冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

571 その代わり

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「なんの話をしていたんですか?」
「うーん?」

 突然俺の部屋に入ってきたアロンは、図々しく椅子を陣取ると会話に混ざろうとしてくる。アロンが急に割り込んでくるのはいつものことである。

 ティアンが「仕事はどうしたんですか?」と冷たい声を出している。それを綺麗に無視したアロンは、「それで? なんの話ですか」と再度質問してきた。

「ティアンの家に行きたいって話。でもティアンはケチだからダメって言う」

 ケラケラ笑う綿毛ちゃんは、ティアンの周りをぐるぐるしている。すごくうざい。現にティアンが迷惑そうな顔で毛玉から遠ざかろうとしている。

 ふーんと興味なさそうに頬杖をついたアロン。自分が首を突っ込んできたくせに。

「行きたいよね、ティアンの家」
「でもジャネック伯爵領ってちょっと遠いですよ。それにあそこの領地は俺のとこより狭いし。たいして見るところもないですよ」

 ガッツリ自慢を挟んでくるアロンは、ティアンのことを鼻で笑う。嫌な奴だな。そんなんだからクソ野郎と呼ばれるんだぞ。

 それに俺が行きたいのは領地の方ではない。この近くにあるという別邸だ。そのことを教えれば、アロンがまたもや鼻で笑う。

「別邸なんて見るところないですよ。単なる小さな家ですよ、家」

 その小馬鹿にするような発言に、ティアンがここぞとばかりに「そうですよ!」と同調してくる。

「単なる家ですよ。見るところなんてないです。アロン殿の言う通りです」
「……どうしたの?」

 アロンが露骨に引いている。
 アロンとしては、ティアンを揶揄うつもりだったのだろう。それが予想に反してティアンが全力で同意してきたので困惑している。

「ティアンの家行きたい。なにか見られたらまずいものでもあるのか!」
『あるのか!』

 俺の真似する綿毛ちゃんは賑やかだ。
 どうやら俺の言葉でおおよその事情を察したらしいアロンが、ニヤッと笑う。

「だったら俺の家に来ますか? 前にも一度来ましたよね。遠いので泊まりになりますけど」
「え! いいの!?」

 お出かけだ。遠出だ。
 わーいとはしゃぐ俺に、アロンが満足そうに口角を上げている。

 それを見たティアンが「ちょっと!」と慌てたようにアロンを止めようとする。けれども得意な顔のアロンは、逆にティアンを挑発するかのように偉そうに腕を組んだ。

「ティアンも一緒に行く?」

 一応誘えば、ティアンが悩むように眉間に皺を寄せた。けれどもすぐにぎゅっと目を閉じると、「わかりました!」と声を張り上げた。

「ルイス様がそこまで言うならいいですよ。僕の別邸でもなんでも連れて行きますよ」
「え!? いいの!?」

 突然の翻意に戸惑う俺。「その代わり」とティアンが腰に手をやった。

「アロン殿のご自宅には行かないでくださいね」
「なぜ」

 でもいいや。アロンの実家には一度行ったからな。わかったと頷けば、アロンが舌打ちした。

「俺の邪魔しないでくれる?」
「先輩は仕事がお忙しいでしょうから迷惑かけるわけには。ご心配なく。ルイス様のことは僕にお任せください」

 にこりと微笑むティアンは、勝ち誇った表情であった。よくわかんないけどバチバチしている。綿毛ちゃんが『修羅場ぁ?』とふたりを忙しく見比べている。

「ですが」

 真顔に戻ったティアンは、俺を振り返ると「ニ、三日ください」と言った。別邸の片付けをしたいかららしい。だから片付けってなに。使っていないと言っていたが、管理のために人を置いているとも言っていた。そうするとそこまで荒れているわけでもないだろうに。というかティアンが片付けなきゃいけないの? それこそ管理しているという人に任せればいいことだろう。

「怪しい」

 なにか俺に見せたくないものがあるのか。それを自分の手で片付けようとしているのか。綿毛ちゃんも『怪しいねぇ』と間延びした声で言っている。

 だがティアンは「怪しくないです」の一点張り。

「アロンも怪しいと思うよね?」

 アロンの袖を引けば、「ですね」というにこやかな頷きが返ってくる。

「ルイス様に見られたくないものでもあるんでしょうね」
「そう思う!?」

 にやにやするアロンに、ティアンが「適当言わないでください」と詰め寄るが、アロンは涼しい顔である。

 見られたくないものってなんだと思う? とアロンに聞いてみたところ、彼は腕を組んで真面目に考え始める。

「見られたくないもの? 俺はあんまりそういうのないから」

 珍しく考え込んでしまうアロン。
 でも確かに。アロンは隠し事は少ない。いや、隠し事は多いんだけど、隠すのが上手いというか。なんというか。

 自室に見られたくないものは置かないタイプだと思う。おそらく実家にも。見られたくないものがあれば、多分その存在を徹底的に隠すタイプだと思う。でも一方でオープンな性格でもあるから。彼の隠したいことなんて仕事関連ばかりだろうな。それかどこかで手に入れた極秘の情報とか。なんにせよ俺には関係ない分野だ。

「まぁいいや。じゃあ片付けしてきて」

 考えても仕方がない。あまり追及してティアンがやっぱりダメと言い出しても困るからな。
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