嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

439 依存

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 今日は泊まらずに帰ることにした。腰を上げるユリスに、デニスが「えー、泊まっていってよ」と縋っている。なにその可愛い声。俺に対しては絶対に発しない声だ。

 じっとデニスを見ていれば、キッと睨まれる。「君は帰っていいよ。さよなら」と、ひらひら手を振るデニス。相変わらず俺の扱いが酷い。

 だが、帰ると聞いて渋ったのはデニスだけではない。ジェフリーも「え」と絶句した後、「そうですか。帰るんですね」と、しゅんと肩を落としている。その弱々しい背中に、俺は思わずティアンを確認した。

「ジェフリーが可哀想」

 こそっとティアンに耳打ちすれば、彼は「どこが」と吐き捨てる。アロンと似たような態度を取るティアンに、目を瞬く。なんでみんなジェフリーに優しくしないのか。ジェフリーはまだお子様なのに。

「今度はジェフリーがうちに来て。猫と犬も一緒に遊びたいから」
「……はい」

 わかりましたと言いつつも、ジェフリーは俺の側を離れない。馬車の用意ができて、出発するという段階になっても、俺の裾を握ったまま離してくれない。やんわりと手を外そうとするが、力強く握っているジェフリーの相手は容易ではなかった。

「またすぐに遊びに来ていいから。とりあえず今日は帰るね」
「……はい」
「ジェフリー?」

 俺の言葉に納得するような素振りを見せつつも、一向に力を緩めないジェフリーに、ティアンが頬を引き攣らせている。タイラーも、ジェフリー相手にどう接するべきか迷っているらしい。俺とジェフリーを取り囲むように、みんなが並んでいる。

「ジェフリー」

 そんな中、動いたのはデニスだった。
 相変わらずユリスにベタベタと引っ付いたまま低い声を出すデニスは、半眼でジェフリーを睨みつけている。空気がピリッとしたのを感じて、なんだか俺も緊張してくる。

「迷惑だからやめて。ルイスくんも困ってるでしょ」
「……はい。すみません」

 ようやく手を離してくれたジェフリーに、みんなが安堵する。さすがジェフリーのお兄ちゃんだ。わかりやすく落ち込むジェフリーだが、次のデニスの言葉で笑顔が戻った。

「またすぐに遊びに行くけど。今度はジェフリーも一緒に行く?」
「はい!」

 デニスは、ユリスに会うため定期的に屋敷を訪れている。それにジェフリーも同行させるらしい。楽しい提案に、俺もジェフリーと一緒になって喜ぶ。

「では、また!」
「うん」

 笑顔で手を振ってくれるジェフリーに、俺も満面の笑みで手を振りかえす。デニスのあの様子だと、近々会うことができそうだ。

 帰りの馬車の中、偉そうに腕を組んで目を閉じていたユリスが、おもむろに顔を上げた。

「……どうだった?」
「ん? 楽しかったよ」
「そうか」

 一度口を閉じたユリスであるが、またすぐに言葉を発する。

「ジェフリー。仲良くやれているみたいだな」
「うん」

 ジェフリーに避けられるのではないかという心配とは裏腹に、彼は俺と仲良くしてくれた。それ自体はすごく嬉しいのだが、ジェフリーの今日の言動を思い返して、ちょっぴり不安がわいてくる。

 ジェフリーに、告白のようなことをされた。キスもされた。

 別に嫌だったわけではない。俺はなにも気にしていない。だが、ティアンが気にしていたのはわかる。

 また答えを出さなければいけない。ジェフリーの告白の答え。

 ジェフリーは、チャンスが欲しいと言った。俺はそれに頷いた。

 これで、俺に恋人がいるとかなんとか。断るための明確な理由があれば、即座にダメと言えた。しかし、俺には現状恋人なんていないし、はっきり好きだと言えるような相手もいない。そんな状況で、ジェフリーにチャンスさえも与えないのはなんか違うような気がした。でも、本当にそれでよかったのだろうかと悩んでいる。

 だって、俺は前に一度ジェフリーのことを振っている。過去の俺が、過去のジェフリーを振ったのは紛れもない事実だ。それなのに、今更考え直すのはどうなのか。でもあの時のジェフリーは今よりももっと子供で、俺だって子供だった。子供の頃の考えなんて、今は当てにできないような気がした。

 ユリスの視線に気がついて、苦笑する。不思議そうな顔をするユリスは「なにかあったのか?」と静かに問いかけてくる。

 あったと言えば、あったけど。

 なんとなく自分の唇に手を持っていく。ジェフリーにキスされて、嫌な気持ちにはならなかった。これって俺がジェフリーを好きってことだろうか。でも、それって恋愛的な意味なのだろうか。多分だけど、俺はユリスや兄様たちに触れるだけのキスをされたところで、そこまで嫌な気分にはならない。アロンやティアンも一緒だ。

 好きってなんだろうか。なんでジェフリーは、俺のことが好きって断言できるのだろうか。ジェフリーは、本当に俺のことが好きなのかな。

 考えても答えは出ない。ジェフリーの本心なんて、俺にはわからない。

「うーん。なんでもないんだけどさ」
「うん?」

 腕を組んだままのユリスは、馬車が揺れることに文句を言っている。馬車が揺れるのなんて当然のことなのに。

「ジェフリーはさ、俺のこと好きなんだって」
「へー」

 やる気のない反応をするユリスは「昔のおまえみたいだな」と、予想外の発言をする。

「昔の俺?」
「ロニーのことが好きと言っていたルイスにそっくりだ」
「……そう?」

 一体どこが。
 面食らう俺だが、ユリスは「そっくりだろ」と言い放つ。

「ジェフリーは、孤独な中で唯一相手をしてくれたルイスが好きなだけだ。母親と引き離されて、知らない屋敷で孤立していたあの状況だ。仮に相手がルイスじゃなくても、優しくしてくれるなら誰でも好きになったと思うぞ」
「うーん? つまりどういうこと?」
「ジェフリーが好きなのはルイスではなく、自分の相手をしてくれる奴ってわけだ」

 わかるような、わからないような。
 ユリスは、過去にも俺のロニーに対する好きという気持ちをそうやって否定してきたことがある。

「ジェフリーはやめておけ。あれは好きというより、おまえに依存しているだけだ。執着とも言うな」

 わかったような口を利くユリスに、俺は曖昧に頷いておく。ジェフリーの気持ちを真っ向から否定する必要はないと思うけど、依存という言葉はなんだかしっくりくるような気がした。
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