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11歳
246 お別れ
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時間が過ぎるのは、あっという間である。
ティアンは十三歳になった。胸を張って報告してくるティアンは、ドヤ顔していた。いや、俺もこの間十一歳になりましたけど? なんだその得意気な表情は。ちょっと腹が立つ。
お祝いに白猫を少しだけ触らせてあげた。この間まで小さかったのに、なんかあっという間に大きくなった。猫の成長って早い。今では、以前の黒猫ユリスに負けないくらいの大きさである。すっかり大人猫になってしまった。
季節は進んで、秋目前。
結局、噴水で泳ぐことはできなかった。クレイグ団長がことごとく邪魔してきた。湖でも泳ぐことはできなかった。夏なのに。
近くに海がないかとブルース兄様にしつこく質問したのだが、兄様は「それを知ってどうするつもりだ。今度は海で泳ぐと言い出すつもりか?」と、眉間に皺を寄せるだけで教えてくれなかった。ケチかよ。
そんなこんなで、俺の夏は終わってしまった。また来年に期待しようと思う。今度こそ、兄様たちを説得してどうにか泳がなければならない。
そして、秋といえば。
「いいですか。大人しくしておくんですよ?」
「俺はいつも大人しいが?」
いつものお飾りバッグではない。なにやら中身の詰まったバッグを引っ提げたティアンは、「ルイス様が大人しい時ってありましたっけ?」と失礼なことを言っている。
「ちゃんとロニーと、ジャンの言うこと聞くんですよ。あとお兄様方に迷惑かけない!」
「かけてませんが?」
首を捻っていると、「嘘でしょ? 自覚なしですか?」と、ティアンが戦慄している。
ティアンは秋から学校に通うらしい。しかも寮生活。
夏真っ盛りの頃だったか。俺の元へと突入してきたティアンは、なにやら合格通知らしきものを突きつけてきた。どうやら無事に入学が決定したらしい。得意になるティアンであるが、こいつコネ入学だよね? なんでそんなに胸を張れるんだ。「俺のおかげでしょ?」と、アロンが事あるごとにアピールしていた。
入学までまだちょっと時間はあるらしいが、学校がちょっと遠いのと、諸々の準備があるため早めに引っ越すらしい。
最後にと、俺の顔を見にきたらしいティアンは、なんだか張り切っている。
ユリスを部屋から引きずり出して、一緒にお見送りする。「僕は関係ないだろ。学校でもなんでも好きに行けばいいだろ」と、ぐちぐち文句を言っている。なんて冷たい奴だ。おまえもティアンには色々お世話になっているだろう。お別れの挨拶くらい素直にしておけ。
引越しにしては意外と少ない荷物を眺める。どうやら向こうで揃えるらしい。
「本当に帰ってこないの?」
「はい。もう決めたので」
遠いとはいえ、帰ってこられない距離ではないらしい。けれどもティアンは、四年間まったく帰ってこないつもりでいるらしい。
「僕がいない間、乗馬くらいできるようになっていてくださいね」
「気が向いたらな」
「あとユリス様と喧嘩しないこと」
「それはユリス次第だな」
「それと、ちゃんとお勉強すること!」
「それも気が向いたらね」
ここぞとばかりに小言をぶつけてくるティアンは、どうやら未知の学校生活に浮かれているらしい。なんか普段よりもテンション高い気がする。
浮かれティアンになっている。
終始興味なさそうなユリスは、欠伸を噛み殺している。
「なにかあったら連絡よこせよ」
「はい、ブルース様」
なぜか顔を出したブルース兄様が、偉そうに腕を組んでいる。その後ろで、アロンがいまだに、入学できたのは自分のおかげだから感謝しろと言っている。
「なんでアロンのコネで入学できるの?」
ずっと気になっていたことを尋ねれば、「そりゃあだって」と、アロンがドヤ顔する。
「あの学園、俺んとこの領内にありますからね」
アロンによると、ミュンスト伯爵家が有する領地内に学園があるらしく、アロンも昔そこに通っていたという。なんでも現ミュンスト家当主であるアロンの父親が、学園の運営に深く携わっているらしい。バリバリのコネ入学じゃん。
改めてティアンに目をやると、なぜか得意気に微笑まれた。
「帰ってくる時には、なにか珍しい物を持ってこい」
俺を差し置いて、なぜかユリスがお土産をねだっている。俺も俺もと手を上げれば「任せておいてくださいよ!」と、威勢の良い返事があった。俺は美味しいお菓子でお願いします。
「じゃあ、そろそろ」
ぎゅっと拳を握り締めたティアンは、なにかを決意したように顔を上げた。
「……ほんとに帰ってこないの?」
ぽつりと呟けば、ティアンがちょっとだけ動揺したように見えた。目を伏せた彼は、しかしすぐに真っ直ぐと俺の目を覗き込んでくる。
「大丈夫ですよ。四年後、ちゃんと帰ってきます! その時はまた一緒に遊んであげますよ」
「ティアンは、俺とあんまり遊んでくれないじゃん」
「そんなことないです。僕、結構ルイス様の変なお遊びにも付き合いましたよ?」
変なお遊びってなんだ。俺がいつ変な遊びなんてしたよ。
「あまりカル先生を困らせたらダメですよ。ユリス様と仲良くしてくださいね」
「わかったってば!」
何度も言い聞かせてくるティアンは、俺の手を無理矢理握ってくる。そのままぎゅっと力を込めた彼は、へらっと気の抜けた笑顔をみせた。
「では、また! 元気でいてくださいね!」
「うん。ばいばい、ティアン」
そうして、ティアンはヴィアン家を去って行った。
ティアンは十三歳になった。胸を張って報告してくるティアンは、ドヤ顔していた。いや、俺もこの間十一歳になりましたけど? なんだその得意気な表情は。ちょっと腹が立つ。
お祝いに白猫を少しだけ触らせてあげた。この間まで小さかったのに、なんかあっという間に大きくなった。猫の成長って早い。今では、以前の黒猫ユリスに負けないくらいの大きさである。すっかり大人猫になってしまった。
季節は進んで、秋目前。
結局、噴水で泳ぐことはできなかった。クレイグ団長がことごとく邪魔してきた。湖でも泳ぐことはできなかった。夏なのに。
近くに海がないかとブルース兄様にしつこく質問したのだが、兄様は「それを知ってどうするつもりだ。今度は海で泳ぐと言い出すつもりか?」と、眉間に皺を寄せるだけで教えてくれなかった。ケチかよ。
そんなこんなで、俺の夏は終わってしまった。また来年に期待しようと思う。今度こそ、兄様たちを説得してどうにか泳がなければならない。
そして、秋といえば。
「いいですか。大人しくしておくんですよ?」
「俺はいつも大人しいが?」
いつものお飾りバッグではない。なにやら中身の詰まったバッグを引っ提げたティアンは、「ルイス様が大人しい時ってありましたっけ?」と失礼なことを言っている。
「ちゃんとロニーと、ジャンの言うこと聞くんですよ。あとお兄様方に迷惑かけない!」
「かけてませんが?」
首を捻っていると、「嘘でしょ? 自覚なしですか?」と、ティアンが戦慄している。
ティアンは秋から学校に通うらしい。しかも寮生活。
夏真っ盛りの頃だったか。俺の元へと突入してきたティアンは、なにやら合格通知らしきものを突きつけてきた。どうやら無事に入学が決定したらしい。得意になるティアンであるが、こいつコネ入学だよね? なんでそんなに胸を張れるんだ。「俺のおかげでしょ?」と、アロンが事あるごとにアピールしていた。
入学までまだちょっと時間はあるらしいが、学校がちょっと遠いのと、諸々の準備があるため早めに引っ越すらしい。
最後にと、俺の顔を見にきたらしいティアンは、なんだか張り切っている。
ユリスを部屋から引きずり出して、一緒にお見送りする。「僕は関係ないだろ。学校でもなんでも好きに行けばいいだろ」と、ぐちぐち文句を言っている。なんて冷たい奴だ。おまえもティアンには色々お世話になっているだろう。お別れの挨拶くらい素直にしておけ。
引越しにしては意外と少ない荷物を眺める。どうやら向こうで揃えるらしい。
「本当に帰ってこないの?」
「はい。もう決めたので」
遠いとはいえ、帰ってこられない距離ではないらしい。けれどもティアンは、四年間まったく帰ってこないつもりでいるらしい。
「僕がいない間、乗馬くらいできるようになっていてくださいね」
「気が向いたらな」
「あとユリス様と喧嘩しないこと」
「それはユリス次第だな」
「それと、ちゃんとお勉強すること!」
「それも気が向いたらね」
ここぞとばかりに小言をぶつけてくるティアンは、どうやら未知の学校生活に浮かれているらしい。なんか普段よりもテンション高い気がする。
浮かれティアンになっている。
終始興味なさそうなユリスは、欠伸を噛み殺している。
「なにかあったら連絡よこせよ」
「はい、ブルース様」
なぜか顔を出したブルース兄様が、偉そうに腕を組んでいる。その後ろで、アロンがいまだに、入学できたのは自分のおかげだから感謝しろと言っている。
「なんでアロンのコネで入学できるの?」
ずっと気になっていたことを尋ねれば、「そりゃあだって」と、アロンがドヤ顔する。
「あの学園、俺んとこの領内にありますからね」
アロンによると、ミュンスト伯爵家が有する領地内に学園があるらしく、アロンも昔そこに通っていたという。なんでも現ミュンスト家当主であるアロンの父親が、学園の運営に深く携わっているらしい。バリバリのコネ入学じゃん。
改めてティアンに目をやると、なぜか得意気に微笑まれた。
「帰ってくる時には、なにか珍しい物を持ってこい」
俺を差し置いて、なぜかユリスがお土産をねだっている。俺も俺もと手を上げれば「任せておいてくださいよ!」と、威勢の良い返事があった。俺は美味しいお菓子でお願いします。
「じゃあ、そろそろ」
ぎゅっと拳を握り締めたティアンは、なにかを決意したように顔を上げた。
「……ほんとに帰ってこないの?」
ぽつりと呟けば、ティアンがちょっとだけ動揺したように見えた。目を伏せた彼は、しかしすぐに真っ直ぐと俺の目を覗き込んでくる。
「大丈夫ですよ。四年後、ちゃんと帰ってきます! その時はまた一緒に遊んであげますよ」
「ティアンは、俺とあんまり遊んでくれないじゃん」
「そんなことないです。僕、結構ルイス様の変なお遊びにも付き合いましたよ?」
変なお遊びってなんだ。俺がいつ変な遊びなんてしたよ。
「あまりカル先生を困らせたらダメですよ。ユリス様と仲良くしてくださいね」
「わかったってば!」
何度も言い聞かせてくるティアンは、俺の手を無理矢理握ってくる。そのままぎゅっと力を込めた彼は、へらっと気の抜けた笑顔をみせた。
「では、また! 元気でいてくださいね!」
「うん。ばいばい、ティアン」
そうして、ティアンはヴィアン家を去って行った。
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