冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

506 恋人の存在

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「嘘吐き! 許してくれるって言ったじゃん」
「言ってませんよ。そういう話じゃないです」
「そういう話だったもん! あ、アロンだ」

 ティアンとちょっとした言い争いをしていれば、通りかかったアロンが目についた。露骨に顔を顰めるアロンは、ズカズカと大股で寄ってくると俺とティアンの間へと強引に割り込んできた。

 肩を押されたティアンが「ちょっと!」と責めるような声を発した。

「やめなよ。ティアンが可哀想」

 居場所を奪われたティアンが普通に憐れ。
 だが、相手は大人げないことで有名なアロンである。悪びれることなくティアンを睨みつけている。よくそんなデカい態度ができるな。図々しさは相変わらずである。

「ルイス様」
「無視ですか?」

 ティアンの存在を無視して俺に話しかけてくるアロン。すかさずティアンが文句を言っているが、それも綺麗に無視している。さすがクソ野郎。ティアンは諦めたように息を吐き出している。

「なに?」

 俺とティアンは騎士棟から屋敷に戻る途中であったが、アロンはその逆。今から騎士棟に向かうような雰囲気であった。

 しかし、アロンは俺たちについてくる。このままだと屋敷に戻ってしまうがいいのか? 騎士棟に用事があったのでは?

「ルイス様ってブランシェのこと好きなんですか?」
「突然どうした」

 思わず足を止める俺。
 ティアンにも想定外の質問だったらしい。ちょっぴり目を見開いている。

「いや。ブランシェのことは特には」
「ふーん?」

 探るような目を向けてくるアロンは、偉そうに俺を見回してくる。「本当ですか?」と、再度確認されたので「本当だよ」と応じておく。疑われる意味がわからない。

「でもブランシェはルイス様に気があるらしいじゃないですか」
「どこで聞いたの、それ」

 アロンは謎に情報通である。
 一体どこで聞きつけてきたのやら。まあブランシェも騎士だからな。彼の父親は王立騎士団第三部隊の隊長らしいし。アロンと接点もあるのだろう。

「あんな訳のわからない子爵家なんて相手にする必要ないですよ。きっぱり振ってやってください」
「なんでだよ」

 告白もされていないのに振るのは普通に意味不明だろ。俺がヤバい奴認定されてしまう。

 だが、アロンは引かない。
 次会った時にきっぱり振ってこいとうるさい。無理だっての。何度も言うがまだ告白もされていない。どういう流れで振るっていうんだよ。

「いいや。絶対に振っておいた方がいいです。ティアンもそう思うよね?」

 ここにきて突然ティアンの存在を認めたアロンは、後輩へと強気に同意を迫る。「いや知りませんよ」とティアンは冷たい反応だ。

 アロンいわく、ブランシェに意中の人がいると最近噂になっているらしい。あの堅物が色恋沙汰なんて、と面白おかしく広まっているのだとか。その相手が俺だというのがアロンの主張である。

「そうかな? ブランシェの好きな子でしょ。普通に女の子じゃない? 俺ではないと思う」
「なんでも相手は儚げな美少年だとか」
「俺じゃん」

 どうしよう。それは間違いなく俺だ。断言できる。
 だってブランシェの周りにいる美少年といえば、俺しかいない。俺よりも美少年な人はいないと思う。

 びっくりする俺の横で、ティアンが「え、なんですか。その手のひら返し」と俺に変な視線を注いできた。俺が美少年なのはティアンだって認めていたでしょうが。何その不思議そうな顔。

「ブランシェって俺のこと好きなの!? どうしよう!」
「だから振ってやってくださいと言ってるんですけど」

 半眼になるアロン。ティアンも不愉快な表情だ。

 でもその噂が事実だとしてもだ。やっぱり告白されてもいないのに振るのはおかしい。もしアロンの言っていることが間違っていれば、俺は大恥をかくことになる。それは嫌だ。

 そう伝えてみるが、アロンは「はぁ?」と納得しない。我儘にも程がある。

 最終的には「だったら恋人の存在を匂わせてはどうですか?」と提案してきた。

「流石にルイス様に恋人がいると分かれば、ブランシェだって諦めるでしょ」
「うーん。でも俺、恋人いないしなぁ」

 アロンの言う通り、恋人の存在を匂わせておけばブランシェだって俺に告白してくることはないだろう。先手を打つというわけだ。

 でも嘘を吐くのはちょっと。
 こっちはアロンみたく図太い性格ではないので。気が引けると言えば、アロンはきょとんとした表情になる。

「なに言ってるんですか。ルイス様には恋人いるでしょ」
「……いないよ?」

 急に何を言い出すのか。
 ティアンと顔を見合わせれば、アロンは当たり前みたいな態度で堂々と俺を見据えた。

「俺がいるじゃないですか」
「……」

 本当に何を言っているんだ、こいつは。
 黙っていると「え、俺とルイス様って付き合ってますよね?」と怖いこと言い出した。

 大丈夫か? なんか記憶が混乱しているのか?

 あまりの出来事に唖然としていれば、ティアンが「都合の良いように事実を捏造しないでもらえますか」と半眼になった。

 チッとアロンが舌打ちした。

「押せばいけると思ったんですけど」

 いけるわけないだろうが。
 あっさり捏造を認めたアロンは、へらへらしている。ちょっと驚いた俺は、ペシッとアロンの背中を叩いておく。それでもへらへらしているアロンは、到底反省しているようには見えなかった。
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