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16歳
575 無神経
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「……ま、いいですよ」
意外にも先に会話を終わらせたのはアロンであった。唐突に顔を背けた彼は、「んなことより」と悪戯っぽい笑みを浮かべる。
その無理矢理に話題を変えるような姿勢に驚きつつも、内心ではほっとしてしまう。
「せっかくティアンがいないんですから。なんか面白いことやりましょうよ」
アロンにのせられて余計なことをするなというティアンの言葉を思い出して、思わずふふっと笑ってしまう。綿毛ちゃんは尻尾を振って『いいねぇ!』と賑やかだ。
「なにする?」
綿毛ちゃんを抱っこしてアロンの隣に並べば、彼はそのまま二階へと向かう。ついていけば、彼はブルース兄様の部屋の前で立ち止まった。
「ブルース様。俺ちょっと出かけてくるんで」
「は?」
ドアを少しだけ開いて中を覗いたアロンは、一方的に告げて会話を終わらせてしまう。中から兄様の「おい! 勝手なことするな」という怒鳴り声が聞こえてくるけど、アロンは一切気にしない。ドアを閉じて満足そうに「これで大丈夫ですね」と頷いている。なにが大丈夫なのだろうか。
「行きましょう、ルイス様」
「お出かけ?」
兄様に出かけてくると言っていた。期待してアロンを見上げれば、「え? 出かけます?」とのとぼけた反応。どうやら仕事をサボる口実として言ってみただけらしい。
しょんぼりしていれば、アロンが笑った。
「いいですよ。どこか行きましょうか」
「やった!」
手をあげて喜べば、綿毛ちゃんが『わー』と言いながら着地する。
『急に手を離さないで。びっくりするよ』
「ごめん」
『いいよいいよ。オレ運動神経はいいからねぇ』
「その短い足で?」
『短くないもん!』
ふんふん怒る綿毛ちゃんは、どう見ても足が短い。犬だから仕方がないと思う。綿毛ちゃんは毛がもさもさだからちょっと丸いけど、水に濡れると細くなる。だから太っているというわけではない。なんか太って見えるけど。
「どこに行くの?」
「どこでもいいですよ」
にこにこするアロンとは対照的に、ジャンが「え」と困った顔をしている。ティアンもいないのに勝手にお出かけしていいのか迷っているらしい。なんかそのままブルース兄様に報告してしまいそうな雰囲気だったので、慌てて引き留める。
「ブルース兄様には言わなくていいよ」
「ですが」
眉を寄せるジャンに、アロンが「そうそう」と大きく頷く。
「俺がいるから大丈夫だって。ま、言ってもいいけど」
そう呟くなり、アロンは再びブルース兄様の部屋に向かう。またもやドアをちょっとだけ開けたアロンは、「ルイス様も一緒に連れて行きまーす」と一方的に告げてドアを閉めてしまった。中から兄様の「あ!?」という物騒な大声が聞こえてくる。
バタバタと音がして、ブルース兄様が部屋から出てきそうな気配を察知した。するとアロンがドアノブを押さえるという地味な嫌がらせを始めた。
まわらないノブに、兄様が「おいこら!」と怒鳴っている。
ようやく廊下に出てきたブルース兄様は、アロンを睨みつけて「変なことをするな」と吐き捨てた。「え? 俺なにかしました?」とすっとぼけるアロンはすごい。
「どこに行くんだ」
ブルース兄様に聞かれて、首を傾げる。
「まだ決まってない」
「なんだそれ」
呆れたと額を押さえる兄様は、「勝手なことをするな」とアロンに突っかかっている。このままではお出かけダメと言われそう。ピンチを感じた俺は、兄様に「大丈夫だよ」と声をかける。
「遠くにはいかない。ちょっとそこまで」
『オレも一緒だから大丈夫だよ』
綿毛ちゃんが一緒でなんの役に立つのかは謎であるが、素早く頷いておく。眉を寄せた兄様も、綿毛ちゃんの活用方法がわからなかったのだろう。
しかし顎に手をやったブルース兄様は、仕方がないと息を吐く。
「目的がないなら俺に付き合え。ちょっと街まで行きたいんだ」
「え! いいの!?」
やったぁと手をあげて喜ぶ俺に、アロンが「はぁ?」と不満をあらわにした。
「なんで俺とルイス様のデートについてくるんですか。無神経ですよ」
デートなの?
びっくりして目を見開けば、ブルース兄様が咳き込んだ。綿毛ちゃんも『デートなの? でもオレも一緒に行く』とにこにこしている。
違うから。綿毛ちゃんはなんでも鵜呑みにするからダメだ。
ブルース兄様がちょっぴり怒ったような声で「冗談も程々にしておけ」と偉そうに腕を組む。
「冗談じゃなくて本気なのですが」
ね? と俺に問いかけてくるアロン。俺に訊かれても。
あわあわする俺は、ジャンの背中に隠れる。前に押し出されたジャンが、なんとも言えない表情で両手を上げた。なにその降参ポーズ。
その様子を小さく笑いながら見守るアロンは性格が悪い。アロンは昔から性格が悪かった。
舌打ちしたブルース兄様が、「ちょっと上着をとってくる」と部屋に引っ込む。それに便乗して「俺も!」とジャンの腕を引いて階段を駆け下りた。
「玄関で待ってますね!」
そんなアロンの上機嫌な声が背中にかけられる。綿毛ちゃんが『わかった!』と大声で返事しているけど、アロンは「君は誘ってない!」と酷いことを言い始めた。毛玉も仲間に入れてやれよ。
意外にも先に会話を終わらせたのはアロンであった。唐突に顔を背けた彼は、「んなことより」と悪戯っぽい笑みを浮かべる。
その無理矢理に話題を変えるような姿勢に驚きつつも、内心ではほっとしてしまう。
「せっかくティアンがいないんですから。なんか面白いことやりましょうよ」
アロンにのせられて余計なことをするなというティアンの言葉を思い出して、思わずふふっと笑ってしまう。綿毛ちゃんは尻尾を振って『いいねぇ!』と賑やかだ。
「なにする?」
綿毛ちゃんを抱っこしてアロンの隣に並べば、彼はそのまま二階へと向かう。ついていけば、彼はブルース兄様の部屋の前で立ち止まった。
「ブルース様。俺ちょっと出かけてくるんで」
「は?」
ドアを少しだけ開いて中を覗いたアロンは、一方的に告げて会話を終わらせてしまう。中から兄様の「おい! 勝手なことするな」という怒鳴り声が聞こえてくるけど、アロンは一切気にしない。ドアを閉じて満足そうに「これで大丈夫ですね」と頷いている。なにが大丈夫なのだろうか。
「行きましょう、ルイス様」
「お出かけ?」
兄様に出かけてくると言っていた。期待してアロンを見上げれば、「え? 出かけます?」とのとぼけた反応。どうやら仕事をサボる口実として言ってみただけらしい。
しょんぼりしていれば、アロンが笑った。
「いいですよ。どこか行きましょうか」
「やった!」
手をあげて喜べば、綿毛ちゃんが『わー』と言いながら着地する。
『急に手を離さないで。びっくりするよ』
「ごめん」
『いいよいいよ。オレ運動神経はいいからねぇ』
「その短い足で?」
『短くないもん!』
ふんふん怒る綿毛ちゃんは、どう見ても足が短い。犬だから仕方がないと思う。綿毛ちゃんは毛がもさもさだからちょっと丸いけど、水に濡れると細くなる。だから太っているというわけではない。なんか太って見えるけど。
「どこに行くの?」
「どこでもいいですよ」
にこにこするアロンとは対照的に、ジャンが「え」と困った顔をしている。ティアンもいないのに勝手にお出かけしていいのか迷っているらしい。なんかそのままブルース兄様に報告してしまいそうな雰囲気だったので、慌てて引き留める。
「ブルース兄様には言わなくていいよ」
「ですが」
眉を寄せるジャンに、アロンが「そうそう」と大きく頷く。
「俺がいるから大丈夫だって。ま、言ってもいいけど」
そう呟くなり、アロンは再びブルース兄様の部屋に向かう。またもやドアをちょっとだけ開けたアロンは、「ルイス様も一緒に連れて行きまーす」と一方的に告げてドアを閉めてしまった。中から兄様の「あ!?」という物騒な大声が聞こえてくる。
バタバタと音がして、ブルース兄様が部屋から出てきそうな気配を察知した。するとアロンがドアノブを押さえるという地味な嫌がらせを始めた。
まわらないノブに、兄様が「おいこら!」と怒鳴っている。
ようやく廊下に出てきたブルース兄様は、アロンを睨みつけて「変なことをするな」と吐き捨てた。「え? 俺なにかしました?」とすっとぼけるアロンはすごい。
「どこに行くんだ」
ブルース兄様に聞かれて、首を傾げる。
「まだ決まってない」
「なんだそれ」
呆れたと額を押さえる兄様は、「勝手なことをするな」とアロンに突っかかっている。このままではお出かけダメと言われそう。ピンチを感じた俺は、兄様に「大丈夫だよ」と声をかける。
「遠くにはいかない。ちょっとそこまで」
『オレも一緒だから大丈夫だよ』
綿毛ちゃんが一緒でなんの役に立つのかは謎であるが、素早く頷いておく。眉を寄せた兄様も、綿毛ちゃんの活用方法がわからなかったのだろう。
しかし顎に手をやったブルース兄様は、仕方がないと息を吐く。
「目的がないなら俺に付き合え。ちょっと街まで行きたいんだ」
「え! いいの!?」
やったぁと手をあげて喜ぶ俺に、アロンが「はぁ?」と不満をあらわにした。
「なんで俺とルイス様のデートについてくるんですか。無神経ですよ」
デートなの?
びっくりして目を見開けば、ブルース兄様が咳き込んだ。綿毛ちゃんも『デートなの? でもオレも一緒に行く』とにこにこしている。
違うから。綿毛ちゃんはなんでも鵜呑みにするからダメだ。
ブルース兄様がちょっぴり怒ったような声で「冗談も程々にしておけ」と偉そうに腕を組む。
「冗談じゃなくて本気なのですが」
ね? と俺に問いかけてくるアロン。俺に訊かれても。
あわあわする俺は、ジャンの背中に隠れる。前に押し出されたジャンが、なんとも言えない表情で両手を上げた。なにその降参ポーズ。
その様子を小さく笑いながら見守るアロンは性格が悪い。アロンは昔から性格が悪かった。
舌打ちしたブルース兄様が、「ちょっと上着をとってくる」と部屋に引っ込む。それに便乗して「俺も!」とジャンの腕を引いて階段を駆け下りた。
「玄関で待ってますね!」
そんなアロンの上機嫌な声が背中にかけられる。綿毛ちゃんが『わかった!』と大声で返事しているけど、アロンは「君は誘ってない!」と酷いことを言い始めた。毛玉も仲間に入れてやれよ。
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