159 / 637
150 籠城
しおりを挟む
「俺が気付いたからよかったものの。あのまま直撃していたらどうするおつもりですか」
現在、俺はひたすらタイラーに説教されていた。なんで俺が。やってもいないことで怒られるとは。ストレスがすごい。
本物ユリスが散々やらかした尻拭いをさせられている感じである。俺じゃないもん。花瓶振り上げたのはあの猫だもん。俺はそんなサイコパスじゃないもん。
最悪のタイミングで元に戻ってしまった俺はぐすぐすと鼻をすする。マジでなんで俺が怒られてんの?
ふんっと鼻息荒くウロウロしている黒猫ユリスは、いまだに『おまえのせいだぞ!』とキレ散らかしている。キレたいのはこっちだよ。なにを被害者面してんだ、わるにゃんこめ。
「花瓶で人の頭殴るとか絶対にダメですよ」
んなこと知ってる。
『おまえの日頃の行いのせいだぞ! おまえがふざけたことばかりするせいで完全に舐められている! こいつら全く僕の言うこと聞かないじゃないか。どうしてくれる』
それは知らない。俺に言われましても。
左右からそれぞれネチネチと言葉が飛んでくる。非常にストレスだ。我慢ができなくなった俺は、足元を彷徨く黒猫ユリスを指差した。
「俺じゃないもん! やったのはこいつだもん!」
「だからなんで猫のせいにするんですか」
ダメだ。タイラーがますます怖い顔をする。八方塞がりだ。俺は嘘なんてついてないのに。
こうして俺はタイラーの説教を聞き流しながら決意した。もう二度と黒猫ユリスには頼るまいと。
※※※
「酷い目にあった」
「なんでそんな被害者ぶっているんですか」
悪いのはユリス様でしょう? と冷たいティアンはなにもわかっていない。悪いのは本物ユリスである。前々からヤバい奴だとなんとなく察してはいたが、予想以上にヤバい奴だった。ジャンが当初あんなにも俺に怯えていた理由を身を持って知ったよ。
あいつはヤバい子供である。オーガス兄様がビビっていたのも無理はない。相手が騎士とはいえ、まさかなんの躊躇もなく花瓶で殴りかかるとは。やってることがまんま犯罪である。殺人未遂だよ。
延々と俺に説教をかましたタイラーは、先程部屋を出て行った。よくわからんが多分ブルース兄様あたりに告げ口に行ったと思われる。クソ。タイラーめ。ここからさらにブルース兄様に怒られるのはごめんである。よし、逃げよう。
決意を固めた俺はすたっと立ち上がる。ジャンとティアンが視線を向けてくるが気にしない。俺は今、全力で逃げなければならない。これ以上の説教は勘弁だ。
ティアンが口を開く前に、俺はダッシュした。
「ちょっと!」
慌てたティアンとジャンが追ってくる。廊下に出た俺はまっすぐ目的地へと向かった。後ろを振り返っている余裕はない。全力で階段を駆け上がってお目当てのドアを躊躇なく開け放った。
「オーガス兄様! みんなが俺のこといじめてくる!」
「……は?」
ぽかんとした顔のオーガス兄様に構わず、俺は素早くドアに鍵をかけてやった。ガチャンと無機質な音が響いて準備はばっちりである。
改めて室内を見渡すと、執務机で固まるオーガス兄様がいるのみ。子分その2であるニックがいない。どこに行ったと訊ねれば、騎士棟へ行っているとのお答えがあった。ふむふむ。好都合だ。
「えっと? なんで鍵閉めたの?」
なにやらオーガス兄様がビビっている。弟相手にビビるなと言いたいところだが、先程本物ユリスの激ヤバ行動を目撃したばかりの俺である。まぁ、オーガス兄様がユリスにビビるのも無理はないよね、と納得する。
廊下の方から控えめなノックの音が響いてくる。ついでティアンの焦ったような声。
「申し訳ありません、オーガス様。ユリス様、ここ開けてください」
無視だ無視。むすっと腕を組んでドアを睨み付けてやる。
「……ティアンと喧嘩でもしたの?」
「べつに」
「べつにって。絶対なにかあったでしょ」
心配そうに顔を上げたオーガス兄様は、どうやら本物ユリスの激ヤバ行動についてはまだなにも知らないらしい。てことは、タイラーはやはり先にブルース兄様の方に報告へ行ったな。
これ以上怒られたくない俺は決意した。
「俺しばらくここに住む」
「やめてくれる?」
悲痛な顔をしたオーガス兄様には悪いが、他に行くところがないので仕方ないだろ。
「ちなみにしばらくってどれくらい?」
「二、三年くらい?」
「ほんとにやめて?」
俺とドアを見比べたオーガス兄様は、「よくわからないけど。早くティアンと仲直りしなよ」と的外れなアドバイスをよこす。違う。俺が戦っている相手はティアンではない。タイラーだ。
「ろーじょーするから。オーガス兄様も外出ないでね」
「籠城ね。絶対やめて」
弱々しく抗議をしたオーガス兄様であるが、どうやらまだ遊びの延長だと思っているらしい。本気で止めに入る様子はない。
だがこれは遊びではない。ガチである。俺は本気で籠城するぞ。
とりあえずの期間は、今頃タイラーから報告を受けているであろうブルース兄様のお怒りがおさまるまでだ。俺の本気を見せてやる!
