540 / 930
16歳
574 お見送り
しおりを挟む
「じゃあ、僕はちょっと行ってきますので」
「ばいばい! 美味しいお菓子用意しておけよ」
「だから。もてなしの要求はやめてください」
朝から別邸に行くというティアンをお見送りする。歩いて帰るというので、玄関先までお見送りする。
猫を抱えて手を振れば、ティアンが「綿毛ちゃんは?」と不思議そうな顔をした。
「部屋で寝てる。毛玉は遅起きだから」
「いい加減起こしてきたらどうですか?」
「可哀想だから起こさない。毛玉はお疲れだから」
ね? とエリスちゃんを見下ろせば「にゃあ」と小さい声が返ってきた。かわいい。
「猫は可愛いな。やっぱり犬より可愛い!」
エリスちゃんをなでなでしていれば、ティアンがじっと俺を見つめてくる。その視線から逃れるように猫を顔の前に掲げれば、ティアンが「なにか変なことを企んでいませんか?」と鋭い質問をしてきた。
ギクッと肩を揺らす俺。
そのまま猫を掲げて逃げようとするが、ティアンが退路を邪魔するようにまわり込んでくる。
「はやく片付けしてこい!」
ビシッと外を指差せば、ティアンが「ちょっと」と眉を寄せた。
「なにをしたんですか。綿毛ちゃんをいじめたらダメですよ」
「いじめてないもん」
なんで俺が悪いと決めつけるのか。
むすっと頬を膨らませれば、ティアンがジャンを確認する。
「変なことさせないでくださいよ」
苦笑するジャンは「大丈夫ですよ」と応じている。そうだな。俺は大人だからな。ティアンがいなくても大丈夫。
「ほら。荷物忘れてるよ」
玄関先に置かれている大きなバッグを指差せば、ティアンが肩をすくめた。
「僕がいないからって妙なことやったらダメですよ」
「やんないよ」
「アロン殿にのせられて変なことしないでくださいね」
「それはアロンに言って」
「ちょっと」
目を細めるティアンは、ため息を吐くとバッグに手を伸ばした。そうして持ち上げた彼は「ん?」と顔をしかめる。
「なんか重」
「はやく行きなよ! 片付けの時間なくなるよ!」
急げぇとティアンの背中を押すが、「いやいや。なんか重いんですけど」とバッグに手を掛け始める。これはまずい。
そうして勢いよくバッグを開けたティアン。目に飛び込んできたのは、灰色もふもふだった。
「……」
『あ。バレちゃった』
えへへと笑う綿毛ちゃん。
この野郎。あっさりバレやがって。
半眼になるティアンから、そろそろと離れる。
けれども俺が部屋に駆け戻るよりもはやくティアンが腕を掴んできた。
「なんですか、これ!」
「綿毛ちゃん」
「やっぱり変なことしてる!」
「してないよ。綿毛ちゃんがどうしても行きたいって我儘言うから」
バッグの中で丸くなる綿毛ちゃんをティアンが引っ張り出している。その様子を眺めながら、猫をなでなでする。
「犬はダメだな。役に立たない。ね、エリスちゃん」
「にゃー」
『ひどいよぉ』
もにょもにょ言っている綿毛ちゃんは、ティアンの手によって床に下ろされた。体を振って自力で毛並みを整えようとしている。
「だってティアンが怪しいから!」
「怪しくないです」
「怪しいもん! 急に片付けとか怪しいもん!」
「片付けくらいさせてくださいよ」
呆れた顔のティアンは、綿毛ちゃんを撫でて毛並みを整えてあげている。あとでジャンが綺麗にするから放っておいていいのに。
俺の作戦では、ティアンのバッグにこっそり綿毛ちゃんを押し込めてティアンの様子を見に行かせようと思っていたのに。毛玉も結構乗り気だった。『任せてよぉ』と得意な顔で尻尾を振っていた。
「綿毛ちゃんめ! なにやってるんだ」
『ごめんねぇ。失敗しちゃった』
へらへら笑う綿毛ちゃんと俺を見比べて、ティアンが額を押さえている。なんだその疲れた顔は。
「もう他に妙なことやってないですよね?」
「やってないよ」
疑いの目を向けてくるティアンから、ふいと顔を背ける。
「悪戯も程々にしてくださいね」
「悪戯なんてしてないし」
言いがかりだと抗議するが、ティアンは涼しい顔で流してしまう。
そうしてティアンに大きく手を振ってお見送りすれば、どこからともなくアロンが姿を現した。相変わらず突然出てくる男である。ジャンがちょっとびっくりしていた。
「ティアン行きました?」
「うん」
「じゃあ今日は俺と一緒にいますか?」
にこりと綺麗な笑みを浮かべるアロンに、思わず頷いてからはっとする。そんな一瞬の迷いを察知したのだろう。アロンが眉を寄せた。
「この間から。ルイス様、ちょっと変ですよ」
「そ、んなこと」
「いいえ。変です。俺のこと避けてます?」
そんな真正面から訊く?
