嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

626 寂しい

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「ちょっと貸して」
「ダメですって」

 ローザの手綱を渡せと粘ってみるが、アロンは一向に譲ってくれない。そのうち右手で手綱を握ったアロンが、左手を俺の腹に回してくる。そのままやんわり両手を押さえ込まれて頬を膨らませる。

「あー、ケチ。アロンのケチ」
「はいはい」

 雑にあしらわれて諦める。
 いつもは徒歩で行く道のりを馬で歩くだけで随分と風景が変わって見える。

「前は、俺と馬に乗るの嫌って言ってませんでしたっけ」

 穏やかな声音に、くすりと笑う。
 そういえばそうだった。クレイグ団長がまだ現役だった頃の話である。乗馬が嫌いだった俺は、アロンとの練習だけは絶対に嫌だと言い張っていた。

 しかし俺はあの時とは違う。
 ひとりで乗馬できるので、アロンと一緒でも問題はない。

「ルイス様」

 前触れなく耳元で囁かれて、肩が跳ねる。
 今、俺はアロンに抱きしめられているような体勢であった。

「なに?」
「朝は静かでいいですね」

 にこりと微笑まれて、ぎこちなく頷いておく。
 たしかに空気が澄んでいる。いつも遠くから聞こえてくる騎士たちの声もなく、本当に静かだ。人の気配がない。

 ゆったり馬を歩かせていれば、お目当ての湖へと到着した。穏やかな水面を眺めていれば、アロンがさっさと馬をおりてしまう。

「はい、どうぞ」

 ようやく手綱を握らせてくれたアロンは、付き添うように隣を歩いてくる。

「ルイス様。随分と上達しましたね」
「練習したからね」

 でも乗り降りする時はいまだにちょっと怖い。湖に沿ってしばらく散歩してみる。

「ローザはアロンと違っておとなしいね」
「だから。その名前は呼ばないでくださいって」
「へへ」

 なんとなくローザを止めて、降りようと奮闘してみる。足が地面に届かないので、どうやって降りればいいのかいまだによくわからない。幸いローザはおとなしいので、途中で振り落とされるようなことはないはずだ。

 しかしどう頑張っても地面が遠い。これは無理かもしれないと早々に諦めてアロンを呼ぶ。

「降りられない」

 俺の宣言に短く笑ったアロンは、俺の両脇の下に手を入れて軽々と降ろしてくれた。

 先日学園を訪れてわかったのだが、どうやら俺は同年代の子たちと比べても小柄らしい。ブルース兄様は背が高いのに、なんで俺とユリスだけ小さいのだろうか。体つきはオーガス兄様に似たのかもしれない。いや、ブルース兄様が勝手に筋肉つけただけだろうか。しかしオーガス兄様が筋トレしたとしても、きっとブルース兄様のようにはなれない気がする。

「ねぇ。俺にも剣教えて」
「え?」

 オーガス兄様はやってないけど、ブルース兄様は剣術を嗜んでいる。俺も最近ちょっぴり興味があったりする。昔はそんなに興味なかったんだけどな。でもなんか剣ってかっこいい。

 わくわくとアロンを見上げるが「それはちょっと」と渋られてしまう。

「なんで」
「ルイス様には向かないですよ」

 そう言って俺の腕を触ってくるアロンは、「まず剣を持てないと思います」と嫌なことを言う。しかし意外と重量のあるものだということは俺も知っている。アロンの言う通り、持てない可能性が高い。

「それにルイス様が剣を使うような場面なんてないですよ。いざという時は真っ先に避難してもらうので」
「ブルース兄様はやってるじゃん」
「あの人のは趣味です。ブルース様だって有事の際は避難しますよ」
「ふーん?」

 たしかに兄様が実戦に出ることはない。巡回などでたまに屋敷を空けることはあるけど、その時だって基本的には騎士たちに守られて指揮を取る立場だ。兄様が自ら剣を振るうような事態にはならないのだろう。仮にそんなことが起これば、それはもうどうしようもない緊急事態だとアロンは言う。

「だからルイス様に剣は必要ありません」

 きっぱり断言するアロンに、ちょっぴり肩を落とす。だが俺もほんの少し興味があるだけで、そこまで真剣に教わりたいわけでもなかった。

 諦めて湖をぼんやり眺めていれば、アロンが無言で隣に並んでくる。

「あのさぁ」
「はい?」
「俺ね、友達できたんだ」

 なんとなくテオドールとカミールのことを話してみる。アロンがいない間に、色々あったのだ。学園見学はそれなりに楽しかった。

「俺もちょっと学園通ってみたかったかもしれない」

 前世では普通に学校に通っていたと思う。もうほとんど覚えていないけど。雰囲気がわかった程度だけど、やっぱり同い年の友達がたくさんできる環境は羨ましいと思う。まぁ、今更遅いんだけどね。

「通えばいいじゃないですか」
「え?」
「あ、でも。ルイス様に寮生活は無理ですから諦めましょう」
「できるよ」
「できませんよ」

 慌てて話を打ち切るアロンは、ルイス様はひとり暮らし無理ですと言葉を重ねてくる。まぁたしかに。なんでもジャンにやってもらう生活にすっかり慣れてしまった感じはある。

「それに俺に会えないとルイス様も寂しいでしょ?」

 悪戯っぽくウインクされて、すんと真顔になる。無言でアロンの足を踏んでやれば、苦笑と共に足を引っ込められてしまう。

「寂しいのはアロンのほうでしょ」

 ちょっと言い返してやれば、アロンが面食らったように一瞬動きを止める。しかしすぐに柔らかく微笑んだアロンは「そうですね」と俺の言葉を肯定してしまった。
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