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11歳
271 感心した
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セドリックのお姉ちゃんは、お母様に仕えているメイドさんらしい。
そういえば、お母様がいつも引き連れている、何事にも動じない無表情お姉さんがいたな。あの人か。
ユリスが元に戻って、みんなが混乱する中、お母様の後ろで騒ぐことなくクールを貫いていたメイドさんのことは覚えている。職務に忠実な敏腕メイドさんだと思っていたが、セドリックの姉というのであれば納得だ。あれは単に無関心だっただけに違いない。
ユリスが増えたという衝撃事実を知った時、セドリックは一瞬だけ何か言いたそうな顔をしたものの、ここで反論した後に待ち構えている諸々のやり取りが面倒だと考えたのだろう。結局は「左様で」のひと言で流してしまった。面倒くさがりにも程がある。
その後しばらくの間、ヴィアン家は全体的にざわざわしていた。特に騎士や屋敷に仕える使用人を中心に、驚きが広がっていた。
魔法に関しては、不確定な部分が多すぎるということで、俺が実は違う世界の人間だとか、本物ユリスは黒猫生活してたとか。そういった真実を知らされたのはごくごく限られた人間のみだった。
具体的には両親に、兄様たち周りの騎士や使用人である。ヴィアン家の中心ということで、クレイグ団長やセドリックにも真実を隠すことなく伝えた。
その他の者には、訳あって双子であることを隠していた、という説明を押し通した。
しかし、騎士団は上がしっかり(?)していたおかげで大事にはならなかった。クレイグ団長はしっかり者である。当初は驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻して、騎士たちを落ち着かせようと奮闘してくれた。そんでもって、副団長であるセドリックは、無関心さを発揮していつもと何も変わらなかった。
そんな落ち着き払った上ふたりに倣って、騎士団は早々に冷静さを取り戻してくれたのだ。
屋敷の使用人たちも、お母様がどうにかしてくれた。騎士たちは、ブルース兄様が中心となってまとまっているが、メイドさんや料理人といった屋敷の使用人はお母様が取りまとめているらしい。
毅然としたお母様は、ぼんやりとした言い訳を駆使して、なんとかみんなをまとめてくれた。
そういうみんなの協力があって、俺は今、ヴィアン家の屋敷内をルイスとして堂々と歩くことができている。感謝してもしきれない。
お母様は、今の時間は自室に居ることだろう。ただいまの挨拶を兼ねてお土産を渡しに行かないと。一度ユリスの部屋に立ち寄って、誘ってみる。騎士棟への同行は拒否したユリスであるが、お母様への挨拶となれば話は別らしい。そそくさと廊下に出てきたユリスの後ろからは、タイラーも続く。
「お母様。喜んでくれるかな」
「母上はなにを渡しても喜ぶだろ」
そうだな。ユリス(ついでに俺)を猫可愛がりしているお母様である。むしろお土産なんてなくても、顔を見せただけで大喜びする姿が想像できてしまう。
「あ、ユリス。お母様のメイドさん。あの人、セドリックのお姉ちゃんなんだって。知ってた?」
「いや知らない。そうなのか?」
「うん。セドリックがそう言ってた」
どうやらロニーとジャンは知っていたらしい。言われてみれば、無表情なところがそっくりだもんな。
けれども、タイラーは知らなかったらしい。目を見開く彼は、驚きをあらわにしている。
「え! 副団長ってお姉さんいたんですか」
タイラーは、騎士団の中でも特に若い。ヴィアン家に勤めてから長くはないので、ヴィアン家内部のことにはまだ詳しくはないのだろう。
ただでさえ、セドリックは無口だからな。雑談する姿とか見たことがない。
「よく聞き出せましたね、そんなプライベートな話。副団長、こっちが話しかけてもなんか嫌そうな顔をするだけで、ろくに会話してくれないのに。さすがルイス様」
「まぁね。俺、友達作るの得意だから」
「友達ではないと思いますけど。でもすごいです」
俺のことをベタ褒めするタイラーは、とても感心していた。俺とセドリックは、もはや友達と言っても過言ではないと思う。
この点については、ロニーも褒めてくれた。どうやら彼も、セドリックに姉がいると本人から聞いたわけではないらしい。なんとなく、騎士たちの中で噂になっていたのを耳に入れただけみたいだ。ジャンも同様。
セドリックはマジでプライベートな会話をしないらしい。そもそもが無口だからな。プライベートどころか、仕事の話も積極的にはやらないので、昔はクレイグ団長が随分と苦労したらしい。
真面目さが評価されて副団長に任命されたセドリックであるが、彼は別に真面目なわけではない。
与えられた仕事をこなす点は確かに真面目だが、それ以上のことは決してやらない。無駄な仕事があることに気が付いても、上から指示されたからという理由だけで言われたことのみに徹するのだ。組織の改革なんて、面倒なことには着手しない。要するに、己の意見は頑なに表明しないタイプの人間である。
そのことに団長が気がついたのは、セドリックを副団長に任命してかららしいので、団長も団長で苦労したのだろう。
今でも、すごく自然に仕事を最小限で終わらせるセドリックを、団長がすごい目で睨みつけている場面をたまに見かける。一応、クレイグ団長が注意するのだが、そんな時、セドリックは決まって意味不明といった顔をする。自分に与えられた仕事はこなしているのだから問題ないだろう、という考え方らしい。
