嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

461 もしも

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 そういえば、ティアンが訓練中の様子って見たことないな。いつも俺の近くに佇んでいるだけで、騎士っぽい仕草はあまり見ない。

 たまにアロンを先輩呼びしていたりするけど、あれは完全にアロンに対する嫌味だ。

「ラッセル」
「何でしょうか」

 隣を歩くラッセルは、にこにこと愛想笑いをしている。どこから見ても優しい王子様で、あまり騎士っぽくはない彼だが、王立騎士団において出世も果たしている実力派だ。

「ティアンはちゃんと授業受けてた?」
「えぇ、もちろん」

 思えば、ティアンから学園生活に関する話を聞かない。あの四年間、ティアンがどう過ごしていたのか、俺にとってはまったくの謎だ。

「頑張っていましたよ」
「ふーん」
「あの顔ですからね。よく女子生徒に囲まれていましたよ」
「へ、へぇ」

 なんそれ。初耳ですが?

 ラッセルいわく、ティアンが通っていたのは騎士を目指す子たちが集まるクラスだったが、あの学園は大規模なものらしく、他にも貴族の子女が通うクラスなどもあるらしい。

「それってさ。もしかして俺も通えた?」
「え? あぁ、はい。ティアンとは別のクラスであれば入学は可能だったと思いますが」

 不思議そうな顔をするラッセルに、「そうなんだ」とぼんやり呟く。

 俺も一時期、ティアンと一緒に通いたいと言ったことがある。でも兄様たちに反対された。あとはお父様お母様にも反対された。あれは学園に通ってはダメというよりも、俺が屋敷を離れて寮生活することに反対しているような感じだった。

 その時の俺は「まぁ、勉強は面倒だしなぁ」で納得したが、もしあそこで学園に通うことを選択していたら今頃どうなっていたのだろうか。

 渋々歩いている綿毛ちゃんを見る。俺が綿毛ちゃんを捕まえたのは、ティアンが学園に通っている間であった。俺も入学していれば、綿毛ちゃんはゲットできなかったかもしれない。

「ティアンってモテるの?」
「みたいですね」
「なんで?」
「なんで?」

 面食らったらしいラッセルは、「えっと」と考え込んでしまう。

「顔がいいからでは?」
「ふーん」

 昔のティアンは弱そうなお子様だったのに。帰ってきたら優男風に成長していた。なるほど。女の子にモテそうではある。

「俺も可愛い顔してるってお母様に言われる」
「私もそう思います」

 雑に肯定してくるラッセルは、おそらく俺に忖度している。

 可愛いと褒められるのも嬉しいけど、かっこいいとも言われたい。俺をかっこいいと褒めてくれるのはジェフリーくらいだ。

 訓練場が見える位置までやってくると、ラッセルが「では、私はこれで」と頭を下げる。

「なんで? ティアンのこと一緒に探してあげるよ」
「いえ。ルイス様のお手を煩わせるわけには」
「俺、暇だから」

 遠慮しなくて大丈夫。
 そのままラッセルと綿毛ちゃんを引き連れて、訓練場に突っ込む。騎士たちがざわついているが、気にしない。

 ブルース兄様が騎士棟にいないことは確認済みだ。

 中央で、なんだかやる気なさそうに突っ立っていたセドリックが、こちらを振り返った。

「……」

 無言の彼は、果たして団長の仕事をこなせているのだろうかとちょっぴり心配になる。前任のクレイグ団長は、俺が騎士棟に近付くとどこからともなく姿を現しては、注意をしてきた。それと比べると、セドリックは緩い。

「見て、セドリック。犬の散歩」
「左様で」

 無表情のセドリックは、俺の背後に佇むラッセルを気にしている。突然の訪問に戸惑っているらしい。

「団長殿。どうもお久しぶりです」

 にこっと笑顔を浮かべるラッセルに、セドリックが「お久しぶりです」と小さく返している。

 相変わらず口数が少ない。
 そんなセドリックに苦笑をもらして、ラッセルは周囲を見渡す。

「ティアンはどちらに」
「ティアン?」

 怪訝な様子のセドリックであったが、色々と理由を問い詰めるのが面倒だったのだろう。ラッセルは、比較的ヴィアン家に出入りすることの多い人物であるし、オーガス兄様のお友達でもある。そんなに警戒する必要はないと考えたのか、訓練場の一角を指差した。

「ティアン!」

 大きく手を振れば、ティアンがこちらに寄ってくる。綿毛ちゃんも尻尾を振って存在をアピールしている。

「ダメですよ! 訓練場に足を踏み入れたら」

 駆けつけるなり小言をぶつけてくるティアンは、ラッセルを認識するなり姿勢を正した。なんだその気合いの入れようは。やはり学園時代の恩師には、強く出られないのだろうか。いつもどことなく偉そうなティアンにしては、珍しい。

 ぼけっとしているセドリックは、どうでもよさそうに訓練用の剣を触っている。

「ラッセルが、ティアンに用事だって」

 ティアンの袖を引けば、彼は気まずそうに頬をかく。

「わざわざすみません。連絡いただけたら僕の方から伺いましたのに」
「いえいえ。オーガス様にもお会いしたかったので」

 柔らかく応じるラッセルは、大人の対応だ。
 そんな二人を交互に眺めていると、ティアンが「ルイス様はお部屋にお戻りください」と冷たいことを言う。

 なんでだよ。ラッセルをここまで案内したのは俺だぞ。
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