嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

613 昼食

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「俺の家にも噴水あるよ。大きいよ」

 テオドールに教えてあげれば、「俺も噴水好きです!」と前のめりに言われた。そうなんだ。だがカミールが背後で「嘘つけ」とテオドールの背中を小突いている。どっちなんだろう。

 なんだか綿毛ちゃんから逃げるようにして俺の側にやってきたカミールである。綿毛ちゃん、なんかしたのか? ちらっと背後を確認するけど、綿毛ちゃんはのんびりしている。

 噴水を見た後は、テオドールとカミールが適当に学園を案内してくれた。休みだというのに、そこそこ人の姿がある。

 物珍しい景色に、ついきょろきょろしてしまう。
 学園内は広くて綺麗だ。散歩しているだけで楽しい。

「そろそろお昼にします?」

 食堂の前で足を止めたカミールが、そんな提案をしてくる。

「食べる!」

 ちょうどお腹が減っていた。学食なんて初めてだ。うきうきと足を進める俺に、ティアンが慌てたようについてくる。

 出発前に伯爵が連れて行けといった護衛さんは姿が見えない。遠くから見守っているんだと思う。それにしても気配消すのがうますぎて、本当に同行しているのかちょっと心配になる。

「おすすめは?」

 ぴたりとついてくるテオドールに訊ねれば、なんかハンバーグみたいなのをおすすめされた。でも俺の今の気分はサンドイッチ。「ふーん」と流してサンドイッチを注文しておいた。ティアンが慌てたように「じゃあ僕はそれで」とテオドールおすすめの品を注文している。

 ロニーとラッセルはちょっと離れた席で食べるらしい。こっちで一緒に食べればいいのに。ふたりきりだと可哀想なので、綿毛ちゃんもそっちに追いやっておく。

 寮生活の学生がほとんどらしいので、授業が休みであっても食堂は営業しているらしい。まだお昼前なので人は少なめだが、賑やかな雰囲気があって楽しい。

 俺の隣を陣取ってきたティアン。向かいにはテオドールとカミールがいる。友達とご飯ってテンション上がる。いつもは俺と同じ席につかないはずのティアンも、今日はすんなり隣に座ってくれた。終始にこにこする俺であったが、さっと横から伸びてきた手が俺のサンドイッチをかっさらっていって真顔になる。

「ティアンは自分のあるでしょ!」

 思わず大声を出せば、カミールが驚いたように肩を揺らした。なんかごめん。

 悪びれずに「毒味くらい普通にさせてくれません?」と言い放つティアンに、思わず半眼になってしまう。そんな毒なんて入っているわけないだろ。

 だがティアンは困ったような顔で、離れた席に座るラッセルを窺っている。視線に気が付いたらしいラッセルが、片手を上げて応じている。

「なんか変じゃないですか? あの人」

 自分のご飯に手をつけ始めるティアンがそんなことを言う。

「ラッセルはいつも変だよ」
「それはそうですけど」

 顔はいいのに、挙動がちょいちょいおかしいのだ。それを否定しないティアンは、「まぁいいです」と話を打ち切ってしまう。そんなにおかしなところないけどな。ラッセルは今日も朝からにこにこして全力で忖度している。

 しかしティアンの目から見ると、何か普段と異なるところがあるらしい。

「ティアンさーん」

 気にせずサンドイッチを頬張っていれば、ラッセルたちと一緒にいたはずの綿毛ちゃんがやってくる。綿毛ちゃんが近くに来るたびに、なぜかカミールが身構えてしまう。綿毛ちゃんは背が高いからビビッているのかもしれない。

「聞いてぇ。オレ、向こう行けって言われたぁ。ひどいよぉ」
「嘘つかないで。ロニーとラッセルはそんなこと言わないもん」
「言われたもーん」

 ロニーとラッセルに追い出されたと明らかな嘘をつく毛玉はどういうつもりなのだろうか。優しいロニーがそんなこと言うわけない。

「ロニーの悪口言うな!」
「坊ちゃんまでひどい。本当に言われたもん」

 ぐちぐち文句を垂れる綿毛ちゃんは、ティアンの肩を叩いて「ロニーさんが呼んでるよ」と向こうを指差した。追い出されたわけではなく、ティアンを呼んでこいと頼まれただけじゃん。嘘つき毛玉め。

 慌てて立ち上がるティアンを見送って、綿毛ちゃんが入れ替わりでそこに座る。

「これ食べてもいいかな?」

 ティアンのご飯が狙われている。
 だがティアンには俺のサンドイッチを奪い取った恨みがある。「食べていいよ」と綿毛ちゃんの背中を叩けば、お気楽毛玉は「やったぁ」と遠慮なく食べてしまう。

 変な顔したカミールと目が合ってしまう。俺の悪行を告げ口されるとまずい。唇の前に人差し指を立てて「ティアンには内緒だよ」と口止めしておく。顔を赤くして頷く彼は、必死な様子でご飯を食べ始めてしまう。そんなにお腹空いてたの?

「なんかねぇ、大事な話があるんだって」
「ふーん」

 声は聞こえないが、なにやら真剣に顔を突き合わせるラッセルとティアンの姿が見える。ロニーも険しい表情だ。なにかあったんだろうか。

 もしかしてマジで学園側からクレームでも入った? 騒ぎすぎたかもしれない。

 しゅんと肩を落とす俺に、テオドールが不思議そうに首を傾げている。

「どうかしましたか?」
「うーん。なんかごめんね」
「え?」

 きょとんとするテオドール。カミールも不思議そうにしている。

「なんか強引に付き合ってもらって。でも楽しかった」

 へへっと笑えば、テオドールが「俺も楽しいです!」と言ってくれる。ほんと? だったらいいけど。カミールも楽しいと言ってくれた。お世辞でもなんだか嬉しい。

「次は俺の家に遊びに来てよ。ユリス紹介してあげる」
「はい! よろこんで!」

 元気のいいテオドールに続いて、カミールも控えめに「はい」と微笑んでくれた。俺の友達。みんなにも紹介してあげたい。
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