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11歳
245 奪い合い
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「猫も連れて行けばよかった」
俺はダメでも、猫なら噴水で泳いでも許されるかもしれない。白猫を抱き上げて「なぁ?」と青い目を覗き込めば、にゃーとやる気のない声が返ってきた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ルイス様?」
すかさず俺の前に立ち塞がるクレイグ団長は、怖い顔をしていた。
「俺は遊ばないよ? 猫を噴水で泳がせてくるだけ」
「ダメです。それに猫はあまり水を好みません」
「うちの猫は泳ぐの好きかもしれない。試してくる」
「ルイス様?」
片膝をついて諭してくる団長は、動く気配がない。そこを退いてくれないと外に出られないのだが。
しばし団長と睨み合いを繰り広げるが、俺に勝ち目はなかった。しょんぼり肩を落としていると、「そろそろおやつの時間では?」と、ティアンがお知らせしてくれる。
そうだな。まずはおやつを食べよう。一日のうちで、一番重要な時間である。
バタバタ暴れる白猫を放して、部屋を駆け出す。そうしてユリスの部屋へとお邪魔した俺は、読書していた彼の向かいに腰を下ろした。
「ジャン! おやつの準備!」
「はい、ただいま」
厨房へ向かうジャンを見送って、後をつけてきていた団長を振り返る。
「団長も一緒に食べる?」
「いえ、お構いなく」
短くお断りした団長は、ユリスの部屋を片付けていたタイラーと、俺の背後に控えているロニーに「ルイス様をよくよく見ておいてくれないか」と声をかけている。やめろ。俺の見張りを増やすんじゃない。
「なにをしたんだ?」
パタンと本を閉じて、ユリスが顔を上げる。噴水の水を撒いて遊んだと教えてやれば、彼は薄く笑ってみせる。
「相変わらず馬鹿なことをしているな」
「なんだと!」
ユリスだって。猫時代には俺と一緒に泥遊びしてただろ。すかさずそのことを指摘するが、「あの時の僕は猫だったからいいんだ」と、謎の理論を披露されてしまった。
仕事に戻る団長を見送って、大きく手を振る。
いつの間にか席についていたティアンは、一緒におやつを食べる気満々である。俺のおやつが減ってしまうから遠慮しろと言って聞かせるのだが、ティアンは動じない。初めから三人分用意されていますから、別のルイス様の分は減りません、と屁理屈言ってくる。
本日のおやつは、なんかプリンみたいなものだった。甘くて美味しい。ジャンとロニーにもお裾分けしようと思ったのだが、丁重にお断りされてしまった。
ちらりとタイラーに目を向けると、察した彼は「俺も遠慮しますよ」と先回りして答えてくる。
ぱくぱくと自分の分を食べ進め、ちらちらとユリスの分にも目を配る。おやつに集中する俺とティアンとは異なり、ユリスは本を開きながら上の空でおやつを食べている。
お行儀悪いですよ、とタイラーが眉を寄せるが、ユリスが行動を改める気配はない。
ユリスがスプーンをくわえて、ぼんやりしている。ゆっくりと立ち上がった俺は、隙を見て、ひょいっとユリスのおやつにスプーンを伸ばす。ひとくち分を奪い取って、口に放り込む。
「まだ自分のが残っているでしょ。なんで人のに手を伸ばすんですか」
やめなさいと注意してくるティアンのプリンも、さっと奪っておく。
「こら! 意地汚いですよ!」
「うま」
もぐもぐして、満足する。上の空のユリスは、おやつ奪われたことに気が付いていない。
二口目もいけそうである。そろそろと手を伸ばす。注意しようとしてくるティアンの足を蹴って、黙らせておく。そうしてあと少しというところで、突然ユリスが顔を上げた。
「おい」
ガシッと俺の腕を掴んできたユリスは、眼光鋭く睨みつけてくる。冗談だって、と笑って手を引っ込めるが、ユリスは「食べただろ」とプリンを指さしてくる。
「……食べてないよ?」
「食べただろ」
なんでや。さっきまでぼけっとしてたじゃん。減っていると主張するユリスは、プリンをじっと凝視している。おっかない雰囲気だ。
「食べただろ」
「……ちょっとだけ」
白状すれば、ユリスが勢いよくこちらに手を伸ばしてくる。俺のプリンが狙われている。
慌てて距離をとって、急いで食べてしまう。
もぐもぐすれば、ユリスが半眼となる。なぜか席を立った彼は、間違いなく俺を狙っていた。
「喧嘩しない!」
タイラーが仲裁に入るが、ユリスは止まる気配がない。ズカズカと寄ってきた彼は、目が据わっていた。
「ちょっと! 僕のあげますから」
ティアンの言葉に、ユリスが彼のプリンを引ったくる。そのまま不機嫌そうに座って食べ始める。
「……ユリスだけずるい」
俺にも寄越せとねだるが、ティアンには無視されてしまった。酷い。
俺はダメでも、猫なら噴水で泳いでも許されるかもしれない。白猫を抱き上げて「なぁ?」と青い目を覗き込めば、にゃーとやる気のない声が返ってきた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ルイス様?」
すかさず俺の前に立ち塞がるクレイグ団長は、怖い顔をしていた。
「俺は遊ばないよ? 猫を噴水で泳がせてくるだけ」
「ダメです。それに猫はあまり水を好みません」
「うちの猫は泳ぐの好きかもしれない。試してくる」
「ルイス様?」
片膝をついて諭してくる団長は、動く気配がない。そこを退いてくれないと外に出られないのだが。
しばし団長と睨み合いを繰り広げるが、俺に勝ち目はなかった。しょんぼり肩を落としていると、「そろそろおやつの時間では?」と、ティアンがお知らせしてくれる。
そうだな。まずはおやつを食べよう。一日のうちで、一番重要な時間である。
バタバタ暴れる白猫を放して、部屋を駆け出す。そうしてユリスの部屋へとお邪魔した俺は、読書していた彼の向かいに腰を下ろした。
「ジャン! おやつの準備!」
「はい、ただいま」
厨房へ向かうジャンを見送って、後をつけてきていた団長を振り返る。
「団長も一緒に食べる?」
「いえ、お構いなく」
短くお断りした団長は、ユリスの部屋を片付けていたタイラーと、俺の背後に控えているロニーに「ルイス様をよくよく見ておいてくれないか」と声をかけている。やめろ。俺の見張りを増やすんじゃない。
「なにをしたんだ?」
パタンと本を閉じて、ユリスが顔を上げる。噴水の水を撒いて遊んだと教えてやれば、彼は薄く笑ってみせる。
「相変わらず馬鹿なことをしているな」
「なんだと!」
ユリスだって。猫時代には俺と一緒に泥遊びしてただろ。すかさずそのことを指摘するが、「あの時の僕は猫だったからいいんだ」と、謎の理論を披露されてしまった。
仕事に戻る団長を見送って、大きく手を振る。
いつの間にか席についていたティアンは、一緒におやつを食べる気満々である。俺のおやつが減ってしまうから遠慮しろと言って聞かせるのだが、ティアンは動じない。初めから三人分用意されていますから、別のルイス様の分は減りません、と屁理屈言ってくる。
本日のおやつは、なんかプリンみたいなものだった。甘くて美味しい。ジャンとロニーにもお裾分けしようと思ったのだが、丁重にお断りされてしまった。
ちらりとタイラーに目を向けると、察した彼は「俺も遠慮しますよ」と先回りして答えてくる。
ぱくぱくと自分の分を食べ進め、ちらちらとユリスの分にも目を配る。おやつに集中する俺とティアンとは異なり、ユリスは本を開きながら上の空でおやつを食べている。
お行儀悪いですよ、とタイラーが眉を寄せるが、ユリスが行動を改める気配はない。
ユリスがスプーンをくわえて、ぼんやりしている。ゆっくりと立ち上がった俺は、隙を見て、ひょいっとユリスのおやつにスプーンを伸ばす。ひとくち分を奪い取って、口に放り込む。
「まだ自分のが残っているでしょ。なんで人のに手を伸ばすんですか」
やめなさいと注意してくるティアンのプリンも、さっと奪っておく。
「こら! 意地汚いですよ!」
「うま」
もぐもぐして、満足する。上の空のユリスは、おやつ奪われたことに気が付いていない。
二口目もいけそうである。そろそろと手を伸ばす。注意しようとしてくるティアンの足を蹴って、黙らせておく。そうしてあと少しというところで、突然ユリスが顔を上げた。
「おい」
ガシッと俺の腕を掴んできたユリスは、眼光鋭く睨みつけてくる。冗談だって、と笑って手を引っ込めるが、ユリスは「食べただろ」とプリンを指さしてくる。
「……食べてないよ?」
「食べただろ」
なんでや。さっきまでぼけっとしてたじゃん。減っていると主張するユリスは、プリンをじっと凝視している。おっかない雰囲気だ。
「食べただろ」
「……ちょっとだけ」
白状すれば、ユリスが勢いよくこちらに手を伸ばしてくる。俺のプリンが狙われている。
慌てて距離をとって、急いで食べてしまう。
もぐもぐすれば、ユリスが半眼となる。なぜか席を立った彼は、間違いなく俺を狙っていた。
「喧嘩しない!」
タイラーが仲裁に入るが、ユリスは止まる気配がない。ズカズカと寄ってきた彼は、目が据わっていた。
「ちょっと! 僕のあげますから」
ティアンの言葉に、ユリスが彼のプリンを引ったくる。そのまま不機嫌そうに座って食べ始める。
「……ユリスだけずるい」
俺にも寄越せとねだるが、ティアンには無視されてしまった。酷い。
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