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13歳
326 いつからその性格?
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「アロンか?」
「うん」
気まぐれにつけた指輪を眺めていれば、ユリスが口を挟んでくる。よく見せてやろうと、はずして差し出せば、彼は一瞥しただけですぐに視線を逸らしてしまう。
「誕生日プレゼントだって」
「僕はなにももらっていない」
知らんがな。ユリスとアロンは、あんまり仲良しではない。気は合うみたいだが、積極的に会話する場面は珍しい。
「でも使い道がなぁ。俺、指輪しないし」
「僕もしない」
適当に返事をしてくるユリスに、俺は頬を膨らませる。
結局、指輪は適当に放置してある。常にはめておくのはストレスなのだ。だが、アロンは俺が指輪をしていないと露骨に不機嫌になる。ちょっとした板挟み状態だ。
「あのさぁ、ユリス」
「なんだ」
タイラーとロニーは、席を外している。ブルース兄様に呼ばれたらしい。最近、ブルース兄様はよく騎士を呼び出している。多分、クレイグ団長が騎士団を辞めたいと言っていた件に関してだと思う。
ジャンは、猫と犬に挟まれて立ち尽くしている。『助けて! この猫ちゃん凶暴なんだけどぉ!』と、綿毛ちゃんが大袈裟にジャンへと助けを求めて飛びついている。綿毛ちゃんは、いつ見ても賑やかだ。
「ユリスって、反抗期なの?」
「……は?」
低い声を発するユリスは、俺を睨み付けてくる。
「どうなの?」
「不愉快だ」
きっぱり話を打ち切ろうとするが、そうはさせるか。
ユリスは、兄様たちへの接し方が雑だ。兄呼びはもちろんしない。いつも呼び捨てており、その度にブルース兄様が注意しているが改善はしない。それに、兄様たちの言葉をいつも鬱陶しそうに聞き流している。これは、反抗期に違いない。
だが、ユリスは否定も肯定もしない。顔を歪めるだけで、適当に流そうとしてくる。
「なんで反抗期なの!? いつからなの! なんでお父様とお母様相手だとおとなしいの!?」
「うるさい!」
「いたい!」
ベチッと頭を叩かれて、カッとなる。やり返してやろうと追いかけまわすが、ユリスも素早い。
「謝れよ!」
『ちょいちょいちょい。やめなよ、坊ちゃんたち』
間に綿毛ちゃんが割り込んでくるが、もふもふに構っている暇はない。手を伸ばして、ユリスの胸元を掴む。ユリスもユリスで、掴みかかってくる。
「いや、あの。えっと」
ジャンが、オロオロと手を掲げたまま思考停止している。
「なんだおまえは! どういうつもりだ! 僕に構うんじゃない」
「そっちこそ! お子様のくせに!」
「ガキはそっちだろ!」
「なんだとぉ!」
こうなれば絶対に謝罪させる。躍起になる俺は、夢中でユリスを引き倒そうとする。ジャンが控えめに手を伸ばしてくるが、邪魔だからあっちに行っていてほしい。
あわあわする綿毛ちゃんと、オロオロするジャン。そんな喧騒の中、ドアが勢いよく開け放たれた。
「うるさいぞ! なんの騒ぎだ」
大声出すブルース兄様は、力尽くで俺たちを引き離す。俺とユリスを交互に睨み付けた兄様は、「やめないか」と眉を吊り上げる。思わぬ乱入者に、ユリスが舌打ちする。そのまま部屋を荒々しい足取りで出て行くユリス。ここユリスの部屋なのに。出て行ってどこへ向かうつもりなのだろうか。
ジャンが心配そうに眉尻を下げている。タイラー不在の今、ユリスを追いかける人が誰もいない。ブルース兄様に行けと手を振られたジャンは、大きく頷いてユリスの後を追った。
「なんの騒ぎだ」
「ユリスが俺のこと叩いた!」
悔しくて大声出せば、ブルース兄様は呆れたように腕を組む。
「どうせおまえが余計なことをしたんだろ」