猫をぎゅっと抱きしめれば、綿毛ちゃんが『おわぁ』と妙な声を発した。それを無視して、アロンが俺の顔を覗き込もうとしてくる。またもや猫を掲げてガードするが、アロンは容赦がない。こいつに遠慮を期待するだけ無駄だった。
俺の手からあっさり猫を奪い取ると、自然な動作でジャンに渡してしまう。途端に無防備になった俺は、慌てて綿毛ちゃんを抱っこしようとするがこれも邪魔をされてしまった。
「……俺、なんかしました?」
若干困ったように頬をかくアロンに、口を閉ざす。別にアロンがなにかしたわけではない。俺が悩んでいるのは、アロンのお父さんとの取引だ。
ぎゅっと眉間に力を込めれば、アロンが「なんでそんな顔するんですか」と己の首筋に手をやった。その困惑したような仕草に、ますます俺は情けなく眉尻を下げた。
「ばいばい! 美味しいお菓子用意しておけよ」
「だから。もてなしの要求はやめてください」
朝から別邸に行くというティアンをお見送りする。歩いて帰るというので、玄関先までお見送りする。
猫を抱えて手を振れば、ティアンが「綿毛ちゃんは?」と不思議そうな顔をした。
「部屋で寝てる。毛玉は遅起きだから」
「いい加減起こしてきたらどうですか?」
「可哀想だから起こさない。毛玉はお疲れだから」
ね? とエリスちゃんを見下ろせば「にゃあ」と小さい声が返ってきた。かわいい。
「猫は可愛いな。やっぱり犬より可愛い!」
エリスちゃんをなでなでしていれば、ティアンがじっと俺を見つめてくる。その視線から逃れるように猫を顔の前に掲げれば、ティアンが「なにか変なことを企んでいませんか?」と鋭い質問をしてきた。
ギクッと肩を揺らす俺。
そのまま猫を掲げて逃げようとするが、ティアンが退路を邪魔するようにまわり込んでくる。
「はやく片付けしてこい!」
ビシッと外を指差せば、ティアンが「ちょっと」と眉を寄せた。
「なにをしたんですか。綿毛ちゃんをいじめたらダメですよ」
「いじめてないもん」
なんで俺が悪いと決めつけるのか。
むすっと頬を膨らませれば、ティアンがジャンを確認する。
「変なことさせないでくださいよ」
苦笑するジャンは「大丈夫ですよ」と応じている。そうだな。俺は大人だからな。ティアンがいなくても大丈夫。
「ほら。荷物忘れてるよ」
玄関先に置かれている大きなバッグを指差せば、ティアンが肩をすくめた。
「僕がいないからって妙なことやったらダメですよ」
「やんないよ」
「アロン殿にのせられて変なことしないでくださいね」
「それはアロンに言って」
「ちょっと」
目を細めるティアンは、ため息を吐くとバッグに手を伸ばした。そうして持ち上げた彼は「ん?」と顔をしかめる。
「なんか重」
「はやく行きなよ! 片付けの時間なくなるよ!」
急げぇとティアンの背中を押すが、「いやいや。なんか重いんですけど」とバッグに手を掛け始める。これはまずい。
そうして勢いよくバッグを開けたティアン。目に飛び込んできたのは、灰色もふもふだった。
「……」
『あ。バレちゃった』
えへへと笑う綿毛ちゃん。
この野郎。あっさりバレやがって。
半眼になるティアンから、そろそろと離れる。
けれども俺が部屋に駆け戻るよりもはやくティアンが腕を掴んできた。
「なんですか、これ!」
「綿毛ちゃん」
「やっぱり変なことしてる!」
