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16歳

462 知らない一面

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 その場にとどまってみるが、ティアンは苦い顔だ。俺がいたらできない話でもするつもりなのか。なんか怪しい。

 じっとティアンを見つめてみるが、ティアンも頑なだった。半眼になった彼は、ちょっと遠くに視線を投げると「あ」とわざとらしい声をあげた。

「ルイス様」
「なんだ」
「向こうに副団長いますよ」

 副団長? ロニー?

 ハッと振り返れば、訓練場の端に素敵な長髪男子くんがいる。ロニーは、副団長になってから顔を合わせる機会が目に見えて減ってしまった。一時期は、俺の護衛としてずっと側にいたのに。

 ティアンとロニー。ふたりを交互に見比べて、俺は決めた。

「よし! 行くぞ、綿毛ちゃん!」
『……』

 ラッセルがいるため無言の毛玉をぐいぐい引っ張る。目指すはロニーだ。久しぶりにお話ししたい。

 ラッセルが「え? そっちに行くんですか?」と困惑している。俺も迷ったけど。ティアンとは毎日会えるから今はいいや。俺のことを満足そうに送り出すティアンは、そのままラッセルと立ち話を始めてしまう。

 仕事の話だろうか?
 でも、そうだったらわざわざ俺を追い払うような真似をする必要ある?

 ブルース兄様は、よく「子供は向こうで遊んでおけ」とか適当なことを言って俺を追い払おうとしてくることもあるけど。

 なんかモヤモヤする。
 気に入らないので、綿毛ちゃんのリードを握ったまま勢いよく走り出す。

『そんなに引っ張らないでぇ』
「がんばれ! 綿毛ちゃん!」
『えー』

 不満たらたらの毛玉は、短い足で一生懸命に歩いている。何度見ても、この毛玉は足が短い。

 ふふっとひとりで笑っていると、『なに? なんで笑ってるのぉ?』と綿毛ちゃんが訊いてくる。「なんでもない!」と答えて、ロニーのことを呼ぶ。

 俺が向かって来ていることを察知したらしいロニーは、にこにこと微笑みながら寄って来てくれる。

「ルイス様」
「ロニー! 会いたかった! 久しぶり!」

 嬉しいですね、と笑ってくれるロニーは、すっかり副団長の肩書きが似合うようになっている。

 やる気のないセドリックと、真面目で優しいロニー。案外上手くいっているらしい。当初はみんながセドリックのことを心配そうに見ていたが、さすがはセドリック。面倒くさがりつつも、仕事はきちんとこなしているらしい。思えば、セドリックはやる気はないものの副団長時代にも特に目立って悪さをすることはなかった。

「ラッセルを案内してあげた」

 とりあえず俺の働きを報告しておく。にこにこ顔のロニーは、「ありがとうございます」と俺のことを褒めてくれる。

「仕事、大変?」
「やりがいがあって楽しいですよ」

 穏やかなロニーは、会話していて楽しいのだ。会話の合間に、少し離れた位置にいるティアンとラッセルをちらちらと確認する。

 なにやら真剣な表情で話し込んでいる。ティアンが難しい顔をしている。思わずじっと凝視していれば、ロニーも不思議そうにティアンに視線を投げた。

「何の話だろうね?」

 ロニーは何か知っているだろうか。
 軽い感じで尋ねてみると、ロニーは「すみません」と眉尻を下げてしまう。

 どうやらロニーも知らないらしい。

 学園に通っていた時、先生と生徒の関係だったらしいから、学園関係の話だろうか。なんとなく綿毛ちゃんのリードをいじっていると、ロニーが「ティアンのことが気になりますか?」と首を傾げる。

「うーん」

 気になるというか、なんというか。

 なんだか俺の知らないティアンがいるようで、少しだけ不安になる。ヴィアン家の屋敷にいる時のティアンは、概ね俺の知っているティアンだ。彼は、俺の知らない学園内での話はあまりしないから。ティアンが学園でどういう生活をしていたのかとか、どんな友達がいたのかとか。

 そういう話題を出さないから、俺は気楽にしていることができる。たまに気になることもあるけど、たいていはすぐに忘れてしまう。

 でも、ああやってラッセルと対面するティアンはなんか違う。俺の知らないティアンの一面が顔を出す。

「ティアンって、友達いるのかな」

 ぼそっと呟けば、ロニーは少し考えるように首を捻った。

「そういう話、あまりティアンからは聞きませんね」
「ねー」

 ティアンは割と遠慮がなくて図々しい奴だけど。その実、プライベートがかなり謎でもある。アロンは俺のことを自室に入れてくれるけど、ティアンは俺のことを部屋には入れてくれない。

 昔のティアンは、花壇の花を見るのが好きで、読書も好き。あとはお菓子も好きだった。そして外遊びが嫌いで、噴水で遊ぶのも嫌がっていた。

 でも今現在、俺と同じテーブルにつくことがなくなったティアン。彼が何を好きなのか、嫌いなのか、知る機会がほとんどないことに気がついた。
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