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16歳
522 変な優しさ
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「俺、ユリス様の謝罪なんて初めて聞きましたよ」
「僕もです」
背後でこそこそ言い合うタイラーとティアンは、信じられないといった顔をしている。
ユリスの手をぶんぶん振り回して仲直りの握手っぽいことをしておく。「やめろ」と顔を顰めるユリスは、引き返して椅子に座った。
深く息を吐き出す彼は、頬杖をついて視線をあらぬ方向へとやっている。タイラーが「偉いですよ」と褒めているが、ユリスは無反応だ。照れているのかもしれない。
「……まぁ、たしかに。もっと穏便な方法もあったな」
タイラーのことを無視したユリスが目を向けたのは俺だった。
「僕も研究の邪魔をされたら腹が立つ。ルイスも同じだろ。悪かったな」
「いいよ」
個人的には、ユリスが俺の授業見学を自身の魔法研究と並べてくれたことが嬉しい。俺の目標を肯定してくれたみたいに感じる。
微妙に視線の合わないユリスに思わず笑ってしまう。
「……今日は暇なのか?」
ぶっきらぼうな問いかけに、うんと頷く。スピネット子爵家へのお出かけが中止になってしまったので。
するとユリスが立ち上がった。そうして俺を手招きする。
「なに?」
「いいからついてこい」
上司みたいな喋り方をするユリスは、ポケットに手を突っ込んで廊下に出る。「危ないですよ」とタイラーが嗜めているが、これも無視している。
わけを説明してくれないので、黙って従っておくことにする。話の流れからしてそんなに変なことではないだろう。ティアンとタイラーも首を捻りながら後ろをついてくる。
階段に足をかけるユリス。兄様たちの部屋に行くつもりだろうか。ユリスが? 珍しいな。
ユリスは基本的に兄様たちの部屋には入らない。ごくたまにブルース兄様に怒られるオーガス兄様のことを見学に行くことはあるけど。そういった騒動がないにも関わらず足を向けるなんて珍しい。
たどり着いたのはオーガス兄様の部屋だった。
「こっちだ」
勝手にオーガス兄様の部屋に入ったユリスは、中にいた兄様の「え、なに。突然どうしたの?」という言葉を聞き流して、部屋に備え付けられている戸棚をあさり始める。
「ユリス? ここ僕の部屋なんだけど。勝手にあさらないで?」
「……」
「無視しないで」
弱々しく注意するオーガス兄様は、いつも通り頼りない。ニックが不在なので、余計に気弱になっている。眉尻を下げてしきりにタイラーへと視線を送る兄様は、到底パパには見えない。キャンベルの方がよほどしっかりしていると思う。
最近でもオーガス兄様が頼りない発言をしてキャンベルに「しっかりしてください!」と強めに嗜められる場面を目撃した。当初はオロオロしていることの多かったキャンベルであるが、今ではすごくしっかりしている。オーガス兄様相手にも遠慮なく物申している。
「ケイシーは?」
ユリスが探し物をしている間にオーガス兄様を振り返れば「キャンベルと一緒だよ」との返事。ケイシーは母親であるキャンベルといつも一緒にいる。兄様は仕事が忙しいので、あまり頻繁にはケイシーと遊べないのだ。代わりに俺がケイシーと遊んであげている。「僕の立場が」と絶望する兄様の顔はもう見飽きたほどだ。
「あった」
ガサゴソと戸棚を引っかき回していたユリスがそんな声を上げたのは、タイラーが「そんなに散らかさない」と眉を吊り上げ始めた直後であった。
「ほら。ルイスにやる」
「え、ありがとう」
放られた物をキャッチする。反射的にお礼を言ってから、いやこれはユリスのではなくオーガス兄様の物なのでは? と首を捻った。
案の定、兄様が「勝手にあげないでよ」と弱々しい抗議をしている。
受け取った物を確認すれば、それは綺麗な石だった。複雑に輝く小さな石は、昔どこかで似たような物を見た記憶がある。
どこだっけと考えていれば、ユリスが得意気に腕を組んだ。
「小さい物だけどな。なかなか綺麗な魔石だろ」
「魔石!」
そうだ。あれは俺たちが十歳だった時。湖に沈んでいた魔石をセドリックにとってきてもらったことがあった。あの時の魔石はもう少し大きかった気がする。当時オーガス兄様がユリスへあげた物だ。しかし兄様のことが嫌いだったユリスはそれを湖に放り投げたのだ。
「もらっていいの?」
ユリスが「あぁ」と頷いた。その後ろで兄様が「いやそれ僕の」と手を伸ばしている。
そういえばそうだった。
なんでユリスは勝手にオーガス兄様の魔石を俺にくれるのだろうか。ユリスなりの優しさなんだろうけど、変な優しさだな。
「これもらっていい?」
使い道はないが、魔石はきらきらだから見ていて楽しい。この世界では宝石のような扱いをされているのだ。一応本当の持ち主であるオーガス兄様に尋ねれば、「いいよ。僕は使わないから」と即答があった。
「ありがとう」
前の魔石は黒猫姿だったユリスが飲み込んでしまった。そのおかげで、体内に魔力が戻ったユリスは人間に戻ることができたのだ。
