340 / 637
13歳
326 いつからその性格?
しおりを挟む
「アロンか?」
「うん」
気まぐれにつけた指輪を眺めていれば、ユリスが口を挟んでくる。よく見せてやろうと、はずして差し出せば、彼は一瞥しただけですぐに視線を逸らしてしまう。
「誕生日プレゼントだって」
「僕はなにももらっていない」
知らんがな。ユリスとアロンは、あんまり仲良しではない。気は合うみたいだが、積極的に会話する場面は珍しい。
「でも使い道がなぁ。俺、指輪しないし」
「僕もしない」
適当に返事をしてくるユリスに、俺は頬を膨らませる。
結局、指輪は適当に放置してある。常にはめておくのはストレスなのだ。だが、アロンは俺が指輪をしていないと露骨に不機嫌になる。ちょっとした板挟み状態だ。
「あのさぁ、ユリス」
「なんだ」
タイラーとロニーは、席を外している。ブルース兄様に呼ばれたらしい。最近、ブルース兄様はよく騎士を呼び出している。多分、クレイグ団長が騎士団を辞めたいと言っていた件に関してだと思う。
ジャンは、猫と犬に挟まれて立ち尽くしている。『助けて! この猫ちゃん凶暴なんだけどぉ!』と、綿毛ちゃんが大袈裟にジャンへと助けを求めて飛びついている。綿毛ちゃんは、いつ見ても賑やかだ。
「ユリスって、反抗期なの?」
「……は?」
低い声を発するユリスは、俺を睨み付けてくる。
「どうなの?」
「不愉快だ」
きっぱり話を打ち切ろうとするが、そうはさせるか。
ユリスは、兄様たちへの接し方が雑だ。兄呼びはもちろんしない。いつも呼び捨てており、その度にブルース兄様が注意しているが改善はしない。それに、兄様たちの言葉をいつも鬱陶しそうに聞き流している。これは、反抗期に違いない。
だが、ユリスは否定も肯定もしない。顔を歪めるだけで、適当に流そうとしてくる。
「なんで反抗期なの!? いつからなの! なんでお父様とお母様相手だとおとなしいの!?」
「うるさい!」
「いたい!」
ベチッと頭を叩かれて、カッとなる。やり返してやろうと追いかけまわすが、ユリスも素早い。
「謝れよ!」
『ちょいちょいちょい。やめなよ、坊ちゃんたち』
間に綿毛ちゃんが割り込んでくるが、もふもふに構っている暇はない。手を伸ばして、ユリスの胸元を掴む。ユリスもユリスで、掴みかかってくる。
「いや、あの。えっと」
ジャンが、オロオロと手を掲げたまま思考停止している。
「なんだおまえは! どういうつもりだ! 僕に構うんじゃない」
「そっちこそ! お子様のくせに!」
「ガキはそっちだろ!」
「なんだとぉ!」
こうなれば絶対に謝罪させる。躍起になる俺は、夢中でユリスを引き倒そうとする。ジャンが控えめに手を伸ばしてくるが、邪魔だからあっちに行っていてほしい。
あわあわする綿毛ちゃんと、オロオロするジャン。そんな喧騒の中、ドアが勢いよく開け放たれた。
「うるさいぞ! なんの騒ぎだ」
大声出すブルース兄様は、力尽くで俺たちを引き離す。俺とユリスを交互に睨み付けた兄様は、「やめないか」と眉を吊り上げる。思わぬ乱入者に、ユリスが舌打ちする。そのまま部屋を荒々しい足取りで出て行くユリス。ここユリスの部屋なのに。出て行ってどこへ向かうつもりなのだろうか。
ジャンが心配そうに眉尻を下げている。タイラー不在の今、ユリスを追いかける人が誰もいない。ブルース兄様に行けと手を振られたジャンは、大きく頷いてユリスの後を追った。
「なんの騒ぎだ」
「ユリスが俺のこと叩いた!」
悔しくて大声出せば、ブルース兄様は呆れたように腕を組む。
「どうせおまえが余計なことをしたんだろ」
「違うもん!」
俺が悪いと決めつけてくる兄様に、一発蹴りをお見舞いしてやろうと奮闘するが、うまくいかない。あっさりかわされてしまう。