「してないよ。綿毛ちゃんがどうしても行きたいって我儘言うから」
バッグの中で丸くなる綿毛ちゃんをティアンが引っ張り出している。その様子を眺めながら、猫をなでなでする。
「犬はダメだな。役に立たない。ね、エリスちゃん」
「にゃー」
『ひどいよぉ』
もにょもにょ言っている綿毛ちゃんは、ティアンの手によって床に下ろされた。体を振って自力で毛並みを整えようとしている。
「だってティアンが怪しいから!」
「怪しくないです」
「怪しいもん! 急に片付けとか怪しいもん!」
「片付けくらいさせてくださいよ」
呆れた顔のティアンは、綿毛ちゃんを撫でて毛並みを整えてあげている。あとでジャンが綺麗にするから放っておいていいのに。
俺の作戦では、ティアンのバッグにこっそり綿毛ちゃんを押し込めてティアンの様子を見に行かせようと思っていたのに。毛玉も結構乗り気だった。『任せてよぉ』と得意な顔で尻尾を振っていた。
「綿毛ちゃんめ! なにやってるんだ」
『ごめんねぇ。失敗しちゃった』
へらへら笑う綿毛ちゃんと俺を見比べて、ティアンが額を押さえている。なんだその疲れた顔は。
「もう他に妙なことやってないですよね?」
「やってないよ」
疑いの目を向けてくるティアンから、ふいと顔を背ける。
「悪戯も程々にしてくださいね」
「悪戯なんてしてないし」
言いがかりだと抗議するが、ティアンは涼しい顔で流してしまう。
そうしてティアンに大きく手を振ってお見送りすれば、どこからともなくアロンが姿を現した。相変わらず突然出てくる男である。ジャンがちょっとびっくりしていた。
「ティアン行きました?」
「うん」
「じゃあ今日は俺と一緒にいますか?」
にこりと綺麗な笑みを浮かべるアロンに、思わず頷いてからはっとする。そんな一瞬の迷いを察知したのだろう。アロンが眉を寄せた。
「この間から。ルイス様、ちょっと変ですよ」
「そ、んなこと」
「いいえ。変です。俺のこと避けてます?」
そんな真正面から訊く?
猫をぎゅっと抱きしめれば、綿毛ちゃんが『おわぁ』と妙な声を発した。それを無視して、アロンが俺の顔を覗き込もうとしてくる。またもや猫を掲げてガードするが、アロンは容赦がない。こいつに遠慮を期待するだけ無駄だった。
俺の手からあっさり猫を奪い取ると、自然な動作でジャンに渡してしまう。途端に無防備になった俺は、慌てて綿毛ちゃんを抱っこしようとするがこれも邪魔をされてしまった。
「……俺、なんかしました?」
若干困ったように頬をかくアロンに、口を閉ざす。別にアロンがなにかしたわけではない。俺が悩んでいるのは、アロンのお父さんとの取引だ。
ぎゅっと眉間に力を込めれば、アロンが「なんでそんな顔するんですか」と己の首筋に手をやった。その困惑したような仕草に、ますます俺は情けなく眉尻を下げた。
957
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる
レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。
ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。
死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。