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16歳
572 伝えておいて
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「ティアンの家に行く。羨ましいか?」
「まったく」
綿毛ちゃんを引き連れて、ユリスの部屋に乗り込む。数日後あたりにティアンの別邸に行くと自慢したのだが、ユリスは興味なさそうな表情だ。もっと食いつけよ。
「ユリスも行くか?」
「面倒だから行かない」
せっかくお誘いしたのに。
素っ気ないユリスに、部屋にいたタイラーが苦笑している。
「そんなことよりルイス」
おもむろに立ち上がったユリスが、俺を手招きする。「なに?」と近寄れば、ユリスがちょっぴり悪い笑みを浮かべた。
「ブルースを見に行くぞ」
「なんで?」
ふっと笑うだけで答えないユリスは、タイラーに「ちょっとブルースの部屋に行ってくる」と声をかけて廊下に出る。「変なことしたらダメですよ」とタイラーが念押ししてるけど、ユリスはきっと変なことをすると思う。じゃないとブルース兄様のところへ行く意味がわからない。誘われたので、俺と綿毛ちゃんもついて行く。
「ブルース兄様がどうしたの?」
「アリアと揉めているらしいから見に行く」
「へー」
その情報はどこから入手したんだ。
にやにやしているユリスに、綿毛ちゃんが『修羅場ぁ?』と問いかけている。
無言でブルース兄様の部屋に到着したユリスは、ノックもせずにドアを開け放つ。
「おい。勝手に開けるな」
苦い声を出すブルース兄様は、ひとりで仕事をしていた。書類片手にユリスを睨む兄様に、当のユリスは拍子抜けした顔をする。アリアと揉めているはずのブルース兄様が部屋にひとりなので面食らっているらしい。
「アリアは?」
「あ? 自分の部屋にいるんじゃないのか」
どうでもよさそうに答えるブルース兄様は忙しそう。期待外れだと落胆するユリスの肩を叩いて励ましておく。
「どんまい、ユリス。元気出しなよ」
綿毛ちゃん触っていいよと足元を示せば、屈んだユリスが綿毛ちゃんの角を引っ張った。
『いたいでーす。やめてくださーい』
「……」
『ユリス坊ちゃん。無視しないでぇ?』
綿毛ちゃんの角をぐいぐい引っ張るユリスを応援する。「頑張れ!」と両手をあげれば、俺たちのことを無言で見守っていたブルース兄様が呆れたように眉間を押さえた。
「なにをしているんだ」
「ユリスを励ましてる」
「なぜ落ち込む。アリアに会いたかったのか?」
会ってくればいいだろと言い出すブルース兄様はなにもわかっていない。ユリスはアリアに会いたいわけではなく、ブルース兄様と喧嘩するアリアが見たかっただけだ。そう説明すれば、兄様が半眼になった。
「喧嘩なんてするわけないだろう。つまらないことを考えるな」
「だってよ、ユリス」
いまだに綿毛ちゃんの角を握っているユリスの肩を叩けば、舌打ちが返ってきた。兄様たちが喧嘩したなんて誰からの情報だよ。なんで鵜呑みにしたのか。
『助けてぇ。オレの角がピンチ』
賑やかな綿毛ちゃんを見下ろして、仕事中のブルース兄様を観察する。涼しい顔で書類を確認する兄様は、時折なにかを書きつけている。
「俺も手伝おうか? 仕事」
「いや、大丈夫だ」
「遠慮せずに」
遠慮ではないと不思議なことを言う兄様は「ルイスにはわからない話だ」と突っぱねてくる。
確かにね。俺にはちょっとわかんないかも。
「あ。今度ティアンの家に行くね」
何気なく報告すれば、ブルース兄様が「急に?」と目を瞬く。
「ちょっと遠いだろ。そんな急に言われても。護衛やなにやら準備が必要なんだが」
顔をしかめる兄様に、「そっちじゃない」と伝える。
「この近くに別邸があるんだって。ティアンが小さい頃に住んでた家」
「あぁ、そっちか」
ブルース兄様は別邸の存在を知っていたらしい。あそこなら近いからいいんじゃないかと許可してくれた。
