嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

614 気まずい

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 なんか普通に満喫してしまった。

 テオドールは俺の言うことをよくわからないけど全肯定してくれる。なんか、あれだな。セドリックを前にした時のニックみたいだな。ニックはセドリックの全てをとりあえず肯定している。それもすごい勢いで。テオドールの勢いはちょっとそれに似ている。

 一方のカミールは、時折顔を引きつらせながらも俺の相手をしてくれる。いや、あれは俺に呆れているというより、テオドールに呆れているような感じである。

 午後からヴィアン家に帰宅することになっていた。あまり長居しても伯爵に迷惑だろうから。今頃ジャンが帰り支度をしてくれているはずである。

 名残惜しいが、そろそろテオドールたちともお別れだ。

「いつでも遊びに来ていいよ。俺、たいてい屋敷にいるし」
「いえ、その」

 緩く苦笑するカミールは「畏れ多いです」と意味不明なことを口走る。友達なんだから気軽に遊びに来てくれて構わない。デニスなんて呼ばれてもいないのに勝手にやって来て、ユリスに「結婚して! 責任とって!」といまだに言い続けている。あれはいつまで続くのだろうか。というかデニスの言う責任ってなんの責任なんだろうか。もはやよくわからない。

「俺もまた遊びに来ていい?」

 日帰りは無理なので、気軽に来られる距離ではないのだが。それでもふたりと遊ぶのは楽しかった。小首を傾げて訊ねれば、テオドールが「もちろんです!」と間髪入れずに頷いてくれてホッとする。カミールも小さく頷いている。

 そうして寮に戻るというふたりと別れて、正門へと足を向ける。

「よかったねぇ、坊ちゃん」

 ニマニマしている綿毛ちゃんに笑顔を返して、楽しかったねとティアンを振り返る。

「えぇ。ルイス様が楽しそうでなによりですよ。遠出したかいがありましたね」

 にこやかに言われて、ふと思い出す。そういえば、アロンを探しに来たんだった。決して遊びに来たわけではない。

 真顔で立ち止まる俺に、ティアンが「どうかしました?」と不思議そうに顔を覗き込んでくる。

「……アロンのこと忘れてた」
「やっぱりそうですか? そんな気はしてました」

 苦笑するティアンは「いいんじゃないですか」と無責任なことを言う。

「考えても仕方がないですよ。どこにいるかも不明なのに」
「……うん」

 なんだかしんみりした空気になってしまった。
 気まずくてティアンから視線を逸らしたその瞬間。

「ルイス様!?」
「え?」

 焦ったように名前を呼ばれて前を向いた。そこにはなぜか焦ったように目を見開くブランシェがいた。え、なぜブランシェが!?

 王立騎士団の制服をきっちり着込んでいるブランシェの周りには、同じ制服を着た騎士が数人いる。

「ご無事ですか!」
「え、ご無事? なにが?」

 唐突な確認に、目を瞬く。
 いつの間にか王立騎士団の騎士たちが集まってきている。本当に何事?

 意味がわからず固まる俺をよそに、ブランシェがラッセルを見つけて頭を下げている。「さすが隊長です。まさかこうなることを予見して?」と期待に満ちたような表情を向けている。それにラッセルが引きつった笑みを浮かべて「単なる偶然です」ときっぱり否定している。

「え、なに? なにが偶然なの?」

 きょろきょろする俺の背中に、ティアンがそっと手を添えてきた。ロニーが険しい表情で「なにかありましたか?」とブランシェに問いかけている。緊張の走る面々の中で、俺と綿毛ちゃんだけがきょとんとしている。

「あ、えっと。その」

 困ったように視線を走らせるブランシェは、言ってもいいのか迷うような素振りを見せる。

 相変わらずブルース兄様そっくりな眉間の皺を見つめていれば、集まる騎士たちを割って伯爵が現れた。

「なんでいるの? 仕事忙しいって言ってなかった?」
「これも仕事のうちですよ」

 アロンそっくりの笑みを浮かべた伯爵は「とりあえず今日もうちに泊まるといいですよ」と唐突な提案をしてきた。今日はこのままヴィアン家に帰る予定である。

「下手に動くと危険でしょう。大丈夫。うちには優秀な兵もいますからね。そう簡単には崩れませんよ」

 にこやかに言い放たれた言葉が理解できない。危険とか兵とか。突然どうした。

 俺を置いてけぼりにして、伯爵はブランシェたちと勝手に話を進めてしまう。いわく、今夜は伯爵家にブランシェたち王立騎士団の第三部隊が滞在するという。

「念のためですよ、念のため」

 表情を強張らせる俺に気がついてか。伯爵がそう言って肩をすくめる。いや、念のためと言われても。さすがになにかおかしな事態が生じていることは理解できた。

 ティアンの袖を強く引けば、困ったような視線が返ってくる。口を閉じるティアンに代わって、伯爵が一歩こちらに寄ってきた。いつも飄々としている彼には珍しく、一瞬躊躇うような仕草がみえた。たったそれだけのことに、なんだか血の気が引くような感覚に襲われる。

「どうやらヴィアン家に賊が入ったようで」
「え」

 さらりと告げられた内容が飲み込めなくて。俺は隣にいたティアンに力なく寄りかかってしまった。
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