現在、俺はひたすらタイラーに説教されていた。なんで俺が。やってもいないことで怒られるとは。ストレスがすごい。
本物ユリスが散々やらかした尻拭いをさせられている感じである。俺じゃないもん。花瓶振り上げたのはあの猫だもん。俺はそんなサイコパスじゃないもん。
最悪のタイミングで元に戻ってしまった俺はぐすぐすと鼻をすする。マジでなんで俺が怒られてんの?
ふんっと鼻息荒くウロウロしている黒猫ユリスは、いまだに『おまえのせいだぞ!』とキレ散らかしている。キレたいのはこっちだよ。なにを被害者面してんだ、わるにゃんこめ。
「花瓶で人の頭殴るとか絶対にダメですよ」
んなこと知ってる。
『おまえの日頃の行いのせいだぞ! おまえがふざけたことばかりするせいで完全に舐められている! こいつら全く僕の言うこと聞かないじゃないか。どうしてくれる』
それは知らない。俺に言われましても。
左右からそれぞれネチネチと言葉が飛んでくる。非常にストレスだ。我慢ができなくなった俺は、足元を彷徨く黒猫ユリスを指差した。
「俺じゃないもん! やったのはこいつだもん!」
「だからなんで猫のせいにするんですか」
ダメだ。タイラーがますます怖い顔をする。八方塞がりだ。俺は嘘なんてついてないのに。
こうして俺はタイラーの説教を聞き流しながら決意した。もう二度と黒猫ユリスには頼るまいと。
※※※
「酷い目にあった」
「なんでそんな被害者ぶっているんですか」
悪いのはユリス様でしょう? と冷たいティアンはなにもわかっていない。悪いのは本物ユリスである。前々からヤバい奴だとなんとなく察してはいたが、予想以上にヤバい奴だった。ジャンが当初あんなにも俺に怯えていた理由を身を持って知ったよ。
あいつはヤバい子供である。オーガス兄様がビビっていたのも無理はない。相手が騎士とはいえ、まさかなんの躊躇もなく花瓶で殴りかかるとは。やってることがまんま犯罪である。殺人未遂だよ。
延々と俺に説教をかましたタイラーは、先程部屋を出て行った。よくわからんが多分ブルース兄様あたりに告げ口に行ったと思われる。クソ。タイラーめ。ここからさらにブルース兄様に怒られるのはごめんである。よし、逃げよう。
決意を固めた俺はすたっと立ち上がる。ジャンとティアンが視線を向けてくるが気にしない。俺は今、全力で逃げなければならない。これ以上の説教は勘弁だ。
ティアンが口を開く前に、俺はダッシュした。
「ちょっと!」
慌てたティアンとジャンが追ってくる。廊下に出た俺はまっすぐ目的地へと向かった。後ろを振り返っている余裕はない。全力で階段を駆け上がってお目当てのドアを躊躇なく開け放った。
「オーガス兄様! みんなが俺のこといじめてくる!」
「……は?」
ぽかんとした顔のオーガス兄様に構わず、俺は素早くドアに鍵をかけてやった。ガチャンと無機質な音が響いて準備はばっちりである。
改めて室内を見渡すと、執務机で固まるオーガス兄様がいるのみ。子分その2であるニックがいない。どこに行ったと訊ねれば、騎士棟へ行っているとのお答えがあった。ふむふむ。好都合だ。
「えっと? なんで鍵閉めたの?」
なにやらオーガス兄様がビビっている。弟相手にビビるなと言いたいところだが、先程本物ユリスの激ヤバ行動を目撃したばかりの俺である。まぁ、オーガス兄様がユリスにビビるのも無理はないよね、と納得する。
廊下の方から控えめなノックの音が響いてくる。ついでティアンの焦ったような声。
「申し訳ありません、オーガス様。ユリス様、ここ開けてください」
無視だ無視。むすっと腕を組んでドアを睨み付けてやる。
「……ティアンと喧嘩でもしたの?」
「べつに」
「べつにって。絶対なにかあったでしょ」
心配そうに顔を上げたオーガス兄様は、どうやら本物ユリスの激ヤバ行動についてはまだなにも知らないらしい。てことは、タイラーはやはり先にブルース兄様の方に報告へ行ったな。
これ以上怒られたくない俺は決意した。
「俺しばらくここに住む」
「やめてくれる?」
悲痛な顔をしたオーガス兄様には悪いが、他に行くところがないので仕方ないだろ。
「ちなみにしばらくってどれくらい?」
「二、三年くらい?」
「ほんとにやめて?」
俺とドアを見比べたオーガス兄様は、「よくわからないけど。早くティアンと仲直りしなよ」と的外れなアドバイスをよこす。違う。俺が戦っている相手はティアンではない。タイラーだ。
「ろーじょーするから。オーガス兄様も外出ないでね」
「籠城ね。絶対やめて」
弱々しく抗議をしたオーガス兄様であるが、どうやらまだ遊びの延長だと思っているらしい。本気で止めに入る様子はない。
だがこれは遊びではない。ガチである。俺は本気で籠城するぞ。
とりあえずの期間は、今頃タイラーから報告を受けているであろうブルース兄様のお怒りがおさまるまでだ。俺の本気を見せてやる!
462
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる