257 / 577
11歳
246 お別れ
しおりを挟む
時間が過ぎるのは、あっという間である。
ティアンは十三歳になった。胸を張って報告してくるティアンは、ドヤ顔していた。いや、俺もこの間十一歳になりましたけど? なんだその得意気な表情は。ちょっと腹が立つ。
お祝いに白猫を少しだけ触らせてあげた。この間まで小さかったのに、なんかあっという間に大きくなった。猫の成長って早い。今では、以前の黒猫ユリスに負けないくらいの大きさである。すっかり大人猫になってしまった。
季節は進んで、秋目前。
結局、噴水で泳ぐことはできなかった。クレイグ団長がことごとく邪魔してきた。湖でも泳ぐことはできなかった。夏なのに。
近くに海がないかとブルース兄様にしつこく質問したのだが、兄様は「それを知ってどうするつもりだ。今度は海で泳ぐと言い出すつもりか?」と、眉間に皺を寄せるだけで教えてくれなかった。ケチかよ。
そんなこんなで、俺の夏は終わってしまった。また来年に期待しようと思う。今度こそ、兄様たちを説得してどうにか泳がなければならない。
そして、秋といえば。
「いいですか。大人しくしておくんですよ?」
「俺はいつも大人しいが?」
いつものお飾りバッグではない。なにやら中身の詰まったバッグを引っ提げたティアンは、「ルイス様が大人しい時ってありましたっけ?」と失礼なことを言っている。
「ちゃんとロニーと、ジャンの言うこと聞くんですよ。あとお兄様方に迷惑かけない!」
「かけてませんが?」
首を捻っていると、「嘘でしょ? 自覚なしですか?」と、ティアンが戦慄している。
ティアンは秋から学校に通うらしい。しかも寮生活。
夏真っ盛りの頃だったか。俺の元へと突入してきたティアンは、なにやら合格通知らしきものを突きつけてきた。どうやら無事に入学が決定したらしい。得意になるティアンであるが、こいつコネ入学だよね? なんでそんなに胸を張れるんだ。「俺のおかげでしょ?」と、アロンが事あるごとにアピールしていた。
入学までまだちょっと時間はあるらしいが、学校がちょっと遠いのと、諸々の準備があるため早めに引っ越すらしい。
最後にと、俺の顔を見にきたらしいティアンは、なんだか張り切っている。
ユリスを部屋から引きずり出して、一緒にお見送りする。「僕は関係ないだろ。学校でもなんでも好きに行けばいいだろ」と、ぐちぐち文句を言っている。なんて冷たい奴だ。おまえもティアンには色々お世話になっているだろう。お別れの挨拶くらい素直にしておけ。
引越しにしては意外と少ない荷物を眺める。どうやら向こうで揃えるらしい。
「本当に帰ってこないの?」
「はい。もう決めたので」
遠いとはいえ、帰ってこられない距離ではないらしい。けれどもティアンは、四年間まったく帰ってこないつもりでいるらしい。
「僕がいない間、乗馬くらいできるようになっていてくださいね」
「気が向いたらな」
「あとユリス様と喧嘩しないこと」
「それはユリス次第だな」
「それと、ちゃんとお勉強すること!」
「それも気が向いたらね」
ここぞとばかりに小言をぶつけてくるティアンは、どうやら未知の学校生活に浮かれているらしい。なんか普段よりもテンション高い気がする。
浮かれティアンになっている。
終始興味なさそうなユリスは、欠伸を噛み殺している。
「なにかあったら連絡よこせよ」
「はい、ブルース様」
なぜか顔を出したブルース兄様が、偉そうに腕を組んでいる。その後ろで、アロンがいまだに、入学できたのは自分のおかげだから感謝しろと言っている。
「なんでアロンのコネで入学できるの?」
ずっと気になっていたことを尋ねれば、「そりゃあだって」と、アロンがドヤ顔する。
「あの学園、俺んとこの領内にありますからね」
アロンによると、ミュンスト伯爵家が有する領地内に学園があるらしく、アロンも昔そこに通っていたという。なんでも現ミュンスト家当主であるアロンの父親が、学園の運営に深く携わっているらしい。バリバリのコネ入学じゃん。
改めてティアンに目をやると、なぜか得意気に微笑まれた。
「帰ってくる時には、なにか珍しい物を持ってこい」
俺を差し置いて、なぜかユリスがお土産をねだっている。俺も俺もと手を上げれば「任せておいてくださいよ!」と、威勢の良い返事があった。俺は美味しいお菓子でお願いします。
「じゃあ、そろそろ」
ぎゅっと拳を握り締めたティアンは、なにかを決意したように顔を上げた。
「……ほんとに帰ってこないの?」
ぽつりと呟けば、ティアンがちょっとだけ動揺したように見えた。目を伏せた彼は、しかしすぐに真っ直ぐと俺の目を覗き込んでくる。
「大丈夫ですよ。四年後、ちゃんと帰ってきます! その時はまた一緒に遊んであげますよ」
「ティアンは、俺とあんまり遊んでくれないじゃん」
「そんなことないです。僕、結構ルイス様の変なお遊びにも付き合いましたよ?」
変なお遊びってなんだ。俺がいつ変な遊びなんてしたよ。
「あまりカル先生を困らせたらダメですよ。ユリス様と仲良くしてくださいね」
「わかったってば!」
何度も言い聞かせてくるティアンは、俺の手を無理矢理握ってくる。そのままぎゅっと力を込めた彼は、へらっと気の抜けた笑顔をみせた。
「では、また! 元気でいてくださいね!」
「うん。ばいばい、ティアン」
そうして、ティアンはヴィアン家を去って行った。
ティアンは十三歳になった。胸を張って報告してくるティアンは、ドヤ顔していた。いや、俺もこの間十一歳になりましたけど? なんだその得意気な表情は。ちょっと腹が立つ。
お祝いに白猫を少しだけ触らせてあげた。この間まで小さかったのに、なんかあっという間に大きくなった。猫の成長って早い。今では、以前の黒猫ユリスに負けないくらいの大きさである。すっかり大人猫になってしまった。
季節は進んで、秋目前。
結局、噴水で泳ぐことはできなかった。クレイグ団長がことごとく邪魔してきた。湖でも泳ぐことはできなかった。夏なのに。
近くに海がないかとブルース兄様にしつこく質問したのだが、兄様は「それを知ってどうするつもりだ。今度は海で泳ぐと言い出すつもりか?」と、眉間に皺を寄せるだけで教えてくれなかった。ケチかよ。
そんなこんなで、俺の夏は終わってしまった。また来年に期待しようと思う。今度こそ、兄様たちを説得してどうにか泳がなければならない。
そして、秋といえば。
「いいですか。大人しくしておくんですよ?」
「俺はいつも大人しいが?」
いつものお飾りバッグではない。なにやら中身の詰まったバッグを引っ提げたティアンは、「ルイス様が大人しい時ってありましたっけ?」と失礼なことを言っている。
「ちゃんとロニーと、ジャンの言うこと聞くんですよ。あとお兄様方に迷惑かけない!」
「かけてませんが?」
首を捻っていると、「嘘でしょ? 自覚なしですか?」と、ティアンが戦慄している。
ティアンは秋から学校に通うらしい。しかも寮生活。
夏真っ盛りの頃だったか。俺の元へと突入してきたティアンは、なにやら合格通知らしきものを突きつけてきた。どうやら無事に入学が決定したらしい。得意になるティアンであるが、こいつコネ入学だよね? なんでそんなに胸を張れるんだ。「俺のおかげでしょ?」と、アロンが事あるごとにアピールしていた。
入学までまだちょっと時間はあるらしいが、学校がちょっと遠いのと、諸々の準備があるため早めに引っ越すらしい。
最後にと、俺の顔を見にきたらしいティアンは、なんだか張り切っている。
ユリスを部屋から引きずり出して、一緒にお見送りする。「僕は関係ないだろ。学校でもなんでも好きに行けばいいだろ」と、ぐちぐち文句を言っている。なんて冷たい奴だ。おまえもティアンには色々お世話になっているだろう。お別れの挨拶くらい素直にしておけ。
引越しにしては意外と少ない荷物を眺める。どうやら向こうで揃えるらしい。
「本当に帰ってこないの?」
「はい。もう決めたので」
遠いとはいえ、帰ってこられない距離ではないらしい。けれどもティアンは、四年間まったく帰ってこないつもりでいるらしい。
「僕がいない間、乗馬くらいできるようになっていてくださいね」
「気が向いたらな」
「あとユリス様と喧嘩しないこと」
「それはユリス次第だな」
「それと、ちゃんとお勉強すること!」
「それも気が向いたらね」
ここぞとばかりに小言をぶつけてくるティアンは、どうやら未知の学校生活に浮かれているらしい。なんか普段よりもテンション高い気がする。
浮かれティアンになっている。
終始興味なさそうなユリスは、欠伸を噛み殺している。
「なにかあったら連絡よこせよ」
「はい、ブルース様」
なぜか顔を出したブルース兄様が、偉そうに腕を組んでいる。その後ろで、アロンがいまだに、入学できたのは自分のおかげだから感謝しろと言っている。
「なんでアロンのコネで入学できるの?」
ずっと気になっていたことを尋ねれば、「そりゃあだって」と、アロンがドヤ顔する。
「あの学園、俺んとこの領内にありますからね」
アロンによると、ミュンスト伯爵家が有する領地内に学園があるらしく、アロンも昔そこに通っていたという。なんでも現ミュンスト家当主であるアロンの父親が、学園の運営に深く携わっているらしい。バリバリのコネ入学じゃん。
改めてティアンに目をやると、なぜか得意気に微笑まれた。
「帰ってくる時には、なにか珍しい物を持ってこい」
俺を差し置いて、なぜかユリスがお土産をねだっている。俺も俺もと手を上げれば「任せておいてくださいよ!」と、威勢の良い返事があった。俺は美味しいお菓子でお願いします。
「じゃあ、そろそろ」
ぎゅっと拳を握り締めたティアンは、なにかを決意したように顔を上げた。
「……ほんとに帰ってこないの?」
ぽつりと呟けば、ティアンがちょっとだけ動揺したように見えた。目を伏せた彼は、しかしすぐに真っ直ぐと俺の目を覗き込んでくる。
「大丈夫ですよ。四年後、ちゃんと帰ってきます! その時はまた一緒に遊んであげますよ」
「ティアンは、俺とあんまり遊んでくれないじゃん」
「そんなことないです。僕、結構ルイス様の変なお遊びにも付き合いましたよ?」
変なお遊びってなんだ。俺がいつ変な遊びなんてしたよ。
「あまりカル先生を困らせたらダメですよ。ユリス様と仲良くしてくださいね」
「わかったってば!」
何度も言い聞かせてくるティアンは、俺の手を無理矢理握ってくる。そのままぎゅっと力を込めた彼は、へらっと気の抜けた笑顔をみせた。
「では、また! 元気でいてくださいね!」
「うん。ばいばい、ティアン」
そうして、ティアンはヴィアン家を去って行った。
427
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる