染まらない花

煙々茸

文字の大きさ
58 / 62
脱却3

3-7

しおりを挟む
 まるで母親と恋人の会話だ。
 李煌さんが恋人役なら良かったと思うが、その場合唐木が母親になるわけだが――……想像したくない。
 ニコニコと楽しそうに会話を弾ませる二人の間で、俺はカバンを下ろしながら溜息一つ。
「唐木、寒いから早く帰った方がいいんじゃないのか」
「大河はつれないな~。もっと寒くなるじゃない」
(寒い話をしていたのはどっちだ)
 無愛想に唐木に視線を向けると、ハッと慌てた素振りを見せた。
「大河がお腹空かせてるみたいなので、僕はこれで失礼しますー」
(わざとらしい……)
「気を付けて帰ってね!」
 軽く手を上げて見送る李煌さん。
 ドアが完全に閉まる寸前で、ピタリと止まった。
(何だ?)
 少しだけまたドアが開く。
「そうだ大河。帰りがけに女の子に声掛けられてたこと明日詳しく聞かせてね~♪ ばいばーい」
 パタンっ――。
 今度こそ完全にドアは閉まった。
(――あの野郎っ。余計な事吐き捨てて行きやがって……!)
 気付かれていた事にも驚いたが、それをわざわざ今ココで言うことかと頭に来た。
 と同時に嫌な汗が頬を伝う。
 唐木が家まで送ると申し出た時は不思議に思ったが、こういう魂胆があったことに頭を抱えたくなった。
(もっと警戒するべきだったかっ)
「……大河くん」
 呼ばれてピクリと背筋を伸ばす。
 視線を向けると、李煌さんは困ったように笑っていて、逃がしては貰えないことを悟った。
(いつものことだし、言わずに済むならそれに越したことないんだけどな)
 それでも今回は知られてしまったから致し方ない。
(いや、今回も……か)
 俺は無造作に頭を掻いて李煌さんに少しだけ姿勢を正した。
「李煌さんが心配するようなことは何もないから。ただ、帰りがけに知らない先輩から呼び止められたのは本当だけど、全部断ったし」
「全部……?」
「……好きって告白と、友人になりたいってことと、遊びに誘われたこと……かな」
 食い下がる彼女には本当に参った。
 付き合えないなら友達になりたいとか、あんたはそれで納得できるのかと言いたくなった。
 妥協できる程度の気持ちなら、最初から告白なんてしなければいいのではないか。
「そっか。ごめんね? 話させちゃって。大河くんってカッコイイからモテて当然なんだし、それをいちいち気にしても仕方ないのにね」
 自分は平気だと言いたいのかもしれないが、全然そんな顔をしていない。
(気付いてないんだろうな……。嘘つけない人だし)
 思い切り抱き締めて安心させてあげたいところだけれど、今は止めておこう。
「大丈夫だよ。俺、李煌さんほどモテないから」
「え? 俺なんてモテたことないよ。あ、一度だけあるね。大河くんにモテたことが」
(……そして超天然)
「まあいいや。今日はカレー?」
「うん! 一日置いた方が美味しいけど、作り立てもいいでしょ?」
「もちろん。腹減ってるし」
 とりあえず御機嫌が直ったようで一安心だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ルームメイトが釣り系男子だった件について

perari
BL
ネット小説家として活動している僕には、誰にも言えない秘密がある。 それは——クールで無愛想なルームメイトが、僕の小説の主人公だということ。 ずっと隠してきた。 彼にバレないように、こっそり彼を観察しながら執筆してきた。 でも、ある日—— 彼は偶然、僕の小説を読んでしまったらしい。 真っ赤な目で僕を見つめながら、彼は震える声でこう言った。 「……じゃあ、お前が俺に優しくしてたのって……好きだからじゃなくて、ネタにするためだったのか?」

アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。 気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。 二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。

新生活始まりました

たかさき
BL
コンビニで出会った金髪不良にいきなり家に押しかけられた平凡の話。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

処理中です...