「でね。アロンも行きたいって言う」
「だろうな」
ティアンの別邸に行くと決めたはいいのだが、あの場にはアロンもいた。そして当然のように自分も行くと言い出した。これにティアンが嫌そうな顔をしていた。露骨にバチバチしていて、綿毛ちゃんがぶんぶん尻尾を振っていた。
俺としては、アロンが一緒でもいいんだけど。でもティアンがちょっと嫌そうなのが気になる。それに、アロンに関しては彼の父親との取引もある。俺はアロンとの間に色々問題を抱えている状況なのだ。
「アロンは留守番ねってブルース兄様が言っといて」
「自分で言えよ」
怪訝な顔の兄様は、俺を見つめてくる。
「アロンと喧嘩でもしたのか? なんで俺を介する必要がある」
「うーん、だってねぇ」
視線を泳がせて、頬をかく。
この俺だけが気まずい状況を説明するのは困難だ。曖昧に笑って誤魔化せば、ブルース兄様がペンを置く。
「俺から伝えるのは構わないが。あとから面倒なことにならないか?」
「……なるかも」
アロンのことだ。なんで俺は行ったらダメなんですかとか。なんでルイス様が直接言わないんですかとか。すごい勢いで文句を言われそう。
先の展開を考えて、「やっぱりいいや」とブルース兄様に伝える。
「自分で言うよ」
「アロンも連れて行ったらダメなのか? 護衛にはちょうどいいだろ」
性格はアレだが、と余計な言葉を付け足す兄様。
「ダメってわけじゃないけどさ」
でもアロンと一緒だと、ふとした瞬間に伯爵との取引を思い出してしまう。いや、あれも早々に解決しなければならないから完全に忘れるわけにはいかないんだけどさ。あれはブランシェも関係しているから適当に忘れたふりをするわけにもいかない。
「なんか。なんとなく」
「うん?」
首を傾げる兄様に、「いいよ。忘れて」と慌てて手を振っておく。
「アロンも一緒でいいや。綿毛ちゃんも連れて行くし。兄様も来る?」
「いや、俺は忙しいから」
「アロンは暇だもんね」
冗談めかして肩をすくめれば、ブルース兄様が「ん、あぁ。そうだな」と不思議そうに片眉を持ち上げた。
「まったく」
綿毛ちゃんを引き連れて、ユリスの部屋に乗り込む。数日後あたりにティアンの別邸に行くと自慢したのだが、ユリスは興味なさそうな表情だ。もっと食いつけよ。
「ユリスも行くか?」
「面倒だから行かない」
せっかくお誘いしたのに。
素っ気ないユリスに、部屋にいたタイラーが苦笑している。
「そんなことよりルイス」
おもむろに立ち上がったユリスが、俺を手招きする。「なに?」と近寄れば、ユリスがちょっぴり悪い笑みを浮かべた。
「ブルースを見に行くぞ」
「なんで?」
ふっと笑うだけで答えないユリスは、タイラーに「ちょっとブルースの部屋に行ってくる」と声をかけて廊下に出る。「変なことしたらダメですよ」とタイラーが念押ししてるけど、ユリスはきっと変なことをすると思う。じゃないとブルース兄様のところへ行く意味がわからない。誘われたので、俺と綿毛ちゃんもついて行く。
「ブルース兄様がどうしたの?」
「アリアと揉めているらしいから見に行く」
「へー」
その情報はどこから入手したんだ。
にやにやしているユリスに、綿毛ちゃんが『修羅場ぁ?』と問いかけている。
無言でブルース兄様の部屋に到着したユリスは、ノックもせずにドアを開け放つ。
「おい。勝手に開けるな」
苦い声を出すブルース兄様は、ひとりで仕事をしていた。書類片手にユリスを睨む兄様に、当のユリスは拍子抜けした顔をする。アリアと揉めているはずのブルース兄様が部屋にひとりなので面食らっているらしい。
「アリアは?」
「あ? 自分の部屋にいるんじゃないのか」
どうでもよさそうに答えるブルース兄様は忙しそう。期待外れだと落胆するユリスの肩を叩いて励ましておく。
「どんまい、ユリス。元気出しなよ」
綿毛ちゃん触っていいよと足元を示せば、屈んだユリスが綿毛ちゃんの角を引っ張った。
『いたいでーす。やめてくださーい』
「……」
『ユリス坊ちゃん。無視しないでぇ?』
綿毛ちゃんの角をぐいぐい引っ張るユリスを応援する。「頑張れ!」と両手をあげれば、俺たちのことを無言で見守っていたブルース兄様が呆れたように眉間を押さえた。
「なにをしているんだ」
「ユリスを励ましてる」
「なぜ落ち込む。アリアに会いたかったのか?」
会ってくればいいだろと言い出すブルース兄様はなにもわかっていない。ユリスはアリアに会いたいわけではなく、ブルース兄様と喧嘩するアリアが見たかっただけだ。そう説明すれば、兄様が半眼になった。
「喧嘩なんてするわけないだろう。つまらないことを考えるな」
「だってよ、ユリス」
いまだに綿毛ちゃんの角を握っているユリスの肩を叩けば、舌打ちが返ってきた。兄様たちが喧嘩したなんて誰からの情報だよ。なんで鵜呑みにしたのか。
『助けてぇ。オレの角がピンチ』
賑やかな綿毛ちゃんを見下ろして、仕事中のブルース兄様を観察する。涼しい顔で書類を確認する兄様は、時折なにかを書きつけている。
「俺も手伝おうか? 仕事」
「いや、大丈夫だ」
「遠慮せずに」
遠慮ではないと不思議なことを言う兄様は「ルイスにはわからない話だ」と突っぱねてくる。
確かにね。俺にはちょっとわかんないかも。
「あ。今度ティアンの家に行くね」
何気なく報告すれば、ブルース兄様が「急に?」と目を瞬く。
「ちょっと遠いだろ。そんな急に言われても。護衛やなにやら準備が必要なんだが」
顔をしかめる兄様に、「そっちじゃない」と伝える。
「この近くに別邸があるんだって。ティアンが小さい頃に住んでた家」
「あぁ、そっちか」
ブルース兄様は別邸の存在を知っていたらしい。あそこなら近いからいいんじゃないかと許可してくれた。
「でね。アロンも行きたいって言う」
「だろうな」
ティアンの別邸に行くと決めたはいいのだが、あの場にはアロンもいた。そして当然のように自分も行くと言い出した。これにティアンが嫌そうな顔をしていた。露骨にバチバチしていて、綿毛ちゃんがぶんぶん尻尾を振っていた。
俺としては、アロンが一緒でもいいんだけど。でもティアンがちょっと嫌そうなのが気になる。それに、アロンに関しては彼の父親との取引もある。俺はアロンとの間に色々問題を抱えている状況なのだ。
「アロンは留守番ねってブルース兄様が言っといて」
「自分で言えよ」
怪訝な顔の兄様は、俺を見つめてくる。
「アロンと喧嘩でもしたのか? なんで俺を介する必要がある」
「うーん、だってねぇ」
視線を泳がせて、頬をかく。
この俺だけが気まずい状況を説明するのは困難だ。曖昧に笑って誤魔化せば、ブルース兄様がペンを置く。
「俺から伝えるのは構わないが。あとから面倒なことにならないか?」
「……なるかも」
アロンのことだ。なんで俺は行ったらダメなんですかとか。なんでルイス様が直接言わないんですかとか。すごい勢いで文句を言われそう。
先の展開を考えて、「やっぱりいいや」とブルース兄様に伝える。
「自分で言うよ」
「アロンも連れて行ったらダメなのか? 護衛にはちょうどいいだろ」
性格はアレだが、と余計な言葉を付け足す兄様。
「ダメってわけじゃないけどさ」
でもアロンと一緒だと、ふとした瞬間に伯爵との取引を思い出してしまう。いや、あれも早々に解決しなければならないから完全に忘れるわけにはいかないんだけどさ。あれはブランシェも関係しているから適当に忘れたふりをするわけにもいかない。
「なんか。なんとなく」
「うん?」
首を傾げる兄様に、「いいよ。忘れて」と慌てて手を振っておく。
「アロンも一緒でいいや。綿毛ちゃんも連れて行くし。兄様も来る?」
「いや、俺は忙しいから」
「アロンは暇だもんね」
冗談めかして肩をすくめれば、ブルース兄様が「ん、あぁ。そうだな」と不思議そうに片眉を持ち上げた。
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