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16歳
458 ずるい
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俺の言葉に納得がいかないらしいジェフリーは、ちょっぴり怖い顔で俺を見つめている。
俺よりもいい人いるよと伝えたつもりなのだが、上手く伝わっただろうか。そわそわと落ち着きのない綿毛ちゃんは、すんごい小声で唸っている。きっとお喋りしたいのを頑張って我慢しているのだ。
「誰が好きなんですか」
「え?」
「ルイス様の好きな人。誰ですか。教えてください」
「誰って言われても」
そんなの俺にだってわからない。わからないから、こんなに悩んでいるのだ。だが、ジェフリーは「教えてください」と何度も言葉を重ねてくる。その真剣な声色に、思わず頬をかく。
「それを知ってどうするの?」
優しく尋ねてみれば、ジェフリーがムスッと不機嫌になる。いつも人の顔色を窺うような彼にしては、珍しい表情だ。じっと見ていれば、ジェフリーがグッと拳を握った。なんだか気合いを感じる。
「ルイス様の好きな人、僕に教えてください。僕がその人に勝ったら、僕と付き合ってくれますか」
「そういうシステムは採用してないよ」
びっくりして、ちょっと冷たく返してしまった。そもそも勝つってなんだ。俺は一体どんな人間だと思われているのか。みんなを戦わせて最後に残った奴と付き合うなんて言った覚えはないぞ。なんだそのシステム。ジェフリーは、どんな勝負をしかけるつもりでいるのだろうか。
俺の横でわふわふ言っていた綿毛ちゃんが、今度は笑いを堪えてふるふるしている。ジェフリーの思わぬ提案がツボに入ったらしい。
声を出さないように奮闘している綿毛ちゃんを見ていれば、俺の方もなんだか笑いが込み上げてきた。
堪えきれなくなって小さく吹き出せば、ジェフリーが唇を尖らせる。
「なんで笑うんですか」
「いやだって。ジェフリーが勝負とか意味わかんないこと言うから」
「僕は真剣です」
「やめて。笑わせないで」
我慢できずに笑っていると、ジェフリーがふいっとそっぽを向いてしまう。慌てて「ごめん」と謝るが、ジェフリーはこちらを向いてくれない。
「ごめんって、ジェフリー」
おーい? と声をかければ、ジェフリーがビクッと肩を揺らす。すぐ傍にいる彼は、ちらちらと俺の様子を窺っている。
やがて俺につられたのか。小さく笑ったジェフリーは、ようやく俺の顔を見てくれた。
「ルイス様はずるいです」
「え、そう?」
ずるいなんて言われたことないけどな。
予想外の評価に戸惑っていると、ジェフリーがそっと目元を拭った。
「でもそういうところが好きです」
「あー、えっと」
好きという言葉に焦りを感じていると「わかっていますよ」と静かな声が返ってきた。
「僕とは付き合えないんですよね」
「……うん」
頷けば、ジェフリーが「ですよね」と何度も呟く。
「僕じゃダメですよね。そもそも僕はルイス様の隣に並べるような人間じゃ」
「そういう意味じゃないよ」
ジェフリーとは付き合えないが、その理由ははっきりさせておかないといけない。ジェフリーは悪くない。これは俺の気持ちの問題だ。自分が悪いなんて思ってほしくはない。久しぶりに卑屈さをみせたジェフリーを、俺はすぐさま遮る。
「俺の隣に並んじゃダメな人なんていないから」
ジェフリーは、貴族社会の身分に関する話をしているのだろう。たとえそうだとしても、関係ない。俺は肩書きで人を選んでいるわけではない。
俺の言葉に、目を瞬くジェフリー。そのきょとんとした顔は、年相応のような気がした。
「そんなこと言ってくれるのルイス様だけです」
「そんなことないよ」
「でも」
「今はそうだとしても。俺より優しい人なんて、これからたくさん会えるよ」
ね? とジェフリーの肩を軽く叩けば、「……はい」という小さな反応があった。その後、再び目元を拭うジェフリーは、短く息を吐いた。それで、場の空気が一気に緩んだ気がした。
ベッドに横たわって、天井を見上げる。ジェフリーも同様に寝転んでいる。
綿毛ちゃんが、急いで俺とジェフリーの間に割り込んでくる。先程ティアンにお願いされたことを今更思い出したのだろう。鼻息荒く伏せる綿毛ちゃんは、ひとり満足そうであった。これで俺を守っているつもりらしい。正直なんの役にも立っていないけど。綿毛ちゃんがそれでいいなら放っておこう。
「僕、また遊びに来てもいいですか。もうルイス様のことは諦めるので。付き合ってほしいなんて言わないので。一緒に遊ぶくらいはいいですか?」
「いいよ。いつでもおいで」
緩く笑って、胸を撫でおろす。これでようやく肩の荷がひとつおりたと思う。
この話をするにあたって、ジェフリーと絶交する覚悟も一応はあった。でもそうならなくて心底安心した。ジェフリーに会えなくなるのは、俺も嫌だから。
ジェフリーの反応が読めなくてちょっぴり怖かったけど、はっきり伝えてよかったと思う。
明かりを消して暗くなった部屋。
そろそろ本当に眠い。目を閉じてから、まだジェフリーが隣にいることを思い出す。