きらきらの魔石をぎゅっと握りしめて、俺はもう一度「ありがとう」と笑顔を浮かべた。
「僕もです」
背後でこそこそ言い合うタイラーとティアンは、信じられないといった顔をしている。
ユリスの手をぶんぶん振り回して仲直りの握手っぽいことをしておく。「やめろ」と顔を顰めるユリスは、引き返して椅子に座った。
深く息を吐き出す彼は、頬杖をついて視線をあらぬ方向へとやっている。タイラーが「偉いですよ」と褒めているが、ユリスは無反応だ。照れているのかもしれない。
「……まぁ、たしかに。もっと穏便な方法もあったな」
タイラーのことを無視したユリスが目を向けたのは俺だった。
「僕も研究の邪魔をされたら腹が立つ。ルイスも同じだろ。悪かったな」
「いいよ」
個人的には、ユリスが俺の授業見学を自身の魔法研究と並べてくれたことが嬉しい。俺の目標を肯定してくれたみたいに感じる。
微妙に視線の合わないユリスに思わず笑ってしまう。
「……今日は暇なのか?」
ぶっきらぼうな問いかけに、うんと頷く。スピネット子爵家へのお出かけが中止になってしまったので。
するとユリスが立ち上がった。そうして俺を手招きする。
「なに?」
「いいからついてこい」
上司みたいな喋り方をするユリスは、ポケットに手を突っ込んで廊下に出る。「危ないですよ」とタイラーが嗜めているが、これも無視している。
わけを説明してくれないので、黙って従っておくことにする。話の流れからしてそんなに変なことではないだろう。ティアンとタイラーも首を捻りながら後ろをついてくる。
階段に足をかけるユリス。兄様たちの部屋に行くつもりだろうか。ユリスが? 珍しいな。
ユリスは基本的に兄様たちの部屋には入らない。ごくたまにブルース兄様に怒られるオーガス兄様のことを見学に行くことはあるけど。そういった騒動がないにも関わらず足を向けるなんて珍しい。
たどり着いたのはオーガス兄様の部屋だった。
「こっちだ」
勝手にオーガス兄様の部屋に入ったユリスは、中にいた兄様の「え、なに。突然どうしたの?」という言葉を聞き流して、部屋に備え付けられている戸棚をあさり始める。
「ユリス? ここ僕の部屋なんだけど。勝手にあさらないで?」
「……」
「無視しないで」
弱々しく注意するオーガス兄様は、いつも通り頼りない。ニックが不在なので、余計に気弱になっている。眉尻を下げてしきりにタイラーへと視線を送る兄様は、到底パパには見えない。キャンベルの方がよほどしっかりしていると思う。
最近でもオーガス兄様が頼りない発言をしてキャンベルに「しっかりしてください!」と強めに嗜められる場面を目撃した。当初はオロオロしていることの多かったキャンベルであるが、今ではすごくしっかりしている。オーガス兄様相手にも遠慮なく物申している。
「ケイシーは?」
ユリスが探し物をしている間にオーガス兄様を振り返れば「キャンベルと一緒だよ」との返事。ケイシーは母親であるキャンベルといつも一緒にいる。兄様は仕事が忙しいので、あまり頻繁にはケイシーと遊べないのだ。代わりに俺がケイシーと遊んであげている。「僕の立場が」と絶望する兄様の顔はもう見飽きたほどだ。
「あった」
ガサゴソと戸棚を引っかき回していたユリスがそんな声を上げたのは、タイラーが「そんなに散らかさない」と眉を吊り上げ始めた直後であった。
「ほら。ルイスにやる」
「え、ありがとう」
放られた物をキャッチする。反射的にお礼を言ってから、いやこれはユリスのではなくオーガス兄様の物なのでは? と首を捻った。
案の定、兄様が「勝手にあげないでよ」と弱々しい抗議をしている。
受け取った物を確認すれば、それは綺麗な石だった。複雑に輝く小さな石は、昔どこかで似たような物を見た記憶がある。
どこだっけと考えていれば、ユリスが得意気に腕を組んだ。
「小さい物だけどな。なかなか綺麗な魔石だろ」
「魔石!」
そうだ。あれは俺たちが十歳だった時。湖に沈んでいた魔石をセドリックにとってきてもらったことがあった。あの時の魔石はもう少し大きかった気がする。当時オーガス兄様がユリスへあげた物だ。しかし兄様のことが嫌いだったユリスはそれを湖に放り投げたのだ。
「もらっていいの?」
ユリスが「あぁ」と頷いた。その後ろで兄様が「いやそれ僕の」と手を伸ばしている。
そういえばそうだった。
なんでユリスは勝手にオーガス兄様の魔石を俺にくれるのだろうか。ユリスなりの優しさなんだろうけど、変な優しさだな。
「これもらっていい?」
使い道はないが、魔石はきらきらだから見ていて楽しい。この世界では宝石のような扱いをされているのだ。一応本当の持ち主であるオーガス兄様に尋ねれば、「いいよ。僕は使わないから」と即答があった。
「ありがとう」
前の魔石は黒猫姿だったユリスが飲み込んでしまった。そのおかげで、体内に魔力が戻ったユリスは人間に戻ることができたのだ。
きらきらの魔石をぎゅっと握りしめて、俺はもう一度「ありがとう」と笑顔を浮かべた。
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