嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

585 情報屋

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「しっかりしろ! ユリス!」
「うるさい」

 今日はついにティアンの家にお出かけだ。
 朝からわくわくする俺とは対照的に、ユリスはすごく面倒な顔をしていた。どうやら本音では外出したくないらしい。なんて奴。あれだけ自分も連れて行けと騒いでおいて。

 ティアンの別邸はうちから歩いていける距離なのだが、ユリスが歩きたくないと我儘言うので馬車で行くことになった。

 いそいそと泊まりの準備をする俺に、ユリスが「泊まらないからな」と顔を顰めていた。なにがあるかわからないから。着替えだけでも持っていこうと思う。どうせ馬車だし。

「オーガス兄様も行く?」
「行かないよ。僕はすごく忙しいから」

 忙しいアピールしてくる長男は、けれどもぼんやりと窓の外を眺めていた。時折「仕事辞めたい」と呟いている。やる気のなさが見て取れる。

「ティアンに迷惑かけたらダメだよ」
「うん」
「危ないことはしないでね」
「うん」
「あとユリスから目を離さないでね」
「うん」
「ちゃんと聞いてる?」

 聞いてるだろ。律儀に相槌を打っているのに、オーガス兄様は疑いの目を向けてくる。そんなオーガス兄様は、先程ユリスにも「ルイスから目を離さないでね」と頼み込んでいたことを俺は知っている。ユリスは無視していたけど。

「綿毛ちゃんをティアンに見せる」
『ティアンさんはオレのこと毎日見てるよ』

 そんなことはない。ここ数日ティアンとは会っていないから。毛玉を見せたら喜ぶと思う。

 ティアンがいなかったのは別邸の片付けをする二日程であったが、すごく久しぶりに会うような気がする。ティアンがいないと俺の周りが静かになるかもと思っていたのだが、アロンが頻繁に顔を出していたので静かではなかった。むしろうるさかった。

 オーガス兄様に手を振って、玄関に向かう。そこにはブルース兄様がいた。

「気を付けて行ってこいよ」
「うんうん」
「聞いてんのか?」

 なんでみんな疑うのか。ちゃんと聞いている。

 ジャンが荷物を持っていることを確認して、ブルース兄様を振り返る。

「エリスちゃんのお世話。ちゃんとやっといてね」
「はいはい」

 エリスちゃんはお留守番である。俺はユリスの面倒を見ないといけないので、エリスちゃんのお世話をしている暇がないのだ。ちゃんとご飯とおやつあげてね! とブルース兄様にお願いしておく。

 大きく欠伸をしながら階段を下りてきたユリスは、横目でブルース兄様を確認すると無言で馬車に乗り込もうとする。それを引き止める兄様は、眉間に皺を寄せていた。

「ユリス。おまえも気を付けて行ってこい」
「……」
「聞いてんのか?」

 多分ユリスは聞いていない。ポケットに手を突っ込んで怠そうに佇むユリスは欠伸をかみ殺している。

「ティアンに迷惑かけるんじゃないぞ。おい、ユリス。聞いてるのか?」
「……」

 無反応なユリスに、ブルース兄様がため息を吐く。

 そうして馬車に乗り込んだ俺とユリスは、綿毛ちゃんを囲んでなでなでしていた。そのうちユリスが綿毛ちゃんの角を引っ張り始めた。綿毛ちゃんが『やめてぇ』と言うがユリスはやめない。しれっと馬車に同乗していたアロンが面白そうに眺めている。

 ジャンとタイラーは馬で並走している。目立たないよう小さい馬車にしたからな。

「綿毛ちゃんはいつになったら大きくなるの?」
『ならないよ。オレは小さい方が可愛いもんね』

 へらへらする毛玉をぐしゃぐしゃに撫でて、ユリスの膝に乗せてあげる。一生懸命に角を掴むユリスは忙しそうなので、隣にいたアロンの肩を叩く。

「ねー。あのクソピアスの名前なんていうの?」
「知りません」

 すっとぼけるアロンは誤魔化すように俺の頭を撫でてくる。友達なのに知らないわけないだろう。アロンはおそらく俺とあのクソピアスが仲良くなるのが嫌なのだろう。まったく彼に関する情報を教えてくれない。

「どうやったら情報屋になれるの?」
「そんなこと聞いてどうするんですか」
「俺もなる。情報屋」
「え?」

 目を見開くアロンの代わりに、ユリスが「無理だろ」と口を挟んできた。なにが無理なんだ。

「綿毛ちゃんの情報を売ろう」
『ひぇ。オレの個人情報がピンチ』

 震える毛玉をゆさゆさ揺らして、ユリスが「おまえの情報なんて端金にもならない」と酷いことを言っている。お喋りする犬だぞ。珍しいだろうが。

「いくらで売れるかな」

 わくわくする俺に、アロンが俯いて肩を震わせている。なに笑ってんだ。失礼なアロンの肩をえいっと押してやる。

 けれども逆に腕を掴まれてしまった。

「ルイス様」
「ん」
「ルイス様の情報だったら俺がいくらでも買いますよ」

 なんだって。
 ちょっと考えていれば、ユリスが「僕は買わない」と余計な口を挟んでくる。

「あ、だが」

 しかしすぐに考え直すように言葉を切ったユリスは、俺に綿毛ちゃんを渡してくる。

「ルイスが前にいた世界とやらの情報だったら買ってやる」
「ほほう」

 つまり俺の前世に興味があるってわけか。でも残念。もうあんまり覚えてない。そう伝えれば、ユリスが「そうか」とちょっと悔しそうな顔をした。
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