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149 日頃の行いって大事だよね
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しんと静まり返る室内。重苦しい緊張感は、しかしタイラーのため息によって打ち消された。
「またそんなことを言って。そういうことを軽々しく口にしてはいけませんよ」
「なっ!」
なにやら肩をすくめたタイラーは、再び片付けに戻ってしまう。おいおい。全然ダメじゃないか。
「おい。聞こえなかったか。おまえはクビだと言っている。冗談ではないぞ」
「はいはい。くだらないこと言ってないでご自分で片付けましょうね」
まったく、と息を吐くタイラーは本物ユリスの言葉を気にしていないようだった。全然ダメじゃん。絶対に折れないタイラーもすごいけど。どんな精神してんだよ。
作戦が不発に終わった本物ユリスが、呆然としている。だがすぐに立ち上がった彼は、タイラーの前まで大股で歩いて行くと、おもむろに側に置いてあった花瓶を引っ掴んだ。
そのまま振り上げられる花瓶を唖然と見つめる猫姿の俺。は?
「あっぶな」
幸いすぐに反応したタイラーが本物ユリスの手を掴んで止めていたが。いや、こっわ。なにあいつ。無言で花瓶振り上げるとか正気か?
単なるいじめっ子だと思っていたが、やる事がえげつない。もはやサイコパスだよ。容赦ない本物ユリスにジャンの足元で小さく震えていると、「何やってるんですか!」とティアンが大声を上げ始めた。マジそれな。
「僕を雑に扱うこいつが悪い」
無茶苦茶言い始めた本物ユリスに、タイラーが眉を吊り上げている。あれはマジギレしている。でしょうね。急に花瓶で頭殴られそうになったらそうなるよね。
「やって良い事と悪い事があるでしょう⁉︎」
大声で詰め寄るティアンを鬱陶しそうに振り払った本物ユリスはなんだかイライラしていた。思い通りに事が運ばないことに苛ついているらしい。
「ユリス様」
そんな本物ユリスの肩をがっしり掴んだタイラーが、「これは流石にダメですよ」と怖い顔をしている。いいぞ! タイラー!
だが舌打ちした本物ユリスは、タイラーの手を振り解くとなぜかジャンの足元で様子を見守っていた俺の方へとやって来る。俺を助けろ、ジャン。
「おまえのせいだぞ!」
『なんでだよ』
責任転嫁がひどい。容赦なく俺を掴み上げた美少年は、ガクガクと遠慮なしに俺を揺らしてくる。やめて、吐きそう。
「こら! 猫ちゃんいじめるんじゃありません」
慌てて駆け寄って来たティアンが、俺のことを本物ユリスから奪ってくれる。助かった。さすがティアン。お礼にちょっとだけもふもふさせてやろう。
「なんで猫ちゃんのせいにするんですか。わけがわかりません」
お兄さんぶって本物ユリスを叱り始めるティアンは「なんで突然不機嫌になるんですか?」と不思議そうな顔をしていた。どうやら本物ユリスとの入れ替わりを単に俺が不機嫌であると解釈したらしい。
あんなサイコパスとの入れ替わりが気付かれないなんて。ちょっと不満である。
ティアンの腕の中に居るのをいいことに、はむはむと服の上から腕を甘噛みしてやる。それでも俺を離さないティアンはやっぱり猫好きだと思う。仕方ない。ちょっとだけ愛想良くしてやるか。にゃんにゃん可愛く鳴いてみれば、本物ユリスに睨まれた。なんでだよ。
「おまえら全員出て行け!」
ついに我慢できなくなったらしい本物ユリスが大声で怒鳴るが、当たり前のように誰も出て行かない。よくわからんが、すげぇ舐められてる。可哀想。
「っ! 全部おまえのせいだぞ!」
再度俺を指差した本物ユリスは間違いなくキレていた。はたから見れば己が怒られたことを全部飼い猫のせいにするお子様である。
「だからなんで猫ちゃんのせいにするんですか」
ティアンの呆れ声が響くのと同時に、なんだか目の前が真っ暗になった。
え? このタイミングで戻るの? 嘘でしょ。
「またそんなことを言って。そういうことを軽々しく口にしてはいけませんよ」
「なっ!」
なにやら肩をすくめたタイラーは、再び片付けに戻ってしまう。おいおい。全然ダメじゃないか。
「おい。聞こえなかったか。おまえはクビだと言っている。冗談ではないぞ」
「はいはい。くだらないこと言ってないでご自分で片付けましょうね」
まったく、と息を吐くタイラーは本物ユリスの言葉を気にしていないようだった。全然ダメじゃん。絶対に折れないタイラーもすごいけど。どんな精神してんだよ。
作戦が不発に終わった本物ユリスが、呆然としている。だがすぐに立ち上がった彼は、タイラーの前まで大股で歩いて行くと、おもむろに側に置いてあった花瓶を引っ掴んだ。
そのまま振り上げられる花瓶を唖然と見つめる猫姿の俺。は?
「あっぶな」
幸いすぐに反応したタイラーが本物ユリスの手を掴んで止めていたが。いや、こっわ。なにあいつ。無言で花瓶振り上げるとか正気か?
単なるいじめっ子だと思っていたが、やる事がえげつない。もはやサイコパスだよ。容赦ない本物ユリスにジャンの足元で小さく震えていると、「何やってるんですか!」とティアンが大声を上げ始めた。マジそれな。
「僕を雑に扱うこいつが悪い」
無茶苦茶言い始めた本物ユリスに、タイラーが眉を吊り上げている。あれはマジギレしている。でしょうね。急に花瓶で頭殴られそうになったらそうなるよね。
「やって良い事と悪い事があるでしょう⁉︎」
大声で詰め寄るティアンを鬱陶しそうに振り払った本物ユリスはなんだかイライラしていた。思い通りに事が運ばないことに苛ついているらしい。
「ユリス様」
そんな本物ユリスの肩をがっしり掴んだタイラーが、「これは流石にダメですよ」と怖い顔をしている。いいぞ! タイラー!
だが舌打ちした本物ユリスは、タイラーの手を振り解くとなぜかジャンの足元で様子を見守っていた俺の方へとやって来る。俺を助けろ、ジャン。
「おまえのせいだぞ!」
『なんでだよ』
責任転嫁がひどい。容赦なく俺を掴み上げた美少年は、ガクガクと遠慮なしに俺を揺らしてくる。やめて、吐きそう。
「こら! 猫ちゃんいじめるんじゃありません」
慌てて駆け寄って来たティアンが、俺のことを本物ユリスから奪ってくれる。助かった。さすがティアン。お礼にちょっとだけもふもふさせてやろう。
「なんで猫ちゃんのせいにするんですか。わけがわかりません」
お兄さんぶって本物ユリスを叱り始めるティアンは「なんで突然不機嫌になるんですか?」と不思議そうな顔をしていた。どうやら本物ユリスとの入れ替わりを単に俺が不機嫌であると解釈したらしい。
あんなサイコパスとの入れ替わりが気付かれないなんて。ちょっと不満である。
ティアンの腕の中に居るのをいいことに、はむはむと服の上から腕を甘噛みしてやる。それでも俺を離さないティアンはやっぱり猫好きだと思う。仕方ない。ちょっとだけ愛想良くしてやるか。にゃんにゃん可愛く鳴いてみれば、本物ユリスに睨まれた。なんでだよ。
「おまえら全員出て行け!」
ついに我慢できなくなったらしい本物ユリスが大声で怒鳴るが、当たり前のように誰も出て行かない。よくわからんが、すげぇ舐められてる。可哀想。
「っ! 全部おまえのせいだぞ!」
再度俺を指差した本物ユリスは間違いなくキレていた。はたから見れば己が怒られたことを全部飼い猫のせいにするお子様である。
「だからなんで猫ちゃんのせいにするんですか」
ティアンの呆れ声が響くのと同時に、なんだか目の前が真っ暗になった。
え? このタイミングで戻るの? 嘘でしょ。
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