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16歳

457 前にも

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 というか、この会話。前にも似たようなやりとりしたな。

 ジェフリーの顔を見上げながら、そんなことをぼんやりと考える。確か以前にも、ジェフリーに「弟じゃないです」と言われたことがあった。

 相変わらず俺の上に覆いかぶさったままのジェフリーは、あの時とは違って不満を全面に出している。

 もう泣きそうな顔ではなかった。

 ジェフリーの肩を軽く押して、俺も起き上がる。案外あっさりと退いてくれたジェフリーは、ぺたんとベッドの上に座って俺に責めるような目線を送ってくる。

 やっぱりはっきりしないとダメだ。

 俺にとってのジェフリーは、弟という言葉が一番ぴったり。たとえジェフリーがそれを嫌だといっても、そう簡単に俺の中のイメージは変えられない。

 ジェフリーが傷つくかもとか、ジェフリーに嫌われるかもとか。そんなことを考えては、これまでずっと答えを曖昧にしてきた。

 曖昧にしてしまうのは、俺の悪い癖だと思う。

 自分でもわかっているのだが、簡単に改善できるものならとっくにやっている。改善できないから困っているのだ。

 だって俺はまだジェフリーと遊びたい。

 ジェフリーの前でお兄さんぶって楽しく過ごしたい。ジェフリーの気持ちは受け入れられないと言えば、彼はもう俺とは会ってくれないような気がする。それは嫌だ。実際に、以前ジェフリーとは付き合えないと言った時、ジェフリーは俺から逃げるように帰ってしまった。

 自分でも、すごく勝手な考えだと思う。ジェフリーのことを振りまわしている自覚もある。

 だけど、常に正しい選択をするなんて無理だ。俺にだって、俺の理想とする未来があって。その中では、俺とジェフリーは兄弟みたいに仲良くできたらいいなと考えている。でもジェフリーはそれでは嫌だと言う。

 考え込んでいると、なにやら視線を感じた。いつの間にか俺の隣に来ていた綿毛ちゃんが、俺のことを心配そうに見上げている。その背中をそっと撫でて、固く拳を握りしめているジェフリーを視界に入れた。

「あのね、ジェフリー」
「……」
「俺はジェフリーのこと好きだよ。好きだけど、そういう恋人になりたいとかじゃなくて。うん」

 言葉を詰まらせる俺に、ジェフリーがぎゅっと眉間に力を込めている。泣くのを堪えているようにも、怒っているようにも見える。

 口を挟まないジェフリーは、その代わりに唇を噛みしめている。思わず手を伸ばしそうになって、直前でやめた。気軽に触ると、また変な期待を持たせてしまいそうだ。

「正直、弟みたいって思ってる。ごめん」

 弟扱いはしてほしくないジェフリー。それでも、彼を弟扱いしてしまう俺。一向に噛み合わない歯車は、どうしようもない。ここはきっぱり断るしかない。

「ジェフリーが、俺に弟扱いされたくないのはわかってるよ。でも、やっぱり弟だと思っちゃう」

 ジェフリーを恋人にする未来が、俺にはどうしても想像できない。そう伝えると、ジェフリーが肩を揺らす。

「そんなの。想像できないとか関係ないです。実際に僕と付き合ってみれば」
「ごめんね」

 ジェフリーの言葉を遮って、「ごめん」と繰り返す。以前のように、ジェフリーの泣き顔に絆されて流されるわけにはいかない。

 よくよく考えると、俺は一度ジェフリーを振ったはずである。それなのに、ジェフリーの泣きそうな顔と弱々しい主張に引っ張られて、ここまで曖昧にしてしまった。ジェフリーは、弱そうにみえて結構したたかだ。こういうところは、兄のデニスにそっくりだ。

「……ほかに好きな人でも?」

 ぼそっと呟かれて、今度は俺が肩を揺らす。
 好きな人と言われても、よくわからないけど。でも、脳裏をよぎった顔がいくつかある。

「ジェフリーは、なんで俺が好きなの?」

 どうして好きな人をひとりに絞れるのか。純粋な疑問をぶつけてみれば、ジェフリーがちょっぴり動揺をみせた。

「なんでって。僕に優しくしてくれたのはルイス様だけですから」

 昔を思い出したのか。どこか遠くを見つめるジェフリー。その悲しそうな横顔に、思わず手を伸ばしそうになってまた慌てる。

 なんだか気を抜くと、すぐにジェフリーに触れてしまいそうになる。

 少し前のジェフリーに、優しくしてくれる人が少なかったというのは事実だろう。アーキア公爵家でも、彼はひとりぽつんとしていた。周りには、いつも人がいなかった。

 でも今は違うだろう。

 デニスも、前に比べてジェフリーのことを気にかけているように見える。ジェフリーにも家庭教師がついて、使用人らしき人が側に居ることだってある。

 今のジェフリーは、ひとりぼっちではない。
 ジェフリーのことを見てくれる人は、たくさんいるはずだ。

 俺は、たまたまジェフリーがひとりだった時に一緒に遊んであげただけだ。ただそれだけで、ジェフリーにここまで好かれるのか?

「ジェフリーはまだ十四歳でしょ」
「……はい」
「これから、たくさんの人に会うと思うよ。ジェフリーに優しくしてくれるのは、もう俺だけじゃないでしょ?」
「そんなこと」

 弾かれたように顔を上げるジェフリーの瞳を、じっと覗き込む。

「俺は、遊び相手がほしかっただけ。一緒に遊んでくれて、俺のことをお兄ちゃんだと思ってくれるジェフリーが可愛いと思っただけなの。俺はそんなに優しくないよ」

 俺はかなり身勝手な性格だと思う。
 ジェフリーのことだって弟扱いして勝手に満足している。そんな俺を優しいと言うべきじゃない。
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