「違うもん!」
俺が悪いと決めつけてくる兄様に、一発蹴りをお見舞いしてやろうと奮闘するが、うまくいかない。あっさりかわされてしまう。
「なんの用?」
脳筋に勝つのは無理だ。渋々諦めて問いかければ、ブルース兄様は「特に用はない」と吐き捨てる。
「おまえたちの声が聞こえたから。様子を見にきただけだ」
「野次馬ってこと?」
「馬鹿」
「はぁ!?」
突然の罵倒にカッとなるが、俺は大人である。そろそろと距離をとって怒りが鎮まるのを待つ。俺は大人なので。
代わりに兄様を睨みつけておけば、なぜか兄様も睨み返してくる。ガラの悪い兄だな。どういうつもりだ。
静かな争いに折れたのは、ブルース兄様の方であった。
大袈裟にため息ついた兄様は、「仲良くしろよ」と言い置いて去って行こうとする。慌てて引きとめる。まだ話は終わっていない。
「兄様。ユリスって反抗期なの?」
「……は?」
虚をつかれたような顔をする兄様は、しばらく考え込んでしまう。そんなに難しい質問をした覚えはない。
「どうなの?」
「反抗期? いや、あれは元々の性格だろ」
「元から性格悪いってこと?」
「そこまでは言っていない」
「言ったよ!」
「言ってない」
言った言わないの水掛け論。しかし、兄様の口ぶりから察するに、ユリスが兄様たちに反抗的なのは昔からのようだ。
ふーん、と考える。
「オーガス兄様は? いつから弱気なの?」
「兄上のあの性格も昔からだ」
「ふーん」
変なの。
オーガス兄様って、この世界では結構偉い立場だ。ふんぞり返っていてもおかしくはないのに、実際はひどく弱気である。とても偉そうな人には見えない。だが、生まれついての性格ということであれば仕方がない。弟相手にもビビるくらいだから、もはや改善の余地はないのだろう。
「じゃあ、ブルース兄様の脳筋も昔から?」
「あ? なんだって?」
ガラ悪。
そんなんだからお母様に「ブルースはねぇ、可愛げがないのよね」と嘆かれてしまうんだぞ。
「うん」
気まぐれにつけた指輪を眺めていれば、ユリスが口を挟んでくる。よく見せてやろうと、はずして差し出せば、彼は一瞥しただけですぐに視線を逸らしてしまう。
「誕生日プレゼントだって」
「僕はなにももらっていない」
知らんがな。ユリスとアロンは、あんまり仲良しではない。気は合うみたいだが、積極的に会話する場面は珍しい。
「でも使い道がなぁ。俺、指輪しないし」
「僕もしない」
適当に返事をしてくるユリスに、俺は頬を膨らませる。
結局、指輪は適当に放置してある。常にはめておくのはストレスなのだ。だが、アロンは俺が指輪をしていないと露骨に不機嫌になる。ちょっとした板挟み状態だ。
「あのさぁ、ユリス」
「なんだ」
タイラーとロニーは、席を外している。ブルース兄様に呼ばれたらしい。最近、ブルース兄様はよく騎士を呼び出している。多分、クレイグ団長が騎士団を辞めたいと言っていた件に関してだと思う。
ジャンは、猫と犬に挟まれて立ち尽くしている。『助けて! この猫ちゃん凶暴なんだけどぉ!』と、綿毛ちゃんが大袈裟にジャンへと助けを求めて飛びついている。綿毛ちゃんは、いつ見ても賑やかだ。
「ユリスって、反抗期なの?」
「……は?」
低い声を発するユリスは、俺を睨み付けてくる。
「どうなの?」
「不愉快だ」
きっぱり話を打ち切ろうとするが、そうはさせるか。
ユリスは、兄様たちへの接し方が雑だ。兄呼びはもちろんしない。いつも呼び捨てており、その度にブルース兄様が注意しているが改善はしない。それに、兄様たちの言葉をいつも鬱陶しそうに聞き流している。これは、反抗期に違いない。
だが、ユリスは否定も肯定もしない。顔を歪めるだけで、適当に流そうとしてくる。
「なんで反抗期なの!? いつからなの! なんでお父様とお母様相手だとおとなしいの!?」
「うるさい!」
「いたい!」
ベチッと頭を叩かれて、カッとなる。やり返してやろうと追いかけまわすが、ユリスも素早い。
「謝れよ!」
『ちょいちょいちょい。やめなよ、坊ちゃんたち』
間に綿毛ちゃんが割り込んでくるが、もふもふに構っている暇はない。手を伸ばして、ユリスの胸元を掴む。ユリスもユリスで、掴みかかってくる。
「いや、あの。えっと」
ジャンが、オロオロと手を掲げたまま思考停止している。
「なんだおまえは! どういうつもりだ! 僕に構うんじゃない」
「そっちこそ! お子様のくせに!」
「ガキはそっちだろ!」
「なんだとぉ!」
こうなれば絶対に謝罪させる。躍起になる俺は、夢中でユリスを引き倒そうとする。ジャンが控えめに手を伸ばしてくるが、邪魔だからあっちに行っていてほしい。
あわあわする綿毛ちゃんと、オロオロするジャン。そんな喧騒の中、ドアが勢いよく開け放たれた。
「うるさいぞ! なんの騒ぎだ」
大声出すブルース兄様は、力尽くで俺たちを引き離す。俺とユリスを交互に睨み付けた兄様は、「やめないか」と眉を吊り上げる。思わぬ乱入者に、ユリスが舌打ちする。そのまま部屋を荒々しい足取りで出て行くユリス。ここユリスの部屋なのに。出て行ってどこへ向かうつもりなのだろうか。
ジャンが心配そうに眉尻を下げている。タイラー不在の今、ユリスを追いかける人が誰もいない。ブルース兄様に行けと手を振られたジャンは、大きく頷いてユリスの後を追った。
「なんの騒ぎだ」
「ユリスが俺のこと叩いた!」
悔しくて大声出せば、ブルース兄様は呆れたように腕を組む。
「どうせおまえが余計なことをしたんだろ」
「違うもん!」
俺が悪いと決めつけてくる兄様に、一発蹴りをお見舞いしてやろうと奮闘するが、うまくいかない。あっさりかわされてしまう。
「なんの用?」
脳筋に勝つのは無理だ。渋々諦めて問いかければ、ブルース兄様は「特に用はない」と吐き捨てる。
「おまえたちの声が聞こえたから。様子を見にきただけだ」
「野次馬ってこと?」
「馬鹿」
「はぁ!?」
突然の罵倒にカッとなるが、俺は大人である。そろそろと距離をとって怒りが鎮まるのを待つ。俺は大人なので。
代わりに兄様を睨みつけておけば、なぜか兄様も睨み返してくる。ガラの悪い兄だな。どういうつもりだ。
静かな争いに折れたのは、ブルース兄様の方であった。
大袈裟にため息ついた兄様は、「仲良くしろよ」と言い置いて去って行こうとする。慌てて引きとめる。まだ話は終わっていない。
「兄様。ユリスって反抗期なの?」
「……は?」
虚をつかれたような顔をする兄様は、しばらく考え込んでしまう。そんなに難しい質問をした覚えはない。
「どうなの?」
「反抗期? いや、あれは元々の性格だろ」
「元から性格悪いってこと?」
「そこまでは言っていない」
「言ったよ!」
「言ってない」
言った言わないの水掛け論。しかし、兄様の口ぶりから察するに、ユリスが兄様たちに反抗的なのは昔からのようだ。
ふーん、と考える。
「オーガス兄様は? いつから弱気なの?」
「兄上のあの性格も昔からだ」
「ふーん」
変なの。
オーガス兄様って、この世界では結構偉い立場だ。ふんぞり返っていてもおかしくはないのに、実際はひどく弱気である。とても偉そうな人には見えない。だが、生まれついての性格ということであれば仕方がない。弟相手にもビビるくらいだから、もはや改善の余地はないのだろう。
「じゃあ、ブルース兄様の脳筋も昔から?」
「あ? なんだって?」
ガラ悪。
そんなんだからお母様に「ブルースはねぇ、可愛げがないのよね」と嘆かれてしまうんだぞ。
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