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16歳

507 作った

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 アロンの言うようにブランシェが俺に気があるのだとしても、そんなに焦る事態ではない。嫌われていないのであれば大丈夫。

 早々に手を打つべきというアロンの主張を聞き流して自室に戻る。最後までぐちぐち言っていたアロンは、「君がどうにかしろよ」とティアンに無茶なことを言っていた。先輩に変な絡み方をされて可哀想に。

『おかえり』
「綿毛ちゃん。大人しくしてたか?」
『オレはいつもおとなしいよぉ』

 ね? とジャンを見上げる綿毛ちゃんをわしゃわしゃ撫でて、なんとなく部屋を見渡す。

 俺の部屋はいつもジャンが綺麗に片付けている。ジャンは相変わらず控えめな態度だけど、当初のようなぎこちなさはない。昔のようなどこか悲痛な面持ちはあまり見せなくなった。

 そんなジャンの姿をなんとなく目で追う。俺の上着を預かって手際よく片付けている。

「……ジャンって彼女いるの?」
「え」

 先程のアロンとの会話が頭をよぎって、そんな疑問が口をついた。「やめなさい」とティアンが苦い顔をするが、ジャンはちょっぴり笑うと「いえ。残念ながら」とあっさり答えてくれた。

 まあ、そうだよな。

 ジャンはいつも俺のそばに居るから。恋人作る暇なんてなさそう。ちょっと申し訳ない。時折休んではいるが、その貴重な休日でさえ基本的にヴィアン家の屋敷内にいる。外に行かないの? と訊いてみたこともあるが、特に用はないからと言われてしまう。

 少し離れたところに実家があるらしいが、あまり帰っていないようだ。ジャンのプライベートはいまだに謎である。こんなに一緒にいるのに。

 そもそもジャンは騎士になるためにヴィアン家に来たと聞いたことがある。それがブルース兄様の無茶振りで当時十歳だったユリスの従者に任命されてしまったのだ。今更騎士になるつもりはないとジャンは言っていたが、本音かどうかはわからない。

 でもジャンが騎士かぁ。いつも青い顔でオロオロしていた印象が強いので、騎士になったジャンというのが想像できない。でも細っこいティアンも今では立派な騎士である。ジャンも鍛えれば騎士っぽくなるのかもしれない。

「俺のことは気にしないで。もっと休んでもいいからね」

 ティアンもいるしと笑えば、ジャンが「ありがとうございます」と小さく頷いた。その曖昧な返事、休むつもりないな。

「綿毛ちゃんとエリスちゃんのお世話は俺に任せて」
『不安しかない』
「なんだと!」

 生意気なこと言う綿毛ちゃんを持ち上げて振り回してやる。『やめてぇ』と間延びした声で雑に抗議する綿毛ちゃんにはやる気というものがなかった。

「ジャンにいい物あげる」

 いつも俺のために働いてくれているジャンである。戸棚をあさってお目当ての物を探し出す。「なんで散らかすんですか」とティアンがうるさい。散らかしているわけではない。

「あった!」

 奥底に仕舞い込まれていた物を取り出す。小さな箱で大事に保管していたのだ。

「はい、あげる」
「これは?」

 怪訝な顔で受け取ったジャン。そっと箱を開けて中身を確認した彼は、それでも首を捻っている。

「俺が作った綿毛ちゃん」
『え。なにそれ』

 説明してあげれば、横から綿毛ちゃんが首を突っ込んでくる。『見せてぇ』とうるさい毛玉に催促されて、ジャンが腰を屈めている。律儀に綿毛ちゃんの相手をしてあげている。優しい。

 箱の中には、以前俺が作った綿毛ちゃんが入っている。キャンベルが白猫エリスちゃんの毛を使って小さいエリスちゃんを作ってくれた時のことである。

 綿毛ちゃんもほしいとお願いしてみれば、キャンベルが「ルイスくんも作ってみる?」と楽しい提案をしてくれた。それに乗っかって作ったのがこの綿毛ちゃんである。

 本当は綿毛ちゃんの毛で作りたかったのだが、綿毛ちゃんはあまり毛が抜けない。仕方なく毛を抜いてしまおうと何度かチャレンジしたのだが、綿毛ちゃんが『やめてぇ』と逃げ回るので叶わなかった。

 そのため、オーガス兄様に以前あげたエリスちゃんの抜け毛の残りで作ったのだ。だから色が違う。本物の綿毛ちゃんは灰色っぽいのに、俺が作った綿毛ちゃんは真っ白。ちょっと雰囲気が違うので、失敗作として戸棚の奥に隠しておいたのだ。

 でも案外可愛くできたので気に入っている。この際だからジャンにあげようと思う。

 そういうことを説明すれば、ジャンが「いいんですか?」とそっと箱を抱えた。

「いいよ。大事にしてね」

 俺にしては上手く作れたというだけで、実際にはキャンベルの作品とは比べ物にならない出来なのだ。

 箱の中身を覗き込んだ綿毛ちゃんが『これ、オレ? なんか違う』と微妙な顔をしている。

『坊ちゃんはお絵描きもちょっと下手くそだもんねぇ』
「下手じゃないから!」

 なにこの毛玉。なんでそんなこと言うのか。
 俺って絵上手だよね!? とティアンを振り返れば、突然話を向けられた彼はビクッと肩を揺らした。

「えっと。僕は好きですよ。個性的で。なんというかルイス様って感じで、滅茶苦茶で」
「めちゃくちゃってなに? どういうこと?」

 それって悪口だよね。
 ティアンに詰め寄れば、彼は「いや、今のはその」と頭を掻く。

「言葉を間違えました」

 絶対に嘘だ。え、俺ってそんなに下手なの?

 ジャンに視線を遣るが、彼はどこか楽しそうに笑っていた。その笑顔を見れば、なんかもうどうでもいいやという気分になってくる。ジャンが喜んでくれたならそれでいいや。
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