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家族
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「お待たせ。100だよね? いつでもいいよ」
俺のすぐ後ろに立った唐木の言葉に、頷くだけの返事を返して、頭の方にずらしていたゴーグルを定位置まで下ろした。
「いきまーす!」
唐木の声に合わせて上体を折り曲げ、右足を後ろに少し引いてクラウチングスタートの体勢を作る。
「よーい、始め!」
静かに、しかし力強く台を蹴って射出した。
着水して、水の中へと体が滑り込む。
そしてドルフィンキックを繰り返し、自然な流れでストロークに繋ぐ。
泳いでいる間は、頭の中がスッキリして嫌なことを忘れられた。
水泳は小学五年生の時に始めた。
そう、両親が他界して少し経った頃だ。
誘ってきたのはその時クラスメイトだった男の子だったと思う。
五十メートル先、折り返し地点でまた力強く壁を蹴る。
息継ぎに顔を上げた時、さっきの二人組の女子が見えた。
ラストスパート、更に加速する。
終わりが見えて、そしてゴールにタッチした。
「――はぁ……、はぁ……」
「相見。お疲れさま。昨日よりタイム縮まってるよ」
ゴーグルを頭に上げて唐木を見上げる。
差し出された手に俺は首を振った。
「悪い、もう一本頼めるか?」
「もちろん。あとで僕のも測ってね」
「ああ」
上げたばかりのゴーグルを下げて、俺はまた水の世界へ身を委ねた。
――……。
「またえらく視線注がれてたね」
「何の話だ?」
「それ、とぼけてるの? それとも素なの?」
「だから、何がだよ」
朝練を終えた俺は、着替えて唐木と一緒に更衣室を出た。
タオルでガシガシと髪を拭きながら歩く隣で、唐木がクスリと意味深な笑みを零した。
「そっかぁ、興味がないだけかぁ」
「……ったく、しつこいぞ、お前」
タオルの隙間から唐木をチラリと見遣る。
コイツが何を言っているのかなんて、もちろん理解してる。
ただ、唐木が言った通り、他の人間にはまったく興味が湧かない。
湧くとしたら李煌さんと水泳のことくらいだ。
(……って、そっちは既に湧きまくってんだけどな)
拭き終わったタオルを適当に部活用バッグに押し込む。
「あ、そういえばそろそろ? 六年目」
「……なんだ、覚えてたのか」
僅かに目を見開いて唐木を見る。
「そりゃね。大事な親友のことですから」
と自慢げに胸を反らす親友とやらにプッと軽く噴き出す。
「そいつはどうも。――テストが終わったらまたパーティーやってくれるらしい。本当はもう断りたいんだけどな」
「どうして? 気が引けちゃう?」
「ああ。もう俺も一員なんだし、未だ変に特別扱いされるのって、逆にちょっとな」
「それ、言ってみたら?」
「……いや、あの人――あの人達がやりたいっていうなら、それでもいいかなとも思うんだよ」
(危ねぇ……)
うっかり個人を指すところだった。
「小学校まで向こうの学校だったんだよね?」
「ああ。あと一年ちょいで卒業だったし、俺の友人関係を気にして相見の両親が通わせてくれてたんだ」
少し遠かったが、仲のいい友達に会えていたから苦にはならなかった。
唐木とはこっちの中学で一緒になり、同じ水泳部に入ったことで意気投合した。
俺のすぐ後ろに立った唐木の言葉に、頷くだけの返事を返して、頭の方にずらしていたゴーグルを定位置まで下ろした。
「いきまーす!」
唐木の声に合わせて上体を折り曲げ、右足を後ろに少し引いてクラウチングスタートの体勢を作る。
「よーい、始め!」
静かに、しかし力強く台を蹴って射出した。
着水して、水の中へと体が滑り込む。
そしてドルフィンキックを繰り返し、自然な流れでストロークに繋ぐ。
泳いでいる間は、頭の中がスッキリして嫌なことを忘れられた。
水泳は小学五年生の時に始めた。
そう、両親が他界して少し経った頃だ。
誘ってきたのはその時クラスメイトだった男の子だったと思う。
五十メートル先、折り返し地点でまた力強く壁を蹴る。
息継ぎに顔を上げた時、さっきの二人組の女子が見えた。
ラストスパート、更に加速する。
終わりが見えて、そしてゴールにタッチした。
「――はぁ……、はぁ……」
「相見。お疲れさま。昨日よりタイム縮まってるよ」
ゴーグルを頭に上げて唐木を見上げる。
差し出された手に俺は首を振った。
「悪い、もう一本頼めるか?」
「もちろん。あとで僕のも測ってね」
「ああ」
上げたばかりのゴーグルを下げて、俺はまた水の世界へ身を委ねた。
――……。
「またえらく視線注がれてたね」
「何の話だ?」
「それ、とぼけてるの? それとも素なの?」
「だから、何がだよ」
朝練を終えた俺は、着替えて唐木と一緒に更衣室を出た。
タオルでガシガシと髪を拭きながら歩く隣で、唐木がクスリと意味深な笑みを零した。
「そっかぁ、興味がないだけかぁ」
「……ったく、しつこいぞ、お前」
タオルの隙間から唐木をチラリと見遣る。
コイツが何を言っているのかなんて、もちろん理解してる。
ただ、唐木が言った通り、他の人間にはまったく興味が湧かない。
湧くとしたら李煌さんと水泳のことくらいだ。
(……って、そっちは既に湧きまくってんだけどな)
拭き終わったタオルを適当に部活用バッグに押し込む。
「あ、そういえばそろそろ? 六年目」
「……なんだ、覚えてたのか」
僅かに目を見開いて唐木を見る。
「そりゃね。大事な親友のことですから」
と自慢げに胸を反らす親友とやらにプッと軽く噴き出す。
「そいつはどうも。――テストが終わったらまたパーティーやってくれるらしい。本当はもう断りたいんだけどな」
「どうして? 気が引けちゃう?」
「ああ。もう俺も一員なんだし、未だ変に特別扱いされるのって、逆にちょっとな」
「それ、言ってみたら?」
「……いや、あの人――あの人達がやりたいっていうなら、それでもいいかなとも思うんだよ」
(危ねぇ……)
うっかり個人を指すところだった。
「小学校まで向こうの学校だったんだよね?」
「ああ。あと一年ちょいで卒業だったし、俺の友人関係を気にして相見の両親が通わせてくれてたんだ」
少し遠かったが、仲のいい友達に会えていたから苦にはならなかった。
唐木とはこっちの中学で一緒になり、同じ水泳部に入ったことで意気投合した。
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