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11歳
259 ユリスは自信満々
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学園内はすごく広かった。それもう広大であった。タイラーたちが簡単に迷子になるくらいには。
「……おまえについてきたのが間違いだった」
「俺はユリスについてきたんだけどな」
中庭のような空間で、ポツンと立ち尽くす俺とユリス。
学園内に入ってすぐのことである。なんか学園のお偉いさん的な人に挨拶してくると、クレイグ団長が初めに離脱した。彼の息子であるティアンがお世話になっているからな。俺たちのことは、タイラーたちが居るから大丈夫と判断したのだろう。全然大丈夫ではなかったけどな。
その後、ティアンを探す道すがらに教員らしき人とすれ違った際、アロンがその人に捕まった。どうやらアロンは顔が広いらしく、知り合いらしい。そのまま世間話ムードになり、待ちきれなかった俺は庭へと駆け出した。
当然のような顔でついてくるユリスの後ろから、タイラーとロニー、それにジャンが追いかけて来たのだが、テンション上がるままに出鱈目に走りまわっていたら、いつの間にかみんな消えていた。ちょっとしたミステリーだ。
そうして中庭的空間で今、ユリスとふたり途方に暮れていたというわけである。
「なんでおまえはすぐに迷子になるんだ。本当に学習しないな」
なぜか迷子の責任を全て俺に押し付けてくるユリスは、すごく偉そうであった。
おまえも迷子のくせに。
「とりあえず、噴水がないか確認しない?」
「しない」
「じゃあ猫でも探すか? すごく広いから。一匹くらいいるかもしれない」
「探さない」
素っ気ないユリスは、勝手に歩き出してしまう。ここでユリスとも離れてしまえば、もう終わりだ。ひとりでアロンの実家に戻れる自信もない。慌ててユリスの背中を追いかける。
一切の迷いなく、堂々と歩くユリスは自信に満ちていた。どうやらなにか当てがあるらしい。それなら安心である。ユリスは歳の割には結構しっかりしている気がするし、迷子になった時の対処法も心得ているのだろう。そうして何も考えずにユリスの後ろを歩いていた俺であったが、前を行くユリスの目的地が気になって、隣に並ぶ。
「どこに向かってるの?」
「知らない」
「は?」
知らないってなに。ピタリと歩みを止めれば、ユリスも止まる。
「え、どこか目的地があるのでは?」
「ない」
きっぱりと断言したユリスは、なぜか自信満々であった。
は? なにこいつ、こわ。目的地もなしに、見知らぬ場所でこんなに堂々と進んでいたのか? 意味がわからない。
思わず一歩後ろに下がれば、誰かにぶつかってしまった。「おっと」という落ち着き払った声が降ってきて、反射的に顔を上げる。
俺の背中にそっと手を添えていたのは、見たことのない男の人であった。年齢は二十代後半くらいか。なんとなくオーガス兄様よりは年上な気がする。
銀に近い色味の髪に、優しそうな目元。すらっとした細身の男ではあるが、隙のない佇まいである。そしてなにより俺の目を引いたのは、その服装である。
白い騎士服。
ヴィアン家の黒い騎士服と対照的な色。これは見たことがある。王立騎士団の制服だ。
とりあえず、ぶつかったことを謝罪しておけば、男はくすりと小さく笑った。なんか、あれだ。乙女ゲームとか少女漫画とかに出てきそうな線の細いイケメンだ。まっとうなイケメンだ。
「こちらこそ。よそ見をしておりました。お怪我はありませんか?」
さっと腰を折って視線を合わせてくれる男は、俺が今までに出会ったどんな大人よりもまっとうな気がした。なんか、オーラからして違う。ちゃんとした大人だ。
慌ててユリスの横に張り付いて、イケメンお兄さんと対峙する。ユリスは遠慮なしにじろじろとお兄さんを観察して、なぜか鼻で笑った。嫌なお子様だな。
「おい、おまえ。ちょうどよかった。僕たちを案内しろ」
突然、偉そうな口調で命じたユリスに、こっちがびっくりしてしまう。それはイケメンお兄さんも同様だったようで、ちょっと目を見開いたお兄さんは、けれどもすぐに柔和な笑みを浮かべる。
「私でよければ。どちらまで?」
大人な対応をするお兄さんは流石である。小声でユリスに「なんだその態度は」と抗議しておけば、再び鼻で笑われてしまった。
「おまえにはこいつの格好が見えていないのか? どう見ても王立騎士団だろ。であれば僕の言うことはきいて当然だ」
「偉そうだな」
「まぁ。実際に偉いからな」
嫌味を言ったつもりなのに、ユリスは素直に肯定してしまう。やりにくいな。
俺らのやりとりを黙って見ていたお兄さんは、怪訝な様子で目を細めている。ユリスの発言の意味を考えているらしい。このままではユリスと一緒にヤバいお子様だと思われてしまう。
慌てた俺は、急いで自己紹介をしておく。
「俺、ルイス。十一歳」
「ルイス様。私は王立騎士団第一部隊のラッセルと申します。どうぞお見知りおきを」
胸の前に手をやって軽く頭を下げたラッセルは、イケメン騎士だった。すごい。アロンやニックとは大違いだ。ちゃんとした騎士のお兄さんだ。
「……ラッセル?」
なぜか首を捻るユリスに目を向ければ、「あ」という短い声が発せられた。
「どうした」
「ラッセルってあれだろ。ほら、オーガスの」
それを聞いて、俺もピンときた。そうだよ、あれだ。オーガス兄様のお友達だ!
以前、オーガス兄様が「僕にも友達くらいいるけど⁉︎」と騒いだ時である。その友達として名前があがったのが、王立騎士団第一部隊隊長だというラッセルだった。
ガバリと、ラッセルの顔を確認する。
きらきらイケメンのラッセルは、黙って俺らのやりとりに耳を澄ませていたようで、その綺麗な顔に困惑の色が窺える。
え。このきらきらイケメンとオーガス兄様が友達なの? 絶対に嘘じゃん。
「……おまえについてきたのが間違いだった」
「俺はユリスについてきたんだけどな」
中庭のような空間で、ポツンと立ち尽くす俺とユリス。
学園内に入ってすぐのことである。なんか学園のお偉いさん的な人に挨拶してくると、クレイグ団長が初めに離脱した。彼の息子であるティアンがお世話になっているからな。俺たちのことは、タイラーたちが居るから大丈夫と判断したのだろう。全然大丈夫ではなかったけどな。
その後、ティアンを探す道すがらに教員らしき人とすれ違った際、アロンがその人に捕まった。どうやらアロンは顔が広いらしく、知り合いらしい。そのまま世間話ムードになり、待ちきれなかった俺は庭へと駆け出した。
当然のような顔でついてくるユリスの後ろから、タイラーとロニー、それにジャンが追いかけて来たのだが、テンション上がるままに出鱈目に走りまわっていたら、いつの間にかみんな消えていた。ちょっとしたミステリーだ。
そうして中庭的空間で今、ユリスとふたり途方に暮れていたというわけである。
「なんでおまえはすぐに迷子になるんだ。本当に学習しないな」
なぜか迷子の責任を全て俺に押し付けてくるユリスは、すごく偉そうであった。
おまえも迷子のくせに。
「とりあえず、噴水がないか確認しない?」
「しない」
「じゃあ猫でも探すか? すごく広いから。一匹くらいいるかもしれない」
「探さない」
素っ気ないユリスは、勝手に歩き出してしまう。ここでユリスとも離れてしまえば、もう終わりだ。ひとりでアロンの実家に戻れる自信もない。慌ててユリスの背中を追いかける。
一切の迷いなく、堂々と歩くユリスは自信に満ちていた。どうやらなにか当てがあるらしい。それなら安心である。ユリスは歳の割には結構しっかりしている気がするし、迷子になった時の対処法も心得ているのだろう。そうして何も考えずにユリスの後ろを歩いていた俺であったが、前を行くユリスの目的地が気になって、隣に並ぶ。
「どこに向かってるの?」
「知らない」
「は?」
知らないってなに。ピタリと歩みを止めれば、ユリスも止まる。
「え、どこか目的地があるのでは?」
「ない」
きっぱりと断言したユリスは、なぜか自信満々であった。
は? なにこいつ、こわ。目的地もなしに、見知らぬ場所でこんなに堂々と進んでいたのか? 意味がわからない。
思わず一歩後ろに下がれば、誰かにぶつかってしまった。「おっと」という落ち着き払った声が降ってきて、反射的に顔を上げる。
俺の背中にそっと手を添えていたのは、見たことのない男の人であった。年齢は二十代後半くらいか。なんとなくオーガス兄様よりは年上な気がする。
銀に近い色味の髪に、優しそうな目元。すらっとした細身の男ではあるが、隙のない佇まいである。そしてなにより俺の目を引いたのは、その服装である。
白い騎士服。
ヴィアン家の黒い騎士服と対照的な色。これは見たことがある。王立騎士団の制服だ。
とりあえず、ぶつかったことを謝罪しておけば、男はくすりと小さく笑った。なんか、あれだ。乙女ゲームとか少女漫画とかに出てきそうな線の細いイケメンだ。まっとうなイケメンだ。
「こちらこそ。よそ見をしておりました。お怪我はありませんか?」
さっと腰を折って視線を合わせてくれる男は、俺が今までに出会ったどんな大人よりもまっとうな気がした。なんか、オーラからして違う。ちゃんとした大人だ。
慌ててユリスの横に張り付いて、イケメンお兄さんと対峙する。ユリスは遠慮なしにじろじろとお兄さんを観察して、なぜか鼻で笑った。嫌なお子様だな。
「おい、おまえ。ちょうどよかった。僕たちを案内しろ」
突然、偉そうな口調で命じたユリスに、こっちがびっくりしてしまう。それはイケメンお兄さんも同様だったようで、ちょっと目を見開いたお兄さんは、けれどもすぐに柔和な笑みを浮かべる。
「私でよければ。どちらまで?」
大人な対応をするお兄さんは流石である。小声でユリスに「なんだその態度は」と抗議しておけば、再び鼻で笑われてしまった。
「おまえにはこいつの格好が見えていないのか? どう見ても王立騎士団だろ。であれば僕の言うことはきいて当然だ」
「偉そうだな」
「まぁ。実際に偉いからな」
嫌味を言ったつもりなのに、ユリスは素直に肯定してしまう。やりにくいな。
俺らのやりとりを黙って見ていたお兄さんは、怪訝な様子で目を細めている。ユリスの発言の意味を考えているらしい。このままではユリスと一緒にヤバいお子様だと思われてしまう。
慌てた俺は、急いで自己紹介をしておく。
「俺、ルイス。十一歳」
「ルイス様。私は王立騎士団第一部隊のラッセルと申します。どうぞお見知りおきを」
胸の前に手をやって軽く頭を下げたラッセルは、イケメン騎士だった。すごい。アロンやニックとは大違いだ。ちゃんとした騎士のお兄さんだ。
「……ラッセル?」
なぜか首を捻るユリスに目を向ければ、「あ」という短い声が発せられた。
「どうした」
「ラッセルってあれだろ。ほら、オーガスの」
それを聞いて、俺もピンときた。そうだよ、あれだ。オーガス兄様のお友達だ!
以前、オーガス兄様が「僕にも友達くらいいるけど⁉︎」と騒いだ時である。その友達として名前があがったのが、王立騎士団第一部隊隊長だというラッセルだった。
ガバリと、ラッセルの顔を確認する。
きらきらイケメンのラッセルは、黙って俺らのやりとりに耳を澄ませていたようで、その綺麗な顔に困惑の色が窺える。
え。このきらきらイケメンとオーガス兄様が友達なの? 絶対に嘘じゃん。
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