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11歳
260 大親友?
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人当たりの良いラッセルを、ユリスとふたりで凝視する。
確かめなければならないことがある。先に切り出したのはユリスであった。
「おい」
偉そうにラッセルを呼んだユリスは、仁王立ちで彼を睨みあげている。そのまま、時が止まる。何も言う気配のないユリスに、こっちが戸惑ってしまう。あれだけ威勢よく声をかけたのに。
ラッセルも、ぱちぱちと目を瞬いてユリスの言葉を待っている。
「あの?」
やがて我慢できなくなったらしいラッセルが、控えめに小首を傾げる。限界がきたのは、俺もであった。
「ラッセル!」
「はい」
「オーガス兄様と友達ってほんと?」
直球で訊ねれば、ラッセルが動きを止める。
「……オーガス、様?」
おそるおそる口にしたラッセルは、僅かに顔を引き攣らせたが、すぐに表情を引き締めるとにこりときれいな笑みを浮かべた。イケメンだな。
「もしや、ユリス様でしょうか」
「こっちがユリスね。俺はルイス」
もう一度自己紹介すれば、ラッセルが明らかに固まってしまう。なにかを考えるように視線を彷徨わせたラッセルは、明らかに困惑していた。もしかして、俺たちがこんな所に居ることを不自然に思っていたりするのだろうか。
そっとしゃがみ込んだラッセルは、片膝をついて俺たちふたりを見比べ始める。困ったように揺れる瞳が、なんとも頼りなかった。
「ユリス様のことはもちろん存じ上げております。ですが、その、ルイス様のことは、えぇ、はい」
なんだか言葉を濁したラッセルは、要するにユリスのことは知っているが、俺のことは知らないと言いたいらしい。そこまで白状されて、ようやく理解した。
ラッセルは、ユリスが双子だったという話を知らないのだ。
ユリスと顔を見合わせて、互いに説明役を譲り合う。けれども、ユリスが不機嫌そうに唇を引き結んでしまったため、仕方なく俺が口を開く羽目になってしまった。
「あのね、こっちはユリスでね、俺はルイス。最近双子になったの」
「おい馬鹿」
後ろからユリスに小突かれて、慌てて口を閉じる。「僕らはもとから双子だったが?」と、ユリスが強気に言い聞かせている。
「双子……?」
呆然と呟いたラッセルは、マジで知らなかったらしい。王立騎士団なのに? エリックから何も聞かされていないのかな。第一部隊の隊長とかいう偉そうな立場にいるのに。
さっと顔を伏せたラッセルは、「え、双子?」と何度も小声で呟いている。なんかごめんね。すごく困惑させてしまったらしい。
そのまましばらく待ってあげると、やがてラッセルが顔を上げた。なにか吹っ切れたような清々しさを感じる。
「失礼致しました。ルイス様ですね」
「そう、ルイス」
こくこく頷いておけば、気を取り直したらしいラッセルが爽やかな笑みを浮かべる。そこに、先程までの困惑はなかった。もしかして双子説を信じてくれたのか?
ラッセルの切り替えのはやさについていけなくて、ちょっと戸惑ってしまう。しかし本人が納得しているらしいのに、再び説明を重ねるのもおかしな気がする。ここは黙って流しておこう。
「それで? オーガス兄様とは友達なの?」
どうなんだと、ユリスとふたりでラッセルを囲めば、端正な顔に微かに驚きを浮かべた騎士は、少しだけ苦笑する。
「いえ、そんな」
否定の言葉を発したラッセルに、ユリスが「ほらな」と得意気になる。勝ち誇った様子で、早速オーガス兄様を馬鹿にし始める。相変わらず、嫌な弟だな。
「あいつに友達なんて嘘に決まっている」
「オーガス兄様が可哀想」
ふたりでひそひそ言い合っていると、ラッセルが「あの」と控えめに小首を傾げてくる。
「オーガス様が、なにか?」
「オーガス兄様がね。ラッセルとオーガス兄様は友達って言ってた。でもやっぱり兄様の嘘だったんだね」
なんて奴だ、とオーガス兄様の悪口を並べていると、ラッセルが「え」と驚きの声を上げた。
「オーガス様が、私と友達だと?」
「そう言ってたよ」
ごくりと息を呑んだラッセルは、次の瞬間、勢いよく拳を握りしめた。
「はい! 友達です! 私とオーガス様は間違いなく親友です! 大親友です!」
「……」
突然、声を張り上げて真逆の主張を始めるラッセルを、ユリスが冷たい目で睨み付けている。
勢いに押されて黙り込む俺らに目もくれず、ラッセルはひたすら己はオーガス兄様の友達であると繰り返している。さっきと言っていることが全然違う。
「ラッセル?」
「失礼致しました。いえ、オーガス様と私では色々と釣り合いませんので。自分からオーガス様の友を名乗るのは身の程知らずだと謗られても致し方ありません」
「うんうん」
眉尻を下げて、なんか主張し始めたラッセルの話の意味は、よくわからなかった。適当にうんうん頷いておくことにする。
「しかし、オーガス様が私を友と認めてくださるのであれば、これ以上の喜びはございません」
「うんうん」
なんか感動しているらしいラッセルは、大袈裟に目尻を拭ってみせる。
よくわからないが、この人も変なお兄さんかもしれない。
確かめなければならないことがある。先に切り出したのはユリスであった。
「おい」
偉そうにラッセルを呼んだユリスは、仁王立ちで彼を睨みあげている。そのまま、時が止まる。何も言う気配のないユリスに、こっちが戸惑ってしまう。あれだけ威勢よく声をかけたのに。
ラッセルも、ぱちぱちと目を瞬いてユリスの言葉を待っている。
「あの?」
やがて我慢できなくなったらしいラッセルが、控えめに小首を傾げる。限界がきたのは、俺もであった。
「ラッセル!」
「はい」
「オーガス兄様と友達ってほんと?」
直球で訊ねれば、ラッセルが動きを止める。
「……オーガス、様?」
おそるおそる口にしたラッセルは、僅かに顔を引き攣らせたが、すぐに表情を引き締めるとにこりときれいな笑みを浮かべた。イケメンだな。
「もしや、ユリス様でしょうか」
「こっちがユリスね。俺はルイス」
もう一度自己紹介すれば、ラッセルが明らかに固まってしまう。なにかを考えるように視線を彷徨わせたラッセルは、明らかに困惑していた。もしかして、俺たちがこんな所に居ることを不自然に思っていたりするのだろうか。
そっとしゃがみ込んだラッセルは、片膝をついて俺たちふたりを見比べ始める。困ったように揺れる瞳が、なんとも頼りなかった。
「ユリス様のことはもちろん存じ上げております。ですが、その、ルイス様のことは、えぇ、はい」
なんだか言葉を濁したラッセルは、要するにユリスのことは知っているが、俺のことは知らないと言いたいらしい。そこまで白状されて、ようやく理解した。
ラッセルは、ユリスが双子だったという話を知らないのだ。
ユリスと顔を見合わせて、互いに説明役を譲り合う。けれども、ユリスが不機嫌そうに唇を引き結んでしまったため、仕方なく俺が口を開く羽目になってしまった。
「あのね、こっちはユリスでね、俺はルイス。最近双子になったの」
「おい馬鹿」
後ろからユリスに小突かれて、慌てて口を閉じる。「僕らはもとから双子だったが?」と、ユリスが強気に言い聞かせている。
「双子……?」
呆然と呟いたラッセルは、マジで知らなかったらしい。王立騎士団なのに? エリックから何も聞かされていないのかな。第一部隊の隊長とかいう偉そうな立場にいるのに。
さっと顔を伏せたラッセルは、「え、双子?」と何度も小声で呟いている。なんかごめんね。すごく困惑させてしまったらしい。
そのまましばらく待ってあげると、やがてラッセルが顔を上げた。なにか吹っ切れたような清々しさを感じる。
「失礼致しました。ルイス様ですね」
「そう、ルイス」
こくこく頷いておけば、気を取り直したらしいラッセルが爽やかな笑みを浮かべる。そこに、先程までの困惑はなかった。もしかして双子説を信じてくれたのか?
ラッセルの切り替えのはやさについていけなくて、ちょっと戸惑ってしまう。しかし本人が納得しているらしいのに、再び説明を重ねるのもおかしな気がする。ここは黙って流しておこう。
「それで? オーガス兄様とは友達なの?」
どうなんだと、ユリスとふたりでラッセルを囲めば、端正な顔に微かに驚きを浮かべた騎士は、少しだけ苦笑する。
「いえ、そんな」
否定の言葉を発したラッセルに、ユリスが「ほらな」と得意気になる。勝ち誇った様子で、早速オーガス兄様を馬鹿にし始める。相変わらず、嫌な弟だな。
「あいつに友達なんて嘘に決まっている」
「オーガス兄様が可哀想」
ふたりでひそひそ言い合っていると、ラッセルが「あの」と控えめに小首を傾げてくる。
「オーガス様が、なにか?」
「オーガス兄様がね。ラッセルとオーガス兄様は友達って言ってた。でもやっぱり兄様の嘘だったんだね」
なんて奴だ、とオーガス兄様の悪口を並べていると、ラッセルが「え」と驚きの声を上げた。
「オーガス様が、私と友達だと?」
「そう言ってたよ」
ごくりと息を呑んだラッセルは、次の瞬間、勢いよく拳を握りしめた。
「はい! 友達です! 私とオーガス様は間違いなく親友です! 大親友です!」
「……」
突然、声を張り上げて真逆の主張を始めるラッセルを、ユリスが冷たい目で睨み付けている。
勢いに押されて黙り込む俺らに目もくれず、ラッセルはひたすら己はオーガス兄様の友達であると繰り返している。さっきと言っていることが全然違う。
「ラッセル?」
「失礼致しました。いえ、オーガス様と私では色々と釣り合いませんので。自分からオーガス様の友を名乗るのは身の程知らずだと謗られても致し方ありません」
「うんうん」
眉尻を下げて、なんか主張し始めたラッセルの話の意味は、よくわからなかった。適当にうんうん頷いておくことにする。
「しかし、オーガス様が私を友と認めてくださるのであれば、これ以上の喜びはございません」
「うんうん」
なんか感動しているらしいラッセルは、大袈裟に目尻を拭ってみせる。
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