616 / 637
16歳
571 その代わり
しおりを挟む
「なんの話をしていたんですか?」
「うーん?」
突然俺の部屋に入ってきたアロンは、図々しく椅子を陣取ると会話に混ざろうとしてくる。アロンが急に割り込んでくるのはいつものことである。
ティアンが「仕事はどうしたんですか?」と冷たい声を出している。それを綺麗に無視したアロンは、「それで? なんの話ですか」と再度質問してきた。
「ティアンの家に行きたいって話。でもティアンはケチだからダメって言う」
ケラケラ笑う綿毛ちゃんは、ティアンの周りをぐるぐるしている。すごくうざい。現にティアンが迷惑そうな顔で毛玉から遠ざかろうとしている。
ふーんと興味なさそうに頬杖をついたアロン。自分が首を突っ込んできたくせに。
「行きたいよね、ティアンの家」
「でもジャネック伯爵領ってちょっと遠いですよ。それにあそこの領地は俺のとこより狭いし。たいして見るところもないですよ」
ガッツリ自慢を挟んでくるアロンは、ティアンのことを鼻で笑う。嫌な奴だな。そんなんだからクソ野郎と呼ばれるんだぞ。
それに俺が行きたいのは領地の方ではない。この近くにあるという別邸だ。そのことを教えれば、アロンがまたもや鼻で笑う。
「別邸なんて見るところないですよ。単なる小さな家ですよ、家」
その小馬鹿にするような発言に、ティアンがここぞとばかりに「そうですよ!」と同調してくる。
「単なる家ですよ。見るところなんてないです。アロン殿の言う通りです」
「……どうしたの?」
アロンが露骨に引いている。
アロンとしては、ティアンを揶揄うつもりだったのだろう。それが予想に反してティアンが全力で同意してきたので困惑している。
「ティアンの家行きたい。なにか見られたらまずいものでもあるのか!」
『あるのか!』
俺の真似する綿毛ちゃんは賑やかだ。
どうやら俺の言葉でおおよその事情を察したらしいアロンが、ニヤッと笑う。
「だったら俺の家に来ますか? 前にも一度来ましたよね。遠いので泊まりになりますけど」
「え! いいの!?」
お出かけだ。遠出だ。
わーいとはしゃぐ俺に、アロンが満足そうに口角を上げている。
それを見たティアンが「ちょっと!」と慌てたようにアロンを止めようとする。けれども得意な顔のアロンは、逆にティアンを挑発するかのように偉そうに腕を組んだ。
「ティアンも一緒に行く?」
一応誘えば、ティアンが悩むように眉間に皺を寄せた。けれどもすぐにぎゅっと目を閉じると、「わかりました!」と声を張り上げた。
「ルイス様がそこまで言うならいいですよ。僕の別邸でもなんでも連れて行きますよ」
「え!? いいの!?」
突然の翻意に戸惑う俺。「その代わり」とティアンが腰に手をやった。
「アロン殿のご自宅には行かないでくださいね」
「なぜ」
でもいいや。アロンの実家には一度行ったからな。わかったと頷けば、アロンが舌打ちした。
「俺の邪魔しないでくれる?」
「先輩は仕事がお忙しいでしょうから迷惑かけるわけには。ご心配なく。ルイス様のことは僕にお任せください」
にこりと微笑むティアンは、勝ち誇った表情であった。よくわかんないけどバチバチしている。綿毛ちゃんが『修羅場ぁ?』とふたりを忙しく見比べている。
「ですが」
真顔に戻ったティアンは、俺を振り返ると「ニ、三日ください」と言った。別邸の片付けをしたいかららしい。だから片付けってなに。使っていないと言っていたが、管理のために人を置いているとも言っていた。そうするとそこまで荒れているわけでもないだろうに。というかティアンが片付けなきゃいけないの? それこそ管理しているという人に任せればいいことだろう。
「怪しい」
なにか俺に見せたくないものがあるのか。それを自分の手で片付けようとしているのか。綿毛ちゃんも『怪しいねぇ』と間延びした声で言っている。
だがティアンは「怪しくないです」の一点張り。
「アロンも怪しいと思うよね?」
アロンの袖を引けば、「ですね」というにこやかな頷きが返ってくる。
「ルイス様に見られたくないものでもあるんでしょうね」
「そう思う!?」
にやにやするアロンに、ティアンが「適当言わないでください」と詰め寄るが、アロンは涼しい顔である。
見られたくないものってなんだと思う? とアロンに聞いてみたところ、彼は腕を組んで真面目に考え始める。
「見られたくないもの? 俺はあんまりそういうのないから」
珍しく考え込んでしまうアロン。
でも確かに。アロンは隠し事は少ない。いや、隠し事は多いんだけど、隠すのが上手いというか。なんというか。
自室に見られたくないものは置かないタイプだと思う。おそらく実家にも。見られたくないものがあれば、多分その存在を徹底的に隠すタイプだと思う。でも一方でオープンな性格でもあるから。彼の隠したいことなんて仕事関連ばかりだろうな。それかどこかで手に入れた極秘の情報とか。なんにせよ俺には関係ない分野だ。
「まぁいいや。じゃあ片付けしてきて」
考えても仕方がない。あまり追及してティアンがやっぱりダメと言い出しても困るからな。
「うーん?」