まぁ、いいや。
一瞬だけ、怒ったようなアロンの顔が脳裏をよぎったけど。
俺よりもいい人いるよと伝えたつもりなのだが、上手く伝わっただろうか。そわそわと落ち着きのない綿毛ちゃんは、すんごい小声で唸っている。きっとお喋りしたいのを頑張って我慢しているのだ。
「誰が好きなんですか」
「え?」
「ルイス様の好きな人。誰ですか。教えてください」
「誰って言われても」
そんなの俺にだってわからない。わからないから、こんなに悩んでいるのだ。だが、ジェフリーは「教えてください」と何度も言葉を重ねてくる。その真剣な声色に、思わず頬をかく。
「それを知ってどうするの?」
優しく尋ねてみれば、ジェフリーがムスッと不機嫌になる。いつも人の顔色を窺うような彼にしては、珍しい表情だ。じっと見ていれば、ジェフリーがグッと拳を握った。なんだか気合いを感じる。
「ルイス様の好きな人、僕に教えてください。僕がその人に勝ったら、僕と付き合ってくれますか」
「そういうシステムは採用してないよ」
びっくりして、ちょっと冷たく返してしまった。そもそも勝つってなんだ。俺は一体どんな人間だと思われているのか。みんなを戦わせて最後に残った奴と付き合うなんて言った覚えはないぞ。なんだそのシステム。ジェフリーは、どんな勝負をしかけるつもりでいるのだろうか。
俺の横でわふわふ言っていた綿毛ちゃんが、今度は笑いを堪えてふるふるしている。ジェフリーの思わぬ提案がツボに入ったらしい。
声を出さないように奮闘している綿毛ちゃんを見ていれば、俺の方もなんだか笑いが込み上げてきた。
堪えきれなくなって小さく吹き出せば、ジェフリーが唇を尖らせる。
「なんで笑うんですか」
「いやだって。ジェフリーが勝負とか意味わかんないこと言うから」
「僕は真剣です」
「やめて。笑わせないで」
我慢できずに笑っていると、ジェフリーがふいっとそっぽを向いてしまう。慌てて「ごめん」と謝るが、ジェフリーはこちらを向いてくれない。
「ごめんって、ジェフリー」
おーい? と声をかければ、ジェフリーがビクッと肩を揺らす。すぐ傍にいる彼は、ちらちらと俺の様子を窺っている。
やがて俺につられたのか。小さく笑ったジェフリーは、ようやく俺の顔を見てくれた。
「ルイス様はずるいです」
「え、そう?」
ずるいなんて言われたことないけどな。
予想外の評価に戸惑っていると、ジェフリーがそっと目元を拭った。
「でもそういうところが好きです」
「あー、えっと」
好きという言葉に焦りを感じていると「わかっていますよ」と静かな声が返ってきた。
「僕とは付き合えないんですよね」
「……うん」
頷けば、ジェフリーが「ですよね」と何度も呟く。
「僕じゃダメですよね。そもそも僕はルイス様の隣に並べるような人間じゃ」
「そういう意味じゃないよ」
ジェフリーとは付き合えないが、その理由ははっきりさせておかないといけない。ジェフリーは悪くない。これは俺の気持ちの問題だ。自分が悪いなんて思ってほしくはない。久しぶりに卑屈さをみせたジェフリーを、俺はすぐさま遮る。
「俺の隣に並んじゃダメな人なんていないから」
ジェフリーは、貴族社会の身分に関する話をしているのだろう。たとえそうだとしても、関係ない。俺は肩書きで人を選んでいるわけではない。
俺の言葉に、目を瞬くジェフリー。そのきょとんとした顔は、年相応のような気がした。
「そんなこと言ってくれるのルイス様だけです」
「そんなことないよ」
「でも」
「今はそうだとしても。俺より優しい人なんて、これからたくさん会えるよ」
ね? とジェフリーの肩を軽く叩けば、「……はい」という小さな反応があった。その後、再び目元を拭うジェフリーは、短く息を吐いた。それで、場の空気が一気に緩んだ気がした。
ベッドに横たわって、天井を見上げる。ジェフリーも同様に寝転んでいる。
綿毛ちゃんが、急いで俺とジェフリーの間に割り込んでくる。先程ティアンにお願いされたことを今更思い出したのだろう。鼻息荒く伏せる綿毛ちゃんは、ひとり満足そうであった。これで俺を守っているつもりらしい。正直なんの役にも立っていないけど。綿毛ちゃんがそれでいいなら放っておこう。
「僕、また遊びに来てもいいですか。もうルイス様のことは諦めるので。付き合ってほしいなんて言わないので。一緒に遊ぶくらいはいいですか?」
「いいよ。いつでもおいで」
緩く笑って、胸を撫でおろす。これでようやく肩の荷がひとつおりたと思う。
この話をするにあたって、ジェフリーと絶交する覚悟も一応はあった。でもそうならなくて心底安心した。ジェフリーに会えなくなるのは、俺も嫌だから。
ジェフリーの反応が読めなくてちょっぴり怖かったけど、はっきり伝えてよかったと思う。
明かりを消して暗くなった部屋。
そろそろ本当に眠い。目を閉じてから、まだジェフリーが隣にいることを思い出す。
まぁ、いいや。
一瞬だけ、怒ったようなアロンの顔が脳裏をよぎったけど。
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