クレイグ団長も、苦労しているな。
そういえば、お母様がいつも引き連れている、何事にも動じない無表情お姉さんがいたな。あの人か。
ユリスが元に戻って、みんなが混乱する中、お母様の後ろで騒ぐことなくクールを貫いていたメイドさんのことは覚えている。職務に忠実な敏腕メイドさんだと思っていたが、セドリックの姉というのであれば納得だ。あれは単に無関心だっただけに違いない。
ユリスが増えたという衝撃事実を知った時、セドリックは一瞬だけ何か言いたそうな顔をしたものの、ここで反論した後に待ち構えている諸々のやり取りが面倒だと考えたのだろう。結局は「左様で」のひと言で流してしまった。面倒くさがりにも程がある。
その後しばらくの間、ヴィアン家は全体的にざわざわしていた。特に騎士や屋敷に仕える使用人を中心に、驚きが広がっていた。
魔法に関しては、不確定な部分が多すぎるということで、俺が実は違う世界の人間だとか、本物ユリスは黒猫生活してたとか。そういった真実を知らされたのはごくごく限られた人間のみだった。
具体的には両親に、兄様たち周りの騎士や使用人である。ヴィアン家の中心ということで、クレイグ団長やセドリックにも真実を隠すことなく伝えた。
その他の者には、訳あって双子であることを隠していた、という説明を押し通した。
しかし、騎士団は上がしっかり(?)していたおかげで大事にはならなかった。クレイグ団長はしっかり者である。当初は驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻して、騎士たちを落ち着かせようと奮闘してくれた。そんでもって、副団長であるセドリックは、無関心さを発揮していつもと何も変わらなかった。
そんな落ち着き払った上ふたりに倣って、騎士団は早々に冷静さを取り戻してくれたのだ。
屋敷の使用人たちも、お母様がどうにかしてくれた。騎士たちは、ブルース兄様が中心となってまとまっているが、メイドさんや料理人といった屋敷の使用人はお母様が取りまとめているらしい。
毅然としたお母様は、ぼんやりとした言い訳を駆使して、なんとかみんなをまとめてくれた。
そういうみんなの協力があって、俺は今、ヴィアン家の屋敷内をルイスとして堂々と歩くことができている。感謝してもしきれない。
お母様は、今の時間は自室に居ることだろう。ただいまの挨拶を兼ねてお土産を渡しに行かないと。一度ユリスの部屋に立ち寄って、誘ってみる。騎士棟への同行は拒否したユリスであるが、お母様への挨拶となれば話は別らしい。そそくさと廊下に出てきたユリスの後ろからは、タイラーも続く。
「お母様。喜んでくれるかな」
「母上はなにを渡しても喜ぶだろ」
そうだな。ユリス(ついでに俺)を猫可愛がりしているお母様である。むしろお土産なんてなくても、顔を見せただけで大喜びする姿が想像できてしまう。
「あ、ユリス。お母様のメイドさん。あの人、セドリックのお姉ちゃんなんだって。知ってた?」
「いや知らない。そうなのか?」
「うん。セドリックがそう言ってた」
どうやらロニーとジャンは知っていたらしい。言われてみれば、無表情なところがそっくりだもんな。
けれども、タイラーは知らなかったらしい。目を見開く彼は、驚きをあらわにしている。
「え! 副団長ってお姉さんいたんですか」
タイラーは、騎士団の中でも特に若い。ヴィアン家に勤めてから長くはないので、ヴィアン家内部のことにはまだ詳しくはないのだろう。
ただでさえ、セドリックは無口だからな。雑談する姿とか見たことがない。
「よく聞き出せましたね、そんなプライベートな話。副団長、こっちが話しかけてもなんか嫌そうな顔をするだけで、ろくに会話してくれないのに。さすがルイス様」
「まぁね。俺、友達作るの得意だから」
「友達ではないと思いますけど。でもすごいです」
俺のことをベタ褒めするタイラーは、とても感心していた。俺とセドリックは、もはや友達と言っても過言ではないと思う。
この点については、ロニーも褒めてくれた。どうやら彼も、セドリックに姉がいると本人から聞いたわけではないらしい。なんとなく、騎士たちの中で噂になっていたのを耳に入れただけみたいだ。ジャンも同様。
セドリックはマジでプライベートな会話をしないらしい。そもそもが無口だからな。プライベートどころか、仕事の話も積極的にはやらないので、昔はクレイグ団長が随分と苦労したらしい。
真面目さが評価されて副団長に任命されたセドリックであるが、彼は別に真面目なわけではない。
与えられた仕事をこなす点は確かに真面目だが、それ以上のことは決してやらない。無駄な仕事があることに気が付いても、上から指示されたからという理由だけで言われたことのみに徹するのだ。組織の改革なんて、面倒なことには着手しない。要するに、己の意見は頑なに表明しないタイプの人間である。
そのことに団長が気がついたのは、セドリックを副団長に任命してかららしいので、団長も団長で苦労したのだろう。
今でも、すごく自然に仕事を最小限で終わらせるセドリックを、団長がすごい目で睨みつけている場面をたまに見かける。一応、クレイグ団長が注意するのだが、そんな時、セドリックは決まって意味不明といった顔をする。自分に与えられた仕事はこなしているのだから問題ないだろう、という考え方らしい。
クレイグ団長も、苦労しているな。
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