嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

574 お見送り

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「じゃあ、僕はちょっと行ってきますので」
「ばいばい! 美味しいお菓子用意しておけよ」
「だから。もてなしの要求はやめてください」

 朝から別邸に行くというティアンをお見送りする。歩いて帰るというので、玄関先までお見送りする。

 猫を抱えて手を振れば、ティアンが「綿毛ちゃんは?」と不思議そうな顔をした。

「部屋で寝てる。毛玉は遅起きだから」
「いい加減起こしてきたらどうですか?」
「可哀想だから起こさない。毛玉はお疲れだから」

 ね? とエリスちゃんを見下ろせば「にゃあ」と小さい声が返ってきた。かわいい。

「猫は可愛いな。やっぱり犬より可愛い!」

 エリスちゃんをなでなでしていれば、ティアンがじっと俺を見つめてくる。その視線から逃れるように猫を顔の前に掲げれば、ティアンが「なにか変なことを企んでいませんか?」と鋭い質問をしてきた。

 ギクッと肩を揺らす俺。
 そのまま猫を掲げて逃げようとするが、ティアンが退路を邪魔するようにまわり込んでくる。

「はやく片付けしてこい!」

 ビシッと外を指差せば、ティアンが「ちょっと」と眉を寄せた。

「なにをしたんですか。綿毛ちゃんをいじめたらダメですよ」
「いじめてないもん」

 なんで俺が悪いと決めつけるのか。
 むすっと頬を膨らませれば、ティアンがジャンを確認する。

「変なことさせないでくださいよ」

 苦笑するジャンは「大丈夫ですよ」と応じている。そうだな。俺は大人だからな。ティアンがいなくても大丈夫。

「ほら。荷物忘れてるよ」

 玄関先に置かれている大きなバッグを指差せば、ティアンが肩をすくめた。

「僕がいないからって妙なことやったらダメですよ」
「やんないよ」
「アロン殿にのせられて変なことしないでくださいね」
「それはアロンに言って」
「ちょっと」

 目を細めるティアンは、ため息を吐くとバッグに手を伸ばした。そうして持ち上げた彼は「ん?」と顔をしかめる。

「なんか重」
「はやく行きなよ! 片付けの時間なくなるよ!」

 急げぇとティアンの背中を押すが、「いやいや。なんか重いんですけど」とバッグに手を掛け始める。これはまずい。

 そうして勢いよくバッグを開けたティアン。目に飛び込んできたのは、灰色もふもふだった。

「……」
『あ。バレちゃった』

 えへへと笑う綿毛ちゃん。
 この野郎。あっさりバレやがって。

 半眼になるティアンから、そろそろと離れる。

 けれども俺が部屋に駆け戻るよりもはやくティアンが腕を掴んできた。

「なんですか、これ!」
「綿毛ちゃん」
「やっぱり変なことしてる!」
「してないよ。綿毛ちゃんがどうしても行きたいって我儘言うから」

 バッグの中で丸くなる綿毛ちゃんをティアンが引っ張り出している。その様子を眺めながら、猫をなでなでする。

「犬はダメだな。役に立たない。ね、エリスちゃん」
「にゃー」
『ひどいよぉ』

 もにょもにょ言っている綿毛ちゃんは、ティアンの手によって床に下ろされた。体を振って自力で毛並みを整えようとしている。

「だってティアンが怪しいから!」
「怪しくないです」
「怪しいもん! 急に片付けとか怪しいもん!」
「片付けくらいさせてくださいよ」

 呆れた顔のティアンは、綿毛ちゃんを撫でて毛並みを整えてあげている。あとでジャンが綺麗にするから放っておいていいのに。

 俺の作戦では、ティアンのバッグにこっそり綿毛ちゃんを押し込めてティアンの様子を見に行かせようと思っていたのに。毛玉も結構乗り気だった。『任せてよぉ』と得意な顔で尻尾を振っていた。

「綿毛ちゃんめ! なにやってるんだ」
『ごめんねぇ。失敗しちゃった』

 へらへら笑う綿毛ちゃんと俺を見比べて、ティアンが額を押さえている。なんだその疲れた顔は。

「もう他に妙なことやってないですよね?」
「やってないよ」

 疑いの目を向けてくるティアンから、ふいと顔を背ける。

「悪戯も程々にしてくださいね」
「悪戯なんてしてないし」

 言いがかりだと抗議するが、ティアンは涼しい顔で流してしまう。

 そうしてティアンに大きく手を振ってお見送りすれば、どこからともなくアロンが姿を現した。相変わらず突然出てくる男である。ジャンがちょっとびっくりしていた。

「ティアン行きました?」
「うん」
「じゃあ今日は俺と一緒にいますか?」

 にこりと綺麗な笑みを浮かべるアロンに、思わず頷いてからはっとする。そんな一瞬の迷いを察知したのだろう。アロンが眉を寄せた。

「この間から。ルイス様、ちょっと変ですよ」
「そ、んなこと」
「いいえ。変です。俺のこと避けてます?」

 そんな真正面から訊く?
 猫をぎゅっと抱きしめれば、綿毛ちゃんが『おわぁ』と妙な声を発した。それを無視して、アロンが俺の顔を覗き込もうとしてくる。またもや猫を掲げてガードするが、アロンは容赦がない。こいつに遠慮を期待するだけ無駄だった。

 俺の手からあっさり猫を奪い取ると、自然な動作でジャンに渡してしまう。途端に無防備になった俺は、慌てて綿毛ちゃんを抱っこしようとするがこれも邪魔をされてしまった。

「……俺、なんかしました?」

 若干困ったように頬をかくアロンに、口を閉ざす。別にアロンがなにかしたわけではない。俺が悩んでいるのは、アロンのお父さんとの取引だ。

 ぎゅっと眉間に力を込めれば、アロンが「なんでそんな顔するんですか」と己の首筋に手をやった。その困惑したような仕草に、ますます俺は情けなく眉尻を下げた。
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