染まらない花

煙々茸

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脱却3

3-6

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「あ、勘違いしないでね。ちゃんと諦めるつもりだから。――それよりさ、」
「……?」
「魁里さんとは上手くいってるの?」
 思いもよらなかった名前が上がって一瞬目を見開く。
「……兄貴? が、どうかしたのか?」
「ううん、どうもしてないけど……あの人って上のお兄さんのこと凄く大事にしてるみたいに感じたからさ。それって厄介でしょ?」
 まったく、良く見ている友人だ。
 厄介なのは寧ろこの友人なんじゃないだろうかと思えてくる。
 じっと見据える俺の視線に、唐木が訝しむ。
「どうかした?」
「いや、まあ厄介であることは確かだけどな」
「その様子だと、まだ伝えられてないんだね。どうするつもりなの?」
「近いうちに言うつもりではいる」
 砂糖が溶け込んだコーヒーを静かに啜る。
 その甘みと香りが自然と気持ちを落ち着かせてくれた。
「あーっ、いいなー」
「は? ……何がだよ。てかもっと静かに話せないのか?」
 足を投げ出して突然声を上げた唐木に驚き、眉間に皺を刻む。
「ごめんごめん」
 と、声を顰めて言う唐木に小さく息を吐いた。
「……で、何がいいんだ?」
「やっぱり大河欲しいーって思って」
「――っゴホ」
「あ……大丈夫? はい、お手拭きあるよ」
 コイツはわざと俺をからかっているのか。
(そうだったとしたら、性格悪過ぎるだろ…)
 いまいち油断のならないこの友人に白い目を向け、少し零れたコーヒーをお手拭きで拭きとった。


 ――……。

 夕方六時過ぎ。
 もうすっかり外は暗い。
 漫画ネットカフェを出て家路を急ぐ。
「お兄さんには連絡いれてあるんだよね」
「ああ、一応な」
 それでも今日は早くに終わると言ってあったから、折り返しの返信がないと少し不安になる。
「なら、そんなに急がなくても大丈夫じゃない? 忙しくてメッセージ打てないだけかもしれないし」
「まあ……そうだろうけどな」
「それにさ、お兄さんのことだからこっちが連絡しなかったとしても心配になって向こうからして来る気がするし。それがないってことは大丈夫だよ」
 家に近付くと、リビングの明かりがついていることに気付いてホッとした。
「じゃあ、また明日な」
「あ、少し心配だから僕もお兄さんに会っていっていいかな」
「? ……別にいいけど」
 玄関のドアを開けると、音に気付いた李煌さんがリビングの方から出て来た。
「大河くん、お帰りなさい。メッセージ返せなくてごめんね」
 近付く李煌さんからは、カレーの匂いがして空腹感が増した。
「ああ、大丈夫。手が話せなかったんだろ?」
「ちょっと夕飯の材料を買いに行ったりしててね。――あれ? 唐木くん?」
 開けっ放しのドアの向こうに佇む唐木に、李煌さんが気付いて驚きの表情を浮かべた。
 そんな李煌さんに唐木がペコリと頭を下げた。
「こんばんは。初詣以来ですね」
「そうだね。今日も大河くんと遊んでくれてありがとう」
「いえいえ。僕が強引に付き合って貰っちゃったんですよ。遅くまでお借りしました」
「ご丁寧にありがとう。またいつでも連れ出してあげて頂戴。でも暗くなる前に返してね」
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