嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

627 目標

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 そろそろジャンが起こしに来る時間である。徐々に屋敷の中が人の気配に満ちてくる。アロンと共にローザを厩舎に戻して、部屋に戻る。朝食の時間である。お腹すいた。

「楽しかったですか?」
「ティアン」

 部屋に入るなり、ティアンが尋ねてくる。普段はまだ自室にこもっている時間だ。今日は随分とはやい。俺とアロンがふたりで出かけたのを知っていたから、帰るのを待っていたのだろうか。

「楽しかったよ。馬に乗って散歩した」

 乗馬上手くなったと得意な顔をすれば、ティアンが「それはよかったです」と目を細める。そのうちジャンがやってきて、俺がすでに起きていることにちょっぴり驚いていた。アロンはブルース兄様を起こすと言って出て行った。ブルース兄様は多分もう起きてると思うけど。

『なんでオレ置いて行くの? 一緒に行きたかったぁ。ひどいよぉ』

 足元にまとわりついてくる綿毛ちゃんを抱っこして、椅子に座らせておく。だってアロンが綿毛ちゃんは置いて行こうって言うから。それに綿毛ちゃんは馬に乗れないだろ。

「そういえば今日はカル先生が来るって言ってたな」
「はい」

 俺の独り言にも律儀に頷きを返してくるジャンは、仕事がなくて手持ち無沙汰らしい。普段は俺の着替えを用意したりと慌ただしく動いている時間である。今日は俺が早起きして全部自分でやってしまった。正確にはアロンの手を借りたけど。

 それにしてもカル先生に会うのは久しぶりだ。もちろん授業のためにまだヴィアン家に通ってはいるけど、スピネット子爵家にも赴いているらしく忙しそう。本当は俺もシャノンの授業にお邪魔したいんだけど。俺がヴィアン家のルイスだということは既にスピネット子爵家にバレてしまっている。もう気軽に見学には行けない。

 そういえば新しい見学先ってどうなったんだろうか。なんかカル先生が探してくれるみたいなこと言ってたけど、一向に進展がない。もしかして難しいのだろうか。

 ぼんやり考えながら朝食を済ませる。
 今日はユリスと一緒に食べたけど、相変わらず眠そうにしている。ユリスは朝に弱い。
 
「……ユリス」
「なんだ」
「ユリスって好きな人いるの?」
「はぁ?」

 ティーカップを片手に眉を寄せるユリスは「急になんだ」と冷たい声。だって突然気になってしまったのだ。俺はユリスに色々相談してるのに、ユリスは全然俺に相談してくれない。あと単純にユリスの恋愛に興味がある。ユリスの恋人候補と聞いて真っ先に思い浮かぶのはデニスだ。

「デニスのこと好きなのか?」
「顔だけ」
「ひっど」

 デニスが聞いたら怒る気がする。でも気持ちはちょっとわかってしまう。デニスは可愛い顔してるから、俺も彼の顔だけだったら結構好き。

「タイラーは? 彼女できたか」
「残念ながら」

 タイラーにも話を振ってみるが、そんな憐れな答えが返ってくる。タイラーはずっとユリスの面倒を見ている。恋愛する暇がないのだろう。可哀想に。それを言ったらジャンもそうかもしれないけど。

「みんな恋愛とは無縁なんだね。可哀想」
「ルイスだってたいして変わらないだろ」

 ユリスに冷たく突っ込まれて、グッと息を詰まらせる。たしかに。なんだかんだ言って恋人できたことない。いや、一回だけあるぞ。

「俺、昔デニスと付き合ってたもん」
「あんなの付き合ってたとは言わない」

 俺がまだユリスをやっていた頃の話である。しかしデニスは俺にまったく興味がない。あいつはユリス一筋なのだ。俺と付き合っていたのも、俺が本物ユリスだと誤解していたからで。そう考えるとちゃんとした恋人はいないなぁ。

「なるほど。じゃあ俺もちゃんと彼女作る」
「は?」

 オーガス兄様はキャンベルと恋愛結婚した。ブルース兄様はアリアとなんか利害が一致して結婚した。エリックは政略結婚だったらしいけど、お相手さんとは仲良しだ。小さい頃から何度も顔を合わせていたらしい。

 俺もできれば普通に恋愛結婚がいい。
 だからまずは彼女を作ることを目標にしようと思う。しかしユリスは「無理だろう」と真顔で否定してくる。なにが無理なんだ。

「そもそも出会いの場が皆無だろ」

 なんて嫌なこと言うんだ。でもユリスの指摘通りだ。ちょっぴり悔しい。

「ユリスより先に彼女作ってやる」
「だから無理だろ。というか作るのは彼女でいいのか?」
「うん? てかカル先生来るんだった」

 そろそろ部屋に戻らないと。朝から来ると聞かされている。

 立ち上がる俺に、ティアンが無言で寄ってくる。さりげなく椅子を引いてくれた。

「ティアンは彼女できた?」

 何気なく訊けば、ティアンが動きを止める。タイラーが「え。いるわけないでしょ。え? いないよね?」とティアンにしつこく確認している。なんかよくわかんないけど、ティアンがタイラーにいじられている。

 先輩から彼女いるわけないと断言されるティアンが憐れだ。ニマニマしながらティアンの顔を窺えば、ちょっと雑に頭を撫でられた。

 え? ティアンが俺の頭撫でるなんて珍しくない?

 びっくりして目を見開けば、ティアンが「はいはい。どうせ僕はモテませんよ」と顔を逸らしてしまう。

「……いや、ティアンはモテるでしょ。かっこいいもん」

 俺より背が高いし、黙っていれば爽やかな好青年だ。今では立派な騎士だし、男らしくて普通にモテると思う。

 思ったことを告げただけなのに、不自然に部屋が静まり返る。ユリスとタイラーが、なんだかこっちを見てニヤニヤしている気がする。なんだこの空気。視線を彷徨わせていれば、ティアンが俯いた。

「あ、えっと。はい。ありがとうございます」
「え? う、うん」

 そんなマジな返しをされるとちょっと照れるぞ。ユリスがすっごいニヤニヤしてるのが気になる。よくわからないが俺を揶揄っている。

「もう! なに!?」
「ちょっと。なんですか。痛いですって」

 色々と誤魔化したくなって、ティアンの背中を勢いよく叩いておいた。
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