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家族
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俺は相見家の三男。
――になった。六年前に。
「じゃあ俺もそろそろ」
「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね」
スクールカバンの他に、部活用のカバンを背負って靴を履く。
そんな俺の背中に李煌さんの声が返って来た。
このやり取りも数年前から始まった。
俺がまだ小学五年生の時、両親が不慮の事故で他界して、相見家に引き取られた。
母親同士が親友で、小さい頃は相見家を訪れると良く兄弟たちと遊ばされていた。
幼馴染というやつだ。
「相見―! おはよ」
「……、はよ」
更衣室で声を掛けて来た部活の仲間。
この名字で呼ばれることにも大分慣れた。
黒川から相見に姓を移したのも中学に上がってからだ。
最初はやっぱり慣れなくて、「無視すんな」と良くぼやかれることが多かった。
「今日タイム計るでしょ?」
「そうだな。午後からテスト勉強期間だし、計っておくか」
――バタンっ。
ロッカーを閉めて仲間と一緒に更衣室を出て屋内を歩く。
行先は、プールだ。
季節は秋。
それでも泳げるのは、屋内にプールがあるからで、暖房設備も整っていてフルシーズン泳ぐことができる。
「おーい、相見!」
「……どうした?」
既に来て泳いでいた部員の一人が駆け寄って来た。
「また来てるぜ」
「何が?」
「例の子だよ!」
声を顰めてくれているのだろうが、耳元で騒がれるとかえって煩い。
彼から軽く身を離してから聞き返す。
「……例の子って?」
「はあ……。お前、本当、疎いよなー」
「何の話だ」
「あそこだよ。見えるだろ? 俺らと同じ二年の宮下。確かクラスは……一組だったか」
彼が顔を向けた先を目で追って行くと、二人組の女子がこっちを見て何やら会話をしているのが見えた。
彼女らと目が合う前に、俺はプールへ視線を滑らせ準備運動を始めた。
「え、何? 興味なし? すっげー可愛い子じゃん!」
「ならお前が相手してくればいいだろ」
「そんなの無駄だろ。あの子はお前にご執心なんだからさぁ」
なんだよー、と口を尖らせて離れて行く背中を、溜息混じりに一瞥する。
(こっちの気も知らないで、何を勝手なこと言ってんだか……)
俺が好かれたい人は、別にいる。
他の子と話をしたところで、俺の気持ちは揺らぐことは無い。
――四年前から。
本当は相見家に引き取られた時からだと思うが、ちゃんと自覚したのは中学に上がってからだ。
当時高校生だった李煌さんは、細身でいて筋肉が程良く付き、イイ感じに大人びてきて、俺の目にはこんな風に成長する人間がいるのかと驚くほどにカッコ良く綺麗に映った。
今では俺の方が身長も高く、カッコイイというよりも可愛く映ってしまっているが……。
(それはそれで、有り難いけどな)
思わず緩みそうになる口元を手で隠す。
「どうかした?」
更衣室から一緒に来た友人の唐木ミナトが、俺の顔を覗き込んできた。
「いや。……お前も準備できただろ? タイム、測ってくれ」
「はいよー」
ストップウォッチを取りに行く唐木を見送って、俺は一度水に沈んで体を慣らしてからスタート台の上に立った。
――になった。六年前に。
「じゃあ俺もそろそろ」
「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね」
スクールカバンの他に、部活用のカバンを背負って靴を履く。
そんな俺の背中に李煌さんの声が返って来た。
このやり取りも数年前から始まった。
俺がまだ小学五年生の時、両親が不慮の事故で他界して、相見家に引き取られた。
母親同士が親友で、小さい頃は相見家を訪れると良く兄弟たちと遊ばされていた。
幼馴染というやつだ。
「相見―! おはよ」
「……、はよ」
更衣室で声を掛けて来た部活の仲間。
この名字で呼ばれることにも大分慣れた。
黒川から相見に姓を移したのも中学に上がってからだ。
最初はやっぱり慣れなくて、「無視すんな」と良くぼやかれることが多かった。
「今日タイム計るでしょ?」
「そうだな。午後からテスト勉強期間だし、計っておくか」
――バタンっ。
ロッカーを閉めて仲間と一緒に更衣室を出て屋内を歩く。
行先は、プールだ。
季節は秋。
それでも泳げるのは、屋内にプールがあるからで、暖房設備も整っていてフルシーズン泳ぐことができる。
「おーい、相見!」
「……どうした?」
既に来て泳いでいた部員の一人が駆け寄って来た。
「また来てるぜ」
「何が?」
「例の子だよ!」
声を顰めてくれているのだろうが、耳元で騒がれるとかえって煩い。
彼から軽く身を離してから聞き返す。
「……例の子って?」
「はあ……。お前、本当、疎いよなー」
「何の話だ」
「あそこだよ。見えるだろ? 俺らと同じ二年の宮下。確かクラスは……一組だったか」
彼が顔を向けた先を目で追って行くと、二人組の女子がこっちを見て何やら会話をしているのが見えた。
彼女らと目が合う前に、俺はプールへ視線を滑らせ準備運動を始めた。
「え、何? 興味なし? すっげー可愛い子じゃん!」
「ならお前が相手してくればいいだろ」
「そんなの無駄だろ。あの子はお前にご執心なんだからさぁ」
なんだよー、と口を尖らせて離れて行く背中を、溜息混じりに一瞥する。
(こっちの気も知らないで、何を勝手なこと言ってんだか……)
俺が好かれたい人は、別にいる。
他の子と話をしたところで、俺の気持ちは揺らぐことは無い。
――四年前から。
本当は相見家に引き取られた時からだと思うが、ちゃんと自覚したのは中学に上がってからだ。
当時高校生だった李煌さんは、細身でいて筋肉が程良く付き、イイ感じに大人びてきて、俺の目にはこんな風に成長する人間がいるのかと驚くほどにカッコ良く綺麗に映った。
今では俺の方が身長も高く、カッコイイというよりも可愛く映ってしまっているが……。
(それはそれで、有り難いけどな)
思わず緩みそうになる口元を手で隠す。
「どうかした?」
更衣室から一緒に来た友人の唐木ミナトが、俺の顔を覗き込んできた。
「いや。……お前も準備できただろ? タイム、測ってくれ」
「はいよー」
ストップウォッチを取りに行く唐木を見送って、俺は一度水に沈んで体を慣らしてからスタート台の上に立った。
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