まった。
(何だ?)
少しだけまたドアが開く。
「そうだ大河。帰りがけに女の子に声掛けられてたこと明日詳しく聞かせてね~♪ ばいばーい」
パタンっ――。
今度こそ完全にドアは閉まった。
(――あの野郎っ。余計な事吐き捨てて行きやがって……!)
気付かれていた事にも驚いたが、それをわざわざ今ココで言うことかと頭に来た。
と同時に嫌な汗が頬を伝う。
唐木が家まで送ると申し出た時は不思議に思ったが、こういう魂胆があったことに頭を抱えたくなった。
(もっと警戒するべきだったかっ)
「……大河くん」
呼ばれてピクリと背筋を伸ばす。
視線を向けると、李煌さんは困ったように笑っていて、逃がしては貰えないことを悟った。
(いつものことだし、言わずに済むならそれに越したことないんだけどな)
それでも今回は知られてしまったから致し方ない。
(いや、今回も……か)
俺は無造作に頭を掻いて李煌さんに少しだけ姿勢を正した。
「李煌さんが心配するようなことは何もないから。ただ、帰りがけに知らない先輩から呼び止められたのは本当だけど、全部断ったし」
「全部……?」
「……好きって告白と、友人になりたいってことと、遊びに誘われたこと……かな」
食い下がる彼女には本当に参った。
付き合えないなら友達になりたいとか、あんたはそれで納得できるのかと言いたくなった。
妥協できる程度の気持ちなら、最初から告白なんてしなければいいのではないか。
「そっか。ごめんね? 話させちゃって。大河くんってカッコイイからモテて当然なんだし、それをいちいち気にしても仕方ないのにね」
自分は平気だと言いたいのかもしれないが、全然そんな顔をしていない。
(気付いてないんだろうな……。嘘つけない人だし)
思い切り抱き締めて安心させてあげたいところだけれど、今は止めておこう。
「大丈夫だよ。俺、李煌さんほどモテないから」
「え? 俺なんてモテたことないよ。あ、一度だけあるね。大河くんにモテたことが」
(……そして超天然)
「まあいいや。今日はカレー?」
「うん! 一日置いた方が美味しいけど、作り立てもいいでしょ?」
「もちろん。腹減ってるし」
とりあえず御機嫌が直ったようで一安心だ。
李煌さんが恋人役なら良かったと思うが、その場合唐木が母親になるわけだが――……想像したくない。
ニコニコと楽しそうに会話を弾ませる二人の間で、俺はカバンを下ろしながら溜息一つ。
「唐木、寒いから早く帰った方がいいんじゃないのか」
「大河はつれないな~。もっと寒くなるじゃない」
(寒い話をしていたのはどっちだ)
無愛想に唐木に視線を向けると、ハッと慌てた素振りを見せた。
「大河がお腹空かせてるみたいなので、僕はこれで失礼しますー」
(わざとらしい……)
「気を付けて帰ってね!」
軽く手を上げて見送る李煌さん。
ドアが完全に閉まる寸前で、ピタリと止まった。
(何だ?)
少しだけまたドアが開く。
「そうだ大河。帰りがけに女の子に声掛けられてたこと明日詳しく聞かせてね~♪ ばいばーい」
パタンっ――。
今度こそ完全にドアは閉まった。
(――あの野郎っ。余計な事吐き捨てて行きやがって……!)
気付かれていた事にも驚いたが、それをわざわざ今ココで言うことかと頭に来た。
と同時に嫌な汗が頬を伝う。
唐木が家まで送ると申し出た時は不思議に思ったが、こういう魂胆があったことに頭を抱えたくなった。
(もっと警戒するべきだったかっ)
「……大河くん」
呼ばれてピクリと背筋を伸ばす。
視線を向けると、李煌さんは困ったように笑っていて、逃がしては貰えないことを悟った。
(いつものことだし、言わずに済むならそれに越したことないんだけどな)
それでも今回は知られてしまったから致し方ない。
(いや、今回も……か)
俺は無造作に頭を掻いて李煌さんに少しだけ姿勢を正した。
「李煌さんが心配するようなことは何もないから。ただ、帰りがけに知らない先輩から呼び止められたのは本当だけど、全部断ったし」
「全部……?」
「……好きって告白と、友人になりたいってことと、遊びに誘われたこと……かな」
食い下がる彼女には本当に参った。
付き合えないなら友達になりたいとか、あんたはそれで納得できるのかと言いたくなった。
妥協できる程度の気持ちなら、最初から告白なんてしなければいいのではないか。
「そっか。ごめんね? 話させちゃって。大河くんってカッコイイからモテて当然なんだし、それをいちいち気にしても仕方ないのにね」
自分は平気だと言いたいのかもしれないが、全然そんな顔をしていない。
(気付いてないんだろうな……。嘘つけない人だし)
思い切り抱き締めて安心させてあげたいところだけれど、今は止めておこう。
「大丈夫だよ。俺、李煌さんほどモテないから」
「え? 俺なんてモテたことないよ。あ、一度だけあるね。大河くんにモテたことが」
(……そして超天然)
「まあいいや。今日はカレー?」
「うん! 一日置いた方が美味しいけど、作り立てもいいでしょ?」
「もちろん。腹減ってるし」
とりあえず御機嫌が直ったようで一安心だ。
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