突然俺の部屋に入ってきたアロンは、図々しく椅子を陣取ると会話に混ざろうとしてくる。アロンが急に割り込んでくるのはいつものことである。
ティアンが「仕事はどうしたんですか?」と冷たい声を出している。それを綺麗に無視したアロンは、「それで? なんの話ですか」と再度質問してきた。
「ティアンの家に行きたいって話。でもティアンはケチだからダメって言う」
ケラケラ笑う綿毛ちゃんは、ティアンの周りをぐるぐるしている。すごくうざい。現にティアンが迷惑そうな顔で毛玉から遠ざかろうとしている。
ふーんと興味なさそうに頬杖をついたアロン。自分が首を突っ込んできたくせに。
「行きたいよね、ティアンの家」
「でもジャネック伯爵領ってちょっと遠いですよ。それにあそこの領地は俺のとこより狭いし。たいして見るところもないですよ」
ガッツリ自慢を挟んでくるアロンは、ティアンのことを鼻で笑う。嫌な奴だな。そんなんだからクソ野郎と呼ばれるんだぞ。
それに俺が行きたいのは領地の方ではない。この近くにあるという別邸だ。そのことを教えれば、アロンがまたもや鼻で笑う。
「別邸なんて見るところないですよ。単なる小さな家ですよ、家」
その小馬鹿にするような発言に、ティアンがここぞとばかりに「そうですよ!」と同調してくる。
「単なる家ですよ。見るところなんてないです。アロン殿の言う通りです」
「……どうしたの?」
アロンが露骨に引いている。
アロンとしては、ティアンを揶揄うつもりだったのだろう。それが予想に反してティアンが全力で同意してきたので困惑している。
「ティアンの家行きたい。なにか見られたらまずいものでもあるのか!」
『あるのか!』
俺の真似する綿毛ちゃんは賑やかだ。
どうやら俺の言葉でおおよその事情を察したらしいアロンが、ニヤッと笑う。
「だったら俺の家に来ますか? 前にも一度来ましたよね。遠いので泊まりになりますけど」
「え! いいの!?」
お出かけだ。遠出だ。
わーいとはしゃぐ俺に、アロンが満足そうに口角を上げている。
それを見たティアンが「ちょっと!」と慌てたようにアロンを止めようとする。けれども得意な顔のアロンは、逆にティアンを挑発するかのように偉そうに腕を組んだ。
「ティアンも一緒に行く?」
一応誘えば、ティアンが悩むように眉間に皺を寄せた。けれどもすぐにぎゅっと目を閉じると、「わかりました!」と声を張り上げた。
「ルイス様がそこまで言うならいいですよ。僕の別邸でもなんでも連れて行きますよ」
「え!? いいの!?」
突然の翻意に戸惑う俺。「その代わり」とティアンが腰に手をやった。
「アロン殿のご自宅には行かないでくださいね」
「なぜ」
でもいいや。アロンの実家には一度行ったからな。わかったと頷けば、アロンが舌打ちした。
「俺の邪魔しないでくれる?」
「先輩は仕事がお忙しいでしょうから迷惑かけるわけには。ご心配なく。ルイス様のことは僕にお任せください」
にこりと微笑むティアンは、勝ち誇った表情であった。よくわかんないけどバチバチしている。綿毛ちゃんが『修羅場ぁ?』とふたりを忙しく見比べている。
「ですが」
真顔に戻ったティアンは、俺を振り返ると「ニ、三日ください」と言った。別邸の片付けをしたいかららしい。だから片付けってなに。使っていないと言っていたが、管理のために人を置いているとも言っていた。そうするとそこまで荒れているわけでもないだろうに。というかティアンが片付けなきゃいけないの? それこそ管理しているという人に任せればいいことだろう。
「怪しい」
なにか俺に見せたくないものがあるのか。それを自分の手で片付けようとしているのか。綿毛ちゃんも『怪しいねぇ』と間延びした声で言っている。
だがティアンは「怪しくないです」の一点張り。
「アロンも怪しいと思うよね?」
アロンの袖を引けば、「ですね」というにこやかな頷きが返ってくる。
「ルイス様に見られたくないものでもあるんでしょうね」
「そう思う!?」
にやにやするアロンに、ティアンが「適当言わないでください」と詰め寄るが、アロンは涼しい顔である。
見られたくないものってなんだと思う? とアロンに聞いてみたところ、彼は腕を組んで真面目に考え始める。
「見られたくないもの? 俺はあんまりそういうのないから」
珍しく考え込んでしまうアロン。
でも確かに。アロンは隠し事は少ない。いや、隠し事は多いんだけど、隠すのが上手いというか。なんというか。
自室に見られたくないものは置かないタイプだと思う。おそらく実家にも。見られたくないものがあれば、多分その存在を徹底的に隠すタイプだと思う。でも一方でオープンな性格でもあるから。彼の隠したいことなんて仕事関連ばかりだろうな。それかどこかで手に入れた極秘の情報とか。なんにせよ俺には関係ない分野だ。
「まぁいいや。じゃあ片付けしてきて」
考えても仕方がない。あまり追及してティアンがやっぱりダメと言い出しても困るからな。
684
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる