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13歳
327 新しい生活
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夏。
屋敷が賑やかになった。理由は簡単。人が増えたのだ。
青空の下。俺は庭に引っ張り出した犬と猫を交互に示して、ご紹介してやる。
「見て! これは猫。オーガス兄様にもらったの。でね、こっちは犬。俺が庭で拾ったの。喋るんだよ。すごいでしょ」
『よろしくぅ』
「ひぇ……! い、犬が喋ったぁ!」
あわあわと震えるキャンベルに、綿毛ちゃんを差し出す。おばけでも見たみたいに青い顔をする彼女は、綿毛ちゃんには決して触ろうとはせずに、じりじりと距離を取り始める。相変わらず、愉快な人だ。
面白くなった俺は、綿毛ちゃんを抱えてキャンベルを追いかける。ひゃあっと変な悲鳴をあげるキャンベルは、綿毛ちゃん相手にビビっている。どうしても綿毛ちゃんを触らせたい。角が生えているのだと教えてあげたい。奮闘する俺であったが、ロニーがやんわりと注意してくる。ロニーが言うならば、仕方がない。キャンベルに触らせるのはまた今度にしよう。
オーガス兄様は、キャンベルと結婚した。
うじうじしていた兄様であるが、ようやく腹を括ったらしい。キャンベルを屋敷に呼び出して、プロポーズしたそうだ。本当は俺も現場を目撃したかったのだが、ブルース兄様に邪魔されてしまった。ユリスも、プロポーズ現場に居合わせることができなくて拗ねていた。
だから、なにがどうなってそうなったのかは知らないが、ふたりは結婚した。屋敷はしばらくお祝いムードが続いている。
俺は、遊んでくれる人が増えて満足である。キャンベルは、なんだかヴィアン家に馴染もうと必死になっている。気持ちはわかる。突然、家族になれと言われても戸惑うよな。
彼女自身、陰で色々と言われているらしい。男爵令嬢が、一応ではあるが王位継承権を持つオーガス兄様と結婚したのだ。妬みや僻みなどなど。大変だと思うのだが、キャンベルはそれを表に出さない。屋敷では、情けない悲鳴をあげることは多々あるものの、概ねにこにこしている。
オーガス兄様は鈍感だから、キャンベルの頑張りにどこまで気がついているのか不明である。あれだな。後々、夫婦喧嘩にならなければいいけど。
「キャンベル! こっち来て。噴水あるんだよ」
「は、はい!」
暇を見つけては、キャンベルに屋敷内を案内している。先日は、騎士棟の方にも連れて行ってあげた。ずっと恐縮しているキャンベルは、誰に対してもペコペコしている。そんなビビらなくてもいいのに。
ジャン相手にもカチコチになってしまう彼女は、俺が見ている限りずっと緊張している。疲れないのかな? ちょっと心配。
キャンベルに噴水を見せて満足した俺は、彼女と別れて屋敷に戻る。キャンベルは、オーガス兄様のところへ顔を出すみたいだ。
オーガス兄様は、最近ずっと浮かれている。ブルース兄様は、相変わらず疲れた顔をしている。今回の結婚にあたっても、一番働いたのはブルース兄様だった。誰も、なにもしようとしないから。舌打ちしながらブルース兄様が全部やっていた。
だが、ようやく長男が結婚を決めたことで安堵したらしい。珍しく酔い潰れたりと、なんだかんだではしゃいでいたことを俺は知っている。アロンが「面倒みるの俺なんですけど」と、うんざりしていた。だが、アロンはいつもおサボりしている。こんな時くらい仕事してもいいと思う。
屋敷に増えたのは、キャンベルだけではない。キャンベルが引き連れてきた使用人たちもいる。とにかく、色々と屋敷内の空気が変わった気がするのだ。
お父様は、引退してすべてをオーガス兄様に任せようと画策しているらしい。長旅にでも行こうかと、お母様と楽しそうに計画を練っていた。
それに、ブルース兄様が猛反対している。どうせ計画はすべてブルース兄様に丸投げされる未来が見えたのだろう。あと屋敷のこともオーガス兄様に任せると言いつつ、実際にはブルース兄様が仕切ることになるのだということを察知したのだろう。これ以上、仕事を増やされてたまるかと、ブルース兄様はひとり粘っている。
キャンベルが増えることで、兄様たちが一番懸念していたのはユリスである。
あいつは気難しいお子様だ。それに時折、激ヤバ行動をする。キャンベルのことが気に入らないと、不機嫌モードになるのではないかと心配していたらしい。
だが、キャンベルはいい人だった。それはユリスが相手であっても変わらず、にこにこ笑顔でひたすらユリスの話を肯定する彼女に、ユリス自身も面食らっている様子であった。
今では、結構仲良くやっていると思う。
キャンベルのすごいところは、オーガス兄様に似て卑屈な割には、人と仲良くなるのが早いという点である。裏表なさそうな振る舞いが、非常に好感を抱かせるのだ。
綿毛ちゃんを抱っこしたまま、ユリスの部屋に入る。
「ユリス。キャンベルに綿毛ちゃん見せたらね、めっちゃ怖がってたよ」
『オレ、無害な毛玉なのにねぇ』
こちらを一瞥したユリスは、「僕も見たかった」と性格悪い発言をし始める。さすがだな。
ユリスは、キャンベルがおとなしいのをいいことに、彼女を捕まえては魔法云々の小難しい話をしている。この家では、誰も魔法に興味を持っていないからな。俺はちょっと興味あるのだが、「おまえに話しても理解できないだろ」とユリスからは相手にされないのだ。
こうして意外とすんなり、キャンベルはヴィアン家に馴染みつつある。
「ところで、ルイス」
「んー?」
床にしゃがんで、ロニーと一緒に綿毛ちゃんを撫でていれば、ユリスが椅子に座ったままこちらに視線を投げてくる。
「オーガスと喧嘩でもしたのか?」
「……べつに」
なんじゃこのお子様。ボケッとして周りに興味ないみたいな顔しているくせに。意外とよく見ているのはなんなのか。
顔を俯かせて、適当に流そうとするが、ユリスは突然察しが悪くなる。そういえば、こいつは揉め事が大好きなお子様であった。首を突っ込もうとうずうずしているらしい。
俺は、最近オーガス兄様と会話らしい会話をしていない。一応、結婚おめでとうとは伝えたが、それくらいである。
ブルース兄様も、俺と長男のギクシャクに気が付いているようであったが、なにも言ってはこなかった。アロンでさえも、特に口は挟んでこない。こうやって踏み込んでくるのはユリスくらいである。
「オーガスがなにかしたのか? やり返すか? 僕も手伝うぞ」
「そういうわけじゃあ」
首を捻るユリスは、オーガス兄様をいじめる口実が欲しいだけにも見える。
特になにかあったわけではない。ただ、なんとなくオーガス兄様と顔を合わせるのが嫌なだけだ。向こうがどう思っているのかは知らないが、ふとした瞬間に「ごめんね」と弱々しく謝ってくる兄様のことを少し鬱陶しく感じてしまう。
「反抗期か?」
にやにやと。心底楽しそうに問いかけてくるユリスを無視して、綿毛ちゃんを撫でまくった。
屋敷が賑やかになった。理由は簡単。人が増えたのだ。
青空の下。俺は庭に引っ張り出した犬と猫を交互に示して、ご紹介してやる。
「見て! これは猫。オーガス兄様にもらったの。でね、こっちは犬。俺が庭で拾ったの。喋るんだよ。すごいでしょ」
『よろしくぅ』
「ひぇ……! い、犬が喋ったぁ!」
あわあわと震えるキャンベルに、綿毛ちゃんを差し出す。おばけでも見たみたいに青い顔をする彼女は、綿毛ちゃんには決して触ろうとはせずに、じりじりと距離を取り始める。相変わらず、愉快な人だ。
面白くなった俺は、綿毛ちゃんを抱えてキャンベルを追いかける。ひゃあっと変な悲鳴をあげるキャンベルは、綿毛ちゃん相手にビビっている。どうしても綿毛ちゃんを触らせたい。角が生えているのだと教えてあげたい。奮闘する俺であったが、ロニーがやんわりと注意してくる。ロニーが言うならば、仕方がない。キャンベルに触らせるのはまた今度にしよう。
オーガス兄様は、キャンベルと結婚した。
うじうじしていた兄様であるが、ようやく腹を括ったらしい。キャンベルを屋敷に呼び出して、プロポーズしたそうだ。本当は俺も現場を目撃したかったのだが、ブルース兄様に邪魔されてしまった。ユリスも、プロポーズ現場に居合わせることができなくて拗ねていた。
だから、なにがどうなってそうなったのかは知らないが、ふたりは結婚した。屋敷はしばらくお祝いムードが続いている。
俺は、遊んでくれる人が増えて満足である。キャンベルは、なんだかヴィアン家に馴染もうと必死になっている。気持ちはわかる。突然、家族になれと言われても戸惑うよな。
彼女自身、陰で色々と言われているらしい。男爵令嬢が、一応ではあるが王位継承権を持つオーガス兄様と結婚したのだ。妬みや僻みなどなど。大変だと思うのだが、キャンベルはそれを表に出さない。屋敷では、情けない悲鳴をあげることは多々あるものの、概ねにこにこしている。
オーガス兄様は鈍感だから、キャンベルの頑張りにどこまで気がついているのか不明である。あれだな。後々、夫婦喧嘩にならなければいいけど。
「キャンベル! こっち来て。噴水あるんだよ」
「は、はい!」
暇を見つけては、キャンベルに屋敷内を案内している。先日は、騎士棟の方にも連れて行ってあげた。ずっと恐縮しているキャンベルは、誰に対してもペコペコしている。そんなビビらなくてもいいのに。
ジャン相手にもカチコチになってしまう彼女は、俺が見ている限りずっと緊張している。疲れないのかな? ちょっと心配。
キャンベルに噴水を見せて満足した俺は、彼女と別れて屋敷に戻る。キャンベルは、オーガス兄様のところへ顔を出すみたいだ。
オーガス兄様は、最近ずっと浮かれている。ブルース兄様は、相変わらず疲れた顔をしている。今回の結婚にあたっても、一番働いたのはブルース兄様だった。誰も、なにもしようとしないから。舌打ちしながらブルース兄様が全部やっていた。
だが、ようやく長男が結婚を決めたことで安堵したらしい。珍しく酔い潰れたりと、なんだかんだではしゃいでいたことを俺は知っている。アロンが「面倒みるの俺なんですけど」と、うんざりしていた。だが、アロンはいつもおサボりしている。こんな時くらい仕事してもいいと思う。
屋敷に増えたのは、キャンベルだけではない。キャンベルが引き連れてきた使用人たちもいる。とにかく、色々と屋敷内の空気が変わった気がするのだ。
お父様は、引退してすべてをオーガス兄様に任せようと画策しているらしい。長旅にでも行こうかと、お母様と楽しそうに計画を練っていた。
それに、ブルース兄様が猛反対している。どうせ計画はすべてブルース兄様に丸投げされる未来が見えたのだろう。あと屋敷のこともオーガス兄様に任せると言いつつ、実際にはブルース兄様が仕切ることになるのだということを察知したのだろう。これ以上、仕事を増やされてたまるかと、ブルース兄様はひとり粘っている。
キャンベルが増えることで、兄様たちが一番懸念していたのはユリスである。
あいつは気難しいお子様だ。それに時折、激ヤバ行動をする。キャンベルのことが気に入らないと、不機嫌モードになるのではないかと心配していたらしい。
だが、キャンベルはいい人だった。それはユリスが相手であっても変わらず、にこにこ笑顔でひたすらユリスの話を肯定する彼女に、ユリス自身も面食らっている様子であった。
今では、結構仲良くやっていると思う。
キャンベルのすごいところは、オーガス兄様に似て卑屈な割には、人と仲良くなるのが早いという点である。裏表なさそうな振る舞いが、非常に好感を抱かせるのだ。
綿毛ちゃんを抱っこしたまま、ユリスの部屋に入る。
「ユリス。キャンベルに綿毛ちゃん見せたらね、めっちゃ怖がってたよ」
『オレ、無害な毛玉なのにねぇ』
こちらを一瞥したユリスは、「僕も見たかった」と性格悪い発言をし始める。さすがだな。
ユリスは、キャンベルがおとなしいのをいいことに、彼女を捕まえては魔法云々の小難しい話をしている。この家では、誰も魔法に興味を持っていないからな。俺はちょっと興味あるのだが、「おまえに話しても理解できないだろ」とユリスからは相手にされないのだ。
こうして意外とすんなり、キャンベルはヴィアン家に馴染みつつある。
「ところで、ルイス」
「んー?」
床にしゃがんで、ロニーと一緒に綿毛ちゃんを撫でていれば、ユリスが椅子に座ったままこちらに視線を投げてくる。
「オーガスと喧嘩でもしたのか?」
「……べつに」
なんじゃこのお子様。ボケッとして周りに興味ないみたいな顔しているくせに。意外とよく見ているのはなんなのか。
顔を俯かせて、適当に流そうとするが、ユリスは突然察しが悪くなる。そういえば、こいつは揉め事が大好きなお子様であった。首を突っ込もうとうずうずしているらしい。
俺は、最近オーガス兄様と会話らしい会話をしていない。一応、結婚おめでとうとは伝えたが、それくらいである。
ブルース兄様も、俺と長男のギクシャクに気が付いているようであったが、なにも言ってはこなかった。アロンでさえも、特に口は挟んでこない。こうやって踏み込んでくるのはユリスくらいである。
「オーガスがなにかしたのか? やり返すか? 僕も手伝うぞ」
「そういうわけじゃあ」
首を捻るユリスは、オーガス兄様をいじめる口実が欲しいだけにも見える。
特になにかあったわけではない。ただ、なんとなくオーガス兄様と顔を合わせるのが嫌なだけだ。向こうがどう思っているのかは知らないが、ふとした瞬間に「ごめんね」と弱々しく謝ってくる兄様のことを少し鬱陶しく感じてしまう。
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