「なんの用?」
脳筋に勝つのは無理だ。渋々諦めて問いかければ、ブルース兄様は「特に用はない」と吐き捨てる。
「おまえたちの声が聞こえたから。様子を見にきただけだ」
「野次馬ってこと?」
「馬鹿」
「はぁ!?」
突然の罵倒にカッとなるが、俺は大人である。そろそろと距離をとって怒りが鎮まるのを待つ。俺は大人なので。
代わりに兄様を睨みつけておけば、なぜか兄様も睨み返してくる。ガラの悪い兄だな。どういうつもりだ。
静かな争いに折れたのは、ブルース兄様の方であった。
大袈裟にため息ついた兄様は、「仲良くしろよ」と言い置いて去って行こうとする。慌てて引きとめる。まだ話は終わっていない。
「兄様。ユリスって反抗期なの?」
「……は?」
虚をつかれたような顔をする兄様は、しばらく考え込んでしまう。そんなに難しい質問をした覚えはない。
「どうなの?」
「反抗期? いや、あれは元々の性格だろ」
「元から性格悪いってこと?」
「そこまでは言っていない」
「言ったよ!」
「言ってない」
言った言わないの水掛け論。しかし、兄様の口ぶりから察するに、ユリスが兄様たちに反抗的なのは昔からのようだ。
ふーん、と考える。
「オーガス兄様は? いつから弱気なの?」
「兄上のあの性格も昔からだ」
「ふーん」
変なの。
オーガス兄様って、この世界では結構偉い立場だ。ふんぞり返っていてもおかしくはないのに、実際はひどく弱気である。とても偉そうな人には見えない。だが、生まれついての性格ということであれば仕方がない。弟相手にもビビるくらいだから、もはや改善の余地はないのだろう。
「じゃあ、ブルース兄様の脳筋も昔から?」
「あ? なんだって?」
ガラ悪。
そんなんだからお母様に「ブルースはねぇ、可愛げがないのよね」と嘆かれてしまうんだぞ。
「うん」
気まぐれにつけた指輪を眺めていれば、ユリスが口を挟んでくる。よく見せてやろうと、はずして差し出せば、彼は一瞥しただけですぐに視線を逸らしてしまう。
「誕生日プレゼントだって」
「僕はなにももらっていない」
知らんがな。ユリスとアロンは、あんまり仲良しではない。気は合うみたいだが、積極的に会話する場面は珍しい。
「でも使い道がなぁ。俺、指輪しないし」
「僕もしない」
適当に返事をしてくるユリスに、俺は頬を膨らませる。
結局、指輪は適当に放置してある。常にはめておくのはストレスなのだ。だが、アロンは俺が指輪をしていないと露骨に不機嫌になる。ちょっとした板挟み状態だ。
「あのさぁ、ユリス」
「なんだ」
タイラーとロニーは、席を外している。ブルース兄様に呼ばれたらしい。最近、ブルース兄様はよく騎士を呼び出している。多分、クレイグ団長が騎士団を辞めたいと言っていた件に関してだと思う。
ジャンは、猫と犬に挟まれて立ち尽くしている。『助けて! この猫ちゃん凶暴なんだけどぉ!』と、綿毛ちゃんが大袈裟にジャンへと助けを求めて飛びついている。綿毛ちゃんは、いつ見ても賑やかだ。
「ユリスって、反抗期なの?」
「……は?」
低い声を発するユリスは、俺を睨み付けてくる。
「どうなの?」
「不愉快だ」
きっぱり話を打ち切ろうとするが、そうはさせるか。
ユリスは、兄様たちへの接し方が雑だ。兄呼びはもちろんしない。いつも呼び捨てており、その度にブルース兄様が注意しているが改善はしない。それに、兄様たちの言葉をいつも鬱陶しそうに聞き流している。これは、反抗期に違いない。
だが、ユリスは否定も肯定もしない。顔を歪めるだけで、適当に流そうとしてくる。
「なんで反抗期なの!? いつからなの! なんでお父様とお母様相手だとおとなしいの!?」
「うるさい!」
「いたい!」
ベチッと頭を叩かれて、カッとなる。やり返してやろうと追いかけまわすが、ユリスも素早い。
「謝れよ!」
『ちょいちょいちょい。やめなよ、坊ちゃんたち』
間に綿毛ちゃんが割り込んでくるが、もふもふに構っている暇はない。手を伸ばして、ユリスの胸元を掴む。ユリスもユリスで、掴みかかってくる。
「いや、あの。えっと」
ジャンが、オロオロと手を掲げたまま思考停止している。
「なんだおまえは! どういうつもりだ! 僕に構うんじゃない」
「そっちこそ! お子様のくせに!」
「ガキはそっちだろ!」
「なんだとぉ!」
こうなれば絶対に謝罪させる。躍起になる俺は、夢中でユリスを引き倒そうとする。ジャンが控えめに手を伸ばしてくるが、邪魔だからあっちに行っていてほしい。
あわあわする綿毛ちゃんと、オロオロするジャン。そんな喧騒の中、ドアが勢いよく開け放たれた。
「うるさいぞ! なんの騒ぎだ」
大声出すブルース兄様は、力尽くで俺たちを引き離す。俺とユリスを交互に睨み付けた兄様は、「やめないか」と眉を吊り上げる。思わぬ乱入者に、ユリスが舌打ちする。そのまま部屋を荒々しい足取りで出て行くユリス。ここユリスの部屋なのに。出て行ってどこへ向かうつもりなのだろうか。
ジャンが心配そうに眉尻を下げている。タイラー不在の今、ユリスを追いかける人が誰もいない。ブルース兄様に行けと手を振られたジャンは、大きく頷いてユリスの後を追った。
「なんの騒ぎだ」
「ユリスが俺のこと叩いた!」
悔しくて大声出せば、ブルース兄様は呆れたように腕を組む。
「どうせおまえが余計なことをしたんだろ」
「違うもん!」
俺が悪いと決めつけてくる兄様に、一発蹴りをお見舞いしてやろうと奮闘するが、うまくいかない。あっさりかわされてしまう。
「なんの用?」
脳筋に勝つのは無理だ。渋々諦めて問いかければ、ブルース兄様は「特に用はない」と吐き捨てる。
「おまえたちの声が聞こえたから。様子を見にきただけだ」
「野次馬ってこと?」
「馬鹿」
「はぁ!?」
突然の罵倒にカッとなるが、俺は大人である。そろそろと距離をとって怒りが鎮まるのを待つ。俺は大人なので。
代わりに兄様を睨みつけておけば、なぜか兄様も睨み返してくる。ガラの悪い兄だな。どういうつもりだ。
静かな争いに折れたのは、ブルース兄様の方であった。
大袈裟にため息ついた兄様は、「仲良くしろよ」と言い置いて去って行こうとする。慌てて引きとめる。まだ話は終わっていない。
「兄様。ユリスって反抗期なの?」
「……は?」
虚をつかれたような顔をする兄様は、しばらく考え込んでしまう。そんなに難しい質問をした覚えはない。
「どうなの?」
「反抗期? いや、あれは元々の性格だろ」
「元から性格悪いってこと?」
「そこまでは言っていない」
「言ったよ!」
「言ってない」
言った言わないの水掛け論。しかし、兄様の口ぶりから察するに、ユリスが兄様たちに反抗的なのは昔からのようだ。
ふーん、と考える。
「オーガス兄様は? いつから弱気なの?」
「兄上のあの性格も昔からだ」
「ふーん」
変なの。
オーガス兄様って、この世界では結構偉い立場だ。ふんぞり返っていてもおかしくはないのに、実際はひどく弱気である。とても偉そうな人には見えない。だが、生まれついての性格ということであれば仕方がない。弟相手にもビビるくらいだから、もはや改善の余地はないのだろう。
「じゃあ、ブルース兄様の脳筋も昔から?」
「あ? なんだって?」
ガラ悪。
そんなんだからお母様に「ブルースはねぇ、可愛げがないのよね」と嘆かれてしまうんだぞ。
